盲視
英:blindsight
類語・同義語:
(要旨)
盲視とは
Weiskrantzの定義 1995
Weiskrantz[1]
第一次視覚野は大脳皮質での視覚情報が最初に入ってくる領域であり、左右の半球でそれぞれ右左半分ずつの視野の情報を処理している。たとえば左側の第一次視覚野全体が損傷すると、左右の眼ともに右半分の視野が見えなくなる。このような症状は同名半盲と呼ばれる。ところが、このような患者の中に盲視という不思議な能力を持つ例が報告されている。同名半盲では損傷視野に提示された視覚刺激が見えるかどうか聞くと見えないと答える。しかし、質問を変えて、視覚刺激が上下のどちらにあるか答えてもらうかまたは指さしで視覚刺激の位置を当ててもらうと、偶然よりも高い成績がみられることがある。これを盲視という1)。
盲視という現象は視覚情報の処理(光点の位置を当てる)と視覚意識(光点が眼前に見えたという経験をする)とが乖離しうること、そしてそれらがべつの脳部位で処理されているということを示している。
盲視で出来ること、出来ないこと
text
盲視に関わる神経回路
Yoshida 2012 [2]
機能回復トレーニングと可塑性の寄与
Sahraieらの研究[3]では、12人の視覚皮質損傷患者を被験者として視覚弁別のトレーニングを行った。視覚刺激としては格子模様を用い、刺激が試行の期間1または期間2のどちらに提示されたかを被験者は答える。このようなトレーニングを被験者は自宅で継続して行うことでその成績は数ヶ月をかけて向上した。
Huxlinらによる報告[4]では、5人の患者でランダムドットモーション刺激の方向弁別のトレーニングを行ったところ、9-18ヶ月後には正常レベルに近いところまで感度が向上していた。これらの研究での被験者は成人であり、脳損傷を受けてから年月が経っている。よって、これらの研究は、成人の脳でも大規模な構造的な変化によって機能回復が起こっている可能性を示唆している。
マカクザルを動物モデルとして用いた研究では、第一次視覚野の切除後にも視覚弁別能力が残存する、つまりマカクザルでも盲視が起こることが明らかになっている[5][6][7]。機能回復トレーニングとして視覚誘導性サッカード課題も用いて、成績の時間経過を調べたところ、術後1週間では、損傷の反対側の視野へのサッカードは上下の2カ所を弁別できなくなっていた。継続的にトレーニングを行ったところ、およそ8週間程度で損傷視野の成績はほぼ正常視野と同等のレベルまで回復した。つまり、動物モデルにおいても数ヶ月の機能回復トレーニングによって、盲視の能力が回復することが明らかになった[7]。
DTI
盲視の脳内メカニズム(1) 解剖学
盲視にはどのような神経ネットワークが関わっているのだろうか? 視覚刺激に目を向ける急速眼球運動(サッカード)に関わっている経路としては、網膜から視床、第一次視覚野、そして第一次視覚野から頭頂葉にあるLIPや前頭葉にあるFEFを経由して、中脳にある上丘でサッカードの指令が生成され、脳幹を介して外転筋を働かせることによって眼球を回転させる、という経路が考えられてきた[8]。一方で、第一次視覚野を介さない回路もある。この回路によって網膜から上丘へ直接サッカードのための情報を伝達することが可能だ。盲視では、この進化的に古い経路によって、視覚意識を伴わない視覚情報処理が行われているのではないかと考えられてきた[1]。
後述する盲視のモデル動物において、上丘を損傷させるまたは薬理的に抑制すると、視覚弁別能力が消失する[6][9]。このことは盲視が網膜から上丘へと向かう皮質下の経路によって担われていることの強力な証拠となっている。ただし、視床の外側膝状体から第一次視覚野をバイパスしてMT野へと投射する経路が盲視に関わっているとする報告もある4)。盲視に関わる経路に関しては今後のさらなる解明が必要である。
盲視の脳内メカニズム(2) 生理学
マカクザルを動物モデルとして用いた研究では、第一次視覚野の切除後の上丘からニューロン活動を記録したものがある。損傷した第一次視覚野と同側の上丘には、視覚刺激に応答するもの、サッカードの実行時に活動するものが見いだされた[10]。つまり、第一次視覚野損傷の後も上丘は機能している。さらに記憶誘導性サッカード課題を用いて、盲視モデル動物が見えていない部分に提示された視覚刺激の位置を2秒間記憶しておくという条件で上丘のニューロン活動を記録した。盲視モデル動物はこの課題を90%以上の成績で行うことができた。このとき上丘は記憶をしている時間のあいだ持続的に活動していた。このことは第一次視覚野の損傷からの機能回復によって、上丘が普段は行っていない、空間的短期記憶の機能を担うようになったということを示唆している[10]。
ほかの感覚でも盲視に対応したものはあるか?
視覚で盲視があるのと同じように、ほかの感覚でも盲視に対応したものがあるのだろうか? 以下の論文ではそのような症例があることが報告されている。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1 L. Weiskrantz
Blindsight: a case study spanning 35 years and new developments
Oxford University Press.: 2009 - ↑
Yoshida, M., Itti, L., Berg, D.J., Ikeda, T., Kato, R., Takaura, K., ..., & Isa, T. (2012).
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Sahraie, A., Trevethan, C.T., MacLeod, M.J., Murray, A.D., Olson, J.A., & Weiskrantz, L. (2006).
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(執筆者:吉田 正俊、担当編集委員:伊佐 正)