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19 バイト追加 、 2013年9月21日 (土)
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====欠損による異常====
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[[Image:Migration.png|thumb|400px|<b>図2.大脳新皮質の正常発生とリーリン、''dab1''変異マウス、''apoER2/vldlr'' ダブルノックアウトマウスの発生異常</b><br> (A) 発生期のマウス脳の模式図。下図は上図の点線部分で冠状断にした際の断面図。薄い赤色部分を拡大した図をBとCに示す。(B, C) 野生型 (B)、または ''reeler''、''yotari'', ''scrambler''マウス、及び"dab1"ノックアウトマウスと ''apoer2/vldlr''ダブル[[ノックアウトマウス]] (C)の大脳新皮質の発生過程を示す。脳の表面は上方向、脳室側は下方向。数字は野生型マウスで配置される予定の層を示す。RG: 放射状グリア細胞 (radial glia cell)、PP: プレプレート (preplate)、VZ: 脳室帯(ventricular zone)、CR: カハールレチウス細胞(Cajal-Retzius cell)、SP: サブプレート(subplate)神経細胞、MZ: 辺縁帯(marginal zone)、CP: 皮質板 (cortical plate)、SPP:スーパープレート(super plate)、IPZ: 内網状帯(internal plexiform zone)]]  
[[Image:Development of neocortex2.png|thumb|400px|<b>図2.大脳新皮質の正常発生とリーリン、''dab1''変異マウス、''apoER2/vldlr'' ダブルノックアウトマウスの発生異常</b><br> (A) 発生期のマウス脳の模式図。下図は上図の点線部分で冠状断にした際の断面図。薄い赤色部分を拡大した図をBとCに示す。(B, C) 野生型 (B)、または ''reeler''、''yotari'', ''scrambler''マウス、及び"dab1"ノックアウトマウスと ''apoer2/vldlr''ダブル[[ノックアウトマウス]] (C)の大脳新皮質の発生過程を示す。脳の表面は上方向、脳室側は下方向。数字は野生型マウスで配置される予定の層を示す。RG: 放射状グリア細胞 (radial glia cell)、PP: プレプレート (preplate)、VZ: 脳室帯(ventricular zone)、CR: カハールレチウス細胞(Cajal-Retzius cell)、SP: サブプレート(subplate)神経細胞、MZ: 辺縁帯(marginal zone)、CP: 皮質板 (cortical plate)、SPP:スーパープレート(super plate)、IPZ: 内網状帯(internal plexiform zone)]]  


 上記のように、大脳新皮質の神経細胞は脳室近くで誕生後、脳の表面方向に放射状に移動し、最初期に誕生した神経細胞で形成される[[プレプレート]]と呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これをカハールレチウス細胞を含む辺縁帯と[[サブプレート]]と呼ばれる二つの層に分離する(プレプレートスプリッティング)(図2B, iからii)。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終[[分化]]を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早い神経細胞を追い越し、より脳の表層側に配置されるようになる(図2B, iii)。この細胞配置の仕組みは“インサイドアウト”様式と呼ばれ、哺乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な組織構築様式である。  
 上記のように、大脳新皮質の神経細胞は脳室近くで誕生後、脳の表面方向に放射状に移動し、最初期に誕生した神経細胞で形成される[[プレプレート]]と呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これをカハールレチウス細胞を含む辺縁帯と[[サブプレート]]と呼ばれる二つの層に分離する(プレプレートスプリッティング)(図2B, iからii)。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終[[分化]]を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早い神経細胞を追い越し、より脳の表層側に配置されるようになる(図2B, iii)。この細胞配置の仕組みは“インサイドアウト”様式と呼ばれ、哺乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な組織構築様式である。  
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 しかしながら、海馬において生後3日に時期特異的に''dab1''をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること<ref name=matsuki><pubmed>18477607</pubmed></ref>、''dab1''ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じること<ref name=Niu><pubmed>14715136</pubmed></ref>等から、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆されている。  
 しかしながら、海馬において生後3日に時期特異的に''dab1''をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること<ref name=matsuki><pubmed>18477607</pubmed></ref>、''dab1''ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じること<ref name=Niu><pubmed>14715136</pubmed></ref>等から、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆されている。  


[[Image:Dab1 signaling pathway3.png|thumb|400px|<b>図3.大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b><br>主にカハールレチウス細胞から分泌されたリーリンは移動神経細胞に発現するApoER2やVLDLRに結合し、FynあるいはSrc等のSrcファミリーチロシンキナーゼの活性化により、Dab1をリン酸化する。リン酸化されたDab1にはPI3K, SOCS3, Nck&beta;, Crk等が結合する。Crkの下流でC3GがRap1をGDP結合型からGTP結合型に変換し、活性化されたRap1はインテグリン&alpha;5&beta;1の活性を制御すると考えられている(青線で示された経路)。一方、N-カドヘリンについては、他のGEFを介したRap1の活性化によって機能制御を受けている可能性が示唆されている(緑線の経路)。NotchとDab1の結合にDab1のリン酸化が必要かは明らかになっていない。]]
[[Image:Dab1 signaling pathway4.png|thumb|400px|<b>図3.大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b><br>主にカハールレチウス細胞から分泌されたリーリンは移動神経細胞に発現するApoER2やVLDLRに結合し、FynあるいはSrc等のSrcファミリーチロシンキナーゼの活性化により、Dab1をリン酸化する。リン酸化されたDab1にはPI3K, SOCS3, Nck&beta;, Crk等が結合する。Crkの下流でC3GがRap1をGDP結合型からGTP結合型に変換し、活性化されたRap1はインテグリン&alpha;5&beta;1の活性を制御すると考えられている(青線で示された経路)。一方、N-カドヘリンについては、他のGEFを介したRap1の活性化によって機能制御を受けている可能性が示唆されている(緑線の経路)。NotchとDab1の結合にDab1のリン酸化が必要かは明らかになっていない。]]


===シグナル伝達機構===
===シグナル伝達機構===
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''c3g''のジーントラップ系統マウスでリーラーフェノタイプが観察されること<ref><pubmed>18506028</pubmed></ref>等から、その下流分子として[[Rap1]]が注目された。Rap1は[[Rasファミリー低分子量Gタンパク質]]に属する[[低分子量Gタンパク質]]で、[[カドヘリン]]やインテグリンを介して細胞接着を制御する重要な分子であり、リーリンにより活性化されることが報告されている<ref name="crk" />。
''c3g''のジーントラップ系統マウスでリーラーフェノタイプが観察されること<ref><pubmed>18506028</pubmed></ref>等から、その下流分子として[[Rap1]]が注目された。Rap1は[[Rasファミリー低分子量Gタンパク質]]に属する[[低分子量Gタンパク質]]で、[[カドヘリン]]やインテグリンを介して細胞接着を制御する重要な分子であり、リーリンにより活性化されることが報告されている<ref name="crk" />。


 最近の研究では、早生まれの神経細胞(マウス胎生12.5日)のdab1をノックアウトした場合、あるいは、Rap1を不活性化するGTPase活性化タンパク質(GTPase-activating protein, GAP)であるRap1GAPを強制発現させた場合両方で細胞体トランスロケーションが障害されること、Rap1GAPによる移動障害がN-カドヘリンの強制発現により、レスキューされること等から、リーリン-Dab1シグナルはRap1によるN-カドヘリンの活性化を介して、細胞体トランスロケーションの過程に関与している可能性が示唆されている<ref name=santos><pubmed>21315259</pubmed></ref>。ただし、dab1の変異マウスにN-カドヘリンを導入するのみでは移動障害がレスキューされないことから、N-カドヘリン以外の分子の必要性が示されている<ref name=santos />。
 最近の研究では、早生まれの神経細胞(マウス胎生12.5日)の''dab1''をノックアウトした場合、あるいは、Rap1を不活性化するGTPase活性化タンパク質(GTPase-activating protein, GAP)であるRap1GAPを強制発現させた場合両方で細胞体トランスロケーションが障害されること、Rap1GAPによる移動障害がN-カドヘリンの強制発現により、レスキューされること等から、リーリン-Dab1シグナルはRap1によるN-カドヘリンの活性化を介して、細胞体トランスロケーションの過程に関与している可能性が示唆されている<ref name=santos><pubmed>21315259</pubmed></ref>。ただし、dab1の変異マウスにN-カドヘリンを導入するのみでは移動障害がレスキューされないことから、N-カドヘリン以外の分子の必要性が示されている<ref name=santos />。


 また、Rap1GAPを遅生まれの神経細胞(マウス胎生14.5日)に強制発現した場合、多極性移動からロコモーションへの変換が障害され、この障害がN-カドヘリンの強制発現により、レスキューされること。また、細胞内ドメインを欠いたVLDLRを強制発現すると、同様に多極性移動からロコモーションへの変換が阻害され、この異常は恒常的活性化型Rap1により部分的にレスキューされること等から、Reelin-Dab1シグナルは、遅生まれの神経細胞に対しては、Rap1-N-カドヘリン経路を介して多極性移動からロコモーションへの変換を促進していることが示唆された<ref><pubmed>21516100</pubmed></ref>。しかしながら、dab1のコンディショナルノックアウトマウスにおいては、多極性移動からロコモーションの過程は障害されないとの報告<ref name=santos />もあり、Reelin-Dab1シグナルの多極性移動からロコモーションへの変換への関与については更なる検証が必要であると思われる。
 また、Rap1GAPを遅生まれの神経細胞(マウス胎生14.5日)に強制発現した場合、多極性移動からロコモーションへの変換が障害され、この障害がN-カドヘリンの強制発現により、レスキューされること。また、細胞内ドメインを欠いたVLDLRを強制発現すると、同様に多極性移動からロコモーションへの変換が阻害され、この異常は恒常的活性化型Rap1により部分的にレスキューされること等から、Reelin-Dab1シグナルは、遅生まれの神経細胞に対しては、Rap1-N-カドヘリン経路を介して多極性移動からロコモーションへの変換を促進していることが示唆された<ref><pubmed>21516100</pubmed></ref>。しかしながら、dab1のコンディショナルノックアウトマウスにおいては、多極性移動からロコモーションの過程は障害されないとの報告<ref name=santos />もあり、Reelin-Dab1シグナルの多極性移動からロコモーションへの変換への関与については更なる検証が必要であると思われる。


 これらの実験結果では、遅生まれの神経細胞が脳表で行うターミナルトランスロケーションに関してReelinシグナルがどのように関与しているかは不明であったが、リーリン受容体のノックダウンによって生じるターミナルトランスロケーション異常が、恒常的活性化型インテグリンの強制発現によりレスキューされることや、リーラーマウスでは脳表層でのインテグリンの活性化が見られないこと、Reelin刺激によってインテグリンのリガンドであるフィブロネクチンへの接着が促進されること等から、リーリン-Dab1シグナルが、C3G-Rap1経路を介してインテグリンの活性化を促進し、ターミナルトランスロケーションを制御している可能性が示唆されている<ref name=sekine2><pubmed>23083738</pubmed></ref>。一方でβ1インテグリンのノックアウトマウス<ref><pubmed>11516395</pubmed></ref>や、コンディショナルノックアウトマウス<ref><pubmed>18077697</pubmed></ref>では、神経細胞の移動過程には大きな異常がないことが示されていることから、何らかの分子がターミナルトランスロケーションに関して補償的に働いている可能性が示唆されている<ref name=sekine2 />。
 これらの実験結果では、遅生まれの神経細胞が脳表で行うターミナルトランスロケーションに関してReelinシグナルがどのように関与しているかは不明であったが、リーリン受容体のノックダウンによって生じるターミナルトランスロケーション異常が、恒常的活性化型インテグリンの強制発現によりレスキューされることや、リーラーマウスでは脳表層でのインテグリンの活性化が見られないこと、Reelin刺激によってインテグリンのリガンドであるフィブロネクチンへの接着が促進されること等から、リーリン-Dab1シグナルが、C3G-Rap1経路を介してインテグリンの活性化を促進し、ターミナルトランスロケーションを制御している可能性が示唆されている<ref name=sekine2><pubmed>23083738</pubmed></ref>。一方でb1インテグリンのノックアウトマウス<ref><pubmed>11516395</pubmed></ref>や、コンディショナルノックアウトマウス<ref><pubmed>18077697</pubmed></ref>では、神経細胞の移動過程には大きな異常がないことが示されていることから、何らかの分子がターミナルトランスロケーションに関して補償的に働いている可能性が示唆されている<ref name=sekine2 />。


 また、Rap1のGAPの一つであるSpaIをプロモーター活性の強さの異なるベクターで強制発現した場合、弱いプロモーターで発現させた場合はターミナルトランスロケーションが障害され、強いプロモーターで発現させた場合では中間帯からの移動が障害されていた。この結果より、Rap1には中間帯での移動と、ターミナルトランスロケーション、二つの異なる移動過程に関わっている可能性が示唆された。さらに、Rap1の活性化を担うグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor、GEF)であるC3Gのドミナントネガティブ変異体(dominant negative mutant)を強制発現させた場合、ロコモーションはほとんど阻害されず、ターミナルトランスロケーションが主に障害されていた。これらの実験結果より、ロコモーションの過程ではRap1はC3G以外のGEFにより活性化され、ターミナルトランスロケーションの過程ではC3Gにより活性化される可能性が示唆されている<ref name=sekine2 />。
 また、Rap1のGAPの一つであるSpaIをプロモーター活性の強さの異なるベクターで強制発現した場合、弱いプロモーターで発現させた場合はターミナルトランスロケーションが障害され、強いプロモーターで発現させた場合では中間帯からの移動が障害されていた。この結果より、Rap1には中間帯での移動と、ターミナルトランスロケーション、二つの異なる移動過程に関わっている可能性が示唆された。さらに、Rap1の活性化を担うグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor、GEF)であるC3Gのドミナントネガティブ変異体(dominant negative mutant)を強制発現させた場合、ロコモーションはほとんど阻害されず、ターミナルトランスロケーションが主に障害されていた。これらの実験結果より、ロコモーションの過程ではRap1はC3G以外のGEFにより活性化され、ターミナルトランスロケーションの過程ではC3Gにより活性化される可能性が示唆されている<ref name=sekine2 />。
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