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[[image:KaeNakamura-Fig.png|thumb|400px|'''図1 霊長類の縫線核'''<br>DRN: 背側縫線核 (dorsal raphe nucleus); MRN: 内側縫線核 (median raphe nucleus); NRM: 大縫線核 (nucleus raphe magnus); NRP: 淡蒼縫線核 (nucleus raphe pallidus); NRO: 不確縫線核(nucleus raphe obscures)<br> | |||
AC: [[前交連]] ([[anterior commissure]]); CC: [[脳梁]] ([[corpus callosum]]); Am: [[扁桃体]] ([[amygdala]]); CB: [[帯状束]] ([[cingulum bundle]]); DG: [[歯状回]] ([[dentate gyrus]]); DRCT: [[背側縫線核皮質路]] ([[dorsal raphe cortical tract]]); F: [[脳弓]] ([[fornix]]); H: [[視床下部]] ([[hypothalamus]]); Hipp: [[海馬]] ([[hippocampus]]); IC: [[内包]] ([[internal capsule]]); IP: [[脚間核]] ([[interpeduncular nucleus]]); LC: [[青斑核]] ([[locus coeruleus]]); MB: [[乳頭体]] ([[mammillary body]]); MFB: [[内側前脳束]] ([[medial forebrain bundle]]); OB: [[嗅球]] ([[olfactory bulb]]); S: [[中隔]] ([[septum]]); SM: [[髄条]] ([[stria medullaris]]); Str: [[線条体]] ([[striatum]]); SN: [[黒質]] ([[substantia nigra]]); VAFP; [[腹側扁桃体遠心路]] ([[ventroamygdalofugal pathway]])<br>中村により<ref name=ref2418648><pubmed>2418648</pubmed></ref>より改変 ]] | |||
英語名:Serotonergic system 独:Serotonin-System 仏:système sérotonergique | 英語名:Serotonergic system 独:Serotonin-System 仏:système sérotonergique | ||
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== 解剖 == | == 解剖 == | ||
セロトニン神経の細胞体の大部分は縫線核に集中しているが、縫線核外にもセロトニン神経の細胞体は存在し、縫線核にはセロトニン作動性神経以外の神経細胞も存在する(図1)<ref name="ref1"><pubmed>16157378</pubmed></ref>。[[グルタミン酸]]や[[GABA]]など他の伝達物質がセロトニン神経に含まれる、又は伝達物質として用いられることも示唆されている<ref><pubmed>18615128</pubmed></ref>。縫線核は脳幹内の諸核の総称で、その中の背側縫線核と[[上中心核]]のセロトニン神経は[[前脳]]に投射し、[[橋縫線核]]からは主に[[小脳]]に、[[大縫線核]]、[[不確縫線核]]、[[淡蒼縫線核]]からは脳幹内及び[[脊髄]]に投射する。背側縫線核と上中心核からのセロトニン作動性線維は形態、[[セロトニントランスポーター]]の分布、投射先が異なっており、腹側[[海馬]]、[[扁桃体]]、[[前頭前皮質]]、[[線条体]]は主に背側縫線核から、背側海馬、[[視床下部]]は主に上中心核から投射を受ける<ref name="ref1" />。 | |||
[[Image:5ht fig3.jpg|frame|right|'''図2 セロトニン神経系'''<br> グルタミン酸作動性シナプスなどとは異なり、セロトニンによる情報伝達部位は明確なシナプス構造を形成しない場合が多い。セロトニンは放出部位から比較的離れた部位にある受容体に作用して、標的細胞の興奮性や他の伝達物質の放出を調節し、自己受容体を介してセロトニン神経自身を抑制する。]] | |||
== 情報伝達 == | == 情報伝達 == | ||
セロトニンが標的細胞に対して及ぼす効果は受容体の種類に依存し、主に[[シナプス伝達]]の修飾や比較的[[遅い膜電位変化]]による興奮性の調節を担う(図2、セロトニンの項目参照)。セロトニン神経自身にもセロトニン受容体が発現しており([[自己受容体]])、主にセロトニン[[セロトニン#5-HT1.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>1A</sub>受容体]]による抑制性の調節を受ける。神経細胞間の速い信号伝達は通常シナプスと呼ばれる神経細胞同士が近接した特殊な構造で行われるが、大脳皮質や海馬に投射するセロトニン神経線維の[[バリコシティ]](小胞を含む膨らみで伝達物質放出部位と考えられている構造)はその大多数が明確なシナプス構造を形成していない<ref name="ref1" />。縫線核内にセロトニン神経線維の側枝と考えられる軸索の終末や、セロトニン神経の樹状突起にシナプス小胞様の構造が存在するが、このような縫線核内の[[軸索終末]]などの中にも明確なシナプス構造を形成しないものがある。また、5-HT<sub>1A</sub>受容体や[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>2A</sub>]]受容体がシナプス外、又はバリコシティと離れた部位に発現していることも報告されている。従って、セロトニン作動性の神経情報伝達は通常のシナプス伝達とは異なり、セロトニンが比較的離れた場所にある受容体まで拡散して作用する[[拡散性伝達]](volume transmission)が主と考えられる<ref name="ref1" />。 | |||
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== 中枢機能 == | == 中枢機能 == | ||
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セロトニン神経の障害やセロトニン含量の低下を生じさせた遺伝子改変マウスでは、多くの場合恐怖条件付けが亢進している<ref name="ref10" />。5-HT<sub>1A</sub>受容体欠損マウスでは海馬依存性の空間学習課題などに障害が見られるが<ref name="ref11"><pubmed>19086256</pubmed></ref>、5-HT<sub>1A</sub>アゴニストを海馬に投与しても[[空間学習]]の遂行が悪くなる<ref><pubmed>9142756</pubmed></ref>。一方で、縫線核に5-HT<sub>1A</sub>アゴニストを投与すると作業記憶課題の遂行が良くなることなどから、5-HT<sub>1A</sub>の自己受容体とそれ以外とでは認知機能に対して逆の作用を持ち、自己受容体の活性化によるセロトニン神経の活動低下が記憶課題の遂行を改善することが示唆されている<ref name="ref11" />。[[セロトニン#5-HT4.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>4</sub>]]受容体のアゴニスト投与によって複数の[[記憶]]課題において改善が見られ、アンタゴニスト投与によって受動的回避学習の成績が低下するため、この受容体の活性化は概ね記憶課題を改善する方向に働く。逆に5-HT<sub>6</sub>受容体の場合はアンタゴニストの投与によって、空間学習課題などの遂行が改善する<ref name="ref11" />。 | セロトニン神経の障害やセロトニン含量の低下を生じさせた遺伝子改変マウスでは、多くの場合恐怖条件付けが亢進している<ref name="ref10" />。5-HT<sub>1A</sub>受容体欠損マウスでは海馬依存性の空間学習課題などに障害が見られるが<ref name="ref11"><pubmed>19086256</pubmed></ref>、5-HT<sub>1A</sub>アゴニストを海馬に投与しても[[空間学習]]の遂行が悪くなる<ref><pubmed>9142756</pubmed></ref>。一方で、縫線核に5-HT<sub>1A</sub>アゴニストを投与すると作業記憶課題の遂行が良くなることなどから、5-HT<sub>1A</sub>の自己受容体とそれ以外とでは認知機能に対して逆の作用を持ち、自己受容体の活性化によるセロトニン神経の活動低下が記憶課題の遂行を改善することが示唆されている<ref name="ref11" />。[[セロトニン#5-HT4.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5-HT<sub>4</sub>]]受容体のアゴニスト投与によって複数の[[記憶]]課題において改善が見られ、アンタゴニスト投与によって受動的回避学習の成績が低下するため、この受容体の活性化は概ね記憶課題を改善する方向に働く。逆に5-HT<sub>6</sub>受容体の場合はアンタゴニストの投与によって、空間学習課題などの遂行が改善する<ref name="ref11" />。 | ||
== 薬物 == | == 薬物 == |