「基底膜」の版間の差分

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== 中枢神経系における基底膜の構成成分  ==
== 中枢神経系における基底膜の構成成分  ==


  組織を問わず全ての基底膜に共通して存在する基底膜の主成分に、IV型コラーゲン (Type IV collagen)、ラミニン (laminin) とニドゲン (nidogen)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) がある<ref name=ref2 />。これらには以下に述べるようなアイソフォームが存在し、その組み合わせにより組織や細胞に特異的な基底膜を形成する。各アイソフォームの分布は、論文以外にもTHE MATRIOME PROJECT (http://www.matrixome.com/bm/Home/home/home.asp) に詳しく記載されている<ref name=ref8><pubmed> 18757743 </pubmed></ref>。  
  組織を問わず全ての基底膜に共通して存在する基底膜の主成分に、IV型コラーゲン (Type IV collagen)、ラミニン (laminin) とニドゲン (nidogen)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) がある<ref name=ref2 />。これらには以下に述べるようなアイソフォームが存在し、その組み合わせにより組織や細胞に特異的な基底膜を形成する。各アイソフォームの分布は、論文以外にもTHE MATRIOME PROJECT (http://www.matrixome.com/bm/Home/home/home.asp) に詳しく記載されている<ref name=ref7><pubmed> 18757743 </pubmed></ref>。  


 IV型コラーゲン (Type IV collagen):IV型コラーゲンは非線維性であり、基底膜の骨格をなす網目状構造の形成に関与している。他のコラーゲンと同様に、α鎖と呼ばれるポリペプチド鎖が3本集まり、3重らせん構造を形成している。IV型コラーゲンには6種類のα鎖が存在し、各アイソフォームはその組み合わせに応じて[α1(IV)]2α2(IV)のように表記される。脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、[α1(IV)]2α2(IV)と[α5(IV)]2α6(IV) の2種類が共発現しているが、血管内皮基底膜 (endothelial basement membrane)では[α1(IV)]2α2(IV)のみが発現す る<ref name=ref9><pubmed> 12164337 </pubmed></ref>。脈絡叢の基底膜では、毛細血管基底膜には[α1(IV)]2α2(IV)が、脈絡叢上皮基底膜にはα3(IV)α4(IV)α5(IV)で構成されたIV型コラーゲンが存在している<ref name=ref9 />。フラクトンにはIV型コラーゲンが含まれているが、各α鎖の分布などは明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  
 IV型コラーゲン (Type IV collagen):IV型コラーゲンは非線維性であり、基底膜の骨格をなす網目状構造の形成に関与している。他のコラーゲンと同様に、α鎖と呼ばれるポリペプチド鎖が3本集まり、3重らせん構造を形成している。IV型コラーゲンには6種類のα鎖が存在し、各アイソフォームはその組み合わせに応じて[α1(IV)]2α2(IV)のように表記される。脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、[α1(IV)]2α2(IV)と[α5(IV)]2α6(IV) の2種類が共発現しているが、血管内皮基底膜 (endothelial basement membrane)では[α1(IV)]2α2(IV)のみが発現す る<ref name=ref8><pubmed> 12164337 </pubmed></ref>。脈絡叢の基底膜では、毛細血管基底膜には[α1(IV)]2α2(IV)が、脈絡叢上皮基底膜にはα3(IV)α4(IV)α5(IV)で構成されたIV型コラーゲンが存在している<ref name=ref8 />。フラクトンにはIV型コラーゲンが含まれているが、各α鎖の分布などは明らかになっていない<ref name=ref9><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  


 ラミニン(laminin):ラミニンは、α、β、γの3つの鎖からなる3量体糖タンパク質で、それぞれの鎖のC末の3重らせんドメインで会合した十字架構造をしている<ref><pubmed> 19693542 </pubmed></ref>。α鎖が5種類、β鎖が3種類、γ鎖が3種類存在し、それらの組み合わせによって、例えばα1、β1、γ1ならばラミニン-111、α5、β2、γ1ならばラミニン-521のように命名されている。現在までに18種類の組み合わせが報告されている。α、β、γの鎖のなかで、α鎖が細胞の接着に関わる主要な鎖としてラミニンの機能に大きく関わっている。血管内皮基底膜には、ラミニン-411と-511が存在している。また、脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、ラミニン-111とラミニン-211が共発現する。血管が脳実質内に侵入し、2つの基底膜が融合した部分では、ラミニン-211、-411、-511が共発現する<ref><pubmed> 19779720 </pubmed></ref>。脈絡叢上皮基底膜にはラミニン-511が存在している。一方、脈絡叢の毛細血管基底膜はラミニン-411である<ref name=ref8/>。血管内皮基底膜を除く各基底膜では、同時にβ2およびγ3鎖の発現も見られることから、ラミニン-421/-423/-521/-523が同時に含まれることが予想される<ref name=ref8 /> 。フラクトンには、β1とγ1鎖が存在しているが、これらと会合するα鎖は明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  
 ラミニン(laminin):ラミニンは、α、β、γの3つの鎖からなる3量体糖タンパク質で、それぞれの鎖のC末の3重らせんドメインで会合した十字架構造をしている<ref><pubmed> 19693542 </pubmed></ref>。α鎖が5種類、β鎖が3種類、γ鎖が3種類存在し、それらの組み合わせによって、例えばα1、β1、γ1ならばラミニン-111、α5、β2、γ1ならばラミニン-521のように命名されている。現在までに18種類の組み合わせが報告されている。α、β、γの鎖のなかで、α鎖が細胞の接着に関わる主要な鎖としてラミニンの機能に大きく関わっている。血管内皮基底膜には、ラミニン-411と-511が存在している。また、脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、ラミニン-111とラミニン-211が共発現する。血管が脳実質内に侵入し、2つの基底膜が融合した部分では、ラミニン-211、-411、-511が共発現する<ref name=ref5/>。脈絡叢上皮基底膜にはラミニン-511が存在している。一方、脈絡叢の毛細血管基底膜はラミニン-411である<ref name=ref7/>。血管内皮基底膜を除く各基底膜では、同時にβ2およびγ3鎖の発現も見られることから、ラミニン-421/-423/-521/-523が同時に含まれることが予想される<ref name=ref7 /> 。フラクトンには、β1とγ1鎖が存在しているが、これらと会合するα鎖は明らかになっていない<ref name=ref9/>。  


 ニドゲン (nidogen):ニドゲンはエンタクチン(entactin)とも呼ばれ、2種類のアイソフォーム(nidogen-1 and -2)が知られている。どちらもラミニンγ1鎖に結合し、ラミニンをIV型コラーゲンに結びつけることで基底膜の形成と維持に関与している<ref><pubmed> 18219668 </pubmed></ref>。どちらも中枢神経組織内におけるほとんどの基底膜に共発現している<ref name=ref8 /></ref> <ref><pubmed> 18219668 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 12122064 </pubmed></ref>。フラクトンには、ニドゲン-1は存在しているが、ニドゲン-2については明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。  
 ニドゲン (nidogen):ニドゲンはエンタクチン(entactin)とも呼ばれ、2種類のアイソフォーム(nidogen-1 and -2)が知られている。どちらもラミニンγ1鎖に結合し、ラミニンをIV型コラーゲンに結びつけることで基底膜の形成と維持に関与している<ref name=ref11><pubmed> 18219668 </pubmed></ref>。どちらも中枢神経組織内におけるほとんどの基底膜に共発現している<ref name=ref7 /> <ref name=ref11/> <ref name=ref12><pubmed> 12122064 </pubmed></ref>。フラクトンには、ニドゲン-1は存在しているが、ニドゲン-2については明らかになっていない<ref name=ref9/>。  


 ヘパラン硫酸プロテオグリカン (heparan sulfate proteoglycan):基底膜に含まれるヘパラン硫酸プロテオグリカンとしてパールカン(perlecan)とアグリン(agrin)がある。血管内皮基底膜では、パールカンが、軟膜基底膜および脳実質基底膜では、アグリンがそれぞれ主要なヘパラン硫酸プロテオグリカンとして存在する。脳実質内に侵入した血管基底膜のうち、脳実質基底膜と融合した部分では、パールカンとアグリンの両方が存在している<ref name=ref5 />。脈絡叢では、ともに脈絡叢上皮と毛細血管の基底膜で発現している<ref name=ref8 /> <ref><pubmed> 9337134 </pubmed></ref>。フラクトンには、パールカンは存在しているが、アグリンについては明らかになっていない<ref><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。<br>
 ヘパラン硫酸プロテオグリカン (heparan sulfate proteoglycan):基底膜に含まれるヘパラン硫酸プロテオグリカンとしてパールカン(perlecan)とアグリン(agrin)がある。血管内皮基底膜では、パールカンが、軟膜基底膜および脳実質基底膜では、アグリンがそれぞれ主要なヘパラン硫酸プロテオグリカンとして存在する。脳実質内に侵入した血管基底膜のうち、脳実質基底膜と融合した部分では、パールカンとアグリンの両方が存在している<ref name=ref5 />。脈絡叢では、ともに脈絡叢上皮と毛細血管の基底膜で発現している<ref name=ref7 /> <ref><pubmed> 9337134 </pubmed></ref>。フラクトンには、パールカンは存在しているが、アグリンについては明らかになっていない<ref name=ref9/>。  


== 中枢神経系における基底膜の機能と疾患  ==
== 中枢神経系における基底膜の機能と疾患  ==
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 IV型コラーゲンは、基底膜の安定化に重要な働きをしている<ref><pubmed> 14998921 </pubmed></ref>。実際、IV型コラーゲンα1鎖の変異により血管基底膜が障害され、これにより脳内出血(brain hemorrhage)や孔脳症(porencephaly)が引き起こされることがヒトおよびマウスで明らかになっている<ref><pubmed> 15905400 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17379824 </pubmed></ref>。また、脈絡叢上皮基底膜に発現するIV型コラーゲンアイソフォームα3(IV)α4(IV)α5(IV)は、腎糸球体(血液—尿関門を構成)、肺胞(血液—空気関門を構成)の基底膜でも特徴的に発現しており<ref><pubmed> 7657706 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 11523049 </pubmed></ref>、このアイソフォームの機能と脈絡叢の血液—脳脊髄液関門の関連が示唆される。  
 IV型コラーゲンは、基底膜の安定化に重要な働きをしている<ref><pubmed> 14998921 </pubmed></ref>。実際、IV型コラーゲンα1鎖の変異により血管基底膜が障害され、これにより脳内出血(brain hemorrhage)や孔脳症(porencephaly)が引き起こされることがヒトおよびマウスで明らかになっている<ref><pubmed> 15905400 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17379824 </pubmed></ref>。また、脈絡叢上皮基底膜に発現するIV型コラーゲンアイソフォームα3(IV)α4(IV)α5(IV)は、腎糸球体(血液—尿関門を構成)、肺胞(血液—空気関門を構成)の基底膜でも特徴的に発現しており<ref><pubmed> 7657706 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 11523049 </pubmed></ref>、このアイソフォームの機能と脈絡叢の血液—脳脊髄液関門の関連が示唆される。  


 ラミニンγ1鎖のニドゲン結合部位を欠失させたマウスでは、軟膜基底膜および軟膜に連続した血管周囲の基底膜が障害され、脳皮質の形成に異常が起きる<ref><pubmed> 12122064 </pubmed></ref>。軟膜基底膜におけるラミニンα1鎖の欠損は、小脳の形成に影響し、行動障害を引き起こす<ref><pubmed> 21983115 </pubmed></ref>。ニドゲン-1を欠失させたマウスでは海馬の機能が障害される<ref><pubmed> 19530222 </pubmed></ref>。  
 ラミニンγ1鎖のニドゲン結合部位を欠失させたマウスでは、軟膜基底膜および軟膜に連続した血管周囲の基底膜が障害され、脳皮質の形成に異常が起きる<ref name=ref12/>。軟膜基底膜におけるラミニンα1鎖の欠損は、小脳の形成に影響し、行動障害を引き起こす<ref><pubmed> 21983115 </pubmed></ref>。ニドゲン-1を欠失させたマウスでは海馬の機能が障害される<ref><pubmed> 19530222 </pubmed></ref>。  


 中枢神経実質には、血液中からの免疫細胞の侵入が制限されている。しかし、脳脊髄炎ではこれらの機能が破綻し、リンパ球の侵入が見られるようになる。血管内皮基底膜にはラミニンα4鎖とα5鎖が含まれ、リンパ球の侵入はラミニンα5鎖を欠く領域で起こることが報告されている<ref name=ref1 />。これを裏付けるように、ラミニンα4鎖欠失マウスでは、ラミニンα5鎖が補償的に発現上昇するため、炎症に際してのリンパ球の侵入が見られなくなる<ref name=ref1 />。  
 中枢神経実質には、血液中からの免疫細胞の侵入が制限されている。しかし、脳脊髄炎ではこれらの機能が破綻し、リンパ球の侵入が見られるようになる。血管内皮基底膜にはラミニンα4鎖とα5鎖が含まれ、リンパ球の侵入はラミニンα5鎖を欠く領域で起こることが報告されている<ref name=ref1 />。これを裏付けるように、ラミニンα4鎖欠失マウスでは、ラミニンα5鎖が補償的に発現上昇するため、炎症に際してのリンパ球の侵入が見られなくなる<ref name=ref1 />。  
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