大脳皮質の発生過程では、神経細胞は誕生した部位からダイナミックな細胞移動を経て最終配置部位に到達し(1)、例えば新皮質においては6層構造が形成される。大脳皮質を構成する神経細胞は興奮性神経細胞と抑制性神経細胞に大別され、前者は主に終脳背側部の外套(広義の大脳皮質)と呼ばれる部位の脳室面にある脳室帯及び脳室下帯から産生され、後者は主に終脳腹側部の基底核原基と呼ばれる部位の脳室面から産生される。

外套の脳室帯で誕生する興奮性神経細胞

大脳皮質の発生の初期には、脳室に面した脳室帯に存在する神経上皮細胞が対称性分裂によって自己複製する。やがて神経上皮細胞は、対称性分裂による自己増殖と非対称性分裂による神経細胞産生の両方を行うようになる。すなわち神経上皮細胞は神経幹細胞であり、脳壁が厚くなる発生中期以降には、脳表面側に至る長い突起を有し放射状グリアと呼ばれるようになる(2)。放射状グリアの非対称性分裂では娘細胞の一方は神経幹細胞として脳室帯に留まり、もう一方の細胞は分裂を停止して神経細胞に分化するか、神経細胞に運命決定された2次的な増殖細胞(basal progenitorまたはintermediate progenitorと呼ばれる)となって脳室下帯(下記)へと移動する。最初期に産生された神経細胞群は、脳表面(脳膜)直下にプレプレートと呼ばれる構造を作るが、このプレプレートを構成する神経細胞のうち少なくともカハールレチウス細胞と呼ばれる細胞群は、直下の脳室帯ではなく皮質外で産生され、脳表面に平行に移動して進入してくる。この時期より後に誕生した神経細胞はプレプレートの間に割って入り、プレプレートを脳表面側の辺縁帯と深層のサブプレートとに分割する。その後、この両者の間で、新たに誕生した神経細胞が早生まれ神経細胞を追い越して辺縁帯直下で移動を終えることを繰り返すことにより、誕生時期の遅い細胞ほど表層近くに局在するというinside-outパターンで皮質板が形成される。辺縁帯とサブプレートの神経細胞は、脳が成熟後は消失するとされており、辺縁帯が将来の第I層、皮質板が将来のII〜VI層になる。

脳室下帯における神経細胞産生

脳室帯に加えて、それより脳表面側でも神経細胞は産生される(3)。この領域は脳室下帯と呼ばれ、前述のbasal progenitorが多く局在する。basal progenitorは分裂して二個の神経細胞を産生する。霊長類では脳室下帯がげっ歯類に比べ著しく発達しており、脳室下帯の拡大が脳の進化に重要であることが示唆されている。脳室下帯においては、basal progenitorとは別にoRG (OSVZ radial glia-like)細胞と呼ばれる前駆細胞も存在する。これは、脳室帯の放射状グリアと同様に、分裂によってさらに少なくとも一回の分裂能を持った神経前駆細胞を産生できる(4)。

興奮性神経細胞の移動様式(放射状移動、法線方向移動)

神経細胞の移動は皮質形成において重要なプロセスであり、複数の移動様式がある。脳室帯で最終分裂を終えた神経細胞の多くは、その直上(多極性細胞蓄積帯)で複数の突起を伸縮させながら長時間滞留する(多極性移動)(5)。そののち、双極性の形態をとった細胞となり、先導突起の伸縮と核の移動を繰り返しながら放射状グリアの突起を足場として辺縁帯直下へと移動する(ロコモーション)(6)。脳室帯の細胞の一部は、脳表面に至る突起を収縮させながら細胞体を脳表面へ向かって移動させる(細胞体トランスロケーション)(6)。大脳皮質発生の後期においては、これらの少なくとも大部分はbasal progenitorとなり、脳室下帯において脳表面へ伸ばした突起を離して収縮させたのちにさらに分裂し、神経細胞を産生する(7)。

リーリンシグナルによる制御

大脳皮質層形成はリーリンシグナルによって制御されることが知られている(8)。リーリンが欠損したリーラーマウスでは、皮質の層構造がほぼ逆転する。リーリンタンパク質は主として辺縁帯に存在するカハールレチウス細胞から分泌され、受容体ApoER2とVLDLR、細胞内アダプター分子Dab1を介して細胞内にシグナルを伝える。ApoER2とVLDLRの二重ノックアウトマウスおよびDab1の変異マウスではリーラーマウスに類似した層構造の逆転が生じる。

抑制性神経細胞の移動様式(接線方向移動)

抑制性神経細胞はげっ歯類では基底核原基で誕生して、脳表面に対して平行に移動して皮質へと到達する(9)。多くの抑制性神経細胞は興奮性神経細胞と同様に、inside-out様式でより遅い時期に誕生した細胞がより脳表層近くに配置される。