「嗅皮質」の版間の差分

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嗅皮質の定義<br> 嗅覚系の情報は、鼻腔の中に匂い分子が取り込まれると、嗅上皮に存在する匂い分子受容体をもつ嗅細胞に受け取られ、さらに一次中継部位である嗅球、嗅球から軸索投射を受ける嗅皮質へと伝達されていく。嗅皮質は、嗅球の投射ニューロンである僧帽細胞、房飾細胞から直接入力がある領域として定義されている<ref>'''Nevelle K. R. & Haberly L. B.'''<br>The Synaptic Organization of the Brain (ed. Shepherd G. M.)<br>''Oxford University Press'':2004</ref>。  
嗅皮質の定義<br> 嗅覚系の情報は、鼻腔の中に匂い分子が取り込まれると、嗅上皮に存在する匂い分子受容体をもつ嗅細胞に受け取られ、さらに一次中継部位である嗅球、嗅球から軸索投射を受ける嗅皮質へと伝達されていく。嗅皮質は、嗅球の投射ニューロンである僧帽細胞、房飾細胞から直接入力がある領域として定義されている<ref>'''Nevelle K. R. & Haberly L. B.'''<br>The Synaptic Organization of the Brain (ed. Shepherd G. M.)<br>''Oxford University Press'':2004</ref>。  


亜領域の特徴<br> 解剖学的違い、投射様式の違いなどから、嗅皮質はいくつかの亜領域に分かれる(図)。最も広大な範囲を占めるのが梨状皮質(piriform cortex、PC)で、前後軸に沿って前梨状皮質と後梨状皮質に分類されている(anterior/posterior、 APC/PPC)(LOTの終止部より尾側部がPPC)。その他、前嗅核(anterior olfactory nucleus、AON)、テニアテクタ(tenia tecta、TT)、腹側線条体の一部である嗅結節(olfactory tubercle、OT)、外側嗅索核(nucleus of lateral olfactory tract、nLOT)、前部扁桃皮質核(anterior cortical amygdaloid nucleus、ACO)、後外側部扁桃皮質核(posterolateral cortical amygdaloid nucleus、PLCO)、外側内嗅野(lateral entorhinal cortex、LEC)などがある。  
亜領域の特徴<br> 解剖学的違い、投射様式の違いなどから嗅皮質はいくつかの亜領域に分かれる(図)。最も広大な範囲を占めるのが梨状皮質(piriform cortex、PC)で、前後軸に沿って前梨状皮質と後梨状皮質に分類されている(anterior/posterior、 APC/PPC)(LOTの終止部より尾側部がPPC)。その他、前嗅核(anterior olfactory nucleus、AON)、テニアテクタ(tenia tecta、TT)、腹側線条体の一部である嗅結節(olfactory tubercle、OT)、外側嗅索核(nucleus of lateral olfactory tract、nLOT)、前部扁桃皮質核(anterior cortical amygdaloid nucleus、ACO)、後外側部扁桃皮質核(posterolateral cortical amygdaloid nucleus、PLCO)、外側内嗅野(lateral entorhinal cortex、LEC)などがある。  


三層構造と細胞種<br> 梨状皮質をはじめ、嗅皮質の大部分は、海馬などと同様に三層構造からなることから、六層構造をもつ大脳の「新皮質」とは異なり「古皮質」に分類されている。<br>Ⅰ層…最も表層側にある層で、樹状突起や求心性繊維、少数の介在ニューロンなどを含む。嗅球からの軸索末端が終止するLayerⅠaと、嗅皮質内のニューロンや他の領域からのassociation fiberの入力を受けるLayerⅠbに分かれている。<br>Ⅱ層…多くのニューロンの細胞体が存在する。表層側(IIa層)にはsemilunar cell、深層側(IIb層)にはsuperficial pyramidal cellの細胞体が並ぶ。<br>Ⅲ層…表層側にはdeep pyramidal cellが存在し、より深層側になるにつれてmultipollar cellなどnonpyramidal cellの割合が多くなる。<br>Endopiriform nucleus…Ⅲ層よりも深層側にあり、時に嗅皮質のLayerⅣとも称される。Spiny multipolar neuronなどが主な細胞種である。  
三層構造と細胞種<br> 梨状皮質をはじめ嗅皮質の大部分は海馬などと同様に三層構造からなることから、六層構造をもつ大脳の「新皮質」とは異なり「古皮質」に分類されている。<br>Ⅰ層…最も表層側にある層で、樹状突起や求心性繊維、少数の介在ニューロンなどを含む。嗅球からの軸索末端が終止するLayerⅠaと、嗅皮質内のニューロンや他の領域からのassociation fiberの入力を受けるLayerⅠbに分かれている。<br>Ⅱ層…多くのニューロンの細胞体が存在する。表層側(IIa層)にはsemilunar cell、深層側(IIb層)にはsuperficial pyramidal cellの細胞体が並ぶ。<br>Ⅲ層…表層側にはdeep pyramidal cellが存在し、より深層側になるにつれてmultipollar cellなどnonpyramidal cellの割合が多くなる。<br>Endopiriform nucleus…Ⅲ層よりも深層側にあり、時に嗅皮質のLayerⅣとも称される。Spiny multipolar neuronなどが主な細胞種である。  


細胞種<br>投射ニューロン<br>新皮質や海馬などの他の皮質領域同様、嗅皮質の投射ニューロンもpyramidal neuronである。表層側(LayerⅠ)にapical dendriteを伸ばし、多くのspineを形成し、layerⅠaで嗅球から、layerⅠbでassociation fiberからのシナプス入力を受けている。深層(LayerⅢ)側には細胞体から放射状にbasal dendriteを伸ばしている。Pyramidal neuronの軸索は、細胞体深部から深層方向に向かって伸長し、多数の軸索側枝を出す。<br>介在ニューロン(Nonpyramidal cells)<br>嗅皮質の介在ニューロンの多くはGABAergicであり、抑制性である。LayerⅠ~Ⅲにかけて存在し、horizontal cell、multipollar cellなどがある。  
細胞種<br>投射ニューロン<br>新皮質や海馬などの他の皮質領域同様、嗅皮質の投射ニューロンもpyramidal neuronである。表層側(LayerⅠ)にapical dendriteを伸ばし、多くのspineを形成し、layerⅠaで嗅球から、layerⅠbでassociation fiberからのシナプス入力を受けている。深層(LayerⅢ)側には細胞体から放射状にbasal dendriteを伸ばしている。Pyramidal neuronの軸索は、細胞体深部から深層方向に向かって伸長し、多数の軸索側枝を出す。<br>介在ニューロン(Nonpyramidal cells)<br>嗅皮質の介在ニューロンの多くはGABAergicであり、抑制性である。LayerⅠ~Ⅲにかけて存在し、horizontal cell、multipollar cellなどがある。  
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感覚入力ゲーティング<br> 深い睡眠である徐波睡眠時、外界からの感覚入力は視床においてゲーティングを受け大脳皮質感覚野へと情報が運ばれなくなる。嗅覚情報は視床を介さず直接嗅皮質へと入力するため、視床におけるゲーティングを受けないが、嗅皮質において感覚入力ゲーティングを受け、高次中枢へと嗅覚情報が送られなくなる<ref><pubmed> 15848806 </pubmed></ref>。このことは、覚醒時には外界の嗅覚情報を取り込んでいるが、外界からの入力が遮断される徐波睡眠時には全く別の情報処理モードになっていることを示唆する。  
感覚入力ゲーティング<br> 深い睡眠である徐波睡眠時、外界からの感覚入力は視床においてゲーティングを受け大脳皮質感覚野へと情報が運ばれなくなる。嗅覚情報は視床を介さず直接嗅皮質へと入力するため、視床におけるゲーティングを受けないが、嗅皮質において感覚入力ゲーティングを受け、高次中枢へと嗅覚情報が送られなくなる<ref><pubmed> 15848806 </pubmed></ref>。このことは、覚醒時には外界の嗅覚情報を取り込んでいるが、外界からの入力が遮断される徐波睡眠時には全く別の情報処理モードになっていることを示唆する。  


徐波睡眠中の嗅皮質の活動<br>徐波睡眠中、梨状皮質では海馬と類似した鋭波が発生することが分かった<ref><pubmed> 21632934 </pubmed></ref>。梨状皮質の錐体細胞は豊富な興奮性反回側枝が存在し、お互いが密にシナプス接続されている。徐波睡眠時、この反回側枝の同期的な活動により鋭波が発生する。この鋭波は梨状皮質以外の多くの嗅皮質領域でも同期している。海馬鋭波は睡眠直前の経験によって発火したニューロン群がその時間的な関係を保ったまま再活性することが知られている。この再活性化によって、海馬での短期記憶が長期記憶へと固定化されると考えられている。嗅皮質はolfactory association learningの場であることも知られているので、嗅皮質鋭波は、睡眠直前の匂い経験によって発火したニューロン群の再活性化の場であり、再活性されることで嗅覚記憶の固定化に寄与していると考えられる。また、嗅皮質鋭波は嗅球の顆粒細胞層にトップダウン入力し、嗅球回路の再編に寄与している。  
徐波睡眠中の嗅皮質の活動<br>徐波睡眠中、梨状皮質では海馬と類似した鋭波が発生する<ref><pubmed> 21632934 </pubmed></ref>。梨状皮質の錐体細胞は豊富な興奮性反回側枝が存在し、お互いが密にシナプス接続されている。徐波睡眠時、この反回側枝の同期的な活動により鋭波が発生する。この鋭波は梨状皮質以外の多くの嗅皮質領域でも同期している。海馬鋭波は睡眠直前の経験によって発火したニューロン群がその時間的な関係を保ったまま再活性することが知られている。この再活性化によって、海馬での短期記憶が長期記憶へと固定化されると考えられている。嗅皮質はolfactory association learningの場であることも知られているので、嗅皮質鋭波は、睡眠直前の匂い経験によって発火したニューロン群の再活性化の場であり、再活性されることで嗅覚記憶の固定化に寄与していると考えられる。また、嗅皮質鋭波は嗅球の顆粒細胞層にトップダウン入力し、嗅球回路の再編に寄与している。  


<references />
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(執筆者:眞部 寛之、家城 直、森 憲作、担当編集委員:藤田 一郎)
(執筆者:眞部 寛之、家城 直、森 憲作、担当編集委員:藤田 一郎)
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