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==構造と種類== | |||
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ホスファチジルイノシトールポリリン酸ともいう。ポリホスホイノシタイドは脂肪酸部分とイノシトール環部分からなる。脂肪酸組成は1-ステアロイル-2-アラキドノイル型が多い。ほ乳類の含有するホスホイノシタイドは、PI(ホスファチジルイノシトール)、PIP(ホスファチジルイノシトール一リン酸)、PIP<sub>2</sub>(ホスファチジルイノシトール二リン酸)とPIP<sub>3</sub>(ホスファチジルイノシトール三リン酸)から成るが、このうちPIP、PIP2とPIP3のことを総称してポリホスホイノシチドと呼ぶ。これらはそのリン酸基に位置によってさらに分類される。PIPにはPI(3)P(ホスファチジルイノシトール-3-一リン酸)、PI(4)P(ホスファチジルイノシトール-4-一リン酸)、PI(5)P(ホスファチジルイノシトール-5-一リン酸)の3種類が、PIP<sub>2</sub>にはPI(3,4)P<sub>2</sub>(ホスファチジルイノシトール-3,4-二リン酸)、PI(3,5)P<sub>2</sub>(ホスファチジルイノシトール-3,5-二リン酸)PI(4,5)P<sub>2</sub>(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸)の3種類が存在する。PI(3,4,5)P<sub>3</sub>はイノシトール環の3、4、5位の3カ所にリン酸基が入ったもので1種類のみ存在する。また、脂肪酸部分は二つのアシル基を持っており、ホスファチジルイノシトールは正確には1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホリル-1-myo-イノシトール-4,5-ビスリン酸という名称の脂質である。ホスファチジルイノシトールが見つかって60年以上が経過しているが、1988年のCantleyによるPI3キナーゼを同定によって、現在は7種類すべてのホスファチジルイノシトールが見つかっている。ホスファチジルイノシトールは全リン脂質量の0.1%〜1%を占めているが、これはPIが5%〜10%を占めるのに比べても非常に少ない。 | ホスファチジルイノシトールポリリン酸ともいう。ポリホスホイノシタイドは脂肪酸部分とイノシトール環部分からなる。脂肪酸組成は1-ステアロイル-2-アラキドノイル型が多い。ほ乳類の含有するホスホイノシタイドは、PI(ホスファチジルイノシトール)、PIP(ホスファチジルイノシトール一リン酸)、PIP<sub>2</sub>(ホスファチジルイノシトール二リン酸)とPIP<sub>3</sub>(ホスファチジルイノシトール三リン酸)から成るが、このうちPIP、PIP2とPIP3のことを総称してポリホスホイノシチドと呼ぶ。これらはそのリン酸基に位置によってさらに分類される。PIPにはPI(3)P(ホスファチジルイノシトール-3-一リン酸)、PI(4)P(ホスファチジルイノシトール-4-一リン酸)、PI(5)P(ホスファチジルイノシトール-5-一リン酸)の3種類が、PIP<sub>2</sub>にはPI(3,4)P<sub>2</sub>(ホスファチジルイノシトール-3,4-二リン酸)、PI(3,5)P<sub>2</sub>(ホスファチジルイノシトール-3,5-二リン酸)PI(4,5)P<sub>2</sub>(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸)の3種類が存在する。PI(3,4,5)P<sub>3</sub>はイノシトール環の3、4、5位の3カ所にリン酸基が入ったもので1種類のみ存在する。また、脂肪酸部分は二つのアシル基を持っており、ホスファチジルイノシトールは正確には1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホリル-1-myo-イノシトール-4,5-ビスリン酸という名称の脂質である。ホスファチジルイノシトールが見つかって60年以上が経過しているが、1988年のCantleyによるPI3キナーゼを同定によって、現在は7種類すべてのホスファチジルイノシトールが見つかっている。ホスファチジルイノシトールは全リン脂質量の0.1%〜1%を占めているが、これはPIが5%〜10%を占めるのに比べても非常に少ない。 | ||
== | ==役割== | ||
ホスファチジルイノシトールの機能は大きく三つに分類される。一つは細胞内情報伝達経路におけるセカンドメッセンジャー物質産生の基質としての機能である。PI(4,5)P<sub>2</sub>からPLCによってDGとIP<sub>3</sub>が産生され、小胞体からのカルシウム放出を促進するのがこの例に当たる。二つ目は細胞内の物質輸送の調節である。<ref>&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;pubmed&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt; 18784754 &amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;/pubmed&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;</ref> ホスファチジルイノシトールは上述の通り、種類によって局在がきわめて限られている。細胞内小胞輸送に直接関与する多くの分子がホスファチジルイノシトール結合ドメインを介して、エンドソームやゴルジ体など細胞の特定のコンパートメントに集まる結果、小胞輸送が活発になると考えられている。これらの分子の中には細胞膜や小胞膜の大きさや曲率を認識する機能を持ち、膜の形態そのものを変形させる活性を持っている場合も多い。これが細胞内の膜輸送において重要な機能である。三つ目は細胞内シグナル伝達経路の制御である。AktやBtkなど多くのシグナル伝達分子やタンパクキナーゼが脂質結合ドメインを持っており、ホスファチジルイノシトールとの結合によってキナーゼ活性が制御されている例も見られる。後述のPI3キナーゼシグナル伝達経路はアポトーシスの抑制やタンパク質合成などの細胞の生存に不可欠なものであることが明らかとなっている。<ref>&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;pubmed&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt; 16847462 &amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;/pubmed&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;</ref> さらに、ホスファチジルイノシトールの代謝異常は多くの重大かつ重篤な疾患と密接に関連していることも明らかとなっている。PI(3,4,5)P<sub>3</sub>の代謝異常はがんや糖尿病の患者に多く認められている。これはがん細胞の増殖や浸潤転移、インスリンによる骨格筋や脂肪細胞への糖取込みにおいてPI(3,4,5)P<sub>3</sub>が必要であることに起因している。また、PI(4,5)P<sub>2</sub>の代謝異常がLowe症候群などの遺伝性疾患患者に認められている。 | ホスファチジルイノシトールの機能は大きく三つに分類される。一つは細胞内情報伝達経路におけるセカンドメッセンジャー物質産生の基質としての機能である。PI(4,5)P<sub>2</sub>からPLCによってDGとIP<sub>3</sub>が産生され、小胞体からのカルシウム放出を促進するのがこの例に当たる。二つ目は細胞内の物質輸送の調節である。<ref>&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;pubmed&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt; 18784754 &amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;/pubmed&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;</ref> ホスファチジルイノシトールは上述の通り、種類によって局在がきわめて限られている。細胞内小胞輸送に直接関与する多くの分子がホスファチジルイノシトール結合ドメインを介して、エンドソームやゴルジ体など細胞の特定のコンパートメントに集まる結果、小胞輸送が活発になると考えられている。これらの分子の中には細胞膜や小胞膜の大きさや曲率を認識する機能を持ち、膜の形態そのものを変形させる活性を持っている場合も多い。これが細胞内の膜輸送において重要な機能である。三つ目は細胞内シグナル伝達経路の制御である。AktやBtkなど多くのシグナル伝達分子やタンパクキナーゼが脂質結合ドメインを持っており、ホスファチジルイノシトールとの結合によってキナーゼ活性が制御されている例も見られる。後述のPI3キナーゼシグナル伝達経路はアポトーシスの抑制やタンパク質合成などの細胞の生存に不可欠なものであることが明らかとなっている。<ref>&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;pubmed&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt; 16847462 &amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;/pubmed&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;</ref> さらに、ホスファチジルイノシトールの代謝異常は多くの重大かつ重篤な疾患と密接に関連していることも明らかとなっている。PI(3,4,5)P<sub>3</sub>の代謝異常はがんや糖尿病の患者に多く認められている。これはがん細胞の増殖や浸潤転移、インスリンによる骨格筋や脂肪細胞への糖取込みにおいてPI(3,4,5)P<sub>3</sub>が必要であることに起因している。また、PI(4,5)P<sub>2</sub>の代謝異常がLowe症候群などの遺伝性疾患患者に認められている。 | ||
== | ==各ホスファチジルイノシトールの生合成経路と機能== | ||
=== PI(4)P === | === PI(4)P === | ||
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骨格筋におけるインスリン依存的な糖代謝をコントロールするPI(3,4,5)P<sub>3</sub> 5-ホスファターゼである。糖尿病におけるインスリン抵抗性との関連が示唆されている。 | 骨格筋におけるインスリン依存的な糖代謝をコントロールするPI(3,4,5)P<sub>3</sub> 5-ホスファターゼである。糖尿病におけるインスリン抵抗性との関連が示唆されている。 | ||
このようにポリホスホイノシチドホスファターゼの多くがホスファターゼドメイン以外の機能ドメインを介して他のタンパク質と結合している。このため、細胞内の特定な部分に局在する場合が多く、それぞれの分子が非常に特異的な機能を担っていると考えられている。ポリホスホイノシタイドホスファターゼがキナーゼと比べて、多くの種類の分子が存在する理由である。 | このようにポリホスホイノシチドホスファターゼの多くがホスファターゼドメイン以外の機能ドメインを介して他のタンパク質と結合している。このため、細胞内の特定な部分に局在する場合が多く、それぞれの分子が非常に特異的な機能を担っていると考えられている。ポリホスホイノシタイドホスファターゼがキナーゼと比べて、多くの種類の分子が存在する理由である。 | ||
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1. Vicinanza M. et al. Function and dysfunction of the PI system in membrane trafficking. EMBO J., 27, 2457-2470. PMID: 18784754<br>2. Engelman J. A. et al. The evolution of phosphatidylinositol 3-kinasess as regulatos of growth and metabolism. Nature Reviews in Genetics, 7, 606-619 (2006) PMID: 16847462<br>3. McCrea H. J. and De Camilli P. Mutations in Phosphoinositide Metabolizing Exzymes and Human Disease Physiology 24, 8-16 (2009)<br>4. Engelman J. A. et al. The evolution of phosphatidylinositol 3-kinasess as regulatos of growth and metabolism. Nature Reviews in Genetics, 7, 606-619 (2006) PMID: 16847462<br> |