「グリア芽細胞」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
18行目: 18行目:
(グリア芽細胞という見出しは項目名そのものですので省きました)
(グリア芽細胞という見出しは項目名そのものですので省きました)
(この節は長いので小見出しを付けて、いくつかの小項目に分けて頂けないでしょうか。また、適宜改行も御願いします。)
(この節は長いので小見出しを付けて、いくつかの小項目に分けて頂けないでしょうか。また、適宜改行も御願いします。)
 [[アストロサイト前駆細胞]]とは、アストロサイトへの分化が運命付けられた前駆細胞を指す概念であるが、その詳細については不明な点が多く存在している。
 [[アストロサイト前駆細胞]]とは、アストロサイトへの分化が運命付けられた前駆細胞を指す概念であるが、その詳細については不明な点が多く存在している。マウスの神経発生において、ニューロンおよびグリア細胞は共通の幹細胞([[放射状グリア]])より発生する。大脳皮質では放射状グリアは、マウス胎生9.5-12.5日齢の間にニューロンを産生した後、胎生中期以降はグリア細胞を産生するグリア芽細胞へと分化する。ニューロン産生からグリア産生へと放射状グリアの性質が変移する過程には、外因的要素([[CNTF]], [[LIF]], [[CT-1]]など)と内因的要素([[JAK-STAT経路]]、アストロサイト関連遺伝子の[[エピジェネティクス]]など)が密接に関連している事が明らかとなってきている<ref name=ref15><pubmed> 17481390 </pubmed></ref>。


 マウスの神経発生において、ニューロンおよびグリア細胞は共通の幹細胞([[放射状グリア]])より発生する。大脳皮質では放射状グリアは、マウス胎生9.5-12.5日齢の間にニューロンを産生した後、胎生中期以降はグリア細胞を産生するグリア芽細胞へと分化する。ニューロン産生からグリア産生へと放射状グリアの性質が変移する過程には、外因的要素([[CNTF]], [[LIF]], [[CT-1]]など)と内因的要素([[JAK-STAT経路]]、アストロサイト関連遺伝子の[[エピジェネティクス]]など)が密接に関連している事が明らかとなってきている<ref name=ref15><pubmed> 17481390 </pubmed></ref>。次に、グリア芽細胞はオリゴデンドロサイトとアストロサイトの両者を産生し得る細胞なのか、もしくはグリア芽細胞から分化が進み、アストロサイトのみの産生に特化した前駆細胞が出現するのか、という点が問題となる。1980年代中期頃から[[初代培養系]]を用いて、グリア芽細胞を分離する試みがなされてきた。これまでに、形態、分子マーカーの発現様式、各種栄養因子に対する応答性といった基準から性質の異なる多数のグリア芽細胞が報告されている。これらは、形態学的特徴から[[TypeⅠアストロサイト]]と[[TypeⅡアストロサイト]]に大別されており、TypeⅠアストロサイトは[[原形質アストロサイト]]に、TypeⅡアストロサイトは[[線維性アストロサイト]]に相当するもと考えられてきた。しかし現在ではTypeⅠ、TypeⅡアストロサイトの呼称は用いられなくなってきている。後述(オリゴデンドロブラストの項)の[[O-2A細胞]]は、ラット[[視束]]より初めて見いだされたグリア芽細胞であり、in vitroの特定の培養条件下においてオリゴデンドロサイトとTypeⅡアストロサイトのいずれにも分化し得ることから、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイトに共通する前駆細胞の存在が示唆された。しかしながら、O-2A細胞をin vivoへ移植した場合にはオリゴデンドロサイトへのみ分化することから、現在ではO-2A細胞は[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]と考えられている。1990年代後半になると、in vitro条件下でアストロサイトのみに分化する前駆細胞が複数のグループから分離された([[CD44陽性細胞]]など)<ref name=ref16><pubmed> 10719353 </pubmed></ref><ref name=ref17><pubmed> 15531362 </pubmed></ref>。しかし、これらアストロサイト前駆細胞のin vivoにおける動態については、まだ明らかとなっていない。また近年、[[レトロウイルスベクター]]を用いた実験から、生後マウスの大脳皮質において、アストロサイトが局所で[[対称性分裂]]し、その数を増大することが示された<ref name=ref18><pubmed> 22456708 </pubmed></ref>。これら、in vitroにおけるアストロサイト前駆細胞の分離、ならびにin vivoの所見を鑑みると、発生のある段階においては、アストロサイトにのみ分化する前駆細胞が存在することが示唆される。
 次に、グリア芽細胞はオリゴデンドロサイトとアストロサイトの両者を産生し得る細胞なのか、もしくはグリア芽細胞から分化が進み、アストロサイトのみの産生に特化した前駆細胞が出現するのか、という点が問題となる。1980年代中期頃から[[初代培養系]]を用いて、グリア芽細胞を分離する試みがなされてきた。これまでに、形態、分子マーカーの発現様式、各種栄養因子に対する応答性といった基準から性質の異なる多数のグリア芽細胞が報告されている。これらは、形態学的特徴から[[TypeⅠアストロサイト]]と[[TypeⅡアストロサイト]]に大別されており、TypeⅠアストロサイトは[[原形質アストロサイト]]に、TypeⅡアストロサイトは[[線維性アストロサイト]]に相当するもと考えられてきた。しかし現在ではTypeⅠ、TypeⅡアストロサイトの呼称は用いられなくなってきている。後述(オリゴデンドロブラストの項)の[[O-2A細胞]]は、ラット[[視束]]より初めて見いだされたグリア芽細胞であり、in vitroの特定の培養条件下においてオリゴデンドロサイトとTypeⅡアストロサイトのいずれにも分化し得ることから、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイトに共通する前駆細胞の存在が示唆された。しかしながら、O-2A細胞をin vivoへ移植した場合にはオリゴデンドロサイトへのみ分化することから、現在ではO-2A細胞は[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]と考えられている。1990年代後半になると、in vitro条件下でアストロサイトのみに分化する前駆細胞が複数のグループから分離された([[CD44陽性細胞]]など)<ref name=ref16><pubmed> 10719353 </pubmed></ref><ref name=ref17><pubmed> 15531362 </pubmed></ref>。しかし、これらアストロサイト前駆細胞のin vivoにおける動態については、まだ明らかとなっていない。また近年、[[レトロウイルスベクター]]を用いた実験から、生後マウスの大脳皮質において、アストロサイトが局所で[[対称性分裂]]し、その数を増大することが示された<ref name=ref18><pubmed> 22456708 </pubmed></ref>。これら、in vitroにおけるアストロサイト前駆細胞の分離、ならびにin vivoの所見を鑑みると、発生のある段階においては、アストロサイトにのみ分化する前駆細胞が存在することが示唆される。


 アストロサイトの発生を考える上で、もう一つの重要な点として、アストロサイトの不均一性(heterogeneity)の問題が挙げられる。一般にアストロサイトと呼ばれる細胞は、[[灰白質]]に分布する原形質アストロサイトと[[白質]]に分布する線維性アストロサイトに大別される。両者は、共通のマーカー分子([[GFAP]]など)を発現するものの、形態学的には明らかに異なった特徴を有している。これら2種類のアストロサイトが同一の機能を有するのか、あるいは異なる機能を有するのか(不均一なのか)という問題が、アストロサイトの研究分野に大きなテーマとして横たわっている<ref name=ref19>'''Kimelberg HK'''<br> Astrocyte Heterogeneity or Homogeneiry?:Astrocytes in (Patho)Physiology of the Nervous System; p1-26,<br>''Springer(New York):2009</ref>。アストロサイトに不均一性が存在すると仮定した場合(多くの研究者は不均一性の存在を期待している)、原形質アストロサイトと線維性アストロサイトのそれぞれに対応する前駆細胞が存在するのか、あるいは前駆細胞の置かれる環境によって分化が方向づけられるのか、不均一性が発生のどの段階で獲得されるのか、といった疑問点が挙げられる。一例を挙げると、マウス胎生10-12日齢の脊髄は、[[転写調節因子]]の発現パターンに基づいたドメイン構造を有しており、ニューロンやオリゴデンドロサイトは固有のドメインより発生することが広く知られている。したがって、ニューロンやオリゴデンドロサイトといった細胞の多様性獲得には前駆細胞の分布する位置が重要であると考えられている。近年、アストロサイトに関しても脊髄腹側から、マーカー分子の発現様式の異なるアストロサイト(線維性アストロサイト)が生じることが報告され、アストロサイトにも複数のサブタイプが存在する可能性が示唆されている<ref name=ref20><pubmed> 18455991 </pubmed></ref>。これは、アストロサイト前駆細胞の置かれる環境が分化に重要であることを示しており、またアストロサイトの不均一性の存在を支持する結果であると考えられる。しかしながら、アストロサイトの機能的な不均一性の有無が明らかとなっていないため、これらの疑問に対する明確な答えが存在しないのが現状である。今日、アストロサイト(グリア細胞)に対する関心は日増しに高まってきているが、まだまだ未解明な問題が山積している。したがって、アストロサイト前駆細胞の概念も今後大きく変遷していくものと考えられる。
 アストロサイトの発生を考える上で、もう一つの重要な点として、アストロサイトの不均一性(heterogeneity)の問題が挙げられる。一般にアストロサイトと呼ばれる細胞は、[[灰白質]]に分布する原形質アストロサイトと[[白質]]に分布する線維性アストロサイトに大別される。両者は、共通のマーカー分子([[GFAP]]など)を発現するものの、形態学的には明らかに異なった特徴を有している。これら2種類のアストロサイトが同一の機能を有するのか、あるいは異なる機能を有するのか(不均一なのか)という問題が、アストロサイトの研究分野に大きなテーマとして横たわっている<ref name=ref19>'''Kimelberg HK'''<br> Astrocyte Heterogeneity or Homogeneiry?:Astrocytes in (Patho)Physiology of the Nervous System; p1-26,<br>''Springer(New York):2009</ref>。アストロサイトに不均一性が存在すると仮定した場合(多くの研究者は不均一性の存在を期待している)、原形質アストロサイトと線維性アストロサイトのそれぞれに対応する前駆細胞が存在するのか、あるいは前駆細胞の置かれる環境によって分化が方向づけられるのか、不均一性が発生のどの段階で獲得されるのか、といった疑問点が挙げられる。一例を挙げると、マウス胎生10-12日齢の脊髄は、[[転写調節因子]]の発現パターンに基づいたドメイン構造を有しており、ニューロンやオリゴデンドロサイトは固有のドメインより発生することが広く知られている。したがって、ニューロンやオリゴデンドロサイトといった細胞の多様性獲得には前駆細胞の分布する位置が重要であると考えられている。近年、アストロサイトに関しても脊髄腹側から、マーカー分子の発現様式の異なるアストロサイト(線維性アストロサイト)が生じることが報告され、アストロサイトにも複数のサブタイプが存在する可能性が示唆されている<ref name=ref20><pubmed> 18455991 </pubmed></ref>。これは、アストロサイト前駆細胞の置かれる環境が分化に重要であることを示しており、またアストロサイトの不均一性の存在を支持する結果であると考えられる。しかしながら、アストロサイトの機能的な不均一性の有無が明らかとなっていないため、これらの疑問に対する明確な答えが存在しないのが現状である。今日、アストロサイト(グリア細胞)に対する関心は日増しに高まってきているが、まだまだ未解明な問題が山積している。したがって、アストロサイト前駆細胞の概念も今後大きく変遷していくものと考えられる。
12

回編集