「グルタミン酸」の版間の差分

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==発見の歴史==
==発見の歴史==
 グルタミン酸は、Karl Heinrich Leopold Ritthausenにより1866年、小麦タンパク質であるグルテンの酸加水分解物の中から発見された。一方、池田菊苗は、甘味、塩味、苦味、酸味とは別の味があるのに気づきうまみと名付け、昆布からその成分を抽出してグルタミン酸である事を見出した。
 グルタミン酸は、[[wikipedia:de:Heinrich Ritthausen|Karl Heinrich Leopold Ritthausen]]により1866年、[[wikipedia:ja:小麦|小麦]]タンパク質である[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]の酸[[wikipedia:ja:加水分解|加水分解]]物の中から発見された<ref>'''Ritthausen, H.'''<br>Über die Glutaminsäure<br>''J. prakt. Chem.'' 99, 454-62 (1866)</ref><ref>'''Vickery HB, Schmidt CLA'''<br>The history of the discovery of the amino acids.<br>''Chem Rev'' 1931;9:169–318</ref>。一方、[[wikipedia:ja:池田菊苗|池田菊苗]]は、[[甘味]]、[[塩味]]、[[苦味]]、[[酸味]]とは別の味があるのに気づき[[うまみ]]と名付け、[[wikipedia:ja:昆布|昆布]]からその成分を抽出してグルタミン酸である事を見出した<ref>'''池田菊苗'''<br>新調味料に就いて<br>''東京化学会誌'', 30, 820-836 (1909) [https://www.jstage.jst.go.jp/article/nikkashi1880/30/8/30_8_820/_pdf PDF]</ref>。


 神経組織への影響に初めて気づいたのは林髞であった。彼は、ネコの大脳皮質にグルタミン酸を投与するとネコが興奮する事に気づいた。一方、LucusとNewhouseらはグルタミン酸塩の皮下注射が網膜に損傷を起こす事に気づいた。この神経興奮作用と神経変性作用は現在では神経伝達物質としての機能に密接に関連した現象である事が判っているが、当時はその関係は思いもよらなかった。中枢神経組織内にあまりに多く含まれていたのが一つの原因である。そのため、早期に神経伝達物質として考えられていたカテコールアミン、アセチルコリンなどとと比較して神経伝達物質であると確立されるのは遅れた。
 神経組織への影響に初めて気づいたのは[[wikipedia:ja:林髞|林髞]]であった。彼は、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]の[[大脳皮質]]にグルタミン酸を投与するとネコが興奮する事に気づいた<ref><pubmed> 13034377 </pubmed> [https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphysiol1950/3/0/3_0_46/_pdf PDF]</ref>。一方、LucusとNewhouseらはグルタミン酸塩の皮下注射が[[網膜]]に損傷を起こす事に気づいた。この神経興奮作用と神経変性作用は現在では[[神経伝達物質]]としての機能に密接に関連した現象である事が判っているが、当時はその関係は思いもよらなかった。[[中枢神経]]組織内にあまりに多く含まれていたのが一つの原因である。そのため、早期に神経伝達物質として考えられていた[[カテコールアミン]]、[[アセチルコリン]]などとと比較して神経伝達物質であると確立されるのは遅れた。


 ある物質が神経伝達物質として機能する事の証明には、まずその物質が組織に存在し合成系がある事、その物質を作用させる事でシナプス伝達と同様の現象が起こる事、その物質の拮抗薬を作用させる事でシナプス伝達も抑制される事、刺激に応じて放出される事、不活化過程がある事などがあげられる(篠崎)。したがって、拮抗薬の存在が必須であるが、その開発は遅れていた。
 ある物質が神経伝達物質として機能する事の証明には、まずその物質が組織に存在し合成系がある事、その物質を作用させる事で[[シナプス伝達]]と同様の現象が起こる事、その物質の[[拮抗薬]]を作用させる事でシナプス伝達も抑制される事、刺激に応じて放出される事、不活化過程がある事などがあげられる(篠崎)。したがって、拮抗薬の存在が必須であるが、その開発は遅れていた。


 J. C. Watkinsらは系統的に直鎖状のグルタミン酸分子の変異体を作ってグルタミン酸と作用を比較した。その結果、<small>D</small>-アスパラギン酸のアミノ基にさらにメチル基がついたN-メチル-<small>D</small>-アスパラギン酸(NMDA)が、グルタミン酸と比較して数十倍に上る活性を持つ事を見いだした。さらに、炭素数を一つ増やしたD体の&omega;位(この場合は&alpha;位の炭素より最も遠い炭素を指す)のカルボン酸をホスホン酸とした<small>D</small>-(-)-2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸(<small>D</small>-(-)-2-amino-5-phosphonopentanoic acid, AP5)がその働きを特異的に抑える事に気づいた。この事から、グルタミン酸受容体にはNMDA型ならびに非NMDA型がある事を提唱した。
 [[wikipedia:J. C. Watkins|J. C. Watkins]]らは系統的に直鎖状のグルタミン酸分子の変異体を作ってグルタミン酸と作用を比較した。その結果、[[アスパラギン酸<small>D</small>-アスパラギン酸]]の[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]アミノ基にさらに[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]メチル基がついた[[N-メチル-<small>D</small>-アスパラギン酸]](NMDA)が、グルタミン酸と比較して数十倍に上る活性を持つ事を見いだした。さらに、炭素数を一つ増やしたD体の&omega;位(この場合は&alpha;位の炭素より最も遠い炭素を指す)の[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]カルボン酸を[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]ホスホン酸とした<small>D</small>-(-)-2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸(<small>D</small>-(-)-2-amino-5-phosphonopentanoic acid, AP5)がその働きを特異的に抑える事に気づいた。この事から、グルタミン酸受容体にはNMDA型ならびに非NMDA型がある事を提唱した。


 竹本常松らは駆虫薬である使君子(''Quisqualis indica'')の種子ならびに海人草(''Digenea simplex'')の有効成分がそれぞれ、キスカル酸、カイニン酸であると同定した。篠崎温彦はこれらの物質が、グルタミン酸と類似している事に気づき、非NMDA型グルタミン酸受容体を活性化する事に気づいた。しかもこの両者は別々な受容体を活性化した。これによりイオンチャネル型受容体はNMDA型、キスカル酸型、カイニン酸の3つに分けられる事が示された。
 [[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]竹本常松らは駆虫薬である[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]使君子([[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]''Quisqualis indica'')の種子ならびに[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]海人草([[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]''Digenea simplex'')の有効成分がそれぞれ、[[キスカル酸]]、[[カイニン酸]]であると同定した。[[wikipedia:ja:グルテン|グルテン]]篠崎温彦はこれらの物質が、グルタミン酸と類似している事に気づき、非NMDA型グルタミン酸受容体を活性化する事に気づいた。しかもこの両者は別々な[[受容体]]を活性化した。これにより[[イオンチャネル型グルタミン酸受容体]]はNMDA型、キスカル酸型、カイニン酸の3つに分けられる事が示された。


 また神経細胞内に取り込み、さらにシナプス顆粒内に貯蔵するためのトランスポーターも分子として同定され、グルタミン酸の中枢神経系における神経伝達物質としての機能は確固たるものとなった。
 また神経細胞内に取り込み、さらにシナプス顆粒内に貯蔵するためのトランスポーターも分子として同定され、グルタミン酸の中枢神経系における神経伝達物質としての機能は確固たるものとなった。


 グルタミン酸様の構造と機能を持つ小分子をまとめて興奮性アミノ酸という。神経組織に内在性の物(アスパラギン酸)とそうでない物(カイニン酸、キスカル酸など)共にそう呼称される。
 グルタミン酸様の構造と機能を持つ小分子をまとめて[[興奮性アミノ酸]]という。神経組織に内在性の物(アスパラギン酸)とそうでない物(カイニン酸、キスカル酸など)共にそう呼称される。