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シナプス顆粒は、神経細胞の軸索終末であるシナプス前終末に蓄積している分泌小胞の総称である。シナプス顆粒は、神経細胞の興奮に応じてシナプス前膜と膜融合を起こし、内容物(神経伝達物質)をシナプス間隙に放出(エキソサイトーシス)することによって、シナプス伝達を行う。シナプス前終末にはこれらの分泌小胞が多数密集して存在しており、電子顕微鏡像では顆粒状に観察される。海馬や大脳皮質に存在する1 um程度のシナプス前終末では〜200個のシナプス顆粒が含まれているが、聴覚中枢に存在するcalyx of Heldなどの巨大なシナプス前終末(10 umほど)には1200〜2000個ものシナプス顆粒が含まれていると考えられている <ref><pubmed> 18817990 </pubmed></ref>。  
シナプス顆粒は、神経細胞の軸索終末であるシナプス前終末に蓄積している分泌小胞の総称である。シナプス顆粒は、神経細胞の興奮に応じてシナプス前膜と膜融合を起こし、内容物(神経伝達物質)をシナプス間隙に放出(エキソサイトーシス)することによって、シナプス伝達を行う。シナプス前終末にはこれらの分泌小胞が多数密集して存在しており、電子顕微鏡像では顆粒状に観察される。海馬や大脳皮質に存在する1 um程度のシナプス前終末では〜200個のシナプス顆粒が含まれているが、聴覚中枢に存在するcalyx of Heldなどの巨大なシナプス前終末(10 umほど)には1200〜2000個ものシナプス顆粒が含まれていると考えられている <ref><pubmed> 18817990 </pubmed></ref>。  


==形態・電子顕微鏡像による分類==<br>シナプス顆粒は直径〜50 nmの小さなシナプス小胞 (synaptic vesicle; SV)と〜300 nmの大きな 有芯小胞 (dense core vesicle; DCV)に大別される &lt;ref&gt;&lt;pubmed&gt;&nbsp;19249357 &lt;/pubmed&gt;&lt;/ref&gt;。電子顕微鏡像でシナプス小胞が透明な小胞に見えるのに対し、有芯小胞は電子密度が高く、黒く見えることから有芯と呼ばれる(右図)。有芯小胞は、〜300 nmの特に大きな小胞 (large dense core vesicle; LDCV)と小さい小胞 (〜80 nm)が区別される場合もある。この小さい有芯小胞については後述する。多くのシナプス前終末にはシナプス小胞とLDCVの両方が含まれるが、シナプス小胞はシナプス前膜付近に多数存在するのに対し、LDCVはシナプス前膜から離れた場所に少数存在する。LDCVは神経ペプチド・ドーパミンなどのアミン類や神経栄養因子を神経伝達物質として内包しているために、小胞内の電子密度が高くなっていると考えられている。一方、シナプス小胞はグルタミン酸、GABA、グリシンなどのアミノ酸やアセチルコリンなどの「古典的な」神経伝達物質を内包している。
==形態・電子顕微鏡像による分類==


==シナプス伝達におけるシナプス小胞と有芯小胞の相違点==<br>シナプス小胞とLDCVは中に含まれる伝達物質の違いに加え、様々な性質が異なる。シナプス小胞が内包する神経伝達物質のグルタミン酸などは、主にシナプス後膜側のイオンチャネルに作用するため、直接的にシナプス後膜側に電気的なシナプス応答を引き起こす。一方、LDCVに含まれる伝達物質はシナプス後膜側のGタンパク共役型受容体や神経栄養因子受容体に作用し、シナプス伝達の修飾を行う。<br>シナプス小胞は、シナプス前部の脱分極によって開いた電位依存性カルシウムチャネルから流入したCa2+イオンに応じてSNARE複合体の構造変化が起こり、シナプス前膜と膜融合を起こし、エキソサイトーシスされる。LDCVの中枢神経系での伝達物質放出機構は明らかではないが、クロム親和性細胞を用いた研究から、シナプス小胞同様、SNARE複合体による膜融合で伝達物質放出を行っていると考えられている &lt;ref&gt;&lt;pubmed&gt;&nbsp;12062043 &lt;/pubmed&gt;&lt;/ref&gt;。しかし、Ca2+イオンに対する応答性に違いがあることが知られている。伝達物質放出のためにシナプス小胞が局所での高濃度のCa2+イオン濃度上昇を必要とするのに対し、LDCVは持続的な低濃度のCa2+イオン濃度上昇を必要とする(Torrealba and Carrasco, 2004)。SNARE複合体に含まれるシナプトブレビンやCa2+センサーであるシナプトタグミンなどにはアイソフォームがあり、シナプス小胞とLDCVに存在するこれらのアイソフォームが異なる可能性が示唆されている&lt;ref&gt;&lt;pubmed&gt;&nbsp;22398727 &lt;/pubmed&gt;&lt;/ref&gt; &lt;ref&gt;&lt;pubmed&gt;&nbsp;21551071 &lt;/pubmed&gt;&lt;/ref&gt;。またCa2+イオン感受性タンパク質であるCAPSはLDCVにのみ存在する。シナプス小胞とLDCVはこれらのタンパク質の違いによってCa2+イオンの感受性やエキソサイトーシス・エンドサイトーシスの速度に相違が生まれるのかもしれないが、今後の研究によるさらなる解明が期待される。
シナプス顆粒は直径〜50 nmの小さなシナプス小胞 (synaptic vesicle; SV)と〜300 nmの大きな 有芯小胞 (dense core vesicle; DCV)に大別される <ref><pubmed>19249357 </pubmed></ref>。電子顕微鏡像でシナプス小胞が透明な小胞に見えるのに対し、有芯小胞は電子密度が高く、黒く見えることから有芯と呼ばれる(右図)。有芯小胞は、〜300 nmの特に大きな小胞 (large dense core vesicle; LDCV)と小さい小胞 (〜80 nm)が区別される場合もある。この小さい有芯小胞については後述する。多くのシナプス前終末にはシナプス小胞とLDCVの両方が含まれるが、シナプス小胞はシナプス前膜付近に多数存在するのに対し、LDCVはシナプス前膜から離れた場所に少数存在する。LDCVは神経ペプチド・ドーパミンなどのアミン類や神経栄養因子を神経伝達物質として内包しているために、小胞内の電子密度が高くなっていると考えられている。一方、シナプス小胞はグルタミン酸、GABA、グリシンなどのアミノ酸やアセチルコリンなどの「古典的な」神経伝達物質を内包している。


このようなシナプス活性帯(active zone)からの距離的な差異や、活性化させる受容体の違い、またシナプス前膜と膜融合を起こすのに必要なカルシウムイオンの応答性の相違などによって、LDCV内の伝達物質はシナプス小胞内の神経伝達物質よりも遅い速度でシナプス後膜側に作用することとなる。さらに、シナプス小胞は伝達物質の放出後、エンドサイトーシスによって再回収(リサイクリング)されシナプス前終末で伝達物質の再充填が行われるのに対し、LDCVは一度きりの放出で、伝達物質が充填された新たなLDCVはトランスゴルジネットワークから生成される、というように生成過程においても違いがある。シナプス前終末にシナプス小胞とLDCVの両方が存在するシナプスが脳の各部位で見つかっている。そのようなシナプスではひとつのシナプス前終末に神経伝達物質を2種類以上有することになるが、この伝達物質の組み合わせは脳の部位によって異なり、これがそれぞれのシナプスにおけるシナプス伝達の多様性に寄与しているかもしれない&lt;ref&gt;&lt;pubmed&gt;&nbsp;16847638 &lt;/pubmed&gt;&lt;/ref&gt;。
==シナプス伝達におけるシナプス小胞と有芯小胞の相違点==


最後に〜80 nmの小さい有芯小胞についてだが、海馬では成熟途中のシナプスに多く見られ、成熟したシナプス前終末にはまれにしか見られない &lt;ref&gt;&lt;pubmed&gt;&nbsp;16797135 &lt;/pubmed&gt;&lt;/ref&gt;。この小さな有芯小胞はbassoonやpiccoloなど、シナプス小胞に存在するタンパク質抗体によって免疫陽性であるため、シナプス活性帯へのタンパク質輸送に関わる輸送小胞ではないかと示唆されている&lt;ref&gt;&lt;pubmed&gt;&nbsp;11182086 &lt;/pubmed&gt;&lt;/ref&gt;。また、交感神経のシナプスにおいては、ノルエピネフリンやセロトニンを含む60〜80 nmの有芯小胞が見られ、これをLDCVと区別してSDCV (small dense core vesicle)と呼ばれる場合もある。<br>==参考文献==
シナプス小胞とLDCVは中に含まれる伝達物質の違いに加え、様々な性質が異なる。シナプス小胞が内包する神経伝達物質のグルタミン酸などは、主にシナプス後膜側のイオンチャネルに作用するため、直接的にシナプス後膜側に電気的なシナプス応答を引き起こす。一方、LDCVに含まれる伝達物質はシナプス後膜側のGタンパク共役型受容体や神経栄養因子受容体に作用し、シナプス伝達の修飾を行う。<br>シナプス小胞は、シナプス前部の脱分極によって開いた電位依存性カルシウムチャネルから流入したCa2+イオンに応じてSNARE複合体の構造変化が起こり、シナプス前膜と膜融合を起こし、エキソサイトーシスされる。LDCVの中枢神経系での伝達物質放出機構は明らかではないが、クロム親和性細胞を用いた研究から、シナプス小胞同様、SNARE複合体による膜融合で伝達物質放出を行っていると考えられている <ref><pubmed>12062043 </pubmed></ref>。しかし、Ca2+イオンに対する応答性に違いがあることが知られている。伝達物質放出のためにシナプス小胞が局所での高濃度のCa2+イオン濃度上昇を必要とするのに対し、LDCVは持続的な低濃度のCa2+イオン濃度上昇を必要とする(Torrealba and Carrasco, 2004)。SNARE複合体に含まれるシナプトブレビンやCa2+センサーであるシナプトタグミンなどにはアイソフォームがあり、シナプス小胞とLDCVに存在するこれらのアイソフォームが異なる可能性が示唆されている<ref><pubmed>22398727 </pubmed></ref> <ref><pubmed>21551071 </pubmed></ref>。またCa2+イオン感受性タンパク質であるCAPSはLDCVにのみ存在する。シナプス小胞とLDCVはこれらのタンパク質の違いによってCa2+イオンの感受性やエキソサイトーシス・エンドサイトーシスの速度に相違が生まれるのかもしれないが、今後の研究によるさらなる解明が期待される。


&lt;references /&gt;
このようなシナプス活性帯(active zone)からの距離的な差異や、活性化させる受容体の違い、またシナプス前膜と膜融合を起こすのに必要なカルシウムイオンの応答性の相違などによって、LDCV内の伝達物質はシナプス小胞内の神経伝達物質よりも遅い速度でシナプス後膜側に作用することとなる。さらに、シナプス小胞は伝達物質の放出後、エンドサイトーシスによって再回収(リサイクリング)されシナプス前終末で伝達物質の再充填が行われるのに対し、LDCVは一度きりの放出で、伝達物質が充填された新たなLDCVはトランスゴルジネットワークから生成される、というように生成過程においても違いがある。シナプス前終末にシナプス小胞とLDCVの両方が存在するシナプスが脳の各部位で見つかっている。そのようなシナプスではひとつのシナプス前終末に神経伝達物質を2種類以上有することになるが、この伝達物質の組み合わせは脳の部位によって異なり、これがそれぞれのシナプスにおけるシナプス伝達の多様性に寄与しているかもしれない<ref><pubmed>16847638 </pubmed></ref>。
 
最後に〜80 nmの小さい有芯小胞についてだが、海馬では成熟途中のシナプスに多く見られ、成熟したシナプス前終末にはまれにしか見られない <ref><pubmed>16797135 </pubmed></ref>。この小さな有芯小胞はbassoonやpiccoloなど、シナプス小胞に存在するタンパク質抗体によって免疫陽性であるため、シナプス活性帯へのタンパク質輸送に関わる輸送小胞ではないかと示唆されている<ref><pubmed>11182086 </pubmed></ref>。また、交感神経のシナプスにおいては、ノルエピネフリンやセロトニンを含む60〜80 nmの有芯小胞が見られ、これをLDCVと区別してSDCV (small dense core vesicle)と呼ばれる場合もある。
 
==参考文献==
 
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