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Norikotakahashi (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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{{Chembox | {{Chembox | ||
| ImageFile = FM1-43.png | | ImageFile = FM1-43.png | ||
| | | ImageSize = 220px | ||
| | | ImageAlt = | ||
| IUPACName = 3-[4-[2-[4-(dibutylamino)phenyl]ethenyl]pyridin-1-ium-1-yl]propyl-triethylazanium dibromide | | IUPACName = 3-[4-[2-[4-(dibutylamino)phenyl]ethenyl]pyridin-1-ium-1-yl]propyl-triethylazanium dibromide | ||
| OtherNames = | | OtherNames = Frie Mao 1-43, SynaptoGreen™ Reagent, SureCN1527120, N-(3-Triethylammoniumpropyl)-4-(p-dibutylaminostyryl)pyridinium, 2Br | ||
| Section1 = {{Chembox Identifiers | | Section1 = {{Chembox Identifiers | ||
| | | CASNo = 149838-22-2 | ||
| | | PubChem = 2733618 | ||
| | | SMILES =CCCCN(CCCC)C1=CC=C(C=C1)C=CC2=CC=[N+](C=C2)CCC[N+](CC)(CC)CC.[Br-].[Br-] }} | ||
| Section2 = {{Chembox Properties | | Section2 = {{Chembox Properties | ||
| | | Formula = C30H49Br2N3 | ||
| | | MolarMass = 611.53816 | ||
| | | Appearance = | ||
| | | Density = | ||
| | | MeltingPt = | ||
| | | BoilingPt = | ||
| | | Solubility = }} | ||
| Section3 = {{Chembox Hazards | | Section3 = {{Chembox Hazards | ||
| | | MainHazards = | ||
| | | FlashPt = | ||
| | | Autoignition = }} | ||
}} | }} | ||
FM 色素は[[wikipedia:ja:脂質二重層|脂質二重膜]]を可逆的に染める蛍光色素で、[[シナプス前終末]]の機能や[[wikipedia:ja:分泌|分泌]]現象の計測に活用されている。 | FM 色素は[[wikipedia:ja:脂質二重層|脂質二重膜]]を可逆的に染める蛍光色素で、[[シナプス前終末]]の機能や[[wikipedia:ja:分泌|分泌]]現象の計測に活用されている。 | ||
== FM1-43とは == | == FM1-43とは == | ||
色素の特性として次の3つの性質がある。 | [[Image:Takahashinoriko fig 1.jpg|thumb|250px|'''図1.(タイトル:FM 色素による還流と細胞膜の蛍光標識)''' 説明:FM 色素液で細胞を還流すると細胞外膜が蛍光を発する。]] Molecular Probe 社の Fei Mao は William J Betz らとともに、細胞膜を染める一連のスチリル色素を合成した。これらを FM (Fei Mao)色素と呼び、FM1-43 はその代表格である。[[シナプス前終末]]の機能解析や、分泌小胞の動態解析に広く用いられる。 | ||
#水溶液中に存在する場合に比べ、細胞膜に結合すると[[wikipedia:ja:量子効率|量子効率]]が著増し、強い[[wikipedia:ja:蛍光|蛍光]]を出す。 | |||
#[[wikipedia:ja:脂質二重層|脂質二重膜]]を透過しない。 | 色素の特性として次の3つの性質がある。 | ||
#水溶液中に存在する場合に比べ、細胞膜に結合すると[[wikipedia:ja:量子効率|量子効率]]が著増し、強い[[wikipedia:ja:蛍光|蛍光]]を出す。 | |||
#[[wikipedia:ja:脂質二重層|脂質二重膜]]を透過しない。 | |||
#[[wikipedia:ja:両親媒性分子|両親媒性]]で可逆的に膜を染める。 | #[[wikipedia:ja:両親媒性分子|両親媒性]]で可逆的に膜を染める。 | ||
== 分子構造 == | == 分子構造 == | ||
[[Image:Takahashinoriko fig 2.jpg|thumb|250px|'''図2.(タイトル:FM 色素群の分子構造)''' 説明:二重結合の数は色調に、炭素鎖の数は細胞膜との親和性や蛍光強度に関連する]] | |||
構造は、[[wikipedia:ja:親水性|親水性]]領域、[[wikipedia:ja:二重結合|二重結合]]領域、[[wikipedia:ja:疎水性|疎水性]]炭素鎖領域に分けられる。 | [[Image:Takahashinoriko fig 2.jpg|thumb|250px|'''図2.(タイトル:FM 色素群の分子構造)''' 説明:二重結合の数は色調に、炭素鎖の数は細胞膜との親和性や蛍光強度に関連する]] 構造は、[[wikipedia:ja:親水性|親水性]]領域、[[wikipedia:ja:二重結合|二重結合]]領域、[[wikipedia:ja:疎水性|疎水性]]炭素鎖領域に分けられる。 | ||
親水性領域が正の電荷をもつため、膜を通過しない。二重結合の数は蛍光波長に関連する。 | 親水性領域が正の電荷をもつため、膜を通過しない。二重結合の数は蛍光波長に関連する。 | ||
二重結合が一つの FM1-43、FM1-84、FM2-10 は黄色蛍光を呈し、二重結合が二つの FM4-64、FM5-95 は赤色蛍光を呈する。 | 二重結合が一つの FM1-43、FM1-84、FM2-10 は黄色蛍光を呈し、二重結合が二つの FM4-64、FM5-95 は赤色蛍光を呈する。 | ||
疎水性炭素鎖の長さは細胞膜の染め方に関連し、長いものほど明るく、一旦膜に組み込まれると離脱しがたい<ref><pubmed> 10202529 </pubmed></ref>。 FM1-43 の炭素鎖数は4であり、解離時定数τ<sub>diss</sub>は8 msを示す。より短いFM2-10(炭素鎖数 2)は、比較的離脱しやすい(τ<sub>diss</sub>=6.4 ms)。逆に、より長い FM1-84(炭素鎖数 5)は離脱に時間がかかる(τ<sub>diss</sub>=36 ms)<ref><pubmed> 19580748 </pubmed></ref>。 | 疎水性炭素鎖の長さは細胞膜の染め方に関連し、長いものほど明るく、一旦膜に組み込まれると離脱しがたい<ref><pubmed> 10202529 </pubmed></ref>。 FM1-43 の炭素鎖数は4であり、解離時定数τ<sub>diss</sub>は8 msを示す。より短いFM2-10(炭素鎖数 2)は、比較的離脱しやすい(τ<sub>diss</sub>=6.4 ms)。逆に、より長い FM1-84(炭素鎖数 5)は離脱に時間がかかる(τ<sub>diss</sub>=36 ms)<ref><pubmed> 19580748 </pubmed></ref>。 | ||
== 蛍光特性 == | == 蛍光特性 == | ||
FM1-43の[[wikipedia:ja:励起状態|励起]]には1光子では波長480 nm光、2光子では波長840 nm光が頻用される。 | FM1-43の[[wikipedia:ja:励起状態|励起]]には1光子では波長480 nm光、2光子では波長840 nm光が頻用される。 | ||
極大蛍光波長は[[wikipedia:ja:リポソーム|リポソーム]]中にて580 nmである。 | 極大蛍光波長は[[wikipedia:ja:リポソーム|リポソーム]]中にて580 nmである。 | ||
波長480nm光の高出力励起(~150 μW)にて[[wikipedia:3,3'-Diaminobenzidine|ジアミノベンチジン]](DAB)の光変換(photoconversion) を起こす。そのため、[[wikipedia:ja:アルデヒド|アルデヒド]]で固定可能な色素であるFM1-43FX と DABを細胞に与え光変換させると、共局在部位で電子密度の高い産物が作られ、[[電子顕微鏡]]観察が可能となる。FM1-43を取り込んだ小胞が、高い電子密度で描出され、微細構造解析に活用されている。 | 波長480nm光の高出力励起(~150 μW)にて[[wikipedia:3,3'-Diaminobenzidine|ジアミノベンチジン]](DAB)の光変換(photoconversion) を起こす。そのため、[[wikipedia:ja:アルデヒド|アルデヒド]]で固定可能な色素であるFM1-43FX と DABを細胞に与え光変換させると、共局在部位で電子密度の高い産物が作られ、[[電子顕微鏡]]観察が可能となる。FM1-43を取り込んだ小胞が、高い電子密度で描出され、微細構造解析に活用されている。 | ||
== 応用例 == | == 応用例 == | ||
59行目: | 59行目: | ||
==== シナプス前終末における小胞プールの大きさと開口放出確率の測定 ==== | ==== シナプス前終末における小胞プールの大きさと開口放出確率の測定 ==== | ||
[[Image:Takahashinoriko fig 3.jpg|thumb|250px|'''図3.(タイトル:開口放出に伴う FM 蛍光の変化''' 説明:膜融合時、細胞外色素の有無により蛍光変化の様式が異なる)]] | [[Image:Takahashinoriko fig 3.jpg|thumb|250px|'''図3.(タイトル:開口放出に伴う FM 蛍光の変化''' 説明:膜融合時、細胞外色素の有無により蛍光変化の様式が異なる)]] | ||
細胞外を FM1-43 で還流中に、短い放出刺激を与え(例 20 Hz、30 発)、[[開口放出]]([[エクソサイトーシス]])した小胞の膜を染める。 | 細胞外を FM1-43 で還流中に、短い放出刺激を与え(例 20 Hz、30 発)、[[開口放出]]([[エクソサイトーシス]])した小胞の膜を染める。 | ||
[[シナプス小胞]]は30-60秒で細胞内部に[[エンドサイトーシス]]で取り込まれる(図 3左)。その後、細胞外を色素を含まない溶液で還流し、細胞外膜に結合した色素を wash out する。このような loading過程を経て示される蛍光量は、30回の刺激時に開口放出した小胞にあたり[[ | [[シナプス小胞]]は30-60秒で細胞内部に[[エンドサイトーシス]]で取り込まれる(図 3左)。その後、細胞外を色素を含まない溶液で還流し、細胞外膜に結合した色素を wash out する。このような loading過程を経て示される蛍光量は、30回の刺激時に開口放出した小胞にあたり[[Readily releasable pool]](RRP)のサイズの指標となる。[[wikipedia:ja:カエル|カエル]][[神経筋接合部]]の場合、RRPの小胞数は神経終末内小胞の約15%(12-17%)と報告された<ref><pubmed> 15044806 </pubmed></ref>。 | ||
次に、細胞外色素フリーの状態で放出刺激を与えると、前段階で染められたシナプス小胞は細胞膜と融合し、細胞外液への拡散により神経終末の蛍光は減弱する(destaining 図3右)。この減弱の程度や時間経過から、開口放出の量と速度が評価できる。蛍光減弱の時間経過はsingle exponentialに近似されることから、[[放出確率]] (Release probability, Pr) は蛍光減弱の[[wikipedia:ja:時定数|時定数]]に反比例すると考えられる。Prの計算法として、(Recycling pool の小胞数×0.63)/ (37%に蛍光減弱するまでに与えた電気パルス数)で示す方法<ref><pubmed> 18701072 </pubmed></ref> が提起された。より簡易的には、FM1-43 の蛍光[[wikipedia:ja:半減期|半減期]]の[[wikipedia:ja:逆数|逆数]]<ref><pubmed> 11426227 </pubmed></ref>で示されるケースもある。 | 次に、細胞外色素フリーの状態で放出刺激を与えると、前段階で染められたシナプス小胞は細胞膜と融合し、細胞外液への拡散により神経終末の蛍光は減弱する(destaining 図3右)。この減弱の程度や時間経過から、開口放出の量と速度が評価できる。蛍光減弱の時間経過はsingle exponentialに近似されることから、[[放出確率]] (Release probability, Pr) は蛍光減弱の[[wikipedia:ja:時定数|時定数]]に反比例すると考えられる。Prの計算法として、(Recycling pool の小胞数×0.63)/ (37%に蛍光減弱するまでに与えた電気パルス数)で示す方法<ref><pubmed> 18701072 </pubmed></ref> が提起された。より簡易的には、FM1-43 の蛍光[[wikipedia:ja:半減期|半減期]]の[[wikipedia:ja:逆数|逆数]]<ref><pubmed> 11426227 </pubmed></ref>で示されるケースもある。 | ||
==== シナプス小胞の動態の解析 ==== | ==== シナプス小胞の動態の解析 ==== | ||
開口放出した顆粒は[[ | 開口放出した顆粒は[[Active zone]]の周辺から内部に取り込まれ([[エンドサイトーシス]])、再び放出可能となる([[リサイクル]])。このリサイクルにかかる時間は、[[海馬]]培養標本では 20-30秒、神経筋接合部では 60秒と見積もられた。そこで[[Recycling pool]](= RRP + Reserve pool)の測定は、RRP 測定時よりも長い時間電気刺激を与え、色素をロードする事により達成できる(例 10Hz 900 発)。リサイクルされた小胞は、元来小胞があった領域のほぼ全域に拡散し、core(中央部)への拡散のみが軽度に少なかった。また、リサイクルした小胞は、初めて刺激を受けたプール同様の放出確率を持つことが報告された<ref><pubmed> 1553547 </pubmed></ref> 。 | ||
=== 膜融合様式の解析 === | === 膜融合様式の解析 === | ||
FM色素には、炭素鎖数の異なる複数種類の色素がある。これらが小胞膜を染める頻度を比較することにより、融合細孔の開放時間の長短が識別可能となる。 | FM色素には、炭素鎖数の異なる複数種類の色素がある。これらが小胞膜を染める頻度を比較することにより、融合細孔の開放時間の長短が識別可能となる。 | ||
FM2-10やFM1-43色素を用い、小胞膜から離脱する[[完全融合]]型(full fusion)と、離脱しない[[不完全融合]]型(incomplete fusion)の識別が行われた<ref><pubmed> 9707119 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 12354398 </pubmed></ref>。 | FM2-10やFM1-43色素を用い、小胞膜から離脱する[[完全融合]]型(full fusion)と、離脱しない[[不完全融合]]型(incomplete fusion)の識別が行われた<ref><pubmed> 9707119 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 12354398 </pubmed></ref>。 | ||
=== 開口放出現象の可視化 === | === 開口放出現象の可視化 === | ||
FM1-43を[[網膜]][[双極性細胞]]のシナプス小胞に取り込ませて標識し、[[全反射顕微鏡]]で細胞膜直下(~100nm)の観察を行い、単一小胞の開口放出現象の可視化が報告された<ref><pubmed> 10972279 </pubmed></ref> 。 | FM1-43を[[網膜]][[双極性細胞]]のシナプス小胞に取り込ませて標識し、[[全反射顕微鏡]]で細胞膜直下(~100nm)の観察を行い、単一小胞の開口放出現象の可視化が報告された<ref><pubmed> 10972279 </pubmed></ref> 。 | ||
また、[[下垂体]][[前葉細胞]] (lactotrophs) や[[wikipedia:ja:膵島|膵島]]細胞においても、[[ホルモン]]を含む大型[[有芯小胞]]の[[膜融合]]に伴い、開口放出部位においてFM1-43蛍光強度の上昇が報告された <ref><pubmed> 10953007 </pubmed></ref><ref><pubmed>12193788 </pubmed></ref>。 | また、[[下垂体]][[前葉細胞]] (lactotrophs) や[[wikipedia:ja:膵島|膵島]]細胞においても、[[ホルモン]]を含む大型[[有芯小胞]]の[[膜融合]]に伴い、開口放出部位においてFM1-43蛍光強度の上昇が報告された <ref><pubmed> 10953007 </pubmed></ref><ref><pubmed>12193788 </pubmed></ref>。 | ||
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シナプス小胞から大型有芯小胞に至るまで、小胞の直径計測に有効である <ref><pubmed> 16150799 </pubmed></ref>。 | シナプス小胞から大型有芯小胞に至るまで、小胞の直径計測に有効である <ref><pubmed> 16150799 </pubmed></ref>。 | ||
水溶性色素(赤色[[wikipedia:ja:スルホローダミンB|スルホローダミンB]], SRB)とFM1-43を細胞外液に同時に与え、開口放出を誘発すると、水溶性色素は小胞内部に進入し、FM1-43は細胞外膜から小胞内膜へ拡散するため、開口放出した小胞が両色素で描出される。この際 [[ | 水溶性色素(赤色[[wikipedia:ja:スルホローダミンB|スルホローダミンB]], SRB)とFM1-43を細胞外液に同時に与え、開口放出を誘発すると、水溶性色素は小胞内部に進入し、FM1-43は細胞外膜から小胞内膜へ拡散するため、開口放出した小胞が両色素で描出される。この際 [[2光子レーザー走査顕微鏡]]で画像を取得し、双方の色素の増加分の比を求めると小胞直径が計算される(直径=6 ΔSRB/ΔFM1-43)。本法は色素濃度やレンズ特性([[wikipedia:ja:点拡がり関数|点拡がり関数]])によらず、シナプス小胞のような光学[[wikipedia:ja:解像度|解像度]]以下の器官の計測にも応用可能である。 | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
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<references /> | <references /> | ||
<br>(執筆者:高橋倫子、河西春郎 担当編集委員:柚崎通介) | |||
(執筆者:高橋倫子、河西春郎 担当編集委員:柚崎通介) |
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