「物体探索」の版間の差分

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==== 位置の変化====  
==== 位置の変化====  
 複数の物体の位置的関係性の変化が、物体探索行動に影響することが示されている<ref name = Thi1987>'''Thinus-Blanc, C., L. Bouzouba, K. Chaix, N. Chapuis, M. Durup, & B. Poucet'''<br>A study of spatial parameters encoded during exploration in hamsters''<br>''Journal of Experimental Psychology: Animal Behavior Processes'':1987,13,418-427</ref>。使用された課題は、装置馴致および連続する3セッションからなる。1セッションは15分間、セッション間間隔は10時間程度であった。最初の2セッションは、物体馴致セッションであり、同じ配置の物体を繰り返し探索させる。第3セッションにおいて、新しい配置で同じ物体の探索を行わせる。もし新しい位置に移動した物体への探索行動が増加すれば、物体の位置関係についての認知的処理が行われたとみなすことができる。
 複数の物体の位置的関係性の変化が、物体探索行動に影響することが示されている<ref name=Dix><pubmed>10512585</pubmed></ref>。使用された課題は、装置馴致および連続する3セッションからなる。1セッションは15分間、セッション間間隔は10時間程度であった。最初の2セッションは、物体馴致セッションであり、同じ配置の物体を繰り返し探索させる。第3セッションにおいて、新しい配置で同じ物体の探索を行わせる。もし新しい位置に移動した物体への探索行動が増加すれば、物体の位置関係についての認知的処理が行われたとみなすことができる。


 探索行動の変化は物体の配置の変化の仕方によって異なる<ref name = Thi1987/>。例えば、4つの物体を配置して馴致した後、第3セッションで1つの物体の配置を変化させると、配置が変わった物体に対して探索時間が増加した。4つの物体の配置を4角形から3角形へと幾何学的に変化させると、配置が変わった物体と変わっていない物体いずれに対しても探索量が増加した。興味深いことに、幾何学的配置を保ったまま、物体間の距離のみが変わった場合には探索時間の増加はみられなかった。また、1つの物体を取り除くと、残った物体への探索量が増加した。
 探索行動の変化は物体の配置の変化の仕方によって異なる<ref name = Thi1987>'''Thinus-Blanc, C., L. Bouzouba, K. Chaix, N. Chapuis, M. Durup, & B. Poucet'''<br>A study of spatial parameters encoded during exploration in hamsters''<br>''Journal of Experimental Psychology: Animal Behavior Processes'':1987,13,418-427</ref>。例えば、4つの物体を配置して馴致した後、第3セッションで1つの物体の配置を変化させると、配置が変わった物体に対して探索時間が増加した。4つの物体の配置を4角形から3角形へと幾何学的に変化させると、配置が変わった物体と変わっていない物体いずれに対しても探索量が増加した。興味深いことに、幾何学的配置を保ったまま、物体間の距離のみが変わった場合には探索時間の増加はみられなかった。また、1つの物体を取り除くと、残った物体への探索量が増加した。


 物体の位置関係の認知と物体そのものの認知(2.2.1)やこれらに関わる神経基盤は、馴致、空間認識テスト、物体認識テストを含む一連のテストセッションによって同時に検討することができる。Save, Poucet, Foreman, & Buhot (1992)<ref><pubmed>1616611</pubmed></ref> は、円形の実験アリーナに5つの異なる物体を配置し、6分間これをラットに探索させた。全ての物体に対して馴染みを形成するため、物体馴致を3セッション繰り返した後、空間認識テストにおいて2個の物体を移動させた。統制群と前部頭頂皮質損傷群のラットは配置の変化した物体に対して変化していない物体よりも多く探索行動を示したが、海馬損傷群と後部頭頂皮質損傷群のラットではこのような傾向が見られず、物体の位置関係の認知に失敗した。次の物体認識テストでは、一つの物体を新しい物体に置き換えたところ、全ての群のラットが新しい物体に対して探索行動が増加した。これらの結果は、海馬や後部頭頂皮質が物体の位置関係の認知に関与するが、物体自体の認知には関与しない事を示している。位置関係の認知に選択的な障害は、げっ歯類デグーの海馬破壊<ref><pubmed>21291914</pubmed></ref>やラットNMDA受容体の薬理学的阻害<ref>'''関口理久子'''<br>ラットの空間探索行動に及ぼすNMDAアンタゴニスト,MK-801の効果''<br>''心理学研究'':1997,68,88-94</ref>によっても生じることが報告されている。
 物体の位置関係の認知と物体そのものの認知(2.2.1)やこれらに関わる神経基盤は、馴致、空間認識テスト、物体認識テストを含む一連のテストセッションによって同時に検討することができる。Save, Poucet, Foreman, & Buhot (1992)<ref><pubmed>1616611</pubmed></ref> は、円形の実験アリーナに5つの異なる物体を配置し、6分間これをラットに探索させた。全ての物体に対して馴染みを形成するため、物体馴致を3セッション繰り返した後、空間認識テストにおいて2個の物体を移動させた。統制群と前部頭頂皮質損傷群のラットは配置の変化した物体に対して変化していない物体よりも多く探索行動を示したが、海馬損傷群と後部頭頂皮質損傷群のラットではこのような傾向が見られず、物体の位置関係の認知に失敗した。次の物体認識テストでは、一つの物体を新しい物体に置き換えたところ、全ての群のラットが新しい物体に対して探索行動が増加した。これらの結果は、海馬や後部頭頂皮質が物体の位置関係の認知に関与するが、物体自体の認知には関与しない事を示している。位置関係の認知に選択的な障害は、げっ歯類デグーの海馬破壊<ref><pubmed>21291914</pubmed></ref>やラットNMDA受容体の薬理学的阻害<ref>'''関口理久子'''<br>ラットの空間探索行動に及ぼすNMDAアンタゴニスト,MK-801の効果''<br>''心理学研究'':1997,68,88-94</ref>によっても生じることが報告されている。


==== 環境の変化  ====
==== 環境の変化  ====
 物体の置かれた環境が変化すると、物体への探索行動が増加することが報告されている<ref><pubmed>10512585</pubmed></ref>。この課題では、最初のセッションで、相同の二つの物体(A1とA2)を環境Xで探索させ、異なる相同の2つの物体 (B1とB2)を環境Yで探索させる。それぞれの環境で、3分間のセッションを2試行ずつ実施する。5分間の遅延後のテスト段階において、ペアー物体のうちの一つの環境を入れ換える。例えば、環境Xに物体A1と物体B1を配置し探索させる。この時、物体A1は環境一致物体、物体B1は環境不一致物体である。正常なラットは、環境一致物体よりも環境不一致物体に対して長い探索行動を示したが、海馬 <ref name=mum2002><pubmed>11992015</pubmed></ref>や後嗅領皮質 <ref><pubmed>15839802</pubmed></ref>を破壊された動物は両物体への探索行動に違いがなく、環境と物体の組み合わせの変化に反応を示さないことが報告されている。  
 物体の置かれた環境が変化すると、物体への探索行動が増加することが報告されている<ref name=Dix></ref>。この課題では、最初のセッションで、相同の二つの物体(A1とA2)を環境Xで探索させ、異なる相同の2つの物体 (B1とB2)を環境Yで探索させる。それぞれの環境で、3分間のセッションを2試行ずつ実施する。5分間の遅延後のテスト段階において、ペアー物体のうちの一つの環境を入れ換える。例えば、環境Xに物体A1と物体B1を配置し探索させる。この時、物体A1は環境一致物体、物体B1は環境不一致物体である。正常なラットは、環境一致物体よりも環境不一致物体に対して長い探索行動を示したが、海馬 <ref name=mum2002><pubmed>11992015</pubmed></ref>や後嗅領皮質 <ref><pubmed>15839802</pubmed></ref>を破壊された動物は両物体への探索行動に違いがなく、環境と物体の組み合わせの変化に反応を示さないことが報告されている。  


=== 実施上の注意点  ===
=== 実施上の注意点  ===
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