アミロイドーシス

2013年11月27日 (水) 14:52時点におけるTaisuketomita (トーク | 投稿記録)による版

アミロイドタンパク質 英:amyloid protein 同義語:アミロイドペプチド、amyloid peptide

アミロイドamyloidはコンゴーレッド染色でオレンジ色に染まり、偏光顕微鏡で緑色偏光を呈し、電子顕微鏡観察下では7~15nmの繊維構造を呈する物質として定義される。多くの場合、前駆タンパクであるアミロイドタンパク質が折りたたみ障害を引き起こして重合し、βシート構造に富む不溶性線維として蓄積・凝集している。

アミロイドーシス

アミロイドが、組織間隙に沈着する疾患をアミロイドーシス amyloidosisと呼ぶ[1]。沈着部位や沈着量により臓器の機能不全が生じる。沈着するアミロイドタンパク質の種類や臓器によって特徴が見られ、特に大きく全身性アミロイドーシスと限局性アミロイドーシスに分類されている。

全身性アミロイドーシス

アミロイドタンパク質が血中に存在する場合は全身性アミロイドーシスとなる[2]。アミロイドタンパク質としては、モノクローナル免疫グロブリンのL鎖由来のアミロイドALやH鎖由来のアミロイドAH、血清アミロイドAの代謝産物であるアミロイドA、β2ミクログロブリン、トランスサイレチン、ゲルソリン、アポAIが知られている。いずれもアミロイドタンパク質の産生亢進、濃度上昇がアミロイドーシスを惹起していることが知られており、例えばアミロイドALでは免疫グロブリン産生細胞である形質細胞の過剰な増殖や腫瘍化がその原因である。また膠原病やリウマチなどが原因となり全身性慢性炎症を基礎疾患として血清アミロイドAの濃度上昇が継続し、全身性アミロイドーシスを惹起する。さらに腎障害及び血液透析によってβ2ミクログロブリンの排泄、除去が不全となり、10年以上の長期透析の結果アミロイド沈着を招くことが知られている。 遺伝子変異によって生じる全身性アミロイドーシスとして、家族性アミロイドニューロパチーFamilial amyloid polyneuropathy(FAP)が知られている[3]。FAPはトランスサイレチン、ゲルソリン、アポAI、血清アミロイドA遺伝子変異に連鎖し、これらのアミロイドタンパク質が神経節を含む神経系および他の臓器に沈着する。我が国を含めて、特にトランスサイレチンが原因となるFAPが最も多い[4]。通常トランスサイレチンは四量体を形成しているが、遺伝子変異によって生じるアミノ酸置換によって不安定な単量体へ解離しやすくなり、なんらかの機序で重合して線維化すると考えられている。体内のトランスサイレチンは主として肝臓で産生されるが、肝実質にアミロイドは沈着しない。このためFAP患者の肝臓を移植により正常肝に換えることでアミロイドタンパク質である変異トランスサイレチンの消失が期待され、移植後多くの症例でFAPの臨床進行が停止するか,遅延することが確認されている。また2013年9月20日には、トランスサイレチンの四量体の解離及び変性を抑制することでアミロイド形成を阻害し、末梢神経障害の進行を抑制するVyndaqet(一般名:Tafamidis)が承認された。

限局性アミロイドーシス

特定の臓器に限局して沈着を認める場合は限局性アミロイドーシスとなる。臓器に応じて分類され、脳アミロイドーシス、内分泌アミロイドーシス、皮膚アミロイドーシス、限局性結節性アミロイドーシスが知られている。 脳アミロイドーシスとしてはアルツハイマー病や脳血管アミロイドアンギオパチーで蓄積が見られるアミロイドβタンパク質の他、シスタチンCの遺伝子変異がアイスランド型遺伝性アミロイド性脳出血で見出されている。またプリオンタンパク質の蓄積、沈着はクロイツフェルト・ヤコブ病やゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群などのプリオン病患者脳で報告されている。またBRI2タンパク質の終止コドン近傍の遺伝子変異によって生じるアミロイドペプチドABri、ADanはそれぞれBritish型、Danish型家族性認知症患者脳において蓄積している。内分泌アミロイドーシスのアミロイドタンパク質としてはカルシトニン、アミリン、インスリン、心房ナトリウム利尿ペプチドが同定されており、主にこれらのホルモンを分泌する細胞由来の腫瘍内で蓄積・沈着が観察される。また皮膚アミロイドーシスとしてはケラチンが、限局性結節性アミロイドーシスはアミロイドALがアミロイドタンパク質として蓄積することが報告されている。

アミロイドβタンパク質

アルツハイマー病患者脳において蓄積している脳血管アミロイドアンギオパチーや老人斑の生化学的解析から、その主要構成成分がアミロイドβタンパク質(Aβ)であることが明らかとなった。その後、cDNAクローニングによりAβは前駆タンパク質であるAmyloid-β precursor protein(APP)の部分断片であること、βセクレターゼおよびγセクレターゼによる連続した二段階切断によって切りだされ、細胞外へと分泌されることが示された。一方APPにはαセクレターゼおよびγセクレターゼによって切断される代謝経路も存在し、この場合はAβが産生されないため、アルツハイマー病発症に対して予防的な経路と考えられる。 Aβの特徴はその凝集性の高さであり、緩衝液中に高濃度で存在するだけで凝集してアミロイド線維を形成する。人工合成ペプチドを用いた解析から、その線維形成過程はAβの一次配列とアミノ酸長に依存する。特に最N末端の部分分解とピログルタミル化と、産生時のγセクレターゼによる切断部位の多様性によって生じる最C末端長の違いが、生理的条件下で生じうるAβの凝集性を変化させる要因である。少なくとも生化学的解析においてはアルツハイマー病脳に老人斑として蓄積している最も主要なAβは3番目のグルタミン酸がピログルタミル化し、最C末端が42番目のアラニンで終わっている3pE-42と呼ばれる分子種であると想定されている。さらに興味深いことに家族性アルツハイマー病に連鎖する遺伝子変異(http://www.molgen.ua.ac.be/ADMutations/)の多くはこのAβの産生量もしくは凝集性を高める性質を示しており、アルツハイマー病におけるアミロイドカスケード仮説の強い根拠となっている。 そのためAβを標的とした抗アルツハイマー病戦略は根治療法として期待され、特にセクレターゼ活性制御によるAβ産生メカニズムの抑制、Aβ凝集阻害によるアミロイド形成抑制、そしてAβ除去を促進するアミロイド沈着の抑制を主たる薬効とする治療薬開発が推進されてきた。この中でセクレターゼ活性制御のうちγセクレターゼ阻害薬の治験は副作用を生じて開発が中止されたが、βセクレターゼ阻害薬の治験が精力的に進められている。Aβ凝集阻害についてはscyllo-Inositolを用いた治験が行われたが、やはり副作用のため開発中止となった。Aβ除去を目的としたストラテジーについては、特に能動免疫を利用した抗体による治療薬開発が進められている。

アミロイドβタンパク質の量を変化させる変異

APP配列内のAβ配列近傍に存在する変異は、Aβそのものに影響を与えないが、その産生量を変化させる。London変異(V717I)、Iranian変異(T714A)、Austrian変異(T714I)、German変異(V715A)、French変異(V715M)、Florida変異(I716V)、Iberian変異(I716F)、Australian変異(L723P)、Belgian変異(K724N)などは、γセクレターゼによる切断を変化させ、特に凝集性の高いAβ42産生比率を上昇させる(Suzuki et al. 1994、De Jonghe et al. 2001)。V717には他にもロイシン、フェニルアラニン、グリシンに置換される変異が見出されているが、いずれもAβ42産生比率を上昇させる。またIberian変異はAPP遺伝子上におけるもっとも強いFAD効果を有し(Guardia-Laguarta et al. 2010)、細胞系を用いた実験ではAβ42産生量が18倍にも増大する。またこのI716F変異を持つ患者は31歳でADを発症し、その2年後には死亡している。一方で、βセクレターゼ切断部位近傍に存在するSwedish変異は、Aβの総分泌量を数倍に上昇させる(Citron et al. 1992)。またβセクレターゼの切断部位にはAβ配列内にもう一つ存在し、β’切断部位と呼称されている。この切断はN末端が短いAβ産生につながるが、β’切断部位の変異であるLeuven変異(E682K(Aβ配列としてE11K))がβ’切断を抑制してやはり総Aβ産生量を増加させる効果を持つことが示された。一方ごく最近、アイスランド国民の全ゲノムシーケンシング解析からアルツハイマー病および老化に伴う認知機能低下に対して予防的に作用するrare variantとしてAβ産生を40%低下させるIcelandic変異(A673T(Aβ配列としてA2T))が同定された。この変異はβセクレターゼによる切断効率を低下させることが示されている。またFlemish変異(A692G(Aβ配列としてA21G))はAβ産生量を増大させる(Haass et al. 1994)。これはA21を含む領域がAPPに存在するγセクレターゼ活性抑制するドメイン(A substrate inhibitory domain ; ASID)であり、Flemish変異はその抑制効果を低下させるため、Aβ産生量を増加させると考えられている(Tian et al. 2010)。すなわち、いずれの変異もその近傍を切断する酵素との相互作用を変化させ、その効果によりAβ産生量を増加させることでAD発症機序に大きなインパクトを与えると考えられている。

アミロイドβタンパク質の凝集性を変化させる変異

Aβ配列内にも多くのFAD変異が存在し、多くの場合はAβの凝集性に大きな影響を与える。Aβ配列のN末端側にある変異は、British変異(H677R(Aβ配列としてH6R))、Tottori変異(D678N(Aβ配列としてD7N))そしてItalian変異(A673V(Aβ配列としてA2V))である。British変異およびTottori変異は、いずれもAβアミロイド線維形成を亢進させる(Hori et al. 2007)。Italian変異については、βセクレターゼによる切断を亢進させると同時に凝集性を高める(Di Fede G et al. 2009)。一方、Aβ配列の中央部に位置する変異としては、Arctic変異(E693G(Aβ配列としてE22G))、Osaka変異(ΔE693(Aβ配列としてΔE22))、Iowa変異(D694N(Aβ配列としてD23N))が存在する。Dutch変異(E693Q(Aβ配列としてE22Q))はオランダ型遺伝性アミロイド性脳出血に連鎖する変異として発見された(Van Broeckhoven et al. 1990)。Dutch変異、Arctic変異ともにin vitroでアミロイド線維形成能が高いこと(Murakami et al. 2002)が示されている。加えて、Arctic変異はAβ線維形成過程の中間段階で生じるプロトフィブリルの形成を亢進・安定化することが観察されている(Nilsberth C et al. 2001)。Osaka変異は、2008年に本邦より報告された比較的新しい変異である。興味深いことに、この変異をもつAβはアミロイド線維を形成せずオリゴマーの形で留まり、シナプス毒性を示す(Nishitsuji et al. 2009)。

アミロイドが示す物性と線維形成過程

各アミロイドタンパク質には一定の共通したアミノ酸配列や構造は見られないが、アミロイド線維になると共通してクロスβ構造と呼ばれる形態をとっている。これはアミロイド線維を構成するポリペプチド鎖が線維軸と垂直方向にβストランドとなり、かつ線維軸方向にβシート構造をとっているものである。このような構造をとる過程では、多くの場合正常なフォールディングをうけているアミロイドタンパク質が何らかの理由で一旦部分変性し、会合することが必要である。また線維形成過程はその鋳型となるシード(種、核)の形成を契機として急速に進んでいくことが示されている。すなわち、このシードの両端の末端にアミロイドタンパク質が結合して線維が伸長していくと考えられている。このようなシード依存性伸長反応モデルは、プリオンタンパク質が示す伝播能力とも関連していると考えられている。すなわち、一旦異常構造をとったタンパク質がシードとなり、別の個体におけるアミロイドタンパク質の構造及び性質を変化させていくというモデルである。またプリオンの感染性にはごく僅かなアミノ酸の違いに起因する「種の壁」が存在するが、この現象もシードの構造の違いによって説明できる。また最近ではAβなどアミロイドを形成しうるアミロイドタンパク質がいずれもプリオン様の伝播能力を示す可能性が推測されている。実際、酵母などにおいてはプリオン様タンパク性因子による形質転換が報告されており、タンパク質の構造に依存した形質の伝播様式として注目されている。

アミロイドによる細胞毒性

アミロイド線維が持つ細胞毒性はアミロイドーシスにおける臓器不全の基本的病態と言える。しかしアミロイドタンパク質のどのような構造、分子状態が毒性を発揮するのかについては未だ明確ではない。特にAβと家族性アルツハイマー病遺伝子変異がもたらす分子病態の解析から、アミロイド線維そのものではなく、その中間体となるオリゴマーに起因しているというオリゴマー仮説が提唱されている。またこのアミロイドタンパク質の凝集物がどのように細胞傷害を惹起しているか、という点については、脂質二重膜の障害、酸化的ストレスや小胞体ストレスの惹起、ミトコンドリア障害などが想定されている。興味深いことに、全く異なるアミロイドタンパク質であるAβとADanが蓄積するそれぞれのモデルマウスを、tauトランスジェニックマウスと交配するといずれもtau病理が亢進することが示され、少なくとも神経細胞に対するアミロイドが持つ細胞傷害プロセスには共通性があることが示唆された。すなわち、アミロイドタンパク質それぞれの蓄積・沈着様式によって最終的にもたらされる病態が異なる可能性が考えられている。

参考文献

  1. Radford, S.E., & Weissman, J.S. (2012).
    Special issue: the molecular and cellular mechanisms of amyloidosis. Journal of molecular biology, 421(2-3), 139-41. [PubMed:22664198] [WorldCat] [DOI]
  2. Blancas-Mejía, L.M., & Ramirez-Alvarado, M. (2013).
    Systemic amyloidoses. Annual review of biochemistry, 82, 745-74. [PubMed:23451869] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  3. Planté-Bordeneuve, V., & Said, G. (2011).
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  4. Ikeda, S., Nakazato, M., Ando, Y., & Sobue, G. (2002).
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