重症筋無力症

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今井 富裕 札幌医科大学保健医療学部大学院末梢神経筋障害学 札幌医科大学附属病院脳神経内科 (2021年4月より) 国立病院機構箱根病院神経筋・難病診療センター

英:myasthenia gravis  box|text= 重症筋無力症はシナプス後膜の標的抗原に対する自己抗体の作用によって神経筋伝達が障害される自己免疫疾患である。成人発症MGの臨床病型は大きく眼筋型と全身型に分けられ、MG症状、病原性自己抗体、神経筋接合部障害を明らかにする臨床検査の組み合わせで診断される。MG症状の評価や治療効果に判定には、MG-ADLやQMGなど複数の評価方法が用いられている。眼筋型MGと全身型MGでは治療方針が異なり、全身型MGでは早期から積極的に免疫療法を行い、MG症状をできるだけ早期に改善し、経口ステロイド薬を少量にとどめる治療方針が推奨されている。しかしながら、現行の免疫治療の組み合わせでは治療目標に到達しない症例が存在するため、モノクローナル抗体製剤を中心とした臨床治験が進められている。

はじめに

神経筋接合部は血液神経関門がないという解剖学的特徴から、病原性自己抗体の標的になりやすい。重症筋無力症は(myasthenia gravis: MG)は神経筋接合部疾患の中で最も頻度が高く、シナプス後膜の標的抗原に対する自己抗体の作用によって神経筋伝達が障害される自己免疫疾患である。

このようなMGの疾患概念が確立するには、1672 年の最初の症例報告から約300年の年月を要している(表1)[1] 。1960 年代にMGが運動終板の蛋白を標的とする抗体によって引き起こされることが判明した後、1970年代になって最初に明らかにされた自己抗体はシナプス後膜のアセチルコリン受容体(acetylcholine receptor: AChR)を標的抗原とする抗 AChR 抗体である。2001 年には筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(muscle-specific receptor tyrosine kinase: MuSK)に対する抗体(MuSK 抗体)[2] が, 2011年にはLDL受容体関連タンパク質4(low-density lipoprotein receptor-related protein 4に対する抗体(抗Lrp4抗体)[3] が報告された。

  1. Vincent, A. (2002).
    Unravelling the pathogenesis of myasthenia gravis. Nature reviews. Immunology, 2(10), 797-804. [PubMed:12360217] [WorldCat] [DOI]
  2. Hoch, W., McConville, J., Helms, S., Newsom-Davis, J., Melms, A., & Vincent, A. (2001).
    Auto-antibodies to the receptor tyrosine kinase MuSK in patients with myasthenia gravis without acetylcholine receptor antibodies. Nature medicine, 7(3), 365-8. [PubMed:11231638] [WorldCat] [DOI]
  3. Higuchi, O., Hamuro, J., Motomura, M., & Yamanashi, Y. (2011).
    Autoantibodies to low-density lipoprotein receptor-related protein 4 in myasthenia gravis. Annals of neurology, 69(2), 418-22. [PubMed:21387385] [WorldCat] [DOI]