エフリン

2012年2月15日 (水) 14:52時点におけるMasaharunoda (トーク | 投稿記録)による版

Ephrin

 受容体型チロシンキナーゼファミリーの一つであるEph受容体群(Eph receptors)のリガンド分子群の総称。1994年にEph受容体のリガンド分子であることが明らかにされたが、’Eph family receptor interacting proteins’ということから、1997年に様々な名称を統一してエフリン(ephrin)と命名された。哺乳類では8種類のエフリンが存在しており、これらは構造上の違いから、エフリンA1~A5より構成されるA型エフリン(class A ephrins)と、エフリンB1~B3より構成されるB型エフリン(class B ephrins)に分類される。A型エフリンは分子量が25~30 kDaであり、グルコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidyl inositol)を介して細胞膜に結合しており、主に脂質ラフトに分布する。B型エフリンは分子量が30~45 kDaであり、細胞外領域、膜貫通領域、そしてC末端にPDZ結合配列を有する細胞内領域、によって構成される一型膜タンパク質である。エフリンの受容体であるEph受容体も、構造上A型とB型に分類され、一般にA型エフリンは広くA型のEph受容体に結合し、B型エフリンは広くB型のEph受容体に結合する。ただし、エフリンA5はB型Eph受容体であるEphB2にも結合し、エフリンB1~B3はA型Eph受容体であるEphA4にも結合するという例外が知られている。また、EphB4のリガンド分子はエフリンB2のみである。  エフリンがEph受容体に結合すると、Eph受容体は二量体化し、お互いに相手の細胞内領域の特定のチロシン残基をリン酸化することによって活性化する。エフリンは細胞膜に結合した状態でのみリガンド分子としての活性を有しており、遊離したエフリンはEph受容体には結合するが受容体の活性化を誘導しない。Eph受容体はエフリンに対して逆にリガンド分子としても働くことが知られており、エフリンを発現する細胞とEph受容体を発現する細胞が接触すると、両細胞に双方向性の情報伝達が生じる。Eph受容体を発現する細胞内へのシグナルを順行性シグナル(forward signal)と呼び、エフリンを発現する細胞内へのシグナルを逆行性シグナル(reverse signal)と呼ぶ。このエフリンを受容体とする逆行性シグナルの伝達には、Srcチロシンキナーゼファミリーの活性化が関与している。A型エフリンはインテグリンや神経栄養因子の受容体等と複合体を形成することにより、一方、B型エフリンはアダプタータンパク質のGrb4や、PDZタンパク質のsyntenin等と複合体を形成することにより、それぞれ特異的な逆行性シグナルを伝達すると考えられている。  エフリンを発現する細胞とEph受容体を発現する細胞が接触すると、一般に両細胞間に反発反応が生じ両者は乖離する。この反応は、両細胞内における細胞骨格系、特にアクチン骨格系の再編成によって生じるが、エフリンとEph受容体の複合体が、プロテアーゼによる分解やエンドサイトーシスによって接触面から除去されることが必要であると考えられている。神経系の発生過程において、エフリンとEph受容体はしばしば異なる領域の細胞群に発現しており、両細胞群の接触によるエフリンとEph受容体の相互作用は、神経細胞の移動や神経軸索ガイダンス、不必要な軸索の刈り込み、シナプス形成などにおいて重要な役割を果たしている。また、成体の神経系においても、シナプス可塑性の調節などに機能していることが明らかになっている。 (執筆者:野田昌晴、担当編集委員:村上富士夫)