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<font size="+1">佐藤 正之、冨本 秀和</font><br> | <font size="+1">佐藤 正之、冨本 秀和</font><br> | ||
''三重大学大学院医学研究科 | ''三重大学大学院医学研究科 認知症医療学講座''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年3月28日 原稿完成日:2013年10月18日 更新日:2015年7月15日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学医学部 内科学講座 脳神経内科)<br> | ||
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HM(名はヘンリー)は、10歳のころから[[てんかん]]の[[小発作]]が頻発するようになり、16歳からは[[大発作]]へと移行した。神経学的所見は正常。脳波で両側[[側頭葉]]に2~3Hzのspike & wave complexを認めた。薬物治療の効果のない難治性てんかんと診断され、1953年25歳時に両側[[側頭葉]]切除術を受けた。その結果、てんかん発作は消失したが重度の記憶障害を呈するようになった。HMは、手術を受けてからの記憶はまったくなく、主治医も担当ナースも毎朝会う時は“初対面の人”であった。新しいものごとについては、7秒間だけ覚えていることができた。手術前1~2年の記憶は曖昧で、2年以上前の記憶は正常に保たれていた。[[鏡像模写]]などの新しい技能については、毎日の訓練により上達がみられるが、練習したこと自体は覚えていなかった。HMは、自分が容易に課題をこなしてしまうので「なんでこんなに上手くできるのだ?」と驚いた。後年の脳[[MRI]]検査により、両側の側頭葉内側の先端部、[[扁桃体]]、[[嗅内野]]([[海馬傍回]]前部)の大部分、海馬の前半分が切除されていることが明らかになった<ref name=ref2><pubmed>9133414</pubmed></ref>。 | HM(名はヘンリー)は、10歳のころから[[てんかん]]の[[小発作]]が頻発するようになり、16歳からは[[大発作]]へと移行した。神経学的所見は正常。脳波で両側[[側頭葉]]に2~3Hzのspike & wave complexを認めた。薬物治療の効果のない難治性てんかんと診断され、1953年25歳時に両側[[側頭葉]]切除術を受けた。その結果、てんかん発作は消失したが重度の記憶障害を呈するようになった。HMは、手術を受けてからの記憶はまったくなく、主治医も担当ナースも毎朝会う時は“初対面の人”であった。新しいものごとについては、7秒間だけ覚えていることができた。手術前1~2年の記憶は曖昧で、2年以上前の記憶は正常に保たれていた。[[鏡像模写]]などの新しい技能については、毎日の訓練により上達がみられるが、練習したこと自体は覚えていなかった。HMは、自分が容易に課題をこなしてしまうので「なんでこんなに上手くできるのだ?」と驚いた。後年の脳[[MRI]]検査により、両側の側頭葉内側の先端部、[[扁桃体]]、[[嗅内野]]([[海馬傍回]]前部)の大部分、海馬の前半分が切除されていることが明らかになった<ref name=ref2><pubmed>9133414</pubmed></ref>。 | ||
HMは学用患者として現在も米国の某大学内で居住しており、半世紀を経た現在でも数年に一度、彼に関する論文が発表されている。現在も症状に変化はない。HMに鏡を見せると、映った自分の顔に驚愕する。なぜならHMの記憶に貯えられている自分の顔は、25歳時の顔だからだ。鏡が見ている人の容貌を映すということは知っているので、「この老人は誰だ!いったいどうなっているのだ!」と現在の自分の姿に非常なショックを受ける。しかし、鏡を取り除いて10分もするとHMは、さっきあれほどショックを受けたこと自体を覚えていない。 | |||
HMの症状の詳細は、数年間にわたって彼を観察・取材した結果であるルポルタージュ<ref name=ref3>'''フィリップ・ヒルツ、竹内和世訳'''<br>記憶の亡霊:なぜヘンリー・Mの記憶は消えたのか<br>''白揚社''、東京、1997</ref>に詳しい。HMの所見から、記憶には7秒くらいしか続かない短いものと、数年以上の長期間にわたって保持される長いものの最低でも2種類あること、記憶には両側側頭葉の内側部、特に海馬が重要であること、技能はそのほかの記憶とは異なる機序で脳内に蓄えられることが明らかになった。 | HMの症状の詳細は、数年間にわたって彼を観察・取材した結果であるルポルタージュ<ref name=ref3>'''フィリップ・ヒルツ、竹内和世訳'''<br>記憶の亡霊:なぜヘンリー・Mの記憶は消えたのか<br>''白揚社''、東京、1997</ref>に詳しい。HMの所見から、記憶には7秒くらいしか続かない短いものと、数年以上の長期間にわたって保持される長いものの最低でも2種類あること、記憶には両側側頭葉の内側部、特に海馬が重要であること、技能はそのほかの記憶とは異なる機序で脳内に蓄えられることが明らかになった。 | ||
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== 記憶の分類 == | == 記憶の分類 == | ||
[[Image:図3時間軸からみた記憶の分類.png|thumb|300px|<b>図3.時間軸からみた記憶の分類(三村 2012<ref name=ref6>'''三村將'''<br>記憶障害<br>江藤文夫、武田克彦他編、高次脳機能障害のリハビリテーションVer.2.''医師薬出版''、東京、2004, pp.38-44. </ref>を引用)</b>]] | |||
[[Image:図3時間軸からみた記憶の分類.png|thumb|300px|<b>図3.時間軸からみた記憶の分類(三村 2012<ref name=ref6>''' | |||
[[Image:図4ワーキングメモリーのモデル.png|thumb|300px|<b>図4.ワーキングメモリーのモデル</b><br />2000年にBaddeleyは、それまでの[[視空間記銘メモ]]、[[音韻ループ]]に加え、[[エピソードバッファ]]を追加し、それぞれ視覚的意味、[[言語]]、[[エピソード長期記憶]]と対応するとした。図で白抜きの部分は注意や記憶の一時的な保持と関係している(Baddeley<ref name=ref8><pubmed>11058819</pubmed></ref>を訳)。]] | [[Image:図4ワーキングメモリーのモデル.png|thumb|300px|<b>図4.ワーキングメモリーのモデル</b><br />2000年にBaddeleyは、それまでの[[視空間記銘メモ]]、[[音韻ループ]]に加え、[[エピソードバッファ]]を追加し、それぞれ視覚的意味、[[言語]]、[[エピソード長期記憶]]と対応するとした。図で白抜きの部分は注意や記憶の一時的な保持と関係している(Baddeley<ref name=ref8><pubmed>11058819</pubmed></ref>を訳)。]] | ||
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=== 時間の流れからみた記憶の分類 === | === 時間の流れからみた記憶の分類 === | ||
記憶の分類として、記憶の時間的流れからみた分類と、記憶の内容から見た分類がある。記憶の脳内過程として、[[記銘]](encoding)、[[保持]](storage)、[[想起]](retrieval)が考えられている。時間的流れによる分類では、現在からみたある事象が保持されている長さ、あるいは発症時点を中心として記憶障害の及ぶ時間により分けられる(図3)。[[遠隔記憶]](remote memory) | ====遠隔記憶、近時記憶、即時記憶==== | ||
記憶の分類として、記憶の時間的流れからみた分類と、記憶の内容から見た分類がある。記憶の脳内過程として、[[記銘]](encoding)、[[保持]](storage)、[[想起]](retrieval)が考えられている。時間的流れによる分類では、現在からみたある事象が保持されている長さ、あるいは発症時点を中心として記憶障害の及ぶ時間により分けられる(図3)。[[遠隔記憶]](remote memory)は、数週から何十年にも及ぶ、ほぼ永久的に保持される記憶で、容量は無限大である。[[近時記憶]](recent memory)は数日から数時間、[[即時記憶]](immediate memory)は数十秒以内の記憶を表す。近時記憶は、健常人でも急速に[[忘却]]が進む記憶であり、記憶障害の患者ではさらに顕著となる。即時記憶には容量制限があり、数列や無意味な文字列ならばほぼ7個(±2)である。この特性はマジカルナンバー7といわれ<ref name=ref7><pubmed>13310704</pubmed></ref>、記憶障害の患者でも保たれることが多い。心理学では、即時記憶を[[短期記憶]](short-term memory)、近時記憶と遠隔記憶を合わせて[[長期記憶]](long-term memory)と呼ぶ。 | |||
====ワーキングメモリー==== | |||
[[ワーキングメモリー]]は、時間的区分では短期記憶から近時記憶の一部を含む。日本語では、作業記憶あるいは作動記憶と訳され、ある課題の施行に必要な情報を、課題施行中も保ち続ける際にはたらく記憶を表す。われわれは日常生活で、情報を単に保持するのではなく、保持した情報にいろいろな処理を加える。もっとも単純な例は繰り上がりのある計算である。15+17を行う時、まず一の位の5+7=12を行い、十の位への繰り上がりを記憶しつつ十の位の1+1=2を行い、さらにそこに繰り上がった分の1を加え3を導く。あるいは会話などでも、直前の話の内容を記憶しそれに基づいて自分の話を組み立てる。このようにワーキングメモリーとは、記憶と情報処理機能を併せ持った概念である。ワーキングメモリーのモデルとして、Baddely<ref name=ref8><pubmed>11058819</pubmed></ref>のモデルが有名である(図4)。[[音韻ループ]]は、会話や文章の理解などの際に言語的な情報を一時的に保持するものである。視空間記銘メモは、視覚イメージなど言語化できない情報を一時的に保持するもので、黒板やホワイトボードに譬えられる。[[中央実行系]]とは、音韻ループと視空間記銘メモの活動を調整し、仕事を割り振り、情報の流れを統御する。2000年に新たに加えられたエピソードバッファは、音韻ループや視空間記銘メモの情報を統合したり、意味に関する情報を担うとともに、長期記憶へのアクセスを可能とする。1990年代以降に盛んになった[[脳賦活化実験]]の結果から、ワーキングメモリー、なかでも中央実行系には、[[前頭前野]](Brodmann 9,10,46野)の関与が想定されている。ワーキングメモリー仮説は、記憶が単に事物を保存するための容れ物ではなく、注意や意識などを含むダイナミックな活動であることに研究者の目を向けさせた。しかし、Bladdeleyのモデルでは短期記憶が障害されているにも関らず長期記憶は保たれている症例の存在を説明できない。また、複雑なヒトの認知メカニズムをこのモデルだけで解釈するのは不可能である。現在のところ、ワーキングメモリーは機能的観念の域を超えてはいない。 | |||
====展望記憶==== | |||
これまで述べてきた記憶はすべて、過去の事柄に関する記憶である。しかし、われわれの日常生活では「この原稿の締め切りは3月末だ」というように、未来に起こる事象について憶えていることが求められる。これを展望記憶という。3月末の締め切りという知識・情報を保持し続けるという意味で、記憶の一種と解釈される。[[展望記憶]]には[[実行機能]]が関与すると考えられる。 | これまで述べてきた記憶はすべて、過去の事柄に関する記憶である。しかし、われわれの日常生活では「この原稿の締め切りは3月末だ」というように、未来に起こる事象について憶えていることが求められる。これを展望記憶という。3月末の締め切りという知識・情報を保持し続けるという意味で、記憶の一種と解釈される。[[展望記憶]]には[[実行機能]]が関与すると考えられる。 | ||
神経心理学では、脳損傷や発症を起点とした時間的流れにより、記憶障害を分類することがある。[[前向性健忘]]は受傷・発症以降に生じた出来事を記憶できなくなること、[[逆行性健忘]]は受傷・発症前の出来事を想起できなくなることを表す。記憶障害の患者は一般に両者を合併している。逆行性健忘の及ぶ時間的幅は、数分にとどまることもあれば数十年にも及ぶこともあり、症例により異なる。受傷・発症に近い出来事ほど忘却されやすく、遠いものほど保たれる傾向がある。これを記憶の時間的勾配と呼ぶ。 | ====前向性健忘、逆行性健忘==== | ||
神経心理学では、脳損傷や発症を起点とした時間的流れにより、記憶障害を分類することがある。[[前向性健忘]]は受傷・発症以降に生じた出来事を記憶できなくなること、[[逆行性健忘]]は受傷・発症前の出来事を想起できなくなることを表す。記憶障害の患者は一般に両者を合併している。逆行性健忘の及ぶ時間的幅は、数分にとどまることもあれば数十年にも及ぶこともあり、症例により異なる。受傷・発症に近い出来事ほど忘却されやすく、遠いものほど保たれる傾向がある。これを記憶の時間的勾配と呼ぶ。 | |||
=== 内容による記憶の分類 === | === 内容による記憶の分類 === | ||
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自分の経験として思い出すことのできる記憶を[[顕在記憶]](explicit memory)、そうでないものを[[潜在記憶]](implicit memory)とよぶ。エピソード記憶(episodic memory)とは、特定の時と場所で学習された記憶で、いつ、どこで、何をしたか・何があったかという個人史・社会的記憶のことである。その記憶や知識を有していることを本人が意識し、意図的にアクセスすることができるため、顕在記憶に属する。 | 自分の経験として思い出すことのできる記憶を[[顕在記憶]](explicit memory)、そうでないものを[[潜在記憶]](implicit memory)とよぶ。エピソード記憶(episodic memory)とは、特定の時と場所で学習された記憶で、いつ、どこで、何をしたか・何があったかという個人史・社会的記憶のことである。その記憶や知識を有していることを本人が意識し、意図的にアクセスすることができるため、顕在記憶に属する。 | ||
[[意味記憶]](semantic memory) | [[意味記憶]](semantic memory)は、単語や数字、物事の概念など一般的な知識に関する記憶である。エピソード記憶は“覚えている”という状態であるのに対し、意味記憶は“知っている”という表現に相当する。山鳥は意味記憶を、言語情報としての言語性意味記憶と、感覚モダリティ横断性の情報としての非言語性意味記憶に分類している<ref>'''山鳥 重'''<br>記憶の神経心理学<br>''医学書院''、東京、2002.</ref>。言語性意味記憶は、顕在記憶に含まれる。エピソード記憶と意味記憶は、本人が何らかの形で言葉やイメージで表すことができるため、両者を合わせて[[陳述記憶]](declarative memory, 宣言的記憶ともいう)と呼ぶ。 | ||
[[手続き記憶]](procedural memory)は、いわゆる技能に該当する記憶で、“体で覚えている”と例えられるものである。 | [[手続き記憶]](procedural memory)は、いわゆる技能に該当する記憶で、“体で覚えている”と例えられるものである。 | ||
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[[古典的条件付け]](classical conditioning)とは、[[パブロフの犬]]に代表される記憶に基づく生理反応である。 | [[古典的条件付け]](classical conditioning)とは、[[パブロフの犬]]に代表される記憶に基づく生理反応である。 | ||
手続き記憶、プライミング、古典的条件付けは、言葉やイメージで表すことができないため[[非陳述記憶]](non-declarative memory, 非宣言的記憶) | 手続き記憶、プライミング、古典的条件付けは、言葉やイメージで表すことができないため[[非陳述記憶]](non-declarative memory, 非宣言的記憶)と呼ばれる。またこれら3つと非言語性意味記憶は、それらを有していることを本人は自覚できないため潜在記憶に属している。しかし、上記の分類は研究者により異なり、陳述記憶と顕在記憶とほぼ同義として扱う立場や、意味記憶を潜在記憶に含める研究者もいる。 | ||
健忘患者では一般に、エピソード記憶の障害が目立つが、潜在記憶の障害は目立たない。特に手続き記憶は、重度の健忘患者でも保たれている。[[神経変性疾患]]のなかには、初期に意味記憶だけが顕著に障害されることがあり、[[意味性認知症]](semantic dementia)と総称される。手続き記憶には、[[小脳]]や[[大脳基底核]]が関与しており、[[パーキンソン病]]や[[脊髄小脳変性症]]、[[ハンチントン病]]などで低下すると報告されている<ref name=ref9>'''望月寛子'''<br>手続き記憶の神経基盤<br>''Brain and Nerve'', 60: 825-832, 2008.</ref> 。 | 健忘患者では一般に、エピソード記憶の障害が目立つが、潜在記憶の障害は目立たない。特に手続き記憶は、重度の健忘患者でも保たれている。[[神経変性疾患]]のなかには、初期に意味記憶だけが顕著に障害されることがあり、[[意味性認知症]](semantic dementia)と総称される。手続き記憶には、[[小脳]]や[[大脳基底核]]が関与しており、[[パーキンソン病]]や[[脊髄小脳変性症]]、[[ハンチントン病]]などで低下すると報告されている<ref name=ref9>'''望月寛子'''<br>手続き記憶の神経基盤<br>''Brain and Nerve'', 60: 825-832, 2008.</ref> 。 | ||
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== 健忘症候群を来す主な疾患 == | == 健忘症候群を来す主な疾患 == | ||
損傷された脳の部位や病変の大きさ、原因疾患により臨床症状はさまざまである(表1)。一般に損傷が[[優位半球]](左半球)の場合は言語性記憶、[[劣位半球]](右半球)の場合は[[視覚性記憶]]の障害が優勢となる。また、前脳基底部の障害による健忘と、それ以外の部位すなわち側頭葉や、乳頭体や視床などを含む間脳の障害による健忘のあいだに、質的相違を認めたとする報告もある<ref name=ref11>''' | 損傷された脳の部位や病変の大きさ、原因疾患により臨床症状はさまざまである(表1)。一般に損傷が[[優位半球]](左半球)の場合は言語性記憶、[[劣位半球]](右半球)の場合は[[視覚性記憶]]の障害が優勢となる。また、前脳基底部の障害による健忘と、それ以外の部位すなわち側頭葉や、乳頭体や視床などを含む間脳の障害による健忘のあいだに、質的相違を認めたとする報告もある<ref name=ref11>'''武田克彦、御園生香'''<br>記憶と前脳基底部<br>In: 高倉公明、宮本忠雄監修 ''記憶とその障害の最前線、メディカル・ビュー社''、東京、1998、pp.115-122.</ref>。Damasio <ref name=ref12><pubmed>3977657</pubmed></ref>は、前脳基底部の損傷による健忘の特徴として、 | ||
#名前や顔などの個別の情報は覚えられるが、それらの統合ができない。 | #名前や顔などの個別の情報は覚えられるが、それらの統合ができない。 | ||
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=== ウェルニッケ-コルサコフ症候群 | === ウェルニッケ-コルサコフ症候群=== | ||
Wernicke-Korsakoff syndrome | |||
[[間脳性]]の健忘の代表。ビタミンB1欠乏により、乳頭体や脳弓、視床に変性が生じ、Papez, Yakovlevの両回路が遮断されることにより健忘を生じる。意識障害、[[眼球運動障害]]、失調を示すウェルニッケ脳症が生じ、意識障害から回復してくるとコルサコフ症候群としての記憶障害が顕在化してくる<ref name=ref6>''' | [[間脳性]]の健忘の代表。ビタミンB1欠乏により、乳頭体や脳弓、視床に変性が生じ、Papez, Yakovlevの両回路が遮断されることにより健忘を生じる。意識障害、[[眼球運動障害]]、失調を示すウェルニッケ脳症が生じ、意識障害から回復してくるとコルサコフ症候群としての記憶障害が顕在化してくる<ref name=ref6>'''三村將'''<br>記憶障害<br>江藤文夫、武田克彦他編、高次脳機能障害のリハビリテーションVer.2.''医師薬出版''、東京、2004, pp.38-44. </ref>。[[見当識障害]]、前向性健忘、逆行性健忘、[[作話]]が特徴で、以前はアルコール多飲者の栄養不良が代表的原因とされた。今日では栄養状態の良くない患者にビタミンB1を含まないブドウ輸液の点滴を行ったことによる医原性もしばしばみられる。“ビタミンB1の補充が1時間遅れると、患者の回復は1日遅れる”と言われるほど、いかにこの疾患を疑いいち早くビタミンを補充するかが、患者の予後を大きく左右する。 | ||
=== 視床梗塞/出血 === | === 視床梗塞/出血 === | ||
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== まとめ == | == まとめ == | ||
記憶障害の研究に一大転機をもたらした症例HMに始まり、記憶の機能解剖、分類、そして健忘症候群に属するいくつかの疾患について解説した。健忘は認知症の主症状であり、超高齢者社会を迎えるわが国おいて、医療面・社会面・経済面のいずれにおいても重要性が増している。記憶のメカニズムを明らかにすることにより、治療法やリハビリ、代替手段の開発に役立つと期待される。 | |||
== 関連項目 == | |||
* [[認知症]] | |||
* [[前向性健忘]] | |||
* [[逆行性健忘]] | |||
* [[記憶の分類]] | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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