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[[Image:fig1_v3補足眼野.jpg|thumb|300px|'''図1. サル前頭葉の眼球運動野の場所'''<br>SEF, supplementary eye field(補足眼野)。FEF, frontal eye field(前頭眼野)。]]
[[Image:fig1_v3補足眼野.jpg|thumb|300px|'''図1. サル前頭葉の眼球運動野の場所'''<br>SEF, supplementary eye field(補足眼野)。FEF, frontal eye field(前頭眼野)。]]


[[Image:fig2_v3補足眼野.jpg|thumb|300px|'''図2. 補足眼野と補足運動野および前補足運動野の位置関係'''<br>上段はサルの前頭葉、下段はヒトの前頭葉を示す。いずれも、左側は上から眺めた場合の模式図を示し(左半球)、右側は点線を通る冠状断面を示す。SMA, supplementary motor area;PS, principal sulcus(主溝);ARC, arcuate sulcus(弓状溝);CS, central sulcus(中心溝);PACS, paracentral culcus(中心傍溝);CingS, cingulate sulcus(帯状溝)。 ]]
[[Image:fig2_v3補足眼野.jpg|thumb|300px|'''図2. 補足眼野と補足運動野および前補足運動野の位置関係'''<br>上段はサルの前頭葉、下段はヒトの前頭葉を示す。いずれも、左側は上から眺めた場合の模式図を示し(左半球)、右側は点線を通る冠状断面を示す。SMA, supplementary motor area;PS, principal sulcus(主溝);ARC, arcuate sulcus(弓状溝);CS, central sulcus(中心溝);PACS, paracentral culcus(中心傍溝);CingS, cingulate sulcus(帯状溝)。]]


 補足眼野は大脳皮質前頭葉の背内側部に存在する眼球運動野である(図1)。前頭眼野(frontal eye field: FEF)とともに前頭葉の眼球運動中枢を構成する(図1)。ヒトの補足眼野は補足運動野内に存在し、上肢領域の前方に位置する1, 2(図2)。解剖学的同定には中心傍溝がよい指標となる3(図2)。一方、サルの補足眼野は補足運動野内には存在せず、前補足運動野と隣接してその背外側部に位置する4(図2)。Matelliらの分類ではF7、特にその内側前方部分に相当する5。
 補足眼野は大脳皮質前頭葉の背内側部に存在する眼球運動野である(図1)。前頭眼野(frontal eye field: FEF)とともに前頭葉の眼球運動中枢を構成する(図1)。ヒトの補足眼野は補足運動野内に存在し、上肢領域の前方に位置する<ref name=ref1><pubmed>14960503</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>17553420</pubmed></ref>(図2)。解剖学的同定には中心傍溝がよい指標となる<ref name=ref3><pubmed>10554993</pubmed></ref>(図2)。一方、サルの補足眼野は補足運動野内には存在せず、前補足運動野と隣接してその背外側部に位置する<ref name=ref4><pubmed>8058203</pubmed></ref>(図2)。Matelliらの分類ではF7、特にその内側前方部分に相当する<ref name=ref5><pubmed>1757598</pubmed></ref>。


 補足眼野は1987年にSchlagらによってサルの脳において命名された6。しかし、既にその約半世紀以上も前に、脳外科医のPenfieldはヒトの手術中に補足運動野を電気刺激し、その前方部から眼球運動が誘発されることを報告していた7, 8。また、BrinkmanとPorterも、眼球運動に伴って活動する細胞をサルの補足運動野の吻側部に見出していた9。Schlagらは微小電気刺激法と単一神経細胞記録法を用いた系統的実験を行い、比較的低い強度(50μA以下)の電気刺激で急速眼球運動(サッケード、saccade)が誘発され、サッケード関連活動を示す神経細胞が多数存在する領域を同定し、補足眼野と命名した6, 10。「Evidence for a supplementary eye field」というタイトルで発表されたその論文には、前頭眼野とは異なる補足眼野の生理学的特徴として、(1) 電気刺激で誘発されるサッケードの潜時が前頭眼野よりも長い、(2) 誘発されるサッケードがしばしば特定の空間部位に収束する(goal-directedあるいはconverging)、(3) 神経活動の上昇が自発サッケードの開始に長く先行する、などが記載されている。
 補足眼野は1987年にSchlagらによってサルの脳において命名された<ref name=ref6><pubmed>3559671</pubmed></ref>。しかし、既にその約半世紀以上も前に、脳外科医のPenfieldはヒトの手術中に補足運動野を電気刺激し、その前方部から眼球運動が誘発されることを報告していた<ref name=ref7>'''Penfield, W. & Welch, K.'''<br>The supplementary motor area in the cerebral cortex of man.<br>Transactions of the American Neurological Association 74, 179-184 (1949)</ref> <ref name=ref8><pubmed>14867993</pubmed></ref>。また、BrinkmanとPorterも、眼球運動に伴って活動する細胞をサルの補足運動野の吻側部に見出していた<ref name=ref9><pubmed>107282</pubmed></ref>。Schlagらは微小電気刺激法と単一神経細胞記録法を用いた系統的実験を行い、比較的低い強度(50μA以下)の電気刺激で急速眼球運動(サッケード、saccade)が誘発され、サッケード関連活動を示す神経細胞が多数存在する領域を同定し、補足眼野と命名した<ref name=ref6 /> <ref name=ref10><pubmed>3987850</pubmed></ref>。「Evidence for a supplementary eye field」というタイトルで発表されたその論文には、前頭眼野とは異なる補足眼野の生理学的特徴として、(1) 電気刺激で誘発されるサッケードの潜時が前頭眼野よりも長い、(2) 誘発されるサッケードがしばしば特定の空間部位に収束する(goal-directedあるいはconverging)、(3) 神経活動の上昇が自発サッケードの開始に長く先行する、などが記載されている。


 補足眼野は、大脳皮質の眼球運動野である前頭眼野や外側頭頂間野(LIP野)との解剖学的結合に加え、前頭連合野との結合が豊富である11-14。また、線条体、視床、上丘、脳幹諸核など、皮質下の視覚・眼球運動関連領野との結合が強い11, 15-17。補足眼野は、MST野、STSの多感覚領域、LIP野からの入力をうけるが、前頭眼野と比べると、その他の視覚前野からの入力は乏しい11, 13。特に、いわゆる腹側視覚系はほとんど補足眼野に入力しないようである13。一方、運動前野や補足運動野との結合は補足眼野の方が豊富である11。
 補足眼野は、大脳皮質の眼球運動野である前頭眼野や外側頭頂間野(LIP野)との解剖学的結合に加え、前頭連合野との結合が豊富である<ref name=ref11><pubmed>19189718</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>7683486</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>7540675</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>。また、線条体、視床、上丘、脳幹諸核など、皮質下の視覚・眼球運動関連領野との結合が強い<ref name=ref11 /> <ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。補足眼野は、MST野、STSの多感覚領域、LIP野からの入力をうけるが、前頭眼野と比べると、その他の視覚前野からの入力は乏しい<ref name=ref11 /> <ref name=ref13 />。特に、いわゆる腹側視覚系はほとんど補足眼野に入力しないようである<ref name=ref13 />。一方、運動前野や補足運動野との結合は補足眼野の方が豊富である<ref name=ref11 />。


 前頭眼野や上丘(superior colliculus)を電気刺激すると一定のベクトル成分をもつサッケード(constant-vector saccades)が誘発されるのに対し、補足眼野の電気刺激ではconstant-vector saccades以外に、特定の空間部位へ収束するサッケード(goal-directed saccadesあるいはconverging saccades)が誘発される6。誘発サッケードの方向性に関する2領域間の機能的差異については異論もあるが18、その後の研究によっても、補足眼野内の刺激部位に応じてconstant-vector saccadesやgoal-directed saccadesが誘発されることが確認された19。これらの電気刺激結果は、補足眼野細胞が網膜中心座標に加え、非網膜中心座標(頭部・身体・外界中心座標の総称)を使ってサッケードをコードしていることを示唆する。頭部の運動に自由度をもたせて行った電気刺激実験の結果によれば、補足眼野で用いられる座標系は頭部中心座標が主体であった20。一方、Olsonらは補足眼野の細胞活動を解析し、同部のサッケードのコーディングが、標的となる視物体を中心とした座標系object-centered coordinateで行われることを発見した21。Olsonらの最新の研究結果は、補足眼野の基準座標系が細胞によって異なることを示唆している22。
 前頭眼野や上丘(superior colliculus)を電気刺激すると一定のベクトル成分をもつサッケード(constant-vector saccades)が誘発されるのに対し、補足眼野の電気刺激ではconstant-vector saccades以外に、特定の空間部位へ収束するサッケード(goal-directed saccadesあるいはconverging saccades)が誘発される<ref name=ref6 />。誘発サッケードの方向性に関する2領域間の機能的差異については異論もあるが<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>、その後の研究によっても、補足眼野内の刺激部位に応じてconstant-vector saccadesやgoal-directed saccadesが誘発されることが確認された<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref>。これらの電気刺激結果は、補足眼野細胞が網膜中心座標に加え、非網膜中心座標(頭部・身体・外界中心座標の総称)を使ってサッケードをコードしていることを示唆する。頭部の運動に自由度をもたせて行った電気刺激実験の結果によれば、補足眼野で用いられる座標系は頭部中心座標が主体であった<ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>。一方、Olsonらは補足眼野の細胞活動を解析し、同部のサッケードのコーディングが、標的となる視物体を中心とした座標系object-centered coordinateで行われることを発見した<ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>。Olsonらの最新の研究結果は、補足眼野の基準座標系が細胞によって異なることを示唆している<ref name=ref22><pubmed></pubmed></ref>。


 電気刺激で誘発されるサッケードに関する上記の議論は、補足眼野で用いられる運動の基準座標と関連付けられたものであったが、それら以外にも補足眼野の電気刺激はサッケードの遂行やプランニングに対して顕著な効果をもたらす。サッケードの準備期間中で、GO信号が与えられる直前に電気刺激を行うと、生成すべきサッケードが刺激部位とは反対側へ向う場合にはその運動の反応時間が短縮する23。対照的に、GO信号の直後に加えた電気刺激では両側性にサッケードが抑制され(ただし同側優位のことが多い)、反応時間が延長する。これらの効果は補足眼野近傍に存在する前補足運動野への電気刺激効果と酷似しているが24、得られる効果の空間選択性は補足眼野の方が高い25。連続して提示される2つの視覚刺激の順序を記憶し、それに従って連続したサッケードを行うよう要求された課題では、記憶期間中に加えた電気刺激によって課題成績が悪化した26。さらに、サッケードの指令撤回課題(saccade countermanding task)遂行中に補足眼野を電気刺激すると、サッケードの生成を中止すべき試行において成績が向上した27。これは既に述べた電気刺激の反応時間遅延効果による可能性も考えられるが、同じ部位を同じパラメーターで電気刺激しても、視覚誘導性サッケード課題では反応時間の延長は認められなかった27。
 電気刺激で誘発されるサッケードに関する上記の議論は、補足眼野で用いられる運動の基準座標と関連付けられたものであったが、それら以外にも補足眼野の電気刺激はサッケードの遂行やプランニングに対して顕著な効果をもたらす。サッケードの準備期間中で、GO信号が与えられる直前に電気刺激を行うと、生成すべきサッケードが刺激部位とは反対側へ向う場合にはその運動の反応時間が短縮する<ref name=ref23><pubmed></pubmed></ref>。対照的に、GO信号の直後に加えた電気刺激では両側性にサッケードが抑制され(ただし同側優位のことが多い)、反応時間が延長する。これらの効果は補足眼野近傍に存在する前補足運動野への電気刺激効果と酷似しているが<ref name=ref24><pubmed></pubmed></ref>、得られる効果の空間選択性は補足眼野の方が高い<ref name=ref25><pubmed></pubmed></ref>。連続して提示される2つの視覚刺激の順序を記憶し、それに従って連続したサッケードを行うよう要求された課題では、記憶期間中に加えた電気刺激によって課題成績が悪化した<ref name=ref26><pubmed></pubmed></ref>。さらに、サッケードの指令撤回課題(saccade countermanding task)遂行中に補足眼野を電気刺激すると、サッケードの生成を中止すべき試行において成績が向上した<ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref>。これは既に述べた電気刺激の反応時間遅延効果による可能性も考えられるが、同じ部位を同じパラメーターで電気刺激しても、視覚誘導性サッケード課題では反応時間の延長は認められなかった<ref name=ref27 />。


 補足眼野はサッケード制御の多様な側面に関与する。特に、視物体とサッケード方向の連合学習28、アンチサッケード(視物体とは反対方向へ向うサッケード)の生成29、コンフリクト(複数の運動プログラムが拮抗している状態)の検出30(ただし、サッケード関連活動の修飾という形をとることが多い31)、サッケード遂行後に受け取る報酬や報酬予測誤差の表現30, 32-34、サッケードの順序制御35-39、数百msオーダーの待機時間経過処理39, 40、手と眼の協調運動制御41、報酬に基づくサッケード方向の選択過程42への関与が重要である。補足眼野の細胞応答は前頭眼野のそれよりもかなり状況依存的である。このような補足眼野の広範囲に及ぶ機能を一元的に説明する機能仮説は、現在までのところ提唱されていない。
 補足眼野はサッケード制御の多様な側面に関与する。特に、視物体とサッケード方向の連合学習<ref name=ref28><pubmed></pubmed></ref>、アンチサッケード(視物体とは反対方向へ向うサッケード)の生成<ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref>、コンフリクト(複数の運動プログラムが拮抗している状態)の検出<ref name=ref30><pubmed></pubmed></ref>(ただし、サッケード関連活動の修飾という形をとることが多い<ref name=ref31><pubmed></pubmed></ref>)、サッケード遂行後に受け取る報酬や報酬予測誤差の表現<ref name=ref30 /> <ref name=ref32><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref34><pubmed></pubmed></ref>、サッケードの順序制御<ref name=ref35><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref36><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref37><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref38><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref39><pubmed></pubmed></ref>、数百msオーダーの待機時間経過処理<ref name=ref39 />, <ref name=ref40><pubmed></pubmed></ref>、手と眼の協調運動制御<ref name=ref41><pubmed></pubmed></ref>、報酬に基づくサッケード方向の選択過程<ref name=ref42><pubmed></pubmed></ref>への関与が重要である。補足眼野の細胞応答は前頭眼野のそれよりもかなり状況依存的である。このような補足眼野の広範囲に及ぶ機能を一元的に説明する機能仮説は、現在までのところ提唱されていない。


 補足眼野は、前頭前野のように上丘や脳幹へ直接投射するが11, 15, 16、サッケード生成への関与は前頭眼野よりも間接的であると考えられている。これは、補足眼野の電気刺激で誘発されるサッケードの閾値が前頭眼野のそれよりも高いこと18 43、補足眼野の局所病変では単発サッケードの遂行がほとんど障害されないこと44, 45、サッケードの生成や中止の指示に対する補足眼野細胞の応答が、実際に生成や中止に関与するには遅すぎること46、といった研究結果により支持される。補足眼野は、サッケードの生成・開始に直接関与するというよりは、サッケードの内発的生成過程、あるいはプランニングやモニタリング過程など、より複雑で認知的な制御を必要とする行動局面において使われていると考えた方がよい。既に述べたように、単純なサッケードの発現に対する補足眼野病変の影響は極めて限定的である一方、より複雑で状況依存的なサッケードの発現に対しては顕著な障害効果をもたらす44, 45, 47, 48。また、動機づけにもとづく自発性サッケード生成においては、補足眼野の活動が前頭眼野の活動に先行することも、上記の考え方と合致する1, 42。
 補足眼野は、前頭前野のように上丘や脳幹へ直接投射するが<ref name=ref11 /> <ref name=ref15 /> <ref name=ref16 />、サッケード生成への関与は前頭眼野よりも間接的であると考えられている。これは、補足眼野の電気刺激で誘発されるサッケードの閾値が前頭眼野のそれよりも高いこと<ref name=ref18 /> <ref name=ref43><pubmed></pubmed></ref>、補足眼野の局所病変では単発サッケードの遂行がほとんど障害されないこと<ref name=ref44><pubmed></pubmed></ref>, <ref name=ref45><pubmed></pubmed></ref>、サッケードの生成や中止の指示に対する補足眼野細胞の応答が、実際に生成や中止に関与するには遅すぎること<ref name=ref46><pubmed></pubmed></ref>、といった研究結果により支持される。補足眼野は、サッケードの生成・開始に直接関与するというよりは、サッケードの内発的生成過程、あるいはプランニングやモニタリング過程など、より複雑で認知的な制御を必要とする行動局面において使われていると考えた方がよい。既に述べたように、単純なサッケードの発現に対する補足眼野病変の影響は極めて限定的である一方、より複雑で状況依存的なサッケードの発現に対しては顕著な障害効果をもたらす<ref name=ref44 /> <ref name=ref45 /> <ref name=ref47><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref48><pubmed></pubmed></ref>。また、動機づけにもとづく自発性サッケード生成においては、補足眼野の活動が前頭眼野の活動に先行することも、上記の考え方と合致する<ref name=ref1 /> <ref name=ref42 />。


 眼球運動には、これまで述べてきたサッケード運動とは別に、比較的ゆっくりと動く視標を網膜中心窩で捉え、それを追跡する滑動性眼球運動(smooth pursuit)がある。補足眼野には滑動性眼球運動に伴って活動する細胞も存在する49-51。各細胞は運動方向に関するpreferred directionを有するが49、補足眼野全体でみると全ての方向がカバーされている51。一方、電気刺激を加えると反対側へ向かう滑動性眼球運動が誘発される52。また、サッケードや滑動性眼球運動が誘発されない部位であっても、予測的な滑動性眼球運動が促進されうる53。前頭眼野細胞と同様に、補足眼野の滑動性眼球運動関連細胞の多くは前庭入力を受ける51。一方、前頭眼野と比べ眼球速度や視線速度をコードする細胞、あるいは輻輳運動に関連する細胞の割合は少ない51。視覚刺激の色と運動方向の記憶にもとづいて眼球運動を行うか否かを判断し、行う場合には正しい方向に滑動性眼球運動を生成することを要求された場合、補足眼野細胞の多くは視覚刺激情報の記憶保持や運動の不実行に関連していた54。前頭眼野ではそのような細胞は少数で、方向選択的な滑動性眼球運動の実行と関連する細胞が多かった55。この課題を遂行中に両側の補足眼野の働きを一過性にブロックすると、滑動性眼球運動の初期成分やcatch-up saccadesが遅延し、運動方向の誤りが増加し、運動を行うべきか否かの判断ミスが増加した54。他方、前頭眼野の一過性機能ブロックでは滑動性眼球運動の速度が低下した。以上の結果から、滑動性眼球運動の制御においても前頭眼野と補足眼野の機能的異差があることが示唆される。
 眼球運動には、これまで述べてきたサッケード運動とは別に、比較的ゆっくりと動く視標を網膜中心窩で捉え、それを追跡する滑動性眼球運動(smooth pursuit)がある。補足眼野には滑動性眼球運動に伴って活動する細胞も存在する<ref name=ref49><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref50><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref51><pubmed></pubmed></ref>。各細胞は運動方向に関するpreferred directionを有するが<ref name=ref49 />、補足眼野全体でみると全ての方向がカバーされている<ref name=ref51 />。一方、電気刺激を加えると反対側へ向かう滑動性眼球運動が誘発される<ref name=ref52><pubmed></pubmed></ref>。また、サッケードや滑動性眼球運動が誘発されない部位であっても、予測的な滑動性眼球運動が促進されうる<ref name=ref53><pubmed></pubmed></ref>。前頭眼野細胞と同様に、補足眼野の滑動性眼球運動関連細胞の多くは前庭入力を受ける<ref name=ref51 />。一方、前頭眼野と比べ眼球速度や視線速度をコードする細胞、あるいは輻輳運動に関連する細胞の割合は少ない<ref name=ref51 />。視覚刺激の色と運動方向の記憶にもとづいて眼球運動を行うか否かを判断し、行う場合には正しい方向に滑動性眼球運動を生成することを要求された場合、補足眼野細胞の多くは視覚刺激情報の記憶保持や運動の不実行に関連していた<ref name=ref54><pubmed></pubmed></ref>。前頭眼野ではそのような細胞は少数で、方向選択的な滑動性眼球運動の実行と関連する細胞が多かった<ref name=ref55><pubmed></pubmed></ref>。この課題を遂行中に両側の補足眼野の働きを一過性にブロックすると、滑動性眼球運動の初期成分やcatch-up saccadesが遅延し、運動方向の誤りが増加し、運動を行うべきか否かの判断ミスが増加した<ref name=ref54 />。他方、前頭眼野の一過性機能ブロックでは滑動性眼球運動の速度が低下した。以上の結果から、滑動性眼球運動の制御においても前頭眼野と補足眼野の機能的異差があることが示唆される。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />


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(執筆者:磯田昌岐、吉田今日子 担当編集委員:伊佐正)
(執筆者:磯田昌岐、吉田今日子 担当編集委員:伊佐正)