「ディファレンシャルディスプレイ」の版間の差分

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英語名:differential display 英語略名:DDRT-PCR, DD-PCR &nbsp;ディファレンシャルディスプレイdifferential display(DD法)(別名、ディファレンシャルディスプレイRT-PCR (DDRT-PCR, DD-PCR))とは、遺伝子発現の量の差異(difference)をPCR法により解析する方法の一種である。ここで、ディスプレイ(display)とは、目的遺伝子をゲル上で視覚的に表示するとの意であり、多数のRNA試料を同時に比較して、様々な発現パターンを示すcDNAを包括的に同定しその発現量を比較できることから、ゲノム科学における遺伝子発現解析 (gene expression profiling)に有力な手法である<ref><pubmed>1354393</pubmed></ref><ref><pubmed>12188186</pubmed></ref>[3]。
英語名:differential display 英略語:DDRT-PCR, DD-PCR


<br> '''原理と適用例'''  
 ディファレンシャルディスプレイ(別名、ディファレンシャルディスプレイRT-PCR (DDRT-PCR, DD-PCR))とは、[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]発現の量の差異を[[wikipedia:ja:PCR|PCR]]法により解析する方法の一種である。ここで、ディスプレイ(display)とは、目的遺伝子をゲル上で視覚的に表示するとの意であり、多数のRNA試料を同時に比較して、様々な発現パターンを示すcDNAを包括的に同定しその発現量を比較できることから、ゲノム科学における遺伝子発現解析 に有力な手法である<ref name=Liang_Pardee_Science><pubmed>1354393</pubmed></ref><ref name=Liang_Biotech><pubmed>12188186</pubmed></ref><ref>'''野島博'''<br>最新生命科学キーワードブック<br>羊土社: 2007</ref>。


遺伝子から転写されたRNAの量は、遺伝子機能の量的な面を反映していると考えられるため、遺伝子の発現量から機能を推測しようというのが、この遺伝子発現解析の基本的な概念である。本技法は、1992年に、LiangとPardeeにより、mRNAレベルで真核細胞の試料間で、遺伝子発現の同定比較を行うことできる技術として発表された<ref><pubmed>1354393</pubmed></ref><ref><pubmed>12188186</pubmed></ref>。形態的、遺伝学的、または実験的処置等に異なる試料間で、どの遺伝子発現に変化•差異があるかを見出すことができる。例えば、物質Aの添加により遺伝子Bの発現の増加/減少が見出された場合、この遺伝子Bの発現が物質Aにより誘導/抑制されていると考えられ、防御タンパクや阻害作用の解析などに多くの適応が考えられる。脳•神経科学領域では、ある学習課題が成立した動物個体としていない動物個体の脳神経細胞間で、発現に差のある遺伝子を同定することで、その学習に関与する遺伝子群が同定された適応例がある<ref><pubmed>10531455</pubmed></ref> 。比較的感度が良く、実験操作も簡便に行うことができ、また必要に応じて、2対以上の試料間での比較に拡張することも可能である。原法では、検出方法としてRIを用いていた(RI-DD法)が<ref><pubmed>1354393</pubmed></ref>、その後、蛍光標識されたプライマーを用いて検出する蛍光differential display (FDD) 法が開発され、検出感度、操作性や再現性が高められた<ref><pubmed>7521850</pubmed></ref>, [6]。 <br>
== 原理と適用例 ==


<br> '''利点と不利点'''
 遺伝子から転写された[[wikipedia:ja:RNA|RNA]]の量は、遺伝子機能の量的な面を反映していると考えられるため、遺伝子の発現量から機能を推測しようというのが、この遺伝子発現解析の基本的な概念である。本技法は、1992年に、LiangとPardeeにより、mRNAレベルで[[wikipedia:ja:真核細胞|真核細胞]]の試料間で、遺伝子発現の同定比較を行うことできる技術として発表された<ref name=Liang_Pardee_Science></ref><ref name=Liang_Biotech></ref>。形態的、遺伝学的、または実験的処置等に異なる試料間で、どの遺伝子発現に変化・差異があるかを見出すことができる。


本法は、単一ゲル上で多数の試料のバンド分布を同時に比較できることから効率良く遺伝子発現量の差が検出できるため、組織や細胞が発現する遺伝子とその発現量(transcription image)の研究分野に急速に普及した。ただし、任意プライマーを用いてPCR反応を行うことから再現性が高いとは言えず、また、好感度であるが故にPCRの条件設定を厳密に行わないと擬陽性のバンドも出やすい。そのため、2000年代半ばには、高速かつ高感度で大量解析可能なDNAアレイ(DNAチップ)、RNA-seq、RT-PCR(定量的リアルタイムPCR)などの技術の登場によってその相対的重要性は低下している [7]。しかしながら、DNAアレイに比較して、DD法はコスト面、所要時間で未だ有利であり、出発材料が少量でも解析を行えるという利点も有する。また通常のDNAアレイと異なり、DD法では新規遺伝子の検出が可能であることなどの利点もあることから、今後も多くの分野で適用が期待される。  
 例えば、物質Aの添加により遺伝子Bの発現の増加/減少が見出された場合、この遺伝子Bの発現が物質Aにより誘導/抑制されていると考えられ、防御蛋白質や阻害作用の解析などに多くの適応が考えられる。脳神経科学領域では、ある[[学習]]課題が成立した動物個体としていない動物個体の脳神経細胞間で、発現に差のある遺伝子を同定することで、その学習に関与する遺伝子群が同定された適応例がある<ref><pubmed>10531455</pubmed></ref> 。比較的感度が良く、実験操作も簡便に行うことができ、また必要に応じて、2対以上の試料間での比較に拡張することも可能である。


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 原法では、検出方法としてRIを用いていた(RI-DD法)が<ref name=Liang_Pardee_Science></ref>、その後、蛍光標識されたプライマーを用いて検出する蛍光differential display (FDD) 法が開発され、検出感度、操作性や再現性が高められた<ref name=Liang_Biotech></ref><ref>'''伊藤隆司'''<br>Differential Display<br>実験医学別冊 新遺伝子工学ハンドブック改訂第4版羊土社: 2003, 60-4 (なお、第4版から本項目は削除されている)</ref>。


&nbsp;なお、狭義には、タンパク質ディファレンシャルディスプレイ法という手法もある[8]。これは、複数種の特定の細胞試料間でタンパク質の構成成分の違いを分析する方法であり、一般的には二次元ゲル電気泳動で各細胞のタンパク質を分離し、そのパターンの差を比較する方法である。以下には、通常のRNA試料を対象としたディファレンシャルディスプレイ法について説明する。 <br> <br> '''方法と手順'''
== 利点と不利点 ==


細胞中で発現したmRNAすべて(total RNA)を逆転写しtotal cDNAを得た後、これを鋳型にして複数のプライマーミックスを用いたPCRを行う。ここで、特異性を持たせずできるだけ多くの種類の遺伝子を増幅するよう設定した複数のプライマーを用いることにより、非常に多数のバンドが得られる。 得られたバンドの強弱を遺伝子発現の強度の指標とし、特定の物質添加の有無などさまざまな操作•環境の違いによりその細胞のどの遺伝子が変化しているかを見出す。以下に手順を記述する (図)。 <br><br> &nbsp;[[Image:Differentialdisplay.jpg|RTENOTITLE]] <br><br>
 本法は、単一[[wikipedia:ja:ゲル|ゲル]]上で多数の試料のバンド分布を同時に比較できることから効率良く遺伝子発現量の差が検出できるため、組織や細胞が発現する遺伝子とその[[wikipedia:ja:発現|発現]]量の解析、つまりtranscription imageの研究分野に急速に普及した。ただし、任意プライマーを用いてPCR反応を行うことから再現性が高いとは言えず、また、高感度であるが故にPCRの条件設定を厳密に行わないと擬陽性のバンドも出やすい。そのため、2000年代半ばには、高速かつ高感度で大量解析可能なDNAアレイ(DNAチップ)、RNA-seq、定量的リアルタイムPCR(RT-PCR)などの技術の登場によってその相対的重要性は低下している<ref>英語版WikipediaのDifferential displayの項目。http://en.wikipedia.org/wiki/Differential_display</ref>。しかしながら、DNAアレイに比較して、DD法はコスト面、所要時間で未だ有利であり、出発材料が少量でも解析を行えるという利点も有する。また通常のDNAアレイと異なり、DD法では新規遺伝子の検出が可能であることなどの利点もあることから、今後も多くの分野で適用が期待される。  
 
 なお、狭義には、蛋白質ディファレンシャルディスプレイ法という手法もある<ref>'''XXXXXXX''' <br>YYYYYYYYY<br>長谷俊治、高尾敏文、高木淳一編 タンパク質をみるー構造と挙動 化学同人: 2009 pp. NN-NN</ref>。これは、複数種の特定の細胞試料間でタンパク質の構成成分の違いを分析する方法であり、一般的には二次元ゲル電気泳動で各細胞のタンパク質を分離し、そのパターンの差を比較する方法である。
 
== 方法と手順 ==
 
 以下、通常のRNA試料を対象としたディファレンシャルディスプレイ法について説明する。
 
 細胞中で発現したmRNAすべて(total RNA)を逆転写しtotal cDNAを得た後、これを鋳型にして複数のプライマーミックスを用いたPCRを行う。ここで、特異性を持たせずできるだけ多くの種類の遺伝子を増幅するよう設定した複数のプライマーを用いることにより、非常に多数のバンドが得られる。 得られたバンドの強弱を遺伝子発現の強度の指標とし、特定の物質添加の有無などさまざまな操作•環境の違いによりその細胞のどの遺伝子が変化しているかを見出す。以下に手順を記述する[[Image:Differentialdisplay.jpg|ディファレンシャルディスプレイ法]]


① アンカープライマーによるmRNAの選択的逆転写(第1鎖合成) 比較したい2種類(またはそれ以上)の細胞からそれぞれ抽出したmRNAを、ポリ(A)鎖と結合するアンカープライマー(anchor primer)と逆転写酵素を用いた逆転写反応によってcDNAに変換する。アンカープライマーとしはT(チミジン)12個からなるオリゴヌクレオチドの3’端に1個の任意の塩基を付加したものを用いる。1つの細胞で発現する約15,000種類の遺伝子すべての発現を網羅して探索するために、4種類のアンカープライマーと20種類の混成プライマー(10mer)を用いてPCRを行う。 <br> <br>
① アンカープライマーによるmRNAの選択的逆転写(第1鎖合成) 比較したい2種類(またはそれ以上)の細胞からそれぞれ抽出したmRNAを、ポリ(A)鎖と結合するアンカープライマー(anchor primer)と逆転写酵素を用いた逆転写反応によってcDNAに変換する。アンカープライマーとしはT(チミジン)12個からなるオリゴヌクレオチドの3’端に1個の任意の塩基を付加したものを用いる。1つの細胞で発現する約15,000種類の遺伝子すべての発現を網羅して探索するために、4種類のアンカープライマーと20種類の混成プライマー(10mer)を用いてPCRを行う。 <br> <br>