「ヘブ則」の版間の差分

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 ヘブは当時の知見を徹底的に吟味し、神経活動における「cell assembly(細胞集成体)」という概念を打ち立てた。ある受容器が刺激された場合には、それに応じて活動する細胞群によってcell assemblyが形成され、それはひとつの閉じた系として短時間活動できるようになると推測した。記憶とはそうした反響性活動の中で生じる永続的な細胞の構造変化であり、「ニューロンとニューロンの接合部であるシナプスというところに、長期的な変化が起こって信号の伝達効率が変化することが学習の仕組みである」という学習のシナプス仮説を唱えた。今日では、この仮説に基づくシナプス可塑性のルールが「ヘブ則」と呼ばれている。  
 ヘブは当時の知見を徹底的に吟味し、神経活動における「cell assembly(細胞集成体)」という概念を打ち立てた。ある受容器が刺激された場合には、それに応じて活動する細胞群によってcell assemblyが形成され、それはひとつの閉じた系として短時間活動できるようになると推測した。記憶とはそうした反響性活動の中で生じる永続的な細胞の構造変化であり、「ニューロンとニューロンの接合部であるシナプスというところに、長期的な変化が起こって信号の伝達効率が変化することが学習の仕組みである」という学習のシナプス仮説を唱えた。今日では、この仮説に基づくシナプス可塑性のルールが「ヘブ則」と呼ばれている。  


 ヘブの学説が大きく注目を浴びるのは、それが発表されて20年以上も経ってからである。1973年BlissとLømoは電気生理学的手法を用いて、ウサギの有孔質路を単一パルスで刺激した際の海馬でのシナプス伝達応答を観察していた。そして、彼らは有孔質路を高頻度に連続して刺激したときに、その刺激前後で単一パルスに対するシナプス応答が増大し、これが数時間以上さらには数日間にもわたって維持されることを見出した<ref><pubmed>4727084</pubmed></ref><ref><pubmed>4727085</pubmed></ref>。後に長期増強(long-term potentiation, LTP)と呼ばれるシナプス可塑性の発見である。ヘブが記憶の痕跡であると考えた仮説はまさにこのLTPの機構を説明するものであった。当初、記憶と関わりの深い海馬で観察されたことから、LTPは記憶の基礎現象であると注目されLTPの研究は一気に加速していった。その後、LTPは大脳皮質、小脳、扁桃体などの様々な脳領域で見つかり、ヘブの学説が脳における一般的な学習メカニズムのひとつであると認知されるようになった。  
 ヘブの学説が大きく注目を浴びるのは、それが発表されて20年以上も経ってからである。1973年BlissとLømoは電気生理学的手法を用いて、ウサギの有孔質路を単一パルスで刺激した際の海馬でのシナプス伝達応答を観察していた。そして、彼らは有孔質路を高頻度に連続して刺激したときに、その刺激前後で単一パルスに対するシナプス応答が増大し、これが数時間以上さらには数日間にもわたって維持されることを見出した<ref><pubmed>4727084</pubmed></ref>。後に長期増強(long-term potentiation, LTP)と呼ばれるシナプス可塑性の発見である。ヘブが記憶の痕跡であると考えた仮説はまさにこのLTPの機構を説明するものであった。当初、記憶と関わりの深い海馬で観察されたことから、LTPは記憶の基礎現象であると注目されLTPの研究は一気に加速していった。その後、LTPは大脳皮質、小脳、扁桃体などの様々な脳領域で見つかり、ヘブの学説が脳における一般的な学習メカニズムのひとつであると認知されるようになった。  


 現在では、LTPにはさまざまな分子機構が存在することがわかっており、脳領域や細胞種、生物の年齢によっても大きく異なる。その中でも、とりわけヘブ則と関連深いのはNMDA受容体依存的なLTPであろう。この種のLTPは最も広く研究されているシナプス可塑性であり、Blissらが最初に報告したLTPもこれに当たる。驚くべきことに、LTPがもつ3つの特徴のうち、「共同性(cooperativity)」と「連合性(associativity)」についてはすでにヘブの学説の中で予見されていたことであった(3つ目の特徴は、「入力特異性」である)。これら2つの特性は、McNaughtonら(1978年)<ref><pubmed>719524</pubmed></ref>およびLevyら(1979年)<ref><pubmed>487154</pubmed></ref>によってそれぞれ確認されている。  
 現在では、LTPにはさまざまな分子機構が存在することがわかっており、脳領域や細胞種、生物の年齢によっても大きく異なる。その中でも、とりわけヘブ則と関連深いのはNMDA受容体依存的なLTPであろう。この種のLTPは最も広く研究されているシナプス可塑性であり、Blissらが最初に報告したLTPもこれに当たる。驚くべきことに、LTPがもつ3つの特徴のうち、「共同性(cooperativity)」と「連合性(associativity)」についてはすでにヘブの学説の中で予見されていたことであった(3つ目の特徴は、「入力特異性」である)。これら2つの特性は、McNaughtonら(1978年)<ref><pubmed>719524</pubmed></ref>およびLevyら(1979年)<ref><pubmed>487154</pubmed></ref>によってそれぞれ確認されている。  
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== 参考文献 ==


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<br> 同義語:ヘッブ則、Hebb's postulate、Hebbian learning  
== 推奨文献 ==
Hebb, D.O. (1949). The organization of behavior. New York: Wiley & Sons
 
 
同義語:ヘッブ則、Hebb's postulate、Hebbian learning  
 
 
重要な関連語:長期増強(LTP)


重要な関連語:長期増強(LTP)


(執筆者:高橋直矢、池谷裕二、松木則夫、担当編集委員:林康紀)
(執筆者:高橋直矢、池谷裕二、松木則夫、担当編集委員:林康紀)
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