「酸化ストレス」の版間の差分

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 酸化ストレスは、酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ酸化反応が生体に対して悪影響を及ぼしている状態、もしくはその状態を誘導する主体と捉えられる。酸化反応とは物質が電子を放出する反応として定義され、物質に酸素が化合する反応を含む。
 酸化ストレスは、[[wikipedia:ja:酸化反応|酸化反応]]と[[wikipedia:ja:抗酸化反応|抗酸化反応]]のバランスが崩れ酸化反応が生体に対して悪影響を及ぼしている状態、もしくはその状態を誘導する主体と捉えられる。酸化反応とは物質が[[wikipedia:ja:電子|電子]]を放出する反応として定義され、物質に[[wikipedia:ja:酸素|酸素]]が化合する反応を含む。
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== 酸化反応の例 ==
== 酸化反応の例 ==
タンパク質のシステイン残基を介したジスルフィド結合の生成
タンパク質の[[wikipedia:ja:システイン|システイン]]残基を介した[[wikipedia:ja:ジスルフィド結合|ジスルフィド結合]]の生成


(Protein)–SH + (Protein)–SH → (Protein)–S–S–(Protein) + 2H+ + 2e–
(Protein)–SH + (Protein)–SH → (Protein)–S–S–(Protein) + 2H+ + 2e–
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== 活性酸素種 ==
== 活性酸素種 ==


 生体内において一部の酸素は、多くの物質と反応しやすい活性酸素種(Reactive [[Oxygen]] Species: ROS)に変化する。この活性酸素種は細胞の核酸、タンパク質、糖質、脂質などを酸化するとき傷害的に作用する。その結果、細胞の構造と機能に変化が生じ、病気を引き起こしやすくなったり、老化を早めたりすると考えられている。活性酸素種には生理的な役割もあるが、本稿では省略する。活性酸素種が過剰に生成・存在している状態は、酸化[[ストレス]]の状態であると言える。
 生体内において一部の酸素は、多くの物質と反応しやすい[[wikipedia:ja:活性酸素|活性酸素]]種(Reactive [[Oxygen]] Species: ROS)に変化する。この活性酸素種は細胞の[[wikipedia:ja:核酸|核酸]]、タンパク質、[[wikipedia:ja:糖質|糖質]]、[[wikipedia:ja:脂質|脂質]]などを酸化するとき傷害的に作用する。その結果、細胞の構造と機能に変化が生じ、病気を引き起こしやすくなったり、老化を早めたりすると考えられている。活性酸素種には生理的な役割もあるが、本稿では省略する。活性酸素種が過剰に生成・存在している状態は、酸化ストレスの状態であると言える。


 活性酸素種として主なものにはスーパーオキシド (・O2–)、ヒドロキシラジカル (・OH)、過酸化水素 (H2O2)などがある。なかでもヒドロキシラジカルは極めて反応性が高いことが知られている。ヒドロキシルラジカルが脂質と反応すると、過酸化脂質が生成される。過酸化脂質はさらに他の物質を酸化させ、過剰な過酸化脂質は細胞に障害的に作用する<ref name=ref1><pubmed>15031734</pubmed></ref>。
 活性酸素種として主なものには[[wikipedia:ja:スーパーオキシド|スーパーオキシド]] (•O<sub>2</sub><sup>–</sup>)、[[wikipedia:ja:ヒドロキシラジカル|ヒドロキシラジカル]] (•OH)、過酸化水素 (H<sub>2</sub>O<sub>2</sub>)などがある。なかでもヒドロキシラジカルは極めて反応性が高いことが知られている。ヒドロキシルラジカルが脂質と反応すると、過酸化脂質が生成される。過酸化脂質はさらに他の物質を酸化させ、過剰な過酸化脂質は細胞に障害的に作用する<ref name=ref1><pubmed>15031734</pubmed></ref>。


== 生体内における活性酸素種の産生 ==
== 生体内における活性酸素種の産生 ==


 多くの生物は、エネルギーであるATPを生じるためにミトコンドリアで酸素を消費している。その際に副産物として活性酸素種が生じていることが知られている<ref name=ref2><pubmed>15807660</pubmed></ref>。生体内の主な活性酸素種の生成はミトコンドリアでおきているという説があるが、この説には議論の余地がある<ref name=ref3><pubmed>21303703</pubmed></ref>。
 多くの生物は、エネルギーである[[wikipedia:ja:ATP|ATP]]を生じるために[[wikipedia:ja:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]で酸素を消費している。その際に副産物として活性酸素種が生じていることが知られている<ref name=ref2><pubmed>15807660</pubmed></ref>。生体内の主な活性酸素種の生成はミトコンドリアでおきているという説があるが、この説には議論の余地がある<ref name=ref3><pubmed>21303703</pubmed></ref>。


 ペルオキシソームはその内部に様々な種類の酸化酵素 (oxidase)を有しており、脂肪酸のベータ酸化など様々な酸化反応が行われている。ペルオキシソームにおいても酵素反応の副産物として活性酸素種が生じる<ref name=ref4><pubmed>19958170</pubmed></ref>。
 [[wikipedia:ja:ペルオキシソーム|ペルオキシソーム]]はその内部に様々な種類の[[wikipedia:ja:酸化酵素|酸化酵素]] ([[wikipedia:oxidase|oxidase]])を有しており、脂肪酸のベータ酸化など様々な酸化反応が行われている。ペルオキシソームにおいても酵素反応の副産物として活性酸素種が生じる<ref name=ref4><pubmed>19958170</pubmed></ref>。


== 抗酸化 ==
== 抗酸化 ==


 生体内では常に活性酸素が生じる状態にあるが、生体では同時に活性酸素の有害性を取り除くため、抗酸化の仕組みが発達している。カタラーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素は活性酸素を不活化する作用を有している。また、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、ベータカロチン、グルタチオンなどの物質は生体内で抗酸化作用を有することが知られている。
 生体内では常に活性酸素が生じる状態にあるが、生体では同時に活性酸素の有害性を取り除くため、抗酸化の仕組みが発達している。[[wikipedia:ja:カタラーゼ|カタラーゼ]]、[[スーパーオキシドディスムターゼ]]、[[wikipedia:ja:ペルオキシダーゼ|ペルオキシダーゼ]]などの酵素は活性酸素を不活化する作用を有している。
 
 また、[[wikipedia:ja:ビタミンC|ビタミンC]]、[[wikipedia:ja:ビタミンE|ビタミンE]]、[[wikipedia:ja:ビタミンA|ビタミンA]]、[[wikipedia:ja:ベータカロチン|ベータカロチン]]、[[wikipedia:ja:グルタチオン|グルタチオン]]などの物質は生体内で抗酸化作用を有することが知られている。


== 酸化ストレスと神経・精神疾患 ==
== 酸化ストレスと神経・精神疾患 ==


 [[アルツハイマー病]]、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患において、過酸化脂質などの酸化ストレスマーカーの上昇が報告されており <ref name=ref1 />、酸化ストレスが神経変性疾患に関与していることが示唆されている。過剰な酸化ストレスは細胞機能を傷害するため、神経変性疾患の病態悪化に関与していると考えられている。病因に関与している可能性もあるが、はっきりとした結論は得られていない。
 [[アルツハイマー病]]、[[パーキンソン病]]、[[筋萎縮性側索硬化症]]などの[[神経変性疾患]]において、[[wikipedia:ja:過酸化脂質|過酸化脂質]]などの[[wikipedia:ja:酸化ストレスマーカー|酸化ストレスマーカー]]の上昇が報告されており <ref name=ref1 />、酸化ストレスが神経変性疾患に関与していることが示唆されている。過剰な酸化ストレスは細胞機能を傷害するため、神経変性疾患の病態悪化に関与していると考えられている。病因に関与している可能性もあるが、はっきりとした結論は得られていない。


 [[精神疾患]]では、統合失調症において抗酸化酵素や物質の減少が報告されており酸化ストレスの病態への関与が示唆されているが、相反する報告もあり、明確な結論には至っていない<ref name=ref5><pubmed>22131939</pubmed></ref>。  
 [[精神疾患]]では、[[統合失調症]]において抗酸化酵素や物質の減少が報告されており酸化ストレスの病態への関与が示唆されているが、相反する報告もあり、明確な結論には至っていない<ref name=ref5><pubmed>22131939</pubmed></ref>。  


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
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