神経科学において、モノアミンとは、主にセロトニン(インドールアミンの一種)、およびドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン(この3つはカテコールアミンの一種)を主に指す。また、ヒスタミンもモノアミン神経伝達物質の一種である。これらは神経系において、神経伝達物質または神経修飾物質(neuromodulator)として働く。各物質についてはそれぞれの項を参照のこと。ここでは主要な共通する特徴、および補足事項を記す。
構造
アミノ基 を一つ持つ(図)。セロトニンはインドール基をもつので、インドールアミンといえる。またドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンはカテコール基をもつので、カテコールアミンとも呼ばれる。
Neuromodulatorとしての機能
モノアミン神経伝達物質は脳・神経機能を「修飾(modulate)」すると言われる。すなわち、例えば代表的な神経伝達物質であるグルタミン酸は、イオンチャンネル型グルタミン酸受容体を介して速い神経興奮を引き起こし、また短期・長期の可塑性を示す(シナプス可塑性)。一方、モノアミン神経伝達物質は、神経細胞の興奮性やシナプス可塑性を様々な経路を介して調節し、脳機能に影響を与えると考えられている。
精神疾患との関連
モノアミンが脳の精神的活動に重要とされる根拠の一つは、精神疾患に用いられる薬物の多くがモノアミン神経伝達を標的にしていることである。例えば、代表的な精神疾患である統合失調症に用いられる薬の多くは、ドーパミンD2受容体に対する阻害効果を示す。うつ病に用いられる薬、SSRIは、セロトニン再取り込みの阻害剤である。しかしながら、これらの精神疾患の発症においてモノアミン系神経伝達の異常が原因であるかは必ずしも明らかではない[1][2]。
その他
モノアミンの合成
カテコールアミンおよびインドールアミン(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)の合成には、テトラヒドロビオプテリン(BH4)が必須である。すなわち、セロトニン生合成の律速酵素はトリプトファン水酸化酵素、またカテコールアミン生合成の律速酵素はチロシン水酸化酵素であるが、いずれもBH4を補酵素とする[3]。 BH4はGTPよりGTP cyclohydrolase 1(GCH1)、6-Pyruvoyltetrahydrobiopterin synthase (PTS)、Sepiapterin reductase(SPR)の3つの酵素により生合成される[3]。
小胞性トランスポーター
モノアミンのシナプス小胞への取り込みは、vesicular monoamine transporter (vMAT)ファミリーが担う。vMAT1、vMAT2からなり、vMAT1はおもに副腎のクロム親和性細胞、vMAT2は神経細胞で発現している。vMATはH+との交換輸送によりモノアミンを小胞内に蓄積させる[4]。
再取り込み
細胞外のモノアミンの再取り込みは、セロトニントランスポーター(SERT)、ドーパミントランスポーター(DAT)、ノルエピネフリントランスポーター(NET)などが行うが、各トランスポーターは他のモノアミンを取り込む能力も有する。シナプス間隙におけるモノアミン濃度の調節は、再取り込みの寄与が高い[5]。
代謝分解
モノアミンの代謝分解においては、モノアミン酸化酵素(monoamine oxidase, MAO)が共通して重要な酵素である。MAOはモノアミンのアミノ基をアルデヒド基に酸化する。MAOはミトコンドリア外膜に局在し、細胞内のノルアドレナリン(再取込みされたものを含む)の分解に関与する。ただしMAOに比べてvMAT2の方がノルアドレナリンに対する親和性がずっと高いため、シナプス小胞への取り込みの方がMAOによる分解よりも優先されると考えられる[6]。MAOにはMAO-AとMAO-Bがあり、二つの別の遺伝子によりコードされている。MAO-AとMAO-Bはモノアミン作動性神経細胞およびグリア細胞に発現しているが、発現量は細胞の種類により異なり、また動物種によっても違いが見られる[6]。
神経核の局在と投射
モノアミン作動性神経細胞の細胞体は、一部例外を除くと、後脳または中脳にほぼ集中し、投射先は脳の広範な部位に及び、多様な調節効果を及ぼすのが特徴である。
受容体
モノアミンの受容体はいずれもGタンパク質共役型であり、イオンチャンネル型ではない。共役するGαタンパク質の種類により、下流のシグナル伝達経路が異なる。
ヒスタミン
ヒスタミンは中枢神経系において神経伝達物質として働く[7][8]。ヒスタミン作動性神経細胞は、視床下部のtuberomammillary nucleusに存在する。投射は脳の広範囲に及ぶ。ヒスタミン受容体はH1からH4型が存在し、そのうちH1、H2、H3が脳で発現している。脳におけるヒスタミンの作用は、覚醒の維持を助けるものであると考えられている。また、抗アレルギー薬のもつ眠気の副作用は中枢神経系での作用であると考えられている。
参考文献
- ↑ E R Kandel, J H Schwartz, T M Jessell
Principles of Neural Science, Fourth Edition
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Physiology of Behavior, Tenth Edition
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(執筆者:徳岡宏文、一瀬宏 担当編集者:林康紀)