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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0160429/?lang=japanese 田中 啓二]、[ | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0160429/?lang=japanese 田中 啓二]、[https://researchmap.jp/myportal_saeki-ys/ 佐伯 泰]</font><br> | ||
''東京都医学総合研究所 | ''東京都医学総合研究所 蛋白質代謝研究室''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月14日 原稿完成日:2014年3月6日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi/?lang=japanese 林 康紀](独立行政法人理化学研究所)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi/?lang=japanese 林 康紀](独立行政法人理化学研究所)<br> | ||
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Hershkoら及びVarshavskyらは生じたポリユビキチン鎖が基質タンパク質を分解装置に輸送するためのシグナル(目印)として機能するという“ユビキチンシグナル”仮説を提唱した<ref name=ref3 /> <ref name=ref4 /> <ref name=ref5><pubmed>11017125</pubmed></ref>。この仮説は、ポリユビキチン鎖の形成が(全体の反応としては)分解シグナルの提示反応であるが、実際に起きている化学反応は(イソ)ペプチド結合の形成(タンパク質合成と類似の反応)であり、エネルギー要求性を合理的に説明できた。興味深いことに細胞内には、ユビキチン化の逆反応を触媒する[[脱ユビキチン酵素]](deubiquitylating enzyme:DUB)あるいはubiquitin specific protease(USP)が存在し、それらは生物種を問わず大きな遺伝子ファミリー(約80種)を形成している。多数のDUBが存在することは、ユビキチン化による翻訳後修飾が可逆的かつ多面的であることを示唆している。2004年、ユビキチンシステムの発見者たち3名は、[[wj:ノーベル化学賞|ノーベル化学賞]]を受賞した。 | Hershkoら及びVarshavskyらは生じたポリユビキチン鎖が基質タンパク質を分解装置に輸送するためのシグナル(目印)として機能するという“ユビキチンシグナル”仮説を提唱した<ref name=ref3 /> <ref name=ref4 /> <ref name=ref5><pubmed>11017125</pubmed></ref>。この仮説は、ポリユビキチン鎖の形成が(全体の反応としては)分解シグナルの提示反応であるが、実際に起きている化学反応は(イソ)ペプチド結合の形成(タンパク質合成と類似の反応)であり、エネルギー要求性を合理的に説明できた。興味深いことに細胞内には、ユビキチン化の逆反応を触媒する[[脱ユビキチン酵素]](deubiquitylating enzyme:DUB)あるいはubiquitin specific protease(USP)が存在し、それらは生物種を問わず大きな遺伝子ファミリー(約80種)を形成している。多数のDUBが存在することは、ユビキチン化による翻訳後修飾が可逆的かつ多面的であることを示唆している。2004年、ユビキチンシステムの発見者たち3名は、[[wj:ノーベル化学賞|ノーベル化学賞]]を受賞した。 | ||
ユビキチンは二つの異なったタイプの遺伝子にコードされている。一つは、ユビキチンとリボソームタンパク質の融合遺伝子であり、もう一つは数個〜10数個のユビキチンがタンデムに連なったポリユビキチン遺伝子である。これらの融合タンパク質からユビキチンを切り出す際にも、上述のDUBが使用される。ポリユビキチン遺伝子は、1回の転写・翻訳で多数のユビキチンを合成することができる点で秀逸であり、かつ[[ | ユビキチンは二つの異なったタイプの遺伝子にコードされている。一つは、ユビキチンとリボソームタンパク質の融合遺伝子であり、もう一つは数個〜10数個のユビキチンがタンデムに連なったポリユビキチン遺伝子である。これらの融合タンパク質からユビキチンを切り出す際にも、上述のDUBが使用される。ポリユビキチン遺伝子は、1回の転写・翻訳で多数のユビキチンを合成することができる点で秀逸であり、かつ[[熱ショックタンパク質|熱ショック応答遺伝子]]でもあることから、細胞は環境[[ストレス]]に曝されたとき、必要とするユビキチンを迅速に大量生成することができるよう合理的に設計されている。このことは、細胞内のユビキチンレベルが外環境の変化に応答して厳格に制御されていることを示唆している。実際、ユビキチンの量は、多くても少なくても細胞は異常になり、常に適切に保たれる必要がある。 | ||
===プロテアソームの発見=== | ===プロテアソームの発見=== | ||
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====プロテアソームと神経凝集体==== | ====プロテアソームと神経凝集体==== | ||
通常、活発に分裂している細胞の[[wj:細胞質|細胞質]]や[[wj:核|核]]に蓄積した異常タンパク質(アンフォールド/ミスフォールドした変異タンパク質)は、[[細胞増殖]]によってクリアランス(浄化)できるが、非分裂細胞であるニューロンにおいては、それらを処理できないために、タンパク質の品質管理(不要タンパク質の処理)が細胞の生存に不可欠である<ref name=ref48><pubmed>17051204</pubmed></ref> <ref name=ref49><pubmed>14685250</pubmed></ref>。Kopitoらは、細胞内に異常タンパク質を強制発現させると、プロテアソームがそれらを処理できずに活性の低下を引き起こし<ref name=ref50><pubmed>11375494</pubmed></ref>、蓄積した異常タンパク質が凝集し[[アグレゾーム]](様々な神経変性疾患・患者脳の残存ニューロンに同定されている[[封入体]]と類似の凝集構造体)を形成することを示した<ref name=ref51><pubmed>11121744</pubmed></ref>。この結果は、プロテアソームの機能減弱と神経変性の関連性を示唆している。 | |||
多くの神経変性疾患に観察される封入体が抗ユビキチン抗体で染色されること<ref name=ref52><pubmed>3029875</pubmed></ref>から、UPSの破綻が神経変性疾患の発症原因であると考えられた<ref name=ref53><pubmed>9881849</pubmed></ref>。McNaughtらはプロテアソーム阻害剤を直接[[マウス]][[小脳]]に注入して[[パーキンソン病]]と類似の症状を引き起こすことを報告し、プロテアソームの抑制とニューロン死の直接的な関係を示唆した<ref name=ref54><pubmed>15480836</pubmed></ref>が、再現性が乏しく、決定的な結論が得られていなかった<ref name=ref55><pubmed>20061621</pubmed></ref>。 | 多くの神経変性疾患に観察される封入体が抗ユビキチン抗体で染色されること<ref name=ref52><pubmed>3029875</pubmed></ref>から、UPSの破綻が神経変性疾患の発症原因であると考えられた<ref name=ref53><pubmed>9881849</pubmed></ref>。McNaughtらはプロテアソーム阻害剤を直接[[マウス]][[小脳]]に注入して[[パーキンソン病]]と類似の症状を引き起こすことを報告し、プロテアソームの抑制とニューロン死の直接的な関係を示唆した<ref name=ref54><pubmed>15480836</pubmed></ref>が、再現性が乏しく、決定的な結論が得られていなかった<ref name=ref55><pubmed>20061621</pubmed></ref>。 | ||
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==阻害剤・活性化剤== | ==阻害剤・活性化剤== | ||
天然の阻害剤として[[ラクタシスチン]]や[[エポキソミシン]]が知られている。 | |||
プロテアソーム阻害剤である[[wj:PS-341|PS-341]](別名[[wj:ボルテゾミブ|ボルテゾミブ]]、商品名[[wj:ベルケイド|ベルケイド]])<ref name=ref75><pubmed>15122206</pubmed></ref> <ref name=ref76><pubmed>23148232</pubmed></ref>が[[wj:多発性骨髄腫|多発性骨髄腫]]細胞のアポトーシス誘導を示すことが報告され、2003年再発・難治性骨髄腫を対象疾患として臨床応用されている。さらに副作用の少ない多くのプロテアソーム阻害剤の開発が進められており、既存の[[wj:抗ガン剤|抗ガン剤]]との併用を視野に固形ガンを含め臨床治験が進行中である<ref name=ref77><pubmed>23393020</pubmed></ref>。 | プロテアソーム阻害剤である[[wj:PS-341|PS-341]](別名[[wj:ボルテゾミブ|ボルテゾミブ]]、商品名[[wj:ベルケイド|ベルケイド]])<ref name=ref75><pubmed>15122206</pubmed></ref> <ref name=ref76><pubmed>23148232</pubmed></ref>が[[wj:多発性骨髄腫|多発性骨髄腫]]細胞のアポトーシス誘導を示すことが報告され、2003年再発・難治性骨髄腫を対象疾患として臨床応用されている。さらに副作用の少ない多くのプロテアソーム阻害剤の開発が進められており、既存の[[wj:抗ガン剤|抗ガン剤]]との併用を視野に固形ガンを含め臨床治験が進行中である<ref name=ref77><pubmed>23393020</pubmed></ref>。 | ||