田島 鉄也
国立研究開発法人理化学研究所 BSI-オリンパス連携センター
DOI:10.14931/bsd.3648 原稿受付日:2015年7月15日 原稿完成日:2015年11月15日
担当編集委員:河西 春郎(東京大学 大学院医学系研究科)
英:confocal laser scanning microscope 英略語:CLSM, LSM 独:Konfokalmikroskop 仏:microscope confocal
同義語:共焦点顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、共焦点レーザー走査顕微鏡
共焦点レーザー顕微鏡は、共焦点光学系を利用しレーザーを光源とした顕微鏡である。焦点が合った面だけの光を選択して像をつくる。そのため、落射蛍光顕微鏡よりもコントラストの強い像が得られる。レーザースポットを標本上にて走らせ(走査:スキャン)、受光部が得た光をデジタル変換して画素をつくり、画面を構成する。一点走査型と多点走査型があり、一点走査型は、スキャンする方法を変えることによりズーム機能や2種の蛍光色素の重複(クロストーク)を最小化するなどさまざまな効果が得られる。多点走査型は多数のレーザースポットを一度に走査することにより高速な画像取得が可能となっている。
共焦点レーザー顕微鏡とは
共焦点レーザー顕微鏡とは蛍光顕微鏡の一種であり、共焦点光学系を利用しレーザーを光源とした顕微鏡である。培養細胞や組織切片の蛍光画像の取得に使われる。対物レンズの焦点面の前後のボケ像を光学的に除去し、焦点の合った部分の蛍光のみを取得でき、強いコントラストを持つ像を得ることができる。
特徴
光学的切片効果
落射式蛍光顕微鏡は対物レンズの焦点面以外からの光(いわゆるボケ像)も検出器に入ってきてしまうのに対し、共焦点光学系は対物レンズの焦点面と共役の位置にピンホールを配置することによって、焦点面以外からの光を除去し、焦点面のみを観察することができる(光学的切片)。
したがってサンプルまたは対物レンズを厚み方向に一定距離ずつ移動させて複数枚の画像を撮ると、そのサンプルの3次元的な蛍光物質の分布を観察することができる[1] [2] [3] [4]。
励起光の走査
共焦点レーザー顕微鏡は、点状に集光したレーザー励起光(レーザースポット)をサンプル上を移動(これを走査[scan]という)させながらサンプルの蛍光を検出することによって像をつくる。光源にレーザーが採用されている理由は、レーザーが点光源に近いのでサンプルに点状に投影できるという理由による[1] [2] [3] [4]。
また、一般に複数の波長の異なるレーザーが搭載され、音響光学素子によって波長ごとに高速にレーザーのOn/Offができる。
*線状の光を走査する方式の共焦点顕微鏡もある。
種類
一点を走査するタイプと多点を走査するタイプがある。
一点走査型
高速で駆動するガルバノミラーを制御して一点のレーザースポットを走査する。
検出器には光電子増倍管を用いる。ガルバノミラーを振りながら光電子増倍管によって光を電気信号に変えてデジタル化し、デジタル化された値を画素として並べて画像を作る[1] [2] [3] [4]。
一点走査式の共焦点レーザー顕微鏡は、落射蛍光顕微鏡にはないいくつかの特徴がある。
- スキャンによるズーム機能:ガルバノミラーの振り幅を小さくすることによって、サンプルの特定の箇所を集中的に走査し、その部分を拡大して見せる機能。
- スキャンによる画像回転機能:スキャンする方向をX方向またはY方向だけではなく、斜め方向にスキャンすることによってあたかもサンプルが回転したかのように見える機能。画像内でサンプルの向きを調節することができる。
- 光刺激機能:特定の部分のみに光を照射する機能。細胞の一部に光を照射しその後の時間的経過を調べるたり、サンプルの一部分の蛍光を褪色させてその後周囲からの蛍光物質の流入を調べたりすることができる[5]。
- シーケンシャルスキャン機能:2つの波長のレーザーと2つの検出器を電気的に高速で切り替えることができ、2色の蛍光色素を用いている場合に互いの蛍光波長の重複(クロストーク)を最小化することができる。例えばGFPとDsRedの2種類の蛍光タンパクを使っている場合、青色レーザーでGFPを励起し、緑色の蛍光波長のみを第1の検出器で検出し、緑色レーザーでDsRedを励起し赤色の波長のみを第2の検出器で検出するという具合に行なう。(落射蛍光顕微鏡とカメラの組み合わせの場合、機械的にフィルターを交換する時間がかかり、共焦点レーザー顕微鏡ほど早く制御できない。)
一点のみの走査なので、像をつくるのに時間がかかるという欠点がある。したがって時間的な変化があるサンプルの場合、像の上部と下部では取得時刻に時間差があり、同じ画面内で同じ現象が映っていても全体が同時に起きているとは言えない。速く撮ろうとすると画素を少なくするなど工夫しなければならない。(最近、共振ガルバノミラーという高速で振動するミラーがあり、1秒に30枚程度の画像を取得することができるようになった。)
また、十分な蛍光シグナルが得られない場合、光電子増倍管による信号の増幅率を高くすると、光電子増倍管の中で発生する熱電子によるノイズが顕著に現れ、画像がザラついた感じになる。このような場合、走査する速度を遅くして信号強度を増やす、複数枚の画像の平均処理を行うなどして、画像の改善を行う。(最近はガリウム砒素リン光電子増倍管など、より高感度な検出器も登場している。)
多点走査型
多数のピンホールを渦巻状に配置した円板(ニポウディスク)を利用し、励起光をこのピンホールを通してサンプル上に投影することで、多数の点状の励起を同時に行う。1画面上には約1000個の点状投影があり、円板を高速で回転させることで、点が万遍なくサンプルを覆うように移動して走査する。
サンプルから発せられた蛍光もピンホールを通り、前後のぼけた像を取り除く。検出器は高感度CCDカメラまたはCMOSカメラ等の2次元検出器を使用する。1点走査式の共焦点レーザー顕微鏡と違い、落射蛍光顕微鏡と同じように画面内での時間差はほぼ無い。逆に、一点走査式共焦点顕微鏡は、1画素をつくる時間が非常に短い(ナノ秒~マイクロ秒)が、多点走査型は1画素をつくる時間がCCDカメラの露光時間に等しい(通常はミリ秒)[1] [2] [3] [4]。
特徴としては、走査速度が非常に速いことである。現在製品として世に出ている多点共焦点顕微鏡では、1秒間に最大2000枚像を取得することができる。実質的には、電子増倍型の高感度CCDを用いての培養細胞などの蛍光画像取得では、1秒間に数百フレームの速度で撮ることができる[6]。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 藤田哲也、河田聡
新しい光学顕微鏡 第一巻 レーザ顕微鏡の理論と実際
学際企画 1995 ISBN4-906514-17-0 - ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 藤田哲也、石川春律、高松哲郎
新しい光学顕微鏡 第二巻 共焦点レーザ顕微鏡の医学・生物への応用
学際企画 1995 ISBN4-906514-18-9 - ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 J. Pawley
Handbook of Biological Confocal Microscopy, 3rd edition
Plenum Press(2006) - ↑ 4.0 4.1 4.2 4.3 T. Wilson and C. J. R. Sheppard
Theory and Practice of Scanning Optical Microscopy
Academic Press(1984) - ↑
Hannezo, E., Dong, B., Recho, P., Joanny, J.F., & Hayashi, S. (2015).
Cortical instability drives periodic supracellular actin pattern formation in epithelial tubes. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 112(28), 8620-5. [PubMed:26077909] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑
Takahashi, N., Oba, S., Yukinawa, N., Ujita, S., Mizunuma, M., Matsuki, N., ..., & Ikegaya, Y. (2011).
High-speed multineuron calcium imaging using Nipkow-type confocal microscopy. Current protocols in neuroscience, Chapter 2, Unit 2.14. [PubMed:21971847] [WorldCat] [DOI]