「病識」の版間の差分

391 バイト除去 、 2012年1月13日 (金)
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(加藤先生:なかなか事典のようにすっきりとはいきませんでしたので、随時添削をお願いします。図がうまく編集でいませんので、ワードファイルをメイルで送ります。)
 
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「病識」 英 insight  独 Einsicht
英:insight  独:Einsicht


類義語
類義語
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疾病認識、障害認識、病覚
疾病認識、障害認識、病覚


(1) 病識とは
 
病識の定義としては、Jaspers11)の定義「人が(疾病についての)自己の体験に対し、観察し判断しながら立ち向かうことを疾病意識とし、そのうちの”正しい構えの理想的なもの”が病識とされる」(筆者による要約)や、Lewis13)の定義「自己の中におこった疾病による変化への正確な態度であり、直接知覚できるもの(変化が起こっている)と、二次的なデータに基づくもの(変化があるに違いない)がある」などがよく知られている。林8は   Jaspersの定義にそって、患者一般の側から見た疾病認識がまずあり、その一部として病識(精神医学の立場から見た評価)があることを指摘した。Markovaら15)は、病識はself-knowledge(自己に影響を与える事柄についての知識)の一部であるので、単に精神障害についての知識や罹患したことに関わる事実の知識があるだけでは不十分で、外界および内界からの情報によって自己全体に与える影響が組み立てられるとしている。
 病識の定義としては、Jaspers11)の定義「人が(疾病についての)自己の体験に対し、観察し判断しながら立ち向かうことを疾病意識とし、そのうちの”正しい構えの理想的なもの”が病識とされる」(筆者による要約)や、Lewis13)の定義「自己の中におこった疾病による変化への正確な態度であり、直接知覚できるもの(変化が起こっている)と、二次的なデータに基づくもの(変化があるに違いない)がある」などがよく知られている。林8は   Jaspersの定義にそって、患者一般の側から見た疾病認識がまずあり、その一部として病識(精神医学の立場から見た評価)があることを指摘した。Markovaら15)は、病識はself-knowledge(自己に影響を与える事柄についての知識)の一部であるので、単に精神障害についての知識や罹患したことに関わる事実の知識があるだけでは不十分で、外界および内界からの情報によって自己全体に与える影響が組み立てられるとしている。
こうした諸家の見解をもとに池淵10)は、「精神障害によってもたらされる何らかの変化の気づき」つまり主観的な変化の体験の自覚をひろく障害認識と呼び、障害認識についてそれが医学的に妥当であるかどうかを客観的評価したものを病識と呼んだ(図1)。障害認識や病識と専門家の認知に乖離が生ずる時に病識不十分、もしくは病識欠如と評価される。たとえば、「前よりも感情がわかず、喜怒哀楽が薄くなった」と感じるのは障害認識のレベルであり、それを何らかの精神障害に基づく症状として自覚できているかどうか、その正確さによって専門家が病識の程度を判定することになる。本論では上記の意味で「病識」を使っていくが、しかし文献によって「病識」という言葉が指し示す内容は異なることがあるので留意が必要である。
こうした諸家の見解をもとに池淵10)は、「精神障害によってもたらされる何らかの変化の気づき」つまり主観的な変化の体験の自覚をひろく障害認識と呼び、障害認識についてそれが医学的に妥当であるかどうかを客観的評価したものを病識と呼んだ(図1)。障害認識や病識と専門家の認知に乖離が生ずる時に病識不十分、もしくは病識欠如と評価される。たとえば、「前よりも感情がわかず、喜怒哀楽が薄くなった」と感じるのは障害認識のレベルであり、それを何らかの精神障害に基づく症状として自覚できているかどうか、その正確さによって専門家が病識の程度を判定することになる。本論では上記の意味で「病識」を使っていくが、しかし文献によって「病識」という言葉が指し示す内容は異なることがあるので留意が必要である。


  図1  障害認識と病識
    障害認識 :精神障害によってもたらされる何らかの
         変化の気づき  (主観的認識)
  病識:障害認識についての客観的
    ・精神医学的評価
病識不足または欠如:障害認識と
     専門家の評価との乖離


障害認識及び病識は、異なる成因からなる多要因の概念であると近年は考えられるようになっている。たとえばDavid5,6)は病識の概念を二分して、「何らかの疾患に罹患しており、それが精神障害であること」と、「特定の精神的な変化の体験を病的であると認識できる能力」とした。また両概念とも、「あり」「なし」の二分法では記述できないこと、両概念の相互関連性は必ずしも高くないことを示した。そしてこれまでのさまざまな研究における病識欠如の出現率は評価方法と、評価している時期に依存していることを指摘した。
障害認識及び病識は、異なる成因からなる多要因の概念であると近年は考えられるようになっている。たとえばDavid5,6)は病識の概念を二分して、「何らかの疾患に罹患しており、それが精神障害であること」と、「特定の精神的な変化の体験を病的であると認識できる能力」とした。また両概念とも、「あり」「なし」の二分法では記述できないこと、両概念の相互関連性は必ずしも高くないことを示した。そしてこれまでのさまざまな研究における病識欠如の出現率は評価方法と、評価している時期に依存していることを指摘した。
Amadorら1,2)は、病識はひとまとまりの症状群ごとに検討されるべき modality-specificなものであり、障害認識及び病識は少なくとも以下の4次元から成り立っていると主張している。1)精神症状や症候や疾病のもたらす変化についての認識、2)疾病についての帰属、および症状や起こってくる変化についての帰属、3)自己概念形成、4)心理的防衛。池淵ら9)は、ICD-10によって統合失調症と診断された31例(社会復帰病棟に入院中の慢性例)を対象に、複数の尺度による評価を試み、3因子(治療遵守と疾病の認識因子、服薬理由の因子、精神症状認識の因子)を抽出した。
Amadorら1,2)は、病識はひとまとまりの症状群ごとに検討されるべき modality-specificなものであり、障害認識及び病識は少なくとも以下の4次元から成り立っていると主張している。1)精神症状や症候や疾病のもたらす変化についての認識、2)疾病についての帰属、および症状や起こってくる変化についての帰属、3)自己概念形成、4)心理的防衛。池淵ら9)は、ICD-10によって統合失調症と診断された31例(社会復帰病棟に入院中の慢性例)を対象に、複数の尺度による評価を試み、3因子(治療遵守と疾病の認識因子、服薬理由の因子、精神症状認識の因子)を抽出した。


(2) 歴史的背景
 
== 歴史的背景 ==
 
 
19世紀にKraepelinが早発性痴呆について記載したときにすでに、疾患の重症度について自覚されないことが典型的であるとし、Bleuler,E.もschizophrenienの呼称を定めた時点で、自己の病態の認識に欠けることを指摘している。1973年のWHOによる国際的なコホート調査では、統合失調症と診断された者のうち病識の欠如が97% に認められた と報告されるなど、統合失調症の疾病特異的な病態であると認識されてきており、病識のことを述べるときにはまず統合失調症が連想される。双極性気分障害での報告など、他の精神障害についても病識の問題は見られるが、本文においてはもっとも研究報告が多い統合失調症における病識に的を絞って記載している。
19世紀にKraepelinが早発性痴呆について記載したときにすでに、疾患の重症度について自覚されないことが典型的であるとし、Bleuler,E.もschizophrenienの呼称を定めた時点で、自己の病態の認識に欠けることを指摘している。1973年のWHOによる国際的なコホート調査では、統合失調症と診断された者のうち病識の欠如が97% に認められた と報告されるなど、統合失調症の疾病特異的な病態であると認識されてきており、病識のことを述べるときにはまず統合失調症が連想される。双極性気分障害での報告など、他の精神障害についても病識の問題は見られるが、本文においてはもっとも研究報告が多い統合失調症における病識に的を絞って記載している。
 1990年代になると病識についての操作的基準による量的・多次元的評価尺度が発達し、実証的研究が活発となった。Amadorら1)やMarkovaら16)によれば、病識の評価方法は以下の5種類がある。1)1970年代までは患者の自由な陳述を臨床的に記載する方法で、「あり」「なし」に2分される。2)1980年代に開発され、一定の設問への応答を臨床的に記載する方法で、Mental Status Examinationがその例である。3)1970-80年代に用いられた、患者の自由な陳述を一定の評価基準に基づいて採点する方法。1973年に行われたWHOによる国際研究もこの方法で行われた。4)一定の設問への応答を評価基準に基づいて採点する方法。1990年代に実証的研究に使われるようになり、SAI6), SUMD2)がその代表である。5)一定の設問に対し、多項選択で回答するもの。
 1990年代になると病識についての操作的基準による量的・多次元的評価尺度が発達し、実証的研究が活発となった。Amadorら1)やMarkovaら16)によれば、病識の評価方法は以下の5種類がある。1)1970年代までは患者の自由な陳述を臨床的に記載する方法で、「あり」「なし」に2分される。2)1980年代に開発され、一定の設問への応答を臨床的に記載する方法で、Mental Status Examinationがその例である。3)1970-80年代に用いられた、患者の自由な陳述を一定の評価基準に基づいて採点する方法。1973年に行われたWHOによる国際研究もこの方法で行われた。4)一定の設問への応答を評価基準に基づいて採点する方法。1990年代に実証的研究に使われるようになり、SAI6), SUMD2)がその代表である。5)一定の設問に対し、多項選択で回答するもの。
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病識についての客観的評価方法が提案されるようになった時期より、後述する病識と脳機能との関連についての実証的研究がおこなわれるようになっている。
病識についての客観的評価方法が提案されるようになった時期より、後述する病識と脳機能との関連についての実証的研究がおこなわれるようになっている。


(3) 病識欠如の成因
 
1)認知機能障害モデル
== 病識欠如の成因 ==
 
 
=== 認知機能障害モデル ===
 Babinskiや Gerstmannが早くから記載しているように、主に左半身麻痺の人において、「麻痺があたかもないように振るまったり、麻痺の存在に関心を示さない」現象が観察されており、anosognosia, denial of illness, lack of insight, organic repressionなどと呼称されてきた。この現象は、健常な知的能力でも発現し、またある障害については自覚しているが、ある障害については気づかないといった選択性があることも知られている。大橋19)はanosognosieを「器質性患者による自己の身体機能欠損の否認」と定義し、左片麻痺の際の麻痺の否認や、Anton症状などの疾病否認を例示し、また関連する病態として、失語や失行の際に見られる機能欠損についての無関心anosodiaphorieや、半側無視症状などを紹介している。大橋の症例では、左片麻痺があるにもかかわらず認めようとしないが、現実に歩こうとはしない、多弁で医師に拒否的で疾病の話を受け入れない、否認を貫く間は多幸的であるなど、統合失調症と極めて相似の病識欠如の病態が示されている。
 Babinskiや Gerstmannが早くから記載しているように、主に左半身麻痺の人において、「麻痺があたかもないように振るまったり、麻痺の存在に関心を示さない」現象が観察されており、anosognosia, denial of illness, lack of insight, organic repressionなどと呼称されてきた。この現象は、健常な知的能力でも発現し、またある障害については自覚しているが、ある障害については気づかないといった選択性があることも知られている。大橋19)はanosognosieを「器質性患者による自己の身体機能欠損の否認」と定義し、左片麻痺の際の麻痺の否認や、Anton症状などの疾病否認を例示し、また関連する病態として、失語や失行の際に見られる機能欠損についての無関心anosodiaphorieや、半側無視症状などを紹介している。大橋の症例では、左片麻痺があるにもかかわらず認めようとしないが、現実に歩こうとはしない、多弁で医師に拒否的で疾病の話を受け入れない、否認を貫く間は多幸的であるなど、統合失調症と極めて相似の病識欠如の病態が示されている。
 以上のように器質疾患でも観察されることから、病識欠如の成因として認知機能障害を想定することが近年行われるようになっている。
 以上のように器質疾患でも観察されることから、病識欠如の成因として認知機能障害を想定することが近年行われるようになっている。
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Queeら22)は270例の非感情病圏の精神病患者を調査し、神経認知機能よりも社会的認知機能のほうが病識との関連性が高いことを報告し、情動認識や相手の心を推測する機能が関連している可能性について述べているなど、社会的認知の脳科学の発展に伴い、それとの関連で病識欠如の成因を想定しようとする考え方が見られるようになっている。
Queeら22)は270例の非感情病圏の精神病患者を調査し、神経認知機能よりも社会的認知機能のほうが病識との関連性が高いことを報告し、情動認識や相手の心を推測する機能が関連している可能性について述べているなど、社会的認知の脳科学の発展に伴い、それとの関連で病識欠如の成因を想定しようとする考え方が見られるようになっている。


2)防衛機制モデル
 
=== 防衛機制モデル ===
 
 歴史的に見れば、英語圏ではMayer-Grossをはじめとして、障害認識ないしは病識は力動精神医学の視点からは防衛機制であり、防衛にはいくつかの側面があり、回復とともに変化すると考えられてきた。また障害認識を表明するためには、ある程度の教育や知的能力、自己表現する言語能力、情動的な耐性などが必要であり、幻聴などのように単一症状として考えるべきではなく、人格と切り離すことはできないとの見解がある16)。妄想を述べる患者がそれにしたがった行動はとらないなど、なんらかの乖離が現実にしばしば見られるところにも、防衛機制の存在を指摘する考え方が行われてきた。
 歴史的に見れば、英語圏ではMayer-Grossをはじめとして、障害認識ないしは病識は力動精神医学の視点からは防衛機制であり、防衛にはいくつかの側面があり、回復とともに変化すると考えられてきた。また障害認識を表明するためには、ある程度の教育や知的能力、自己表現する言語能力、情動的な耐性などが必要であり、幻聴などのように単一症状として考えるべきではなく、人格と切り離すことはできないとの見解がある16)。妄想を述べる患者がそれにしたがった行動はとらないなど、なんらかの乖離が現実にしばしば見られるところにも、防衛機制の存在を指摘する考え方が行われてきた。


3)精神障害についての体験・学習モデル
 
=== 精神障害についての体験・学習モデル ===
 
精神障害についての知識が不十分であるときに、自己の中に疾病のために起こってきた変化に対して誤った対応や態度をとることが起こりうる。特に精神障害への根強い偏見がある場合には、自己に起こった事柄は容易には精神障害として認識されえないだろう。ここでわかるように、気づかないことと、誤った知識を持つことと、否認など気づきを抑制することとは互いに反する事柄ではなく、相互に関連を持っている。Macpherson ら14)は64例の統合失調症患者に調査を行い、SAIにより評価した障害認識を従属変数とした重回帰分析を行ったところ、治療についての知識とこれまでの教育年数とが有意な寄与を示した。
精神障害についての知識が不十分であるときに、自己の中に疾病のために起こってきた変化に対して誤った対応や態度をとることが起こりうる。特に精神障害への根強い偏見がある場合には、自己に起こった事柄は容易には精神障害として認識されえないだろう。ここでわかるように、気づかないことと、誤った知識を持つことと、否認など気づきを抑制することとは互いに反する事柄ではなく、相互に関連を持っている。Macpherson ら14)は64例の統合失調症患者に調査を行い、SAIにより評価した障害認識を従属変数とした重回帰分析を行ったところ、治療についての知識とこれまでの教育年数とが有意な寄与を示した。
 認知療法では「誤った認知」モデルが仮定されている。幻覚や妄想への誤った認知がその後の不快な感情や問題行動をもたらすというものである25)。幻聴については、まず幻覚が体験され、それについての認知(悪意的な解釈と善意的な解釈の双方がある)があるが、幻覚と認知との関連はそれほど強くない一方で、認知に引き続いて引き起こされた感情と行動には密接な連関があるという。Birchwood3,4)は、幻覚によって生じる行動や感情は、幻覚の形式や内容ではなく、患者が幻覚に対して抱いている信念ー特に幻覚の力や権威に対してのものーによっており、この信念は幻覚への適応過程の一部であり、個人の自己価値や対人関係についてのスキーマに影響を受けること、幻覚への従属は患者の社会関係におけるふるまい方と関連していることを報告している。妄想についても同様に、きっかけとなる出来事についての誤った認知、すなわち妄想的思考が問題であり、その誤った推論や誤った理由づけに対して治療的アプローチが可能と考えられている。
 認知療法では「誤った認知」モデルが仮定されている。幻覚や妄想への誤った認知がその後の不快な感情や問題行動をもたらすというものである25)。幻聴については、まず幻覚が体験され、それについての認知(悪意的な解釈と善意的な解釈の双方がある)があるが、幻覚と認知との関連はそれほど強くない一方で、認知に引き続いて引き起こされた感情と行動には密接な連関があるという。Birchwood3,4)は、幻覚によって生じる行動や感情は、幻覚の形式や内容ではなく、患者が幻覚に対して抱いている信念ー特に幻覚の力や権威に対してのものーによっており、この信念は幻覚への適応過程の一部であり、個人の自己価値や対人関係についてのスキーマに影響を受けること、幻覚への従属は患者の社会関係におけるふるまい方と関連していることを報告している。妄想についても同様に、きっかけとなる出来事についての誤った認知、すなわち妄想的思考が問題であり、その誤った推論や誤った理由づけに対して治療的アプローチが可能と考えられている。


4)多要因・複数成因モデル
 
=== 多要因・複数成因モデル ===
 
 障害認識及び病識はいくつかの要因から成り立っている概念であり、すでに述べてきた複数の成因の相互作用によって形成されるのではないかと考えられる。しかしどのような要因があるのか、またそれぞれの要因についてどのような成因が考えられるのか、さらにはこれらがどのように関連し合っているのかなどについてはまだ十分な研究報告がなく、これからの検討にゆだねられている。Gillenら7)は31例の統合失調症の患者を調査して、障害認識の程度は要因によって異なり、神経認知機能障害のほうが、精神症状よりも障害認識が保たれているとしたが、その逆の報告18)も見られるなど、まだ一定しない。
 障害認識及び病識はいくつかの要因から成り立っている概念であり、すでに述べてきた複数の成因の相互作用によって形成されるのではないかと考えられる。しかしどのような要因があるのか、またそれぞれの要因についてどのような成因が考えられるのか、さらにはこれらがどのように関連し合っているのかなどについてはまだ十分な研究報告がなく、これからの検討にゆだねられている。Gillenら7)は31例の統合失調症の患者を調査して、障害認識の程度は要因によって異なり、神経認知機能障害のほうが、精神症状よりも障害認識が保たれているとしたが、その逆の報告18)も見られるなど、まだ一定しない。


(4)治療
 
== 治療 ==
 
近年はさまざまな社会的資源が整備されてきているが、病識が不十分な場合にはこうしたせっかくの資源も利用に至らず、結果として社会的孤立の道を歩むことになる。治療面でも、McEvoyら17)が指摘するように、ほかの精神症状が改善してもしばしば病識が一緒に改善しないことがあり、病識欠如は予後の悪さと関連性が高く、いわば治療抵抗性である。
近年はさまざまな社会的資源が整備されてきているが、病識が不十分な場合にはこうしたせっかくの資源も利用に至らず、結果として社会的孤立の道を歩むことになる。治療面でも、McEvoyら17)が指摘するように、ほかの精神症状が改善してもしばしば病識が一緒に改善しないことがあり、病識欠如は予後の悪さと関連性が高く、いわば治療抵抗性である。
病識は多要因であり、成因も複数であることが考えられるため、個々の症例での丁寧なアセスメントにそって治療的アプローチを組み立てていくことが必要であろう。そのために治療効果についての実証的な研究には工夫が求められる。
病識は多要因であり、成因も複数であることが考えられるため、個々の症例での丁寧なアセスメントにそって治療的アプローチを組み立てていくことが必要であろう。そのために治療効果についての実証的な研究には工夫が求められる。
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Rommeら23,24)は人々(患者とは限らない)の「幻聴とのつきあい方」を調査し、34%が「幻聴とうまくつきあえている」と答えていたが、これらの人の多くは幻聴を病気としてのサインではなく、その人の人生の中で必然的に生じた個性の一部としてとらえ、共存していこうとする見方をとっていた。社会のスティグマがないところでは、障害認識や病識はより形成されやすいと彼らは考えている。したがって社会のスティグマを減らす努力が求められているし、精神障害の程度にかかわらず仲間に受け入れられ、精神病体験も共感をもって受け止められる体験の中で、自身の体験を受容し対処していく中で、障害認識・病識ははぐくまれると考えられる。
Rommeら23,24)は人々(患者とは限らない)の「幻聴とのつきあい方」を調査し、34%が「幻聴とうまくつきあえている」と答えていたが、これらの人の多くは幻聴を病気としてのサインではなく、その人の人生の中で必然的に生じた個性の一部としてとらえ、共存していこうとする見方をとっていた。社会のスティグマがないところでは、障害認識や病識はより形成されやすいと彼らは考えている。したがって社会のスティグマを減らす努力が求められているし、精神障害の程度にかかわらず仲間に受け入れられ、精神病体験も共感をもって受け止められる体験の中で、自身の体験を受容し対処していく中で、障害認識・病識ははぐくまれると考えられる。


(4) 引用文献
 
== 引用文献 ==
 
1)Amador,X.F., Strauss,D.H., Yale,S.A. et al.: Awareness of illness in schizophrenia. Schizophr Bull 17:113-132, 1991
1)Amador,X.F., Strauss,D.H., Yale,S.A. et al.: Awareness of illness in schizophrenia. Schizophr Bull 17:113-132, 1991
2)Amador, X.F., Strauss,D.H., Yale,S.A. et al.: Assessment of insight in psychosis. Am J Psychiatry 150:873-879, 1993
2)Amador, X.F., Strauss,D.H., Yale,S.A. et al.: Assessment of insight in psychosis. Am J Psychiatry 150:873-879, 1993