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== 歴史 == | == 歴史 == | ||
[[w:Johann Christian Reil|Johann Christian Reil]]は、1796年に Exercitationum anatomicarum fasciculus primus de structura nervorumを発表、その中で第5の葉の存在を指摘した。これが島に関する初の学術的な記述である。しかし記述は本文のみにとどめられ、図示されなかった。Reilの発見した島は、現在も重版中の[[グレイの解剖学|Gray解剖学書]]で初めて図示され、「Reilの島」という呼称を不朽のものとした<ref name=ref1><pubmed>18091285</pubmed></ref>。 | [[w:Johann Christian Reil|Johann Christian Reil]]は、1796年に Exercitationum anatomicarum fasciculus primus de structura nervorumを発表、その中で第5の葉の存在を指摘した。これが島に関する初の学術的な記述である。しかし記述は本文のみにとどめられ、図示されなかった。Reilの発見した島は、現在も重版中の[[wj:グレイの解剖学|Gray解剖学書]]で初めて図示され、「Reilの島」という呼称を不朽のものとした<ref name=ref1><pubmed>18091285</pubmed></ref>。 | ||
Reilは島を高次精神機能の責任中枢ととらえた。奇しくも現在、内受容や、情動、共感、自己意識などの高次機能に関わる部位として注目されている。しかしそうした機能に関して、ニューロンレベルでの情報処理過程の解明は進んでいない。 | Reilは島を高次精神機能の責任中枢ととらえた。奇しくも現在、内受容や、情動、共感、自己意識などの高次機能に関わる部位として注目されている。しかしそうした機能に関して、ニューロンレベルでの情報処理過程の解明は進んでいない。 | ||
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===リスク=== | ===リスク=== | ||
リスクのいかなる側面に対して島が活動するのかについて、諸家の意見は様々である。損害回避傾向や[[神経症性]]などのパーソナリティ指標が高いと、リスク回避行動が顕著となり、これらは島の活動と相関する<ref name=ref65><pubmed>12948701</pubmed></ref>。また、前部島の活動はリスクの予測やリスクの予測誤差と相関する<ref name=ref66><pubmed>18337404</pubmed></ref> <ref name=ref48 />。一方、リスクを伴わない意思決定やリスク回避行動の直前<ref name=ref67><pubmed>16129404</pubmed></ref>や、リスクを伴う意思決定や意思決定の結果実際に損害を被らずに済んだ場合<ref name=ref68><pubmed>20045470</pubmed></ref>などに活動するという報告もある。 | |||
===報酬=== | ===報酬=== | ||
痛みと報酬の独立したネットワークが存在するという主張によれば、島は「痛みネットワーク」に属するという<ref name=ref29 /> | 痛みと報酬の独立したネットワークが存在するという主張によれば、島は「痛みネットワーク」に属するという<ref name=ref29 />。一方、[[報酬]]に関連した活動を認めるという報告がある。ヒト島は、報酬の条件刺激に<ref name=ref69><pubmed>10594068</pubmed></ref> <ref name=ref70><pubmed>14568478</pubmed></ref>、金銭報酬と金銭損失の両方に<ref name=ref71><pubmed>10934265</pubmed></ref>、金銭報酬の期待に<ref name=ref72><pubmed>12595181</pubmed></ref>対して活動し、活動の強さは金銭報酬の予測額と相関する<ref name=ref73><pubmed>15888656</pubmed></ref>という。一方金銭報酬の予測額と逆相関するという報告もある<ref><pubmed>17586603</pubmed></ref>。島は社会的報酬(褒められるなど)にも反応する<ref name=ref74><pubmed>18439412</pubmed></ref>。公正でないプレイヤーの処罰<ref name=ref75><pubmed>15333831</pubmed></ref>、慈善行為<ref name=ref76><pubmed>17030808</pubmed></ref> <ref name=ref77><pubmed>17237779</pubmed></ref>、他人への信頼<ref name=ref78><pubmed>12160756</pubmed></ref> <ref name=ref79><pubmed>17569866</pubmed></ref>、恋人や実子の顔(情動を参照)でも活動し、これらも社会的報酬への反応とみなせる。マカクザルの後部島<ref name=ref80><pubmed>16979828</pubmed></ref>や前部島<ref name=ref81><pubmed>17257703</pubmed></ref>には、報酬に反応する単一ニューロンが存在する。前部島では、ごく近い将来の差し迫った報酬の期待・可能性に関係したニューロン活動が見つかっている<ref name=ref81 />。 | ||
===発語、言語=== | ===発語、言語=== | ||
1861年、[[wj:ピエール・ポール・ブローカ|Broca]]は、左前頭葉に[[梗塞]]巣を有する症例から、[[運動性失語]]の責任領域を決定したが、その後、運動性言語の中枢はさらに広範に及ぶことが指摘され、現在では左前部島も運動性言語中枢に含むという説がある<ref name=ref82><pubmed>20512374</pubmed></ref>。 | |||
== | ==疾患との関わり== | ||
島の過剰な活動が、肥満患者における旺盛な食欲の原因であるという説がある<ref name=ref83><pubmed>23986683</pubmed></ref> | ===肥満=== | ||
島の過剰な活動が、肥満患者における旺盛な食欲の原因であるという説がある<ref name=ref83><pubmed>23986683</pubmed></ref>。 | |||
===離人症性障害=== | |||
一方、島の活動が抑制されると[[離人症性障害]]を生ずるという説がある<ref name=ref84><pubmed>11756013</pubmed></ref> <ref name=ref85><pubmed>21087873</pubmed></ref>。 | |||
===疼痛表象不能=== | |||
またごく稀に両側島が障害されると、例えば針で突き刺されたとき、それが鋭い尖ったものによる刺激だと理解はできても、[[恐怖]]や[[嫌悪]]、[[自律神経反応]]、[[逃避反応]]などは消失する。こうした痛みにおける感覚と情動の乖離は[[疼痛表象不能]]と呼ばれる<ref name=ref86><pubmed>3415199</pubmed></ref>。 | |||
===Smith-Magenis症候群=== | |||
染色体17p11.2が欠損し、[[精神発達遅滞]]や[[多動]]、痛み反応の減弱などを伴う[[Smith-Magenis症候群]]では、島の[[灰白質]]密度が低下するなどの異常が認められる<ref name=ref87><pubmed>15006669</pubmed></ref>。 | |||
===薬物濫用=== | |||
島は内受容によって[[薬物希求]]を表象するとされる。このため[[マリファナ]]<ref name=ref88><pubmed>19651613</pubmed></ref>や[[コカイン]]<ref name=ref89><pubmed>11296093</pubmed></ref> <ref name=ref90><pubmed>11850152</pubmed></ref>の濫用患者の島は、薬物希求が高まると活動する。一方、島の損傷によって[[タバコ]]の濫用が軽快・消失したり<ref name=ref91><pubmed>17255515</pubmed></ref>、[[ラット]]の島を不活化させると[[アンフェタミン]]希求が減弱したりするとされる<ref name=ref92><pubmed>17962567</pubmed></ref>。 | |||
===パニック障害=== | |||
[[パニック障害]]の病態生理として、島の異常が想定されている。不快刺激の予測信号が増大すると不安を生ずるが、不快刺激の予測には内受容の[[遠心性コピー]]が利用されていると考えられる。内受容の変調が身体の変調として知覚されればパニック障害となる<ref name=ref93><pubmed>16780813</pubmed></ref>。 | |||
===大うつ病性障害=== | |||
[[大うつ病性障害]]では、[[うつ評価尺度]]と島の灰白質容量の低下とに相関があるとされる<ref name=ref94><pubmed>21531027</pubmed></ref>。また、本来は痛みに対して活動する後部に、本来は前部にしか見られない情動に対する活動領域が広がり、機能トポグラフの再構成が生じているとされる<ref name=ref95><pubmed>22503725</pubmed></ref>。平時における島の過活動が[[うつ病]]者の認知や行動の特徴を説明できるという報告もある<ref name=ref96><pubmed>23227005</pubmed></ref>。 | |||
===統合失調症=== | |||
一方、[[幻聴]]は、音源が自身の思考由来なのか、外部環境由来なのかを判別する能力が低下し、前者を後者に誤帰属するため生ずる。[[統合失調症]]では、自己意識の座とされる前部島の[[灰白質]]容量が低下し、灰白質容量と臨床症状評価尺度との相関も認められるとされ<ref name=ref97><pubmed>20832997</pubmed></ref>、幻聴の誤帰属仮説の傍証となっている。 | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |