上口裕之
独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター
DOI:10.14931/bsd.761 原稿受付日:2012年3月20日 原稿完成日:2012年7月9日
担当編集委員:大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)
英語名:microfilament 独:Mikrofilamente 仏:microfilament
マイクロフィラメント(別名:アクチンフィラメント)は、アクチンタンパク質が重合した細胞骨格であり、細胞の形態制御と運動および膜分子の局在制御などの多彩な生理機能を担う。アクチンフィラメントのATP加水分解活性および各種アクチン結合タンパク質と細胞内シグナル伝達分子の働きにより、アクチンフィラメントの重合と脱重合が部位特異的に制御されている。特に、ミオシンモーターとの相互作用により発生する牽引力は、細胞移動や細胞内小胞輸送を駆動する。
マイクロフィラメンとは
マイクロフィラメントは細胞骨格を構成する微細な線維であり、アクチンフィラメントとほぼ同義で使用される。
細胞形態の変化と保持、細胞移動、細胞分裂、細胞内オルガネラと物質の輸送、膜分子の局在制御などの普遍的な働きを担うとともに[1]、筋細胞ではミオシンとともに筋収縮を駆動する。
構造
アクチンタンパク質には少なくとも3種類のアイソフォームが存在し、α-アクチンは筋収縮を担い、β-アクチンとγ-アクチンは細胞骨格としてのアクチンフィラメントを構成する。
分子量約42kDaの球状のアクチンタンパク質(球状アクチン、G-アクチン)が直鎖状に重合してプロトフィラメントとなり、2本のプロトフィラメントが右巻きのらせん状により合わさってアクチンフィラメント(線維状アクチン、F-アクチン)を構成する。アクチンフィラメントの直径は5-9nmであり、らせん構造の半周期は約37nmで、この半周期の両プロトフィラメント上に約13.5個の球状アクチンが存在する。
アクチンフィラメントには極性がある。電子顕微鏡観察によりアクチンフィラメントに結合したミオシンがやじり様に見えるため、フィラメントの一端をbarbed end、他端をpointed endと呼ぶ。生理的な環境では、アクチンの重合はbarbed endで起こり脱重合はpointed endで起こるため、前者をプラス端、後者をマイナス端と呼ぶ。
トレッドミリング
細胞内に存在する多種多彩なアクチン結合タンパク質がアクチンフィラメントの動態を制御しているが、アクチンフィラメントに固有の特徴としてトレッドミリングが挙げられる[2]。個々のアクチンタンパク質はアデノシン三リン酸(ATP)またはアデノシン二リン酸(ADP)と結合している。アクチンフィラメントはATP加水分解活性を有するため、フィラメントを構成するアクチンタンパク質は時間とともにADP結合型となっていく。
アクチンの重合反応と脱重合反応の速度はフリーの球状アクチンの濃度に依存し、両反応速度が等しくなる時の球状アクチン濃度を臨界濃度と呼ぶ。球状アクチン濃度が臨界濃度よりも高い場合には重合が優位となり、臨界濃度よりも低い場合には脱重合が優位となる。ATP型アクチンの臨界濃度はADP型アクチンの臨界濃度よりも低く、ATP型アクチンは重合しやすくADP型アクチンは脱重合しやすい。
球状アクチンが3量体となりフィラメント重合のための核を形成すると、ATP型アクチンはプラス端へ重合してフィラメントを伸長する。ATP型アクチンの重合によるフィラメント伸長がATP加水分解よりも速ければ、フィラメントプラス端はATP型アクチンのままである。そして、フィラメント内でADP型に変換されたアクチンは、マイナス端から脱重合して取り除かれる。このように、アクチンフィラメントのATP加水分解活性が、プラス端での重合とマイナス端での脱重合(トレッドミリング)に重要な役割をはたしている。
一般的に、細胞内のアクチンフィラメントはプラス端を細胞周辺部へ向けて配列している。神経突起先端部などの移動細胞のアクチンフィラメントは、トレッドミリングに加えて、ミオシンの働きによりマイナス端方向へ移動している[3]。この細胞先導端から細胞中心部への動きを、アクチンフィラメント後方移動と呼ぶ。神経突起先端部(成長円錐)でのアクチンフィラメント後方移動を動画1に示す。アクチンフィラメントのプラス端の伸長速度と後方移動速度とのバランスが、細胞先導端の運動(突出または退縮)を決定する。
重合制御
球状アクチンに結合するタンパク質プロフィリンは、ADPをATPへ交換してATP型アクチンの生成を触媒し、アクチンフィラメントのプラス端での重合反応を促進する。一方、アクチン重合反応はキャッピングタンパク質により負に制御されている。キャッピングタンパク質がフィラメントのプラス端を覆うと、新たな球状アクチンがプラス端に結合できず重合が阻害される。
アクチンフィラメントの重合制御、すなわち重合可能なプラス端の形成には主として以下の3つのメカニズムが関与すると考えられている[4]
- アクチン重合核形成。既存のフィラメントの側面にactin-related protein 2/3 (Arp2/3)複合体が結合し、そこを新たな重合核として分岐したフィラメントが伸長する。
- フィラメント切断。actin depolymerizing factor (ADF)/コフィリンがADP型フィラメントを切断し、重合可能なプラス端を露出する。
- アンキャッピング。プラス端を覆うキャッピングタンパク質をはずして重合を可能にする。
このようなアクチンフィラメントの動態は、主としてRhoファミリーGTP結合タンパク質の下流シグナルにより制御されている[5]。
線維束とネットワーク
フィロポディアの主要細胞骨格であるアクチン線維束は、ファシンなどのタンパク質が多数のアクチンフィラメントを束ねたものである。またラメリポディアには、Arp2/3複合体による分岐構造を豊富に含むアクチンネットワークが存在する[6]。
Enabled/vasodilator-stimulated phosphoprotein (Ena/VASP)は、プラス端キャッピングを抑制してアクチン重合速度を亢進することにより、非分岐の長いフィラメントを形成する[7]。これらフィラメントがファシンなどにより束化されて、アクチン線維束が構築される。
ミオシンとの相互作用
ミオシンは、アクチンフィラメントを動かすモータータンパク質である。ミオシンIIはアクチンフィラメントの収縮と後方移動を駆動する。また、アクチンフィラメント上を移動して小胞輸送を担うミオシンも同定されている[8]。例えば、ミオシンVはプラス端方向への輸送を、ミオシンVIはマイナス端方向への輸送を駆動する。
参考文献
- ↑
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