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同義語:gender dysphoria | 同義語:gender dysphoria | ||
{{box|text= | {{box|text= 性同一性障害とは、ジェンダー・アイデンティティと身体的性別と一致しないために苦痛や障害を引き起こしている疾患である。2013年に米国精神医学会によって作成されたDSM-5ではgender identity disorderに代わりgender dysphoria(性別違和)が病名として用いられている。男性性同一性障害者には2つの亜型が知られ、第一の亜型は一次性と呼ばれるもので、小児期または青年期前期に発症し、青年期後期または成人期に受診する。第二の亜型は二次性と呼ばれるもので、発症が比較的遅く、[[異性装症]]に引き続くことが多いといわれる。女性から男性の性別変更を望む患者は比較的均一であり、小児期または青年期前期に発症し、青年期後期または成人期に受診する。治療は日本精神神経学会の作成した「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」に沿って行われる。精神科による診療ののち、ホルモン療法、外科的手術が必要に応じおこなれる。これまでのところ、2万人程度のものが、性同一性障害を主訴に、医療機関を受診したと思われる。何らかの生物学的異常が基盤にあるのではないかと推測され、男性性同一性障害者では、[[分界条床核]]の体積が、男性より優位に小さく、女性とほぼ等しいという研究がある。また、男性性同一性障害者では対照群の男性と比較して、[[アンドロゲン受容体]]遺伝子における[[塩基多型]]が示され、[[アンドロゲン]]への感受性が低い可能性が示唆された。}} | ||
==性同一性障害とは== | ==性同一性障害とは== | ||
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筆者のクリニック受診者の統計<ref name=ref3>'''針間克己、石丸径一郎'''<br>性同一性障害と自殺<br>''精神科治療学''25(2),247~251,2010</ref>では自殺念慮は62.0%、自殺企図は10.8%、[[自傷行為]]は16.1%、過量服薬は7.9%にその経験があった。 | 筆者のクリニック受診者の統計<ref name=ref3>'''針間克己、石丸径一郎'''<br>性同一性障害と自殺<br>''精神科治療学''25(2),247~251,2010</ref>では自殺念慮は62.0%、自殺企図は10.8%、[[自傷行為]]は16.1%、過量服薬は7.9%にその経験があった。 | ||
===実生活経験=== | ===実生活経験=== | ||
[[実生活経験]](real life experience、RLE)とは、望みの性別で職業生活や学校生活などの社会生活を送ることをいう。RLEを行い、社会生活で適応することは、[[ホルモン療法]]や[[手術療法]]といった治療を行う前に欠かせないことである。 | [[実生活経験]](real life experience、RLE)とは、望みの性別で職業生活や学校生活などの社会生活を送ることをいう。RLEを行い、社会生活で適応することは、[[ホルモン療法]]や[[手術療法]]といった治療を行う前に欠かせないことである。 | ||
筆者のクリニック受診者の初診時の統計<ref name=ref2>'''針間克己'''<br>精神科外来受診者における性同一性障害者のRLEと臨床的特徴.GID(性同一性障害)<br>学会雑誌2(1),42~43,2009</ref>ではMTFでは41.0%がRLEあり、すなわち女性として職業生活や学校生活を送っており、FTMでは50.9% がRLEあり、すなわち男性として職業生活や学校生活を送っていた。 | 筆者のクリニック受診者の初診時の統計<ref name=ref2>'''針間克己'''<br>精神科外来受診者における性同一性障害者のRLEと臨床的特徴.GID(性同一性障害)<br>学会雑誌2(1),42~43,2009</ref>ではMTFでは41.0%がRLEあり、すなわち女性として職業生活や学校生活を送っており、FTMでは50.9% がRLEあり、すなわち男性として職業生活や学校生活を送っていた。 | ||
==治療== | |||
「日本精神神経学会 性同一性障害に関する委員会」は、性同一性障害に関する医療者に対する治療指針として、「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版)」(以下「ガイドライン」と記す)<ref>'''日本精神神経学会・性同一性障害に関する委員会'''<br>性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版) <br>''精神神経学雑誌'' 114(11), 1250-1266, 2012 日本精神神経学会 </ref>を作成している。 | |||
その概略は以下の通りである。 | |||
# 精神科医による診断・治療<br>詳細な問診とともに、泌尿器科医や婦人科医により身体的診察を行い、確定診断をする。また、精神療法的治療を行い、なおも性別違和が持続し、身体治療が本人の苦痛の緩和に望ましいと判断すれば意見書を作成する。 | |||
# 医療チームによる身体治療移行の決定<br>2名の精神科医により意見書が作成されると、医療チームによる身体治療の適用が判断される。医療チームは精神科医だけでなく、泌尿器、婦人科、形成外科などの他科の医師や、法律関係者などの識者から構成されることが望ましい。 | |||
# 身体治療の開始<br>身体治療にはホルモン療法、乳房切除術、性別適合手術がある。 | |||
ホルモン療法開始・乳房切除術は18歳以上(18,19歳は保護者の承認が必要)、性別適合手術は20歳以上という年齢条件がある。ただし、2年以上経過を観察し必要と認めたものは15歳以上で性ホルモン療法が可能である。また、Tanner2期以上の二次性徴を起こしており、二次性徴の発来に著しい違和感を有する者には二次性徴抑制治療が可能である。 | |||
==疫学== | ==疫学== | ||
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性同一性障害は、身体的性別とは反対のジェンダー・アイデンティティを持つため、そのジェンダー・アイデンティティ形成には、何らかの生物学的異常が基盤にあるのではないかと推測され研究がおこなわれてきた。その中で1995年Zhouら<ref name=ref4><pubmed>7477289</pubmed></ref>が、MTFの死後脳を調査し[[分界条床核]]の体積について報告した。分界条床核は性行動に関係が深いとされる神経細胞群であり、男性のものは、女性のものに対して優位に大きい。研究は男性、女性、同性愛男性、MTFの分界条床核の体積を測定し、比較したものだが、MTFでは男性より優位に小さく、女性とほぼ等しいものであった。 | 性同一性障害は、身体的性別とは反対のジェンダー・アイデンティティを持つため、そのジェンダー・アイデンティティ形成には、何らかの生物学的異常が基盤にあるのではないかと推測され研究がおこなわれてきた。その中で1995年Zhouら<ref name=ref4><pubmed>7477289</pubmed></ref>が、MTFの死後脳を調査し[[分界条床核]]の体積について報告した。分界条床核は性行動に関係が深いとされる神経細胞群であり、男性のものは、女性のものに対して優位に大きい。研究は男性、女性、同性愛男性、MTFの分界条床核の体積を測定し、比較したものだが、MTFでは男性より優位に小さく、女性とほぼ等しいものであった。 | ||
[[性ホルモン]] | [[性ホルモン]]に関しては、特定の性ホルモンの過剰や欠如といった量的異常はこれまでに明確には示されはいないが、近年、性ホルモンに関する遺伝子の研究がなされている。Hareら<ref name=ref5><pubmed>18962445</pubmed></ref>によれば、MTFでは、対照群の男性と比較して、[[アンドロゲン受容体]]遺伝子における塩基ポリモルフィズムの繰り返し回数が多いことが示された。塩基ポリモルフィズムの繰り返し回数は、アンドロゲン受容体の感受性に関連していると考えられるため、この研究において、男性性同一性障害者ではアンドロゲンへの感受性が低い可能性が示唆された。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> |