「足場タンパク質」の版間の差分

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 特にシナプスには足場タンパク質が多く存在し、多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。例えば、シナプス後部にはタンパク質が密集した[[シナプス後肥厚部]](postsynaptic dendsity; [[PSD]])が存在し、多くの足場タンパク質が集積している。シナプス後部における足場タンパク質は特に神経伝達物質受容体の配置を決めるうえで重要な役割を果たすと考えられている。近年、光褪色後蛍光回復法(fluorescence recovery after photobleaching; FRAP)や単一粒子追跡法(single particle tracking; SPT)などの手法を用いたイメージング実験により、受容体タンパク質はシナプス外の膜上では早く拡散するが、シナプスでは固定されやすいことが示されている。この際、足場タンパク質が受容体の拡散速度を緩めて位置を定める事で受容体の安定性が保たれると考えられている<ref name=ref2><pubmed>18832033</pubmed></ref>。
 特にシナプスには足場タンパク質が多く存在し、多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。例えば、シナプス後部にはタンパク質が密集した[[シナプス後肥厚部]](postsynaptic dendsity; [[PSD]])が存在し、多くの足場タンパク質が集積している。シナプス後部における足場タンパク質は特に神経伝達物質受容体の配置を決めるうえで重要な役割を果たすと考えられている。近年、光褪色後蛍光回復法(fluorescence recovery after photobleaching; FRAP)や単一粒子追跡法(single particle tracking; SPT)などの手法を用いたイメージング実験により、受容体タンパク質はシナプス外の膜上では早く拡散するが、シナプスでは固定されやすいことが示されている。この際、足場タンパク質が受容体の拡散速度を緩めて位置を定める事で受容体の安定性が保たれると考えられている<ref name=ref2><pubmed>18832033</pubmed></ref>。


===興奮性シナプス後部の足場タンパク質===
[[ファイル:PSD proteins.jpg|thumb|350px|right|'''図1. 興奮性シナプスの足場タンパク質'''<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><br>Reprinted, with permission, from the Annual Review of Biochemistry, Volume 76 © 2007 by Annual Reviews www.annualreviews.org]]
[[ファイル:PSD proteins.jpg|thumb|300px|right|'''図1. 興奮性シナプスの足場タンパク質'''<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><br>Reprinted, with permission, from the Annual Review of Biochemistry, Volume 76 © 2007 by Annual Reviews www.annualreviews.org]]
[[ファイル:Scaffolding proteins 1.jpg|thumb|300px|right|'''図2. 興奮性シナプスの足場タンパク質のドメイン構造'''<br>GK: グアニル酸キナーゼ相同性ドメイン、ANK: アンキリンリピートドメイン、SAM: Sterile alpha motifドメイン、CC: コイルドコイルドメイン]]
[[ファイル:Scaffolding proteins 1.jpg|thumb|300px|right|'''図2. 興奮性シナプスの足場タンパク質のドメイン構造'''<br>GK: グアニル酸キナーゼ相同性ドメイン、ANK: アンキリンリピートドメイン、CC: コイルドコイルドメイン]]
==興奮性シナプス後部==
 [[興奮性シナプス]]のシナプス後部には[[抑制性シナプス]]の後部と比べて厚く複雑なPSDがあり、様々な足場タンパク質を含む。[[興奮性]]ポストシナプスに含まれる主な足場タンパク質にはPSD-95、PSD-93、SAP97、SAP102、[[Shank|SHANK]]、CASK、[[GKAP]]、Homer、 GRIP1、densin-180などがある<ref name=ref3><pubmed>12324263</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>17596209</pubmed></ref>。
 [[興奮性シナプス]]のシナプス後部には[[抑制性シナプス]]の後部と比べて厚く複雑なPSDがあり、様々な足場タンパク質を含む。[[興奮性]]ポストシナプスに含まれる主な足場タンパク質にはPSD-95、PSD-93、SAP97、SAP102、[[Shank|SHANK]]、CASK、[[GKAP]]、Homer、 GRIP1、densin-180などがある<ref name=ref3><pubmed>12324263</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>17596209</pubmed></ref>。
====PSD-95 ====
===PSD-95 ===
 MAGUK(membrane-associated guanylate kinase homologs)ファミリー分子に属し、興奮性シナプスの主要な足場タンパク質の一つである。MAGUKファミリーの多くはPDZドメイン3つとSH3ドメイン、GUKドメインから成るが、PSD-95もこの構造を持つ。興奮性シナプスのPSDに広く分布し、neuroliginやNMDA受容体、AMPA受容体など多くのタンパク質の足場となっている。詳細はPSD-95の項を参照。
 MAGUK(membrane-associated guanylate kinase homologs)ファミリー分子に属し、興奮性シナプスの主要な足場タンパク質の一つである。MAGUKファミリーの多くはPDZドメイン3つとSH3ドメイン、GUKドメインから成るが、PSD-95もこの構造を持つ。興奮性シナプスのPSDに広く分布し、neuroliginやNMDA受容体、AMPA受容体など多くのタンパク質の足場となっている。詳細はPSD-95の項を参照。


====Shank====
===Shank===
 PSD-95と同じくPSDで多く見られ、PSD−95よりも[[細胞膜]]から離れた位置で広範囲に局在する足場タンパク質である。アンキリンリピートドメイン、SH3ドメイン、PDZドメイン、高プロリン領域、SAM(sterile alpha motif)ドメインからなり、それぞれのドメインを介してGKAP、Homer、GRIPといった足場タンパク質と結合しPSDの主要な構成要素となっている。また高プロリン領域でコルタクチン、αフォドリン、ABP1といった[[アクチン]]結合タンパク質と相互作用することでアクチン[[細胞骨格]]ともつながっている<ref name=ref5><pubmed>10806096</pubmed></ref>。
 PSD-95と同じくPSDで多く見られ、PSD−95よりも[[細胞膜]]から離れた位置で広範囲に局在する足場タンパク質である。アンキリンリピートドメイン、SH3ドメイン、PDZドメイン、高プロリン領域、SAM(sterile alpha motif)ドメインからなり、それぞれのドメインを介してGKAP、Homer、GRIPといった足場タンパク質と結合しPSDの主要な構成要素となっている。また高プロリン領域でコルタクチン、αフォドリン、ABP1といった[[アクチン]]結合タンパク質と相互作用することでアクチン[[細胞骨格]]ともつながっている<ref name=ref5><pubmed>10806096</pubmed></ref>。


====Homer====
===Homer===
 HomerはPDZドメインを持たない足場タンパク質である。EVH1ドメインとロイシンジッパーのCC(coiled coil)ドメインから成るlong HomerとCCドメインを持たないshort Homerがあり、long HomerはCCドメインにより四量体を形成する<ref name=ref6><pubmed>16914674</pubmed></ref>。HomerはEVH1ドメインを介してShankと結合しPSDの網目構造を複雑化してスパインの形態を維持する働きがある<ref name=ref7><pubmed>19345194</pubmed></ref>。
 HomerはPDZドメインを持たない足場タンパク質である。EVH1ドメインとロイシンジッパーのCC(coiled coil)ドメインから成るlong HomerとCCドメインを持たないshort Homerがあり、long HomerはCCドメインにより四量体を形成する<ref name=ref6><pubmed>16914674</pubmed></ref>。HomerはEVH1ドメインを介してShankと結合しPSDの網目構造を複雑化してスパインの形態を維持する働きがある<ref name=ref7><pubmed>19345194</pubmed></ref>。