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[[Image:ボツリヌス毒素1.jpg|thumb|350px|'''図1.ボツリヌス毒素の作用機構''']] | [[Image:ボツリヌス毒素1.jpg|thumb|350px|'''図1.ボツリヌス毒素の作用機構''']] | ||
神経毒素は生体内では[[コリン]]作動性末梢神経に作用し、[[アセチルコリン]]の遊離を阻害することにより麻痺を引き起こすと考えられている。一方、脳シナプトソームや初代神経培養細胞に対する毒作用解析から、神経毒素は[[シナプス前膜]]に存在する特異的な受容体に結合後、神経細胞内に侵入し、アセチルコリン以外の種々の神経伝達物質の放出も阻害することが明らかになっている<ref name=ref4><pubmed>19264088</pubmed></ref>。神経毒素は温度非依存的に重鎖、特にHCを介して受容体に結合する。A型およびB型神経毒素の受容体はそれぞれ[[シナプス小胞]]膜に存在するタンパク質 SV2(synaptic vesicle protein 2)<ref name=ref5><pubmed>16543415</pubmed></ref>と[[シナプトタグミン]]<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>であることがわかった。これらの受容体タンパク質は、神経[[細胞膜]]に豊富に存在する糖脂質であるガングリオシド存在下で、より高い毒素結合活性を持つ<ref name=ref7>< | 神経毒素は生体内では[[コリン]]作動性末梢神経に作用し、[[アセチルコリン]]の遊離を阻害することにより麻痺を引き起こすと考えられている。一方、脳シナプトソームや初代神経培養細胞に対する毒作用解析から、神経毒素は[[シナプス前膜]]に存在する特異的な受容体に結合後、神経細胞内に侵入し、アセチルコリン以外の種々の神経伝達物質の放出も阻害することが明らかになっている<ref name=ref4><pubmed>19264088</pubmed></ref>。神経毒素は温度非依存的に重鎖、特にHCを介して受容体に結合する。A型およびB型神経毒素の受容体はそれぞれ[[シナプス小胞]]膜に存在するタンパク質 SV2(synaptic vesicle protein 2)<ref name=ref5><pubmed>16543415</pubmed></ref>と[[シナプトタグミン]]<ref name=ref6><pubmed>8144634</pubmed></ref>であることがわかった。これらの受容体タンパク質は、神経[[細胞膜]]に豊富に存在する糖脂質であるガングリオシド存在下で、より高い毒素結合活性を持つ<ref name=ref7>'''居原 秀、小崎俊司'''<br>細菌性神経毒素とガングリオシド<br>''生体の科学'' 60:228-233, 2009.</ref>。[[シナプス]]小胞は神経伝達物質を放出後、再び細胞内に取り込まれるが受容体に結合した毒素は、この小胞のリサイクリングを巧みに利用することで細胞内に侵入する<ref name=ref8>'''小崎俊司、居原 秀'''<br>クロストリジウム神経毒素の受容体認識<br>''実験医学'' 27:1598-1605,2009.</ref>。重鎖HNには毒素の型に共通した構造が存在し、この部分が膜にチャンネルを形成することで軽鎖の細胞質内への移行が起こると考えられている。シナプス小胞内の神経伝達物質を放出するには[[シナプス前]]膜との融合が必要であり、その一連の過程でSNAP(soluble NSF attachment protein)受容体(SNARE)と呼ばれタンパク質群(シナプトブレビン、SNAP-25、シンタキシン)が関与している。軽鎖は亜鉛依存性プロテアーゼ活性を持ち、これらSNAREタンパク質のいずれかを分解する<ref name=ref9><pubmed>22289120</pubmed></ref>。その結果、シナプス小胞と前膜の融合が起こらず神経伝達物質の放出が阻止される。軽鎖の持つプロテアーゼ活性は基質特異性が高く、これがボツリヌス毒素の持つ神経に対する高い毒性を反映している(図1)。 | ||
==治療== | ==治療== | ||
==神経毒素の臨床応用== | ==神経毒素の臨床応用== | ||
筋弛緩作用を有するボツリヌス毒素の医薬品としての応用は、まず斜視の治療に用いられて以来、眼瞼痙攣、痙性斜頚、ジストニア、痛みならびに泌尿器疾患など多岐にわたる治療に利用されている<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>。微量の使用で治療効果が高いボツリヌス毒素製剤は、現在では神経疾患の治療薬として不可欠なものとなりつつある。 | 筋弛緩作用を有するボツリヌス毒素の医薬品としての応用は、まず斜視の治療に用いられて以来、眼瞼痙攣、痙性斜頚、ジストニア、痛みならびに泌尿器疾患など多岐にわたる治療に利用されている<ref name=ref10><pubmed>18095750</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>18500224</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>16870487</pubmed></ref>。微量の使用で治療効果が高いボツリヌス毒素製剤は、現在では神経疾患の治療薬として不可欠なものとなりつつある。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== |