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<font size="+1">[http://researchmap.jp/nishihara 西原 秀典 | <font size="+1">[http://researchmap.jp/nishihara 西原 秀典]</font><br> | ||
''東京工業大学 生命理工学研究科''<br> | ''東京工業大学 生命理工学研究科''<br> | ||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0008506 岡田 典弘]</font><br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター | ''公益財団法人国際科学振興財団''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年8月12日 原稿完成日:2013年9月2日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター [[脳神経]]科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br> | |||
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同義語:転移因子、Jumping genes | 同義語:転移因子、Jumping genes | ||
{{box|text= | {{box|text= トランスポゾンとは、広義には細胞内で[[wikipedia:jaゲノム|ゲノム]]上の位置を移動する(転移する)[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]配列を指し、狭義にはその一種であるDNA(型)トランスポゾンを指す。前者は一般的に転移因子と呼ばれ、時にJumping genesとも呼ばれる。転移因子の中でも特に[[wikipedia:ja:レトロポゾン|レトロポゾン]]はゲノム中で膨大なコピー数が存在し、例えば[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]ゲノムの46%を占めるなど、ゲノム構造の多様性およびゲノムサイズに大きな影響を与えている。また、転移という特徴を利用し、遺伝学的ツールとして用いることができる。例えばP elementとよばれる転移因子を生体内で転移させることで変異体を多数作成し、特定の表現型を示す個体を選別してその原因となる転移因子の挿入サイトを特定することができる。ゲノムへの遺伝子導入への応用も広くおこなわれている。}} | ||
トランスポゾンとは、広義には細胞内で[[wikipedia:jaゲノム|ゲノム]]上の位置を移動する(転移する)[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]配列を指し、狭義にはその一種であるDNA(型)トランスポゾンを指す。前者は一般的に転移因子と呼ばれ、時にJumping | |||
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==発見の歴史== | ==発見の歴史== | ||
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LINEは内部に逆転写酵素とエンドヌクレアーゼをコードする。LINEタンパク質はLINE RNAの3’末端配列を認識して結合し、逆転写およびゲノムへの挿入をおこなう。LINEには様々な種類が知られており、生物群ごとにそれぞれ異なる種類のLINEがゲノムの大きな割合を占める。例えば哺乳類では[[L1]]と呼ばれるLINEが主要であり、例えばヒトゲノムの約17%はL1が占めている。一方、[[wikipedia:ja:ニワトリゲノム|ニワトリゲノム]]ではCR1、[[ゼブラフィッシュ]]ではL2がレトロトランスポゾンの中で最も大きな割合を占める。 | LINEは内部に逆転写酵素とエンドヌクレアーゼをコードする。LINEタンパク質はLINE RNAの3’末端配列を認識して結合し、逆転写およびゲノムへの挿入をおこなう。LINEには様々な種類が知られており、生物群ごとにそれぞれ異なる種類のLINEがゲノムの大きな割合を占める。例えば哺乳類では[[L1]]と呼ばれるLINEが主要であり、例えばヒトゲノムの約17%はL1が占めている。一方、[[wikipedia:ja:ニワトリゲノム|ニワトリゲノム]]ではCR1、[[ゼブラフィッシュ]]ではL2がレトロトランスポゾンの中で最も大きな割合を占める。 | ||
さらにLINEに関連する非自律性因子として、[[wikipedia:short interspersed elements|short interspersed elements]](SINE)が知られている。多くのSINEは[[ | さらにLINEに関連する非自律性因子として、[[wikipedia:short interspersed elements|short interspersed elements]](SINE)が知られている。多くのSINEは[[tRNA]]に起源を持ち、[[wikipedia:RNA polymerase III|RNA polymerase III]]によって転写されたSINE RNAが、LINEタンパク質を利用して転移する。そのためSINEの3’末端配列がLINEの3’末端配列と類似している例が数多く報告されている。SINEは進化的に異なる系統で独立に生成する場合が多く見られる。例えば[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]の[[wikipedia:Alu|Alu]]、[[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]]の[[wikipedia:B1|B1]]や[[wikipedia:B2|B2]]など、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]では目あるいは科レベルで独自のSINEを持つ。Aluはヒトゲノムの10%を占めており、そのコピー数は100万を超える。 | ||
==ゲノムにおける影響== | ==ゲノムにおける影響== | ||
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転移因子は上述のように有害な影響を及ぼす可能性があることから、一般の細胞内では転移が抑制されていることが多い。例外として、[[wikipedia:ja:生殖細胞|生殖細胞]]および[[脳神経細胞]]では転移が観察されており、特にニューロンの[[wikipedia:ja:モザイク|モザイク]]性を生み出している可能性が指摘されている<ref><pubmed> 15959507 </pubmed></ref>。しかしなぜこれらの細胞内のみで転移可能なのかは明らかになっていない。[[wikipedia:ja:体細胞|体細胞]]における抑制機構としては、転移因子配列の[[メチル化]]や[[wikipedia:ja:ヘテロクロマチン化|ヘテロクロマチン化]]などの[[エピジェネティック]]な制御を受けていることが知られている。また、[[wikipedia:small RNA|small RNA]]による抑制も受けていることが近年明らかになってきている<ref><pubmed> 19165215 </pubmed></ref>。 | 転移因子は上述のように有害な影響を及ぼす可能性があることから、一般の細胞内では転移が抑制されていることが多い。例外として、[[wikipedia:ja:生殖細胞|生殖細胞]]および[[脳神経細胞]]では転移が観察されており、特にニューロンの[[wikipedia:ja:モザイク|モザイク]]性を生み出している可能性が指摘されている<ref><pubmed> 15959507 </pubmed></ref>。しかしなぜこれらの細胞内のみで転移可能なのかは明らかになっていない。[[wikipedia:ja:体細胞|体細胞]]における抑制機構としては、転移因子配列の[[メチル化]]や[[wikipedia:ja:ヘテロクロマチン化|ヘテロクロマチン化]]などの[[エピジェネティック]]な制御を受けていることが知られている。また、[[wikipedia:small RNA|small RNA]]による抑制も受けていることが近年明らかになってきている<ref><pubmed> 19165215 </pubmed></ref>。 | ||
転移因子の挿入は進化的に中立の変異であり、一般にその配列は進化の過程で塩基置換が蓄積し、やがて転移因子であることの検出が困難になると考えられる。しかし例外的に、その過程で転移因子由来の配列が生物の生存に有利な何らかの機能を獲得する場合が知られている(exaptationまたはco-optionとも呼ばれる)。それらの配列は進化的に保存されることが多く<ref><pubmed> 16717141 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16625209 </pubmed></ref>、特に[[wikipedia:ja:有胎盤類|有胎盤類]]では、保存領域の16%が転移因子に由来することが分かっている<ref><pubmed> 17495919 </pubmed></ref> | 転移因子の挿入は進化的に中立の変異であり、一般にその配列は進化の過程で塩基置換が蓄積し、やがて転移因子であることの検出が困難になると考えられる。しかし例外的に、その過程で転移因子由来の配列が生物の生存に有利な何らかの機能を獲得する場合が知られている(exaptationまたはco-optionとも呼ばれる)。それらの配列は進化的に保存されることが多く<ref><pubmed> 16717141 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16625209 </pubmed></ref>、特に[[wikipedia:ja:有胎盤類|有胎盤類]]では、保存領域の16%が転移因子に由来することが分かっている<ref><pubmed> 17495919 </pubmed></ref>(編集 林 コメント:この文献はmarsupialとありますので、有袋類ではないでしょうか)。転移因子が獲得した機能としては、遺伝子の[[wikipedia:ja:エキソン|エキソン]]化や[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]の生成といったタンパク質[[wikipedia:ja:コード|コード]]配列の改変に加え、[[wikipedia:ja:エンハンサー|エンハンサー]]や[[wikipedia:ja:インシュレーター|インシュレーター]]などの調節配列となることが知られている。特に哺乳類の[[脳]]において複数のレトロポゾンがエンハンサー機能を有することが報告されており、哺乳類の脳の形成に関与したexaptationの好例として知られている<ref><pubmed> 18334644 </pubmed></ref>。 | ||
==生物学的利用== | ==生物学的利用== | ||