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 Nogoは[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E8%84%8A%E6%A4%8E%E5%8B%95%E7%89%A9&source=web&cd=1&ved=0CEEQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E8%2584%258A%25E6%25A4%258E%25E5%258B%2595%25E7%2589%25A9&ei=FQQpT6r-IYqKiALQs6mnCg&usg=AFQjCNEMyPXU2vKjYUi-j9mp-vbwpyQsDQ&sig2=xrvLW8tBJAIDL6XyHQnVLQ&cad=rja 脊椎動物]の[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E4%B8%AD%E6%9E%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C&source=web&cd=1&ved=0CEMQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E4%25B8%25AD%25E6%259E%25A2%25E7%25A5%259E%25E7%25B5%258C%25E7%25B3%25BB&ei=KQQpT6jIOsKciAK_zKjFCg&usg=AFQjCNEucNIrcGtiIzEsSSwgWXtf2ZuPRQ&sig2=ofAyMolJHTpXkaybncm6Gw&cad=rja 中枢神経]の[http://kotobank.jp/word/%E8%BB%B8%E7%B4%A2 軸索]伸長の阻害効果をもち、軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-A蛋白内には2つの軸索伸張阻害作用を有する[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA%E3%83%89%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3 蛋白ドメイン]があり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E6%88%90%E9%95%B7%E5%86%86%E9%8C%90&source=web&cd=1&ved=0CCkQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E6%2588%2590%25E9%2595%25B7%25E5%2586%2586%25E9%258C%2590&ei=JQUpT9_pG8TUiALgkYDgCg&usg=AFQjCNFBZXVxTHKMsBRC7guZLsTRVXK2Ew&sig2=WTOTaoy2DdkSienrylh4cw&cad=rja 成長円錐]を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより重度の後遺障害が残る[http://ja.wikipedia.org/wiki/脊髄損傷 脊髄損傷]や[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E5%A4%9A%E7%99%BA%E6%80%A7%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87&source=web&cd=1&ved=0CEAQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E5%25A4%259A%25E7%2599%25BA%25E6%2580%25A7%25E7%25A1%25AC%25E5%258C%2596%25E7%2597%2587&ei=WgUpT6SiGqThiALw2Pm1Cg&usg=AFQjCNHBe0ifIb3nQo2DTvLeVqqeC157sA&sig2=pAi3Mua1pHqq2MFZ1peNjA&cad=rja 多発性硬化症]のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習と記憶のプロセスを強化する課程において重要な役割を果たすことが分かっている。 <br>  
 Nogoは[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E8%84%8A%E6%A4%8E%E5%8B%95%E7%89%A9&source=web&cd=1&ved=0CEEQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E8%2584%258A%25E6%25A4%258E%25E5%258B%2595%25E7%2589%25A9&ei=FQQpT6r-IYqKiALQs6mnCg&usg=AFQjCNEMyPXU2vKjYUi-j9mp-vbwpyQsDQ&sig2=xrvLW8tBJAIDL6XyHQnVLQ&cad=rja 脊椎動物]の[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E4%B8%AD%E6%9E%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C&source=web&cd=1&ved=0CEMQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E4%25B8%25AD%25E6%259E%25A2%25E7%25A5%259E%25E7%25B5%258C%25E7%25B3%25BB&ei=KQQpT6jIOsKciAK_zKjFCg&usg=AFQjCNEucNIrcGtiIzEsSSwgWXtf2ZuPRQ&sig2=ofAyMolJHTpXkaybncm6Gw&cad=rja 中枢神経]の[http://kotobank.jp/word/%E8%BB%B8%E7%B4%A2 軸索]伸長の阻害効果をもち、軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-A蛋白内には2つの軸索伸張阻害作用を有する[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA%E3%83%89%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3 蛋白ドメイン]があり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E6%88%90%E9%95%B7%E5%86%86%E9%8C%90&source=web&cd=1&ved=0CCkQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E6%2588%2590%25E9%2595%25B7%25E5%2586%2586%25E9%258C%2590&ei=JQUpT9_pG8TUiALgkYDgCg&usg=AFQjCNFBZXVxTHKMsBRC7guZLsTRVXK2Ew&sig2=WTOTaoy2DdkSienrylh4cw&cad=rja 成長円錐]を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより重度の後遺障害が残る[http://ja.wikipedia.org/wiki/脊髄損傷 脊髄損傷]や[http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=%E5%A4%9A%E7%99%BA%E6%80%A7%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87&source=web&cd=1&ved=0CEAQFjAA&url=http%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%25E5%25A4%259A%25E7%2599%25BA%25E6%2580%25A7%25E7%25A1%25AC%25E5%258C%2596%25E7%2597%2587&ei=WgUpT6SiGqThiALw2Pm1Cg&usg=AFQjCNHBe0ifIb3nQo2DTvLeVqqeC157sA&sig2=pAi3Mua1pHqq2MFZ1peNjA&cad=rja 多発性硬化症]のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習と[http://ja.wikipedia.org/wiki/記憶 記憶]のプロセスを強化する課程において重要な役割を果たすことが分かっている。 <br>  


= 発見の歴史<br>  =
= 発見の歴史<br>  =
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=== 研究の萌芽 <br>  ===
=== 研究の萌芽 <br>  ===


 今からおよそ80年前に、スペインの神経学者[http://ja.wikipedia.org/wiki/サンティアゴ・ラモン・イ・カハール Ramon y Cajal]が再生阻害の謎を解く重要なヒントを見いだす<ref>Ramon y Cajal, S. Degeneration and regeneration of the nervous system. Hafner, New York, 1928.</ref>。Cajalは、感覚を伝える[http://ja.wikipedia.org/wiki/後根 後根]神経という[http://ja.wikipedia.org/wiki/末梢神経 末梢神経]の軸索を切断し、その後の軸索の再生を観察した。再生しかけた軸索は、脊髄の中に侵入できず、再生できなかった。その後、Aguayoらは、脊髄の損傷による欠損部を末梢神経の周囲組織をグラフトとして移植することで、このグラフト内を軸索が再生する結果を得た<ref><pubmed> 6171034 </pubmed></ref>。これらにより、神経細胞自体には再生する力があり、神経細胞を取り巻く環境が再生に適していないのではないかと考えられるようになった。<br> 1980年代、更に研究が進展し、ミエリンが神経突起の伸展を抑制することが報告された。そして、Schwabらは、ミエリンの中に再生を阻害している分子が存在していると考え、ミエリンの各フラクションに対する抗体を作成した。In vitroの実験により、IN-1抗体はミエリンの作用を中和し、220 kDaの糖蛋白に結合することが判明した。また、IN-1抗体を脊髄損傷させたラットに投与すると、軸索再生と運動機能の回復が認められた<ref><pubmed> 2300171</pubmed></ref>。これら一連の成果により、軸索再生阻害という概念が実在のものとして信じられるようになった。  
 今からおよそ80年前に、スペインの神経学者[http://ja.wikipedia.org/wiki/サンティアゴ・ラモン・イ・カハール Ramon y Cajal]が再生阻害の謎を解く重要なヒントを見いだす<ref>Ramon y Cajal, S. Degeneration and regeneration of the nervous system. Hafner, New York, 1928.</ref>。Cajalは、感覚を伝える[http://ja.wikipedia.org/wiki/後根 後根]神経という[http://ja.wikipedia.org/wiki/末梢神経 末梢神経]の軸索を切断し、その後の軸索の再生を観察した。再生しかけた軸索は、脊髄の中に侵入できず、再生できなかった。その後、Aguayoらは、脊髄の損傷による欠損部を末梢神経の周囲組織を移植することで、このグラフト内を軸索が再生する結果を得た<ref><pubmed> 6171034 </pubmed></ref>。これらにより、神経細胞自体には再生する力があり、神経細胞を取り巻く環境が再生に適していないのではないかと考えられるようになった。<br> 1980年代、更に研究が進展し、ミエリンが神経突起の伸展を抑制することが報告された。そして、Schwabらは、ミエリンの中に再生を阻害している分子が存在していると考え、ミエリンの各フラクションに対する抗体を作成した。In vitroの実験により、IN-1抗体はミエリンの作用を中和し、220 kDaの糖蛋白に結合することが判明した。また、IN-1抗体を脊髄損傷させたラットに投与すると、軸索再生と運動機能の回復が認められた<ref><pubmed> 2300171</pubmed></ref>。これら一連の成果により、軸索再生阻害という概念が実在のものとして信じられるようになった。  


=== Nogoとその受容体の発見<br>  ===
=== Nogoとその受容体の発見<br>  ===
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==== &nbsp; 受容体と細胞内シグナル  ====
==== &nbsp; 受容体と細胞内シグナル  ====


 Nogo受容体はGPIアンカー型蛋白であり、細胞内ドメインを持っていない。したがってNogo受容体は神経細胞内にシグナルを伝達することができないため、シグナル伝達を担う別の受容体がNogo受容体と共受容体を形成しているのではないかと考えられた。[[Image:Revised Nogo signal.jpg|frame|right|500px|(図2)Nogoのシグナル伝達経路]]<br> その頃、山下(現大阪大学教授)らは機能の良く分かっていなかった神経栄養因子の受容体であるp75受容体の発生時における役割を明らかにした。p75は、主として末梢神経の軸索伸展を促進していることが報告された<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。その後、山下等はこのp75が軸索伸展阻害因子の一つMAG(Myelin Associated Glycoprotein)のシグナルを神経細胞に伝える受容体であることを見い出した<ref>Yamashita, T., Higuchi, H., Tohyama, M.: J. Cell Biol., 157, 565-570 (2002)</ref>。P75を欠失しているマウスの神経細胞はMAGに対する反応性を失ったのである。<br> 次に、p75がMAGのシグナルを伝える受容体であれば、p75とNogo受容体は共受容体を形成し、MAGのみならずNogoとOMgp(Oligodendrocyte Myelin glycoprotein)のシグナルも伝えていることが予測される。その仮説は直ちに検証され、Heらによって正しいことが証明された<ref>Wang, K.C., et al.: Nature, 420, 72-78  (2002)</ref>。こうしてp75は再生阻害のキープレーヤーであると考えられるようになった。<br> それではp75を介してどのような細胞内シグナルが形成されるのだろうか。 ニューロトロフィンがp75に作用して軸索の伸展を促すメカニズムは、Rhoの不活性化である<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。Rhoはアクチン骨格系あるいはチューブリンを制御することによって、細胞の形態形成の鍵となる蛋白である。MAG によりp75を介してRhoが活性化されること、さらに、p75によりRhoとRhoの活性化阻害蛋白であるRho guanine nucleotide dissociation inhibitor(Rho GDI)が解離することでRhoが活性化に導かれる事実が判明した。<br> しかしながらp75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではリガンドで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1が新しいp75/Nogo受容体コンポーネントの仲間入りした。これにより、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)。<br>  
 Nogo受容体はGPIアンカー型蛋白であり、細胞内ドメインを持っていない。したがってNogo受容体は神経細胞内にシグナルを伝達することができないため、シグナル伝達を担う別の受容体がNogo受容体と共受容体を形成しているのではないかと考えられた。[[Image:Revised Nogo signal.jpg|frame|right|500px|(図2)Nogoのシグナル伝達経路]]<br> その頃、山下(現大阪大学教授)らは機能の良く分かっていなかった神経栄養因子の受容体であるp75受容体の発生時における役割を明らかにした。p75は、主として末梢神経の軸索伸展を促進していることが報告された<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。その後、山下等はこのp75が軸索伸展阻害因子の一つMAG(Myelin Associated Glycoprotein)のシグナルを神経細胞に伝える受容体であることを見い出した<ref>Yamashita, T., Higuchi, H., Tohyama, M.: J. Cell Biol., 157, 565-570 (2002)</ref>。P75を欠失しているマウスの神経細胞はMAGに対する反応性が失われていた。<br> 次に、p75がMAGのシグナルを伝える受容体であれば、p75とNogo受容体は共受容体を形成し、MAGのみならずNogoとOMgp(Oligodendrocyte Myelin glycoprotein)のシグナルも伝えていることが予測される。その仮説は直ちに検証され、Heらによって正しいことが証明された<ref>Wang, K.C., et al.: Nature, 420, 72-78  (2002)</ref>。こうしてp75は再生阻害のキープレーヤーであると考えられるようになった。<br> それではp75を介してどのような細胞内シグナルが形成されるのだろうか。 ニューロトロフィンがp75に作用して軸索の伸展を促すメカニズムは、Rhoの不活性化である<ref>Yamashita, T., Tucker, K.L., Barde, Y.A.: Neuron, 24: 585-593 (1999)</ref>。Rhoはアクチン骨格系あるいはチューブリンを制御することによって、細胞の形態形成の鍵となる蛋白である。MAG によりp75を介してRhoが活性化されること、さらに、p75によりRhoとRhoの活性化阻害蛋白であるRho guanine nucleotide dissociation inhibitor(Rho GDI)が解離することでRhoが活性化に導かれる事実が判明した。<br> しかしながらp75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではリガンドで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1が新しいp75/Nogo受容体コンポーネントの仲間入りした。これにより、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)。<br>  


==== Nogoは本当に再生阻害因子か?  ====
==== Nogoは本当に再生阻害因子か?  ====
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