「物体探索」の版間の差分

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=== 物体探索行動の定義  ===
=== 物体探索行動の定義  ===
物体探索についての操作的定義は研究者によって多少の違いがある。多くの場合、ラットの吻部が物体に接触している状態<ref><pubmed>2803548</pubmed></ref>、および物体から1cm以内<ref><pubmed>15839802</pubmed></ref>または2cm以内<ref name=Enna><pubmed>3228475</pubmed></ref>にある状態と定義される。物体の上に登る行動や、物体の周囲を回る行動は物体探索とみなさない。ラットが物体にどのように触っているかを分析することは必要ないが、一貫して適応できる簡便な操作的定義をしておくことが重要である<ref name = Whi>'''Ian Q. Whishaw. Bryan Kolb.'''<br>The Behavior of the Laboratory Rat: A Handbook with Tests.''<br>''Oxford University Press, USA'':2004</ref>。
物体探索についての操作的定義は研究者によって多少の違いがある。多くの場合、動物の吻部が物体に接触している状態<ref><pubmed>2803548</pubmed></ref>、および物体から1cm以内<ref><pubmed>15839802</pubmed></ref>または2cm以内<ref name=Enna><pubmed>3228475</pubmed></ref>にある状態と定義される。物体の上に登る行動や、物体の周囲を回る行動は物体探索とみなさない。動物が物体にどのように触っているかを分析することは必要ないが、一貫して適応できる簡便な操作的定義をしておくことが重要である<ref name = Whi>'''Ian Q. Whishaw. Bryan Kolb.'''<br>The Behavior of the Laboratory Rat: A Handbook with Tests.''<br>''Oxford University Press, USA,1 edition'':2004</ref>。


=== 物体探索行動に影響する要因  ===
=== 物体探索行動に影響する要因  ===
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 探索行動の変化は物体の配置の変化の仕方によって異なる<ref name = Thi1987/>。例えば、4つの物体を配置して馴致した後、第3セッションで1つの物体の配置を変化させると、配置が変わった物体に対して探索時間が増加した。4つの物体の配置を4角形から3角形へと幾何学的に変化させると、配置が変わった物体と変わっていない物体いずれに対しても探索量が増加した。興味深いことに、幾何学的配置を保ったまま、物体間の距離のみが変わった場合には探索時間の増加はみられなかった。また、1つの物体を取り除くと、残った物体への探索量が増加した。
 探索行動の変化は物体の配置の変化の仕方によって異なる<ref name = Thi1987/>。例えば、4つの物体を配置して馴致した後、第3セッションで1つの物体の配置を変化させると、配置が変わった物体に対して探索時間が増加した。4つの物体の配置を4角形から3角形へと幾何学的に変化させると、配置が変わった物体と変わっていない物体いずれに対しても探索量が増加した。興味深いことに、幾何学的配置を保ったまま、物体間の距離のみが変わった場合には探索時間の増加はみられなかった。また、1つの物体を取り除くと、残った物体への探索量が増加した。


 物体の位置関係の認知と物体そのものの認知(2.2.1)やこれらに関わる神経基盤は、馴致、空間認識テスト、物体認識テストを含む一連のテストによって同時に検討することができる。Save, Poucet, Foreman, & Buhot (1992)<ref><pubmed>1616611</pubmed></ref> は、円形の実験アリーナに5つの異なる物体を配置し、6分間これをラットに探索させた。全ての物体に対して馴染みを形成するため、物体馴致を3セッション繰り返した後、空間認識テストにおいて2個の物体を移動させた。統制群と前部頭頂皮質損傷群のラットは配置の変化した物体に対して変化していない物体よりも多く探索行動を示したが、海馬損傷群と後部頭頂皮質損傷群のラットではこのような傾向が見られず、物体の位置関係の認知に失敗した。次の物体認識テストでは、一つの物体を新しい物体に置き換えたところ、全ての群のラットが新しい物体に対して探索行動が増加した。これらの結果は、海馬や後部頭頂皮質が物体の位置関係の認知に関与するが、物体自体の認知には関与しない事を示している。位置関係の認知に選択的な障害は、げっ歯類デグーの海馬破壊<ref><pubmed>21291914</pubmed></ref>やラットNMDA受容体の薬理学的阻害(関口, 1997)によっても生じることが報告されている。
 物体の位置関係の認知と物体そのものの認知(2.2.1)やこれらに関わる神経基盤は、馴致、空間認識テスト、物体認識テストを含む一連のテストセッションによって同時に検討することができる。Save, Poucet, Foreman, & Buhot (1992)<ref><pubmed>1616611</pubmed></ref> は、円形の実験アリーナに5つの異なる物体を配置し、6分間これをラットに探索させた。全ての物体に対して馴染みを形成するため、物体馴致を3セッション繰り返した後、空間認識テストにおいて2個の物体を移動させた。統制群と前部頭頂皮質損傷群のラットは配置の変化した物体に対して変化していない物体よりも多く探索行動を示したが、海馬損傷群と後部頭頂皮質損傷群のラットではこのような傾向が見られず、物体の位置関係の認知に失敗した。次の物体認識テストでは、一つの物体を新しい物体に置き換えたところ、全ての群のラットが新しい物体に対して探索行動が増加した。これらの結果は、海馬や後部頭頂皮質が物体の位置関係の認知に関与するが、物体自体の認知には関与しない事を示している。位置関係の認知に選択的な障害は、げっ歯類デグーの海馬破壊<ref><pubmed>21291914</pubmed></ref>やラットNMDA受容体の薬理学的阻害(関口, 1997)によっても生じることが報告されている。


==== 環境の変化  ====
==== 環境の変化  ====
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