神経症性障害

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塩入 俊樹
岐阜大学大学院医学系研究科 精神病理学分野
DOI:10.14931/bsd.7418 原稿受付日:2017年3月13日 原稿完成日:2017年月日
担当編集委員:加藤 忠史(国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英語名:Neurotic Disorder

 神経症性障害という国際疾病分類の大分類は、無意識の葛藤により症状が生まれ、現実検討の障害を引き起こさないレベルの精神機能の障害を示す「神経症」という歴史的概念の名残であり、恐怖症、パニック障害、強迫性障害、解離性(転換性)障害などを含む。

 「神経症(Neurosis [英]、 Neurose [独])」とは、元々、英国の医師ウイリアム・カレン(1712~1790年)が精神機能を障害する神経疾患全般に対して用いた言葉であった。その後医学の発達に伴い、脳器質疾患、内分泌疾患などが独立した疾患として神経症から除外され、さらにいわゆる内因性精神病(精神病性障害)が区別され、最後に残ったその他の精神疾患が神経症と呼ばれた。

 その後、器質的な原因の見当たらない「神経症」に関心を持ったジグムント・フロイトが、「無意識の葛藤により症状が生まれる」という病因論的解釈、「現実検討の障害を引き起こさないレベルの精神機能の障害」という病態の深さ、という2つの観点を混在させた形で神経症を再定義し、こうした考えが米国精神医学会の診断基準であるDSM-Ⅲが確立するまで続いていた。病態水準の深さという観点から、精神疾患が精神病(psychosis)と神経症に二分するとも考えられていた。当時の主な神経症には、不安神経症、恐怖症、強迫神経症、抑うつ神経症、神経衰弱、ヒステリー、心気症などが含まれていた。この頃には、日本でも、ノイローゼ(Neurose)という言葉は一般にも広く知られ、使われた。

 その後、こうした疾患群から、パニック障害、強迫性障害などの生物学的な基盤を持つ障害が独立し、次第に神経症概念は解体された。

 世界保健機関WHO(World Health Organization)によって作成された、国際疾病分類(International Classification of Disease)では、第9版(ICD-9)(1975)まで、器質性以外の精神疾患を「神経症」と「精神病」の2つに大別するという二分法が採用されていたが、第10版(ICD-10)(1992)では、こうした二分法は廃止された。ただし、序論に、『「神経症性 neurotic」という用語は、機会に応じて用いられるように、なお、残されている。』との記述があるように[1]、(無意識の葛藤によって起きる、あるいは現実検討の障害がないことを示すために)形容詞的に用いることは認められた。また、「神経症性障害 Neurotic disorder」という大分類も形の上では残され、それまで神経症とみなされていた障害は、「気分(感情)障害」に含まれる抑うつ神経症 (depressive neurosis)および「生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群」に含まれるいくつかの障害を除き、ほとんどが「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」に含まれている[1]。したがって、ICD-10における「神経症性障害」は、従来の「神経症」の一部を示すものであるといえる。

 具体的には、従来「神経症」と言われていたもののうち、ICD-10で「神経症性障害」に含まれているのは、「恐怖症性不安障害」(恐怖症を含む)、「他の不安障害」(パニック障害を含む)、「強迫性障害」、「解離性(転換性)障害」(以前ヒステリーと呼ばれたもの)などである(表1の下線)[1]

表1.ICD-10診断
神経症 F40-48 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
  • F40 恐怖症性不安障害
  • F41 他の不安障害
  • F42 強迫性障害
  • F43 重度ストレス反応〔重度ストレスへの反応〕および適応障害
  • F44 解離性(転換性)障害
  • F45 身体表現性障害
  • F48 他の神経症性障害

参考文献

  1. 1.0 1.1 1.2 融 道男、中根允文、小見山実、岡崎祐士、大久保善朗
    ICD-10 精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン 新訂版
    医学書院、東京、2005.