「前後軸」の版間の差分

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 原始線条や結節には[[線維芽細胞増殖因子]]([[fibroblast growth factor 8]]: [[FGF8]]) が発現している。ニワトリ初期神経板前方領域の組織片にFGF8を添加し、しばらく培養すると、FGF8の濃度依存的に中脳や[[菱脳]]前方領域の性質が誘導される<ref name=ref6><pubmed>12006981</pubmed></ref>。このような脳の領域は、前後軸に沿って発現する[[転写制御因子]]の発現を指標にすることで区別可能である。例えば、前脳では[[Pax6]]、中脳では[[Engrailed 1]]/[[Engrailed 2|2]] ([[En1]]/[[En2|2]])、菱脳では[[Krox20]]、菱脳・脊髄では各種[[Hox遺伝子|ホックス]](Hox) 遺伝子]]が発現する(図1)。このような一連の実験から、初期神経板には前後軸に沿ってFGF8の濃度勾配が形成され、FGF8は神経板の後方化シグナル分子として機能することが明らかとなった。
 原始線条や結節には[[線維芽細胞増殖因子]]([[fibroblast growth factor 8]]: [[FGF8]]) が発現している。ニワトリ初期神経板前方領域の組織片にFGF8を添加し、しばらく培養すると、FGF8の濃度依存的に中脳や[[菱脳]]前方領域の性質が誘導される<ref name=ref6><pubmed>12006981</pubmed></ref>。このような脳の領域は、前後軸に沿って発現する[[転写制御因子]]の発現を指標にすることで区別可能である。例えば、前脳では[[Pax6]]、中脳では[[Engrailed 1]]/[[Engrailed 2|2]] ([[En1]]/[[En2|2]])、菱脳では[[Krox20]]、菱脳・脊髄では各種[[Hox遺伝子|ホックス]](Hox) 遺伝子]]が発現する(図1)。このような一連の実験から、初期神経板には前後軸に沿ってFGF8の濃度勾配が形成され、FGF8は神経板の後方化シグナル分子として機能することが明らかとなった。


 また、[[wikipedia:ja:|後方沿軸中胚葉]](paraxial mesoderm)で合成される[[レチノイン酸]]([[retinoic acid]]: [[RA]])は、初期神経板に菱脳後方および脊髄の性質を誘導する後方化シグナル分子である<ref name=ref6 />。また、レチノイン酸は、胚後方部からのFGF8と拮抗することで、ニューロン分化を促進し、FGF8は後方部の未分化領域(stem cell zone)の維持においても必要である<ref name=ref7><pubmed>15273988</pubmed></ref>。初期神経板に近接する沿軸中胚葉から分泌されるWntは、初期神経板の性質を濃度依存的に中脳・菱脳・脊髄の全ての性質に変換することができる後方化シグナル分子である(図1)<ref name=ref6 />。
 また、[[wikipedia:ja:後方沿軸中胚葉|後方沿軸中胚葉]](paraxial mesoderm)で合成される[[レチノイン酸]]([[retinoic acid]]: [[RA]])は、初期神経板に菱脳後方および脊髄の性質を誘導する後方化シグナル分子である<ref name=ref6 />。また、レチノイン酸は、胚後方部からのFGF8と拮抗することで、ニューロン分化を促進し、FGF8は後方部の未分化領域(stem cell zone)の維持においても必要である<ref name=ref7><pubmed>15273988</pubmed></ref>。初期神経板に近接する沿軸中胚葉から分泌されるWntは、初期神経板の性質を濃度依存的に中脳・菱脳・脊髄の全ての性質に変換することができる後方化シグナル分子である(図1)<ref name=ref6 />。


 Hox遺伝子群は[[ショウジョウバエ]]で見いだされた一連の体軸形成制御遺伝子群(ホメオティック遺伝子)の相同遺伝子であり、頭尾方向の体軸を形成する根幹的な遺伝子である<ref name=ref8><pubmed>19651307</pubmed></ref>。これらの遺伝子は菱脳・脊髄原基においても、前後軸に沿った発現境界を示し、前後軸に沿ったパターン化に関与している(図1) <ref name=ref9><pubmed>16895440</pubmed></ref>。FGF8は、[[Cdx]]の発現誘導を介して、Hox遺伝子の発現を制御している<ref name=ref9 />。また、レチノイン酸は前後軸に沿ったHox遺伝子の発現誘導やそれらの発現境界の確立に関与している<ref name=ref9 />。WntはFGFやレチノイン酸との協調的作用によりHox遺伝子の発現制御に関わる<ref name=ref9 />。
 Hox遺伝子群は[[ショウジョウバエ]]で見いだされた一連の体軸形成制御遺伝子群(ホメオティック遺伝子)の相同遺伝子であり、頭尾方向の体軸を形成する根幹的な遺伝子である<ref name=ref8><pubmed>19651307</pubmed></ref>。これらの遺伝子は菱脳・脊髄原基においても、前後軸に沿った発現境界を示し、前後軸に沿ったパターン化に関与している(図1) <ref name=ref9><pubmed>16895440</pubmed></ref>。FGF8は、[[Cdx]]の発現誘導を介して、Hox遺伝子の発現を制御している<ref name=ref9 />。また、レチノイン酸は前後軸に沿ったHox遺伝子の発現誘導やそれらの発現境界の確立に関与している<ref name=ref9 />。WntはFGFやレチノイン酸との協調的作用によりHox遺伝子の発現制御に関わる<ref name=ref9 />。