簡潔かつ最近の知見までよくまとまっていると思います(当然ですが)。以下、査読者として、初学者に分かりにくいのではないかと思った点を書かせていただきます。ご検討いただけると幸いです。(一部編集コメントとも重なります。)
「機械刺激の受容」の項
「…内リンパ液の高いK+イオン濃度により生理的にはK+イオンが受容器電流を運ぶ。感覚毛の生えている有毛細胞体頂部の内外ではK+イオン濃度がほぼ等しいと考えられK+イオンの平衡電位は0 mVとされる。また内リンパ腔(中心階)は+80 mV程度の内リンパ腔電位をもつ。この電位と静止膜電位(-60 mV程度)の差(170 mV)が機械受容器チャンネルを通るK+イオンの駆動力となり、内向きK+電流を生ずる事で有毛細胞は機械刺激に応じて脱分極する…」
この文章中で、「…この電位と静止膜電位(-60 mV程度)の差(170 mV)が機械受容器チャンネルを通るK+イオンの駆動力…」とありますが、通常の細胞では静止膜電位はKイオンの濃度勾配が形成していますので、「K+イオンの平衡電位は0 mVとされる。」という文章と合わせて読むと少し混乱するように思いました。「一方、有毛細胞の静止膜電位はK+のみでなくClイオンを含むの平衡電位で決まるために-60mV程度である。」などといった文章があれば良いのではないでしょうか?駆動力は170mVではなく、140mVでは?
また、ここではコルチ器官の有毛細胞の記載が中心ですが、テーマは有毛細胞一般ですので、前庭器官の有毛細胞の話もあった方が良いのではないでしょうか?特に前庭器官では内リンパ液電位が小さいためにKイオンの駆動力が小さくなり、有毛細胞の機械受容器としての感度の差を生む原因の一つとなっていることが記載されているとより分かり易いように思いました。
柚崎