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要約すれば「[[ニューロン]]Aの発火がニューロンBを発火させると2つのニューロンの結合が強まる」となる。これは脳の中で起こっている[[記憶]]の基礎現象であると考えられる。つまり、記憶とは適切なニューロン同士の結合力の変化であると定式化できる。[[Image:Hebb's Fig.jpg|thumb|right| | 要約すれば「[[ニューロン]]Aの発火がニューロンBを発火させると2つのニューロンの結合が強まる」となる。これは脳の中で起こっている[[記憶]]の基礎現象であると考えられる。つまり、記憶とは適切なニューロン同士の結合力の変化であると定式化できる。[[Image:Hebb's Fig.jpg|thumb|right|ヘブ則の概念図 細胞Aは細胞Bにシナプスを形成している(1)。細胞Aが連続的に発火して入力する、もしくは他細胞からの入力が加わることによって細胞Bが発火するとき(2)、その発火に寄与した細胞Aとの間のシナプスが強化される(シナプス応答が増大する)(3)。]] | ||
ヘブは当時の知見を徹底的に吟味し、神経活動における「cell assembly([[細胞集成体]])」という概念を打ち立てた。ある[[受容器]]が刺激された場合には、それに応じて活動する細胞群によってcell assemblyが形成され、それはひとつの閉じた系として短時間活動できるようになると推測した。記憶とはそうした反響性活動の中で生じる永続的な細胞の構造変化であり、「ニューロンとニューロンの接合部である[[シナプス]]というところに、長期的な変化が起こって信号の伝達効率が変化することが学習の仕組みである」という学習のシナプス仮説を唱えた。今日では、この仮説に基づく[[シナプス可塑性]]のルールが「ヘブ則」と呼ばれている。 | ヘブは当時の知見を徹底的に吟味し、神経活動における「cell assembly([[細胞集成体]])」という概念を打ち立てた。ある[[受容器]]が刺激された場合には、それに応じて活動する細胞群によってcell assemblyが形成され、それはひとつの閉じた系として短時間活動できるようになると推測した。記憶とはそうした反響性活動の中で生じる永続的な細胞の構造変化であり、「ニューロンとニューロンの接合部である[[シナプス]]というところに、長期的な変化が起こって信号の伝達効率が変化することが学習の仕組みである」という学習のシナプス仮説を唱えた。今日では、この仮説に基づく[[シナプス可塑性]]のルールが「ヘブ則」と呼ばれている。 | ||
ヘブの学説が大きく注目を浴びるのは、それが発表されて20年以上も経ってからである。1973年BlissとLømoは電気生理学的手法を用いて、ウサギの貫通線維路を単一パルスで刺激した際の[[海馬]][[歯状回]] | ヘブの学説が大きく注目を浴びるのは、それが発表されて20年以上も経ってからである。1973年BlissとLømoは電気生理学的手法を用いて、ウサギの貫通線維路を単一パルスで刺激した際の[[海馬]][[歯状回]]でのシナプス伝達応答を観察していた。そして、彼らは貫通線維路を高頻度に連続して刺激したときに、その刺激前後で単一パルスに対するシナプス応答が増大し、これが数時間以上さらには数日間にもわたって維持されることを見出した<ref><pubmed>4727084</pubmed></ref><ref><pubmed>4727085</pubmed></ref>。後に[[長期増強]](long-term potentiation, LTP)と呼ばれるシナプス可塑性の発見である。ヘブが[[記憶の痕跡]]であると考えた仮説はまさにこのLTPの機構を説明するものであった。当初、記憶と関わりの深い海馬で観察されたことから、LTPは記憶の基礎現象であると注目されLTPの研究は一気に加速していった。その後、LTPは[[大脳皮質]]、[[小脳]]、[[扁桃体]]などの様々な脳領域で見つかり、ヘブの学説が脳における一般的な学習メカニズムのひとつであると認知されるようになった。 | ||
現在では、LTPにはさまざまな分子機構が存在することがわかっており、脳領域や細胞種、生物の年齢によっても大きく異なる。その中でも、とりわけヘブ則と関連深いのは[[NMDA型グルタミン酸受容体]]依存的なLTPであろう。この種のLTPは最も広く研究されているシナプス可塑性であり、Blissらが最初に報告したLTPもこれに当たる。驚くべきことに、LTPがもつ3つの特徴のうち、「[[共同性]](cooperativity)」と「[[連合性]](associativity)」についてはすでにヘブの学説の中で予見されていたことであった(3つ目の特徴は、「[[入力特異性]](input specificity)」である)。これら2つの特性は、McNaughtonら(1978年)<ref><pubmed>719524</pubmed></ref>およびLevyら(1979年)<ref><pubmed>487154</pubmed></ref>によってそれぞれ確認されている。 | 現在では、LTPにはさまざまな分子機構が存在することがわかっており、脳領域や細胞種、生物の年齢によっても大きく異なる。その中でも、とりわけヘブ則と関連深いのは[[NMDA型グルタミン酸受容体]]依存的なLTPであろう。この種のLTPは最も広く研究されているシナプス可塑性であり、Blissらが最初に報告したLTPもこれに当たる。驚くべきことに、LTPがもつ3つの特徴のうち、「[[共同性]](cooperativity)」と「[[連合性]](associativity)」についてはすでにヘブの学説の中で予見されていたことであった(3つ目の特徴は、「[[入力特異性]](input specificity)」である)。これら2つの特性は、McNaughtonら(1978年)<ref><pubmed>719524</pubmed></ref>およびLevyら(1979年)<ref><pubmed>487154</pubmed></ref>によってそれぞれ確認されている。 |
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