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<font size="+1">[http://researchmap.jp/ohtake 大竹 文雄]</font><br> | |||
''大阪大学 社会経済研究所 ''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年12月3日 原稿完成日:2015年11月3日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br> | |||
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英:inequality aversion | 英:inequality aversion | ||
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不平等回避とは、「不平等な状態を好まない」という個人の選好である。他者の状態・行動が個人の効用にも影響する、という社会的選好(social preference)の一形態である。[[行動経済学]](behavioral economics)と呼ばれる分野で発達した概念であり、90年以降に様々な定式化が試みられている。検証手法として、当初は[[実験経済学]]の手法が用いられ、後に神経科学の手法がとられるようになった。 | 不平等回避とは、「不平等な状態を好まない」という個人の選好である。他者の状態・行動が個人の効用にも影響する、という社会的選好(social preference)の一形態である。[[行動経済学]](behavioral economics)と呼ばれる分野で発達した概念であり、90年以降に様々な定式化が試みられている。検証手法として、当初は[[実験経済学]]の手法が用いられ、後に神経科学の手法がとられるようになった。 | ||
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==社会的選好とは== | ==社会的選好とは== | ||
経済学の世界では伝統的に「個人は自分の利益のみを動機として行動する」と仮定していた。これは、旧来の[[wikipedia:ja:|経済学]]が、主として多数の個人からなる市場での行動を分析していたことに由来する。実際、市場実験による結果は、利己的な個人をモデルとした予測によりかなりの程度が説明できる。<ref>'''Vernon L Smith'''<br>Microeconomic systems as an experimental science.<br>''American Economic Review'': 1982, 72(5);923-955</ref><ref>'''Vernon L Smith'''<br>An experimental study of competitive market behavior. <br>''Journal of Political Economy'': 1962, 70(2);111-137</ref> | 経済学の世界では伝統的に「個人は自分の利益のみを動機として行動する」と仮定していた。これは、旧来の[[wikipedia:ja:経済学|経済学]]が、主として多数の個人からなる市場での行動を分析していたことに由来する。実際、市場実験による結果は、利己的な個人をモデルとした予測によりかなりの程度が説明できる。<ref>'''Vernon L Smith'''<br>Microeconomic systems as an experimental science.<br>''American Economic Review'': 1982, 72(5);923-955</ref><ref>'''Vernon L Smith'''<br>An experimental study of competitive market behavior. <br>''Journal of Political Economy'': 1962, 70(2);111-137</ref> | ||
しかし[[wikipedia:ja:|ゲーム理論]]の進展に伴い、経済学がより少数の個人からなる経済行動を分析するようになると、利己的な個人を基にしたモデルの当てはまりは悪くなっていった。そこで予測のずれを説明するために導入された概念の1つが、「個人は他者の利益や行動も考慮する」と考える、社会的選好である。 | しかし[[wikipedia:ja:ゲーム理論|ゲーム理論]]の進展に伴い、経済学がより少数の個人からなる経済行動を分析するようになると、利己的な個人を基にしたモデルの当てはまりは悪くなっていった。そこで予測のずれを説明するために導入された概念の1つが、「個人は他者の利益や行動も考慮する」と考える、社会的選好である。 | ||
==社会的選好の類型と不平等回避== | ==社会的選好の類型と不平等回避== | ||
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==経済実験による検証== | ==経済実験による検証== | ||
不平等回避を含む社会的選好は、様々な経済実験によりその存在が確かめられている。経済実験では、簡単なゲームの結果に応じて報酬を支払う。そのゲームにおける行動を分析することで、社会的選好が存在するかどうかを検証している。[[wikipedia:ja:|最後通牒ゲーム]]・[[wikipedia:ja:|独裁者ゲーム]]・[[wikipedia:ja:|信頼ゲーム]]・[[wikipedia:ja:|公共財ゲーム]]などの代表的ゲームが、様々な環境で行われている。 | 不平等回避を含む社会的選好は、様々な経済実験によりその存在が確かめられている。経済実験では、簡単なゲームの結果に応じて報酬を支払う。そのゲームにおける行動を分析することで、社会的選好が存在するかどうかを検証している。[[wikipedia:ja:最後通牒ゲーム|最後通牒ゲーム]]・[[wikipedia:ja:独裁者ゲーム|独裁者ゲーム]]・[[wikipedia:ja:信頼ゲーム|信頼ゲーム]]・[[wikipedia:ja:公共財ゲーム|公共財ゲーム]]などの代表的ゲームが、様々な環境で行われている。 | ||
社会的選好を純粋な形で検証するためには、個人の「評判」が行動に影響することを可能な限り避ける必要がある。良い評判が個人の利益につながるような状況を設定すると、自分の一時的な利益を犠牲にしてでも良い評判を得ようとする行動が増える可能性がある。そのような状況では、自分の利益より他者の利益を優先する行動が、社会的選好によるものなのか、評判を通して最終的に自己の利益を増やそうとする利己的な行動なのかが区別できなくなってしまう。 | 社会的選好を純粋な形で検証するためには、個人の「評判」が行動に影響することを可能な限り避ける必要がある。良い評判が個人の利益につながるような状況を設定すると、自分の一時的な利益を犠牲にしてでも良い評判を得ようとする行動が増える可能性がある。そのような状況では、自分の利益より他者の利益を優先する行動が、社会的選好によるものなのか、評判を通して最終的に自己の利益を増やそうとする利己的な行動なのかが区別できなくなってしまう。 | ||
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<references/> | <references/> | ||