英語名:Constraint-induced movement therapy
CI療法は、リハビリテーションの方法論である。脳卒中の片麻痺患者に対して、非麻痺側手の使用を三角巾やミットなどで制限して(constraint)、麻痺側上肢を使用する動作を練習するものである[1]。患者が成功の報酬を得られる様に課題の難易度を進捗に応じて段階的に設定する(shaping)。発症後1年以上の患者でも、手関節と手指伸展が10度以上可能であれば、手指機能が改善することが示唆された。
実験的根拠
CI療法は、実験的に報告されたUse-dependent plasticityの臨床的な焼き直しとも考えられる。すなわち、健常なリスザルでは、訓練(段階的に口径が小さく深いパレットからエサをとる)による運動スキルの向上とともに、inter-cortical micro-stimulation(皮質内微小刺激)で評価した一次運動野の手の領域の拡大が観察される[2]。一方、大きなパレットからエサをとることをくりかえすような単純な運動の反復では、運動地図の変化はおこらない[3]。同様に、リスザルにおける一次運動野の損傷実験でも、一次運動野の部分的な実験的脳虚血後、5日後から麻痺手で同様の訓練を行うと、麻痺手機能の改善とともに一次運動野内の手の領域が拡大することが示された[4]。このような運動野地図の変化は、臨床的にも検証されている。少数例の検討ではあるがCI療法後に、麻痺側上肢機能の改善とともに、経頭蓋磁気刺激により麻痺手の運動誘発電位が惹起されるに領域が病変側で増加した[5]。この観察結果は上記[2][3][4]の(伊佐追記)Nudoらの実験結果とあわせて、実際の能力よりやや難易度の高い課題を与えるような手の練習後に観察される(伊佐修正)機能改善と病変半球の一次運動野内の運動地図の変化との関連を示唆する。
有効性
CI療法の現実的な有効性を証明すべく、多施設無作為比較試験(RCT)として、Extremity Constraint-Induced Therapy Evaluation (EXCITE)研究が米国で実施された。リハビリテーションの方法論に対する初めての多施設RCTである。同研究では発症後3から9カ月の初発脳卒中患者222例が登録され、CI療法群と通常ケア群に無作為に割り付けられた。上肢機能としての主要アウトカムはWolf Motor Function Test (15の課題遂行時間測定と2つの筋力測定テストからなる上肢機能評価)とMotor Activity Log (麻痺側上肢使用についての系統的インタビュー) で評価した。その結果、2週間のCI療法(日中の活動時間の90%でミットで非麻痺手を梗塞)が上肢機能を1年にわたって対照に比較して有意に改善することが明らかになった。
EXCITE研究は、手指伸展や手関節伸展がある程度可能な、比較的上肢麻痺が軽い脳卒中患者が対象となったが、最適な患者を選択し、課題指向型練習の練習量を再現よく確保するための優れた方法論を提示したととらえられる。治療側から見ると、どの施設においても、比較的経験の浅い療法士でもCI療法を同様の方法論で同等な患者に提供でき、その結果も再現性があるという一定の保証が得られたことになる。
限界
いくつかの限界もあり、まず対象患者の上肢・手指機能が上述のように相当保たれている必要がある。EXCITE研究ではRCT参加のためにスクリーニングされた患者3,626例のうち、9割以上が適応から除外された。EXCITE以降もいくつかのCIに関するRCTが蓄積され、メタ解析が行われている。その結果、上肢機能を改善することに対しては高いエビデンスが得られているが、手指機能の改善に関しては、十分なエビデンスは得られていない。
関連項目
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参考文献
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6. Wolf SL, Winstein CJ, Miller JP, Taub E, Uswatte G, Morris D, Giuliani C, Light KE, Nichols-Larsen D. Effect of constraint-induced movement therapy on upper extremity function 3 to 9 months after stroke: The excite randomized clinical trial. JAMA. 2006;296:2095-2104
7. Langhorne P, Coupar F, Pollock A. Motor recovery after stroke: A systematic review. Lancet Neurol. 2009;8:741-754
(執筆者:宮井一郎 担当編集委員:伊佐正)