標的認識
Target recognition 標的認識
ターゲット認識については2つの可能性があるが、ここではシナプス形成におけるターゲット認識について述べ、アクソンガイダンスにおけるインターミディエイトターゲットの認識については触れない(アクソンガイダンスの項及び、ガイドポスト細胞の項を参照のこと)。
脳内のワイヤリングにおいて神経回路が「正しく」形成されるにはシナプス形成の過程で特異的なターゲット認識が行われる必要がある。そのためには神経細胞のアクソン(例えば登上線維)が正しい脳内の領域(小脳)に到着する必要があり、その領域内の正しい神経細胞(プルキニエ細胞)を認識し、その細胞の正しい細胞内のコンパートメント(デンドライトの一部)にシナプスを形成する必要がある。このためには、これらのそれぞれの過程で特異的なターゲット認識を行う認識分子(recognition molecule)が関与していると考えられる。
<どうしてターゲット認識が必要かについてのロジック>
これには2つのレベルでの特異性が必要となる。
神経細胞が機能を果たすには、ある神経細胞は特異的な神経細胞とコネクションを形成し、神経回路を形成する必要がある(例えば、下オリーブ核の線維はプルキニエ細胞に、橋核の線維は顆粒細胞に)。このレベルでのターゲット認識の特異性がまず必要となる。 また、情報処理において、同じ情報は同じ脳内での部位にいく必要がある。例えば嗅覚において嗅上皮内の同じ嗅レセプターからの線維は嗅球内の同じ糸球体につながる必要がある。また、視覚において、同側と対側の眼で捉えられた視覚野の同じ情報は最終的に視覚野の同じ位置につながる必要がある。この場合、同じ細胞のポピュレーションの中でも特異的な個々の細胞を認識する必要がある。このレベルでのターゲット認識の特異性も必要となる。
<ターゲット認識に関与する分子メカニズムについて>
上記の様にシナプス形成の過程には様々な過程を必要とし、様々な特異性を生み出す必要がある。そのための分子メカニズムがどうなっているかについては完全には明らかにされていない。個々の細胞レベルでの特異性は鍵と鍵穴のような認識分子があり、それが無数に存在することで達成されるのではないかという様に提唱はされているが、それを支えることのできる多様性のある分子としてはプロトカドヘリンしか存在しないし、プロトカドヘリンがそれを担っているかどうかについてはまだ証明はされていない。一つの分子ではなく、幾つかの分子の組み合わせでそういった多様性が生み出されるという説もある。但し、最近の報告では、ターゲットの領域にたどり着くのにはある分子メカニズムが必要であるが、そのあとの正しい細胞を見つけるのはどこの位置に正しい細胞があるかによって形成されるという例もあり、その場合、位置を変えるとつなぎ替えがおこってしまうことも報告されている。分子メカニズムとしては、まず、目的の領域に達する機構(様々なアクソンガイダンスのメカニズム)、そして領域内のどこに到着するかを決定する機構(おそらく神経成長因子か抑制性因子とそのレセプターの発現レベルによって形成される)、そして特異的な細胞集団を見つける機構(おそらく細胞接着因子)、そして細胞内の特異的なコンパートメントを見つける機構(おそらく細胞接着因子)が必要である。
<各論> ここでは限られた例につき、ごく簡単に述べるだけにする。
Drosophilaにおいてはvisual systemにおけるR1とR8のアクソンのターゲティングの違い、
NMJ形成における筋の神経支配でのターゲット認識、
またMuchroom bodyヘのターゲティングの系などがエクステンシブに解析されている。
Mouse, hippocampal layer
interneurons
LAMP, Pat Levitt
Cerebellar P-climbing fibers, mossy fibers and granule cells
Circuitry formation in the spinal cord
Limb innervation
<Waiting period> ターゲット認識に関連して、こういう概念がある。これはアクソンが脳内の正しい領域に到達したあとに、正しい神経細胞にシナプスを形成する前に、アクソンが待機するピリオドのことをさす。この間にターゲット細胞が成熟し、その後、アクソンがシナプスを形成する。大脳皮質にはいって来る視床からの線維や、小脳皮質にはいってくる線維がこういう行動を示すことが知られている。
同義語
重要な関連語
(執筆者:櫻井武、担当編集委員:大隅典子)