「エピジェネティクス」の版間の差分

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== DNAメチル化 ==
== DNAメチル化 ==


 哺乳類のDNAメチル化は、連続する[[wikipedia:ja:シトシン|シトシン]](C)残基と[[wikipedia:ja:グアニン|グアニン]](G)残基(CとGは[[wikipedia:ja:ホスホジエステル結合|ホスホジエステル結合]]によってつながれているため、[[wikipedia:ja:リン酸|リン酸]]を表す"p"を用いてCpGと示す)中のシトシン残基において見られる。シトシン残基の[[wikipedia:ja:ピリミジン|ピリミジン]]環5位の炭素に[[DNAメチルトランスフェラーゼ]] ([[DNMT]]; [[DNMT1]], [[DNMT3A]], [[DNMT3B]])によってメチル基が付加されることで、[[wikipedia:ja:5-メチルシトシン|5-メチルシトシン]]が生成される。
 哺乳類のDNAメチル化は、連続する[[wikipedia:ja:シトシン|シトシン]](C)残基と[[wikipedia:ja:グアニン|グアニン]](G)残基(隣接するCとGは[[wikipedia:ja:ホスホジエステル結合|ホスホジエステル結合]]によってつながれており、二重らせんの相補鎖において、水素結合により対合するCとGと区別するため、[[wikipedia:ja:リン酸|リン酸]]を表す"p"を用いて、CpGと示す)中のシトシン残基において見られる。シトシン残基の[[wikipedia:ja:ピリミジン|ピリミジン]]環5位の炭素に[[DNAメチルトランスフェラーゼ]] ([[DNMT]]; [[DNMT1]], [[DNMT3A]], [[DNMT3B]])によってメチル基が付加されることで、[[wikipedia:ja:5-メチルシトシン|5-メチルシトシン]]が生成される。


 [[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]中CpGが豊富に含まれる領域を[[wikipedia:ja:CpG island|CpG island]]と呼び、遺伝子の[[プロモーター]]領域に多く認められる。ゲノム中のCpG配列の約60~70%はメチル化されているが、CpG island中のCpGは一般的に低メチル化状態にある<ref name="ref5"><pubmed> 11782440 </pubmed></ref>。
 [[wikipedia:ja:ゲノム|ゲノム]]中CpGが豊富に含まれる領域を[[wikipedia:ja:CpG island|CpG island]]と呼び、遺伝子の[[プロモーター]]領域に多く認められる。ゲノム中のCpG配列の約60~70%はメチル化されているが、CpG island中のCpGは一般的に低メチル化状態にある<ref name="ref5"><pubmed> 11782440 </pubmed></ref>。


 DNAメチル化状態は細胞分裂後も受け継がる。[[wikipedia:ja:DNA複製|DNA複製]]後、[[wikipedia:ja:維持メチラーゼ|維持メチラーゼ]]であるDNMT1がヘミメチル化状態のDNA(メチル化された親DNAとまだメチル化されていない娘DNAの二重鎖)を認識し、娘DNA鎖に相補的にメチル基を付加すると考えられている<ref name="ref5" />。
 DNAメチル化状態は細胞分裂後も受け継がれる。これは、[[wikipedia:ja:DNA複製|DNA複製]]後、[[wikipedia:ja:維持メチラーゼ|維持メチラーゼ]]であるDNMT1がヘミメチル化状態のDNA(メチル化された親DNAとまだメチル化されていない娘DNAの二重鎖)を認識し、娘DNA鎖に相補的にメチル基を付加することによる<ref name="ref5" />。


 発生過程では、受精直後に維持メチラーゼ活性が抑制されたり特異的[[wikipedia:ja:脱メチル化酵素|脱メチル化酵素]]が働いたりすることによって、ゲノム全体で脱メチル化がおこる。メチル化されてないDNAの最初のメチル化は、[[wikipedia:ja:新規修飾DNAメチラーゼ|新規修飾DNAメチラーゼ]] (de novo DNA methyltransferase; DNMT3AやDNMT3B)によっておこり、新たにDNAメチル化状態のプロフィールが形成されていく<ref name="ref5" />。  
 発生過程では、受精直後に維持メチラーゼ活性が抑制されたり脱メチル化が生じたりすることによって、ゲノム全体で脱メチル化がおこる。メチル化されてないDNAの最初のメチル化は、[[wikipedia:ja:新規修飾DNAメチラーゼ|新規修飾DNAメチラーゼ]] (de novo DNA methyltransferase; DNMT3AやDNMT3B)によっておこり、新たにDNAメチル化状態のプロフィールが形成されていく<ref name="ref5" />。  


===多様なDNA配列のメチル化===
===多様なDNA配列のメチル化===


 DNAメチル化が重要となる現象の例に、[[ゲノム刷り込み]] ([[genomic imprinting]])がある。多くの場合、父親由来の[[wikipedia:ja:染色体|染色体]]上の遺伝子と母親由来の遺伝子の発現量はほぼ等しいが、インプリンティング遺伝子の場合、一方の遺伝子は発現するもののもう一方からの発現は抑制される。これらの遺伝子は近傍に[[wikipedia:imprinting control region|imprinting control region]] (ICR) と呼ばれる領域を持つことが多く、どちらかの親由来のアレルが高メチル化、もう片親由来のアレルが低メチル化を示す[[wikipedia:differentially methylated region|differentially methylated region]] (DMR)を含む事が多い<ref><pubmed> 12869525 </pubmed></ref>。ゲノム上の[[wikipedia:ja:反復配列|反復配列]]や[[wikipedia:ja:転移因子|転移因子]]([[wikipedia:ja:トランスポゾン|トランスポゾン]])様配列は一般的にメチル化され転写が抑制された状態にある。これは、染色体の安定化に寄与していると考えられている<ref name="ref5" />。また、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]における[[wikipedia:ja:遺伝子量補正|遺伝子量補正]](gene dosage compensation)の機構として、[[wikipedia:ja:女性|女性]]の2本ある[[wikipedia:ja:X染色体|X染色体]]のうちの1本は転写が不活性化([[wikipedia:X chromosome inactivation|X chromosome inactivation]])され高メチル化された状態にある<ref><pubmed> 22619385 </pubmed></ref>。不活性化されたX染色体は[[wikipedia:ja:バー小体|バー小体]](Barr body)という特徴的な構造を示す。
 DNAメチル化が重要となる現象の例に、[[ゲノム刷り込み]] ([[genomic imprinting]])、転移因子の抑制、X染色体の不活化などがある。
 
 多くの場合、父親由来の[[wikipedia:ja:染色体|染色体]]上の遺伝子と母親由来の遺伝子の発現量はほぼ等しいが、インプリンティング遺伝子の場合、一方の遺伝子は発現するもののもう一方からの発現は抑制される。これらの遺伝子は近傍に[[wikipedia:imprinting control region|imprinting control region]] (ICR) と呼ばれる領域を持つことが多く、どちらかの親由来のアレルが高メチル化、もう片親由来のアレルが低メチル化を示す[[wikipedia:differentially methylated region|differentially methylated region]] (DMR)を含む事が多い<ref><pubmed> 12869525 </pubmed></ref>。ゲノム上の[[wikipedia:ja:反復配列|反復配列]]や[[wikipedia:ja:転移因子|転移因子]]([[wikipedia:ja:トランスポゾン|トランスポゾン]])様配列は一般的にメチル化され転写が抑制された状態にある。これは、染色体の安定化に寄与していると考えられている<ref name="ref5" />。また、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]における[[wikipedia:ja:遺伝子量補正|遺伝子量補正]](gene dosage compensation)の機構として、[[wikipedia:ja:女性|女性]]の2本ある[[wikipedia:ja:X染色体|X染色体]]のうちの1本は転写が不活性化([[wikipedia:X chromosome inactivation|X chromosome inactivation]])され高メチル化された状態にある<ref><pubmed> 22619385 </pubmed></ref>。不活性化されたX染色体は[[wikipedia:ja:バー小体|バー小体]](Barr body)という特徴的な構造を示す。
 
 また、細胞増殖因子のメチル化が失われる、あるいは増殖抑制遺伝子がメチル化されるといった異常によって、発癌が起きる可能性が考えられている。


===DNAメチル化と転写の制御===
===DNAメチル化と転写の制御===