前帯状皮質

2013年4月1日 (月) 16:52時点におけるKeisetsushima (トーク | 投稿記録)による版

英語名:anterior cingulate cortex

 前帯状皮質(the anterior cingulate cortex, ACC)は、大脳半球内側面の前方部に存在する、帯状溝周辺および帯状回の領域であり、ブロードマンの24野、25野、および32野に相当する。前帯状皮質は解剖学的に、あるいは機能の違いから、3つの領域に分類される。それらの領域の名称を表に示す。ACCは特にヒトにおいて、担う機能の違いから、行動モニタリングおよび行動調節に関わる領域、社会的認知に関わる領域、および情動に関わる領域に大きく分かれる(Amodio and Frith, 2006; Vogt, 2005)。

行動モニタリング

 前帯状皮質背側部(dACC)、すなわち中帯状皮質前方部(aMCC)は行動モニタリングに関わる(Ridderinkhof et al., 2004)。行動モニタリングにはコンフリクトモニタリングおよび行動成果モニタリングが含まれる。ヒトのdACCはStroop color-naming課題におけるように、2つ以上の行動を同時に惹起しうる状況(コンフリクト)において高い活動を示す(Botvinick et al., 1999)。またヒトのdACCは2つの行動から1つを選択して金銭を獲得する課題において、金銭獲得および金銭損失に関わる活動を示す(O'Doherty et al., 2001)。

行動調節

 前帯状皮質背側部(dACC)、すなわち中帯状皮質前方部(aMCC)は行動調節にも関わる(Ridderinkhof et al., 2004)。dACC内部で帯状溝周囲に存在する、サルの吻側帯状皮質運動野(the rostral cingulate motor area, CMAr)は、報酬に基づく行動調節に関わる。報酬量に基づき2つの行動から1つを選択する課題において、サルのCMArは、報酬が減少し、且つ、サルがもう一方の行動に切り替える際に、活動を高める(Shima and Tanji, 1998)。同様の活動がヒトのdACCにおいても認められる(Bush et al., 2002; O'Doherty et al., 2003)。報酬結果に基づく行動調節は、期待された報酬と実際の報酬の差(報酬予測誤差)を基盤にして説明される(Sutton and Barto, 1998)。サルのCMArは、2つの行動のうち、報酬獲得に至る1つを探索する課題において、報酬予測誤差を反映する活動を示す(Matsumoto et al., 2007)。さらにサルのCMArは、報酬獲得のための随意的行動調節において、報酬予測の手がかりとしての、自己の行動の時系列(行動文脈)を反映する活動を示す(Iwata et al., 2013)。

運動

 サルのCMAr は運動そのものに関連する活動も示す。CMArは上肢運動の際に活動を示し、その活動は自己発動性の運動の時に、刺激誘導性の運動の時と比べ、より高い(Shima et al., 1991)。

社会的認知

 ヒトの前帯状皮質膝前部(pACC)は社会的認知に関わる(Amodio and Frith, 2006)。社会的認知には自己に関する判断、ヒトに関する判断、および他者の意図・信念の想像(メンタライジング;心の理論)が含まれる。pACCは、提示された言葉が自己に当てはまるのかどうかを判断する課題において、高い活動を示す(Johnson et al., 2002)。またpACCは、提示された形容詞がヒトに関わる名詞の前に来うるのかどうかを判断する課題において、高い活動を示す(Mitchell et al., 2002)。さらにpACCは、false belief課題(メンタライジング課題)において、被験者が物語を読んだ後、登場人物の意図・信念に関する質問に答える際に、高い活動を示す(Fletcher et al., 1995)。

情動

 ヒトの前帯状皮質膝下部(sACC)、pACC、およびdACCは、それぞれ異なる情動に関わる(Vogt, 2005)。悲しみ・喜びの表情を提示される課題において、sACCは悲しい表情の提示の際、pACCは喜ばしい表情の提示の際、活動を高める(George et al., 1995)。dACCは、恐れの表情あるいは恐れの声の提示を受けて、活動を高める(Dolan et al., 2001)

痛み

 ACCは痛覚にも関わる。ヒトのACCにおいては、経皮温度刺激による痛覚を反映する活動はdACCを中心にみられ、内臓伸展刺激による痛覚を反映する活動はpACCを中心にみられる(Vogt, 2005)。さらにヒトのACCは、他人が経験する痛みに関連して活動を示す(Keysers et al., 2010)。例えば、ヒトのACCは、他人が痛みを経験していることを知らせる手がかり刺激を目にする際、痛みを経験する他人の顔を目にする際、あるいは痛々しい状態の手あるいは足を目にする際に、活動を高める。またヒトのdACCは、社会的疎外の経験で生じる不快感(社会的痛み)を反映する活動を示す(Eisenberger, 2012)。

まとめ

 以上をまとめると、ACCは特にヒトにおいて、担う機能の違いから、行動モニタリングさらには行動調節に関わるdACC、社会的認知に関わるpACC、および情動に関わるsACCの3領域に、大きく分けることができる。


執筆者:岩田 潤一、嶋 啓節、虫明 元