「空間記憶」の版間の差分

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=== NMDA受容体と空間記憶  ===
=== NMDA受容体と空間記憶  ===
 空間記憶におけるグルタミン酸NMDA受体の機能は、拮抗性AP5や非拮抗性MK-801などのNMDA受容体阻害薬を用いて検討されてきた。AP5をラットの脳室内に慢性投与すると、水迷路場所課題の獲得が困難になるが、水迷路での視覚弁別課題の獲得には障害が生じなかった(Butcher, Hamberger, & Morris, 1991; Morris, 1989; Morris, Anderson, Lynch, & Baudry, 1986)。MK-801の腹腔内投与もまた、水迷路場所課題の獲得を妨げたが、手掛り課題の獲得は妨げなかった(Robinson, Crooks, Shinkman, & Gallagher, 1989; Whishaw & Auer, 1989)。報酬課題である放射状迷路の場所課題の学習に対してもNMDA受容体阻害薬の効果が確認された(Ward, Mason, & Abraham, 1990)。このようにNMDA阻害薬が空間記憶を必要とする課題の学習を選択的に妨げることから、空間記憶の形成にはNMDA受容体が必要であることが示唆された。
 空間記憶におけるグルタミン酸NMDA受体の機能は、拮抗性AP5や非拮抗性MK-801などのNMDA受容体阻害薬を用いて検討されてきた。AP5をラットの脳室内に慢性投与すると、水迷路場所課題の獲得が困難になるが、水迷路での視覚弁別課題の獲得には障害が生じなかった(Butcher, Hamberger, & Morris, 1991; Morris, 1989; Morris, Anderson, Lynch, & Baudry, 1986)。MK-801の腹腔内投与もまた、水迷路場所課題の獲得を妨げたが、手掛り課題の獲得は妨げなかった(Robinson, Crooks, Shinkman, & Gallagher, 1989; Whishaw & Auer, 1989)。報酬課題である放射状迷路の場所課題の学習に対してもNMDA受容体阻害薬の効果が確認された(Ward, Mason, & Abraham, 1990)。このようにNMDA阻害薬が空間記憶を必要とする課題の学習を選択的に妨げることから、空間記憶の形成には
 ところで、記憶には、記銘(acquisition)と保持(retention)と想起(retrieval)の三つのプロセスがある。空間記憶について、NMDA受容体の阻害効果は記銘時に限定され、保持および想起を妨げることがないことが研究者間で一致して報告されている。具体的には、水迷路(Robinson et al., 1989: Heale & Harley, 1990)や放射状迷路(Shapiro & Caramanos, 1990)の場所課題の獲得時にAP5やMK-801を投与すると学習障害が生じるが、課題の獲得後に投与しても遂行は妨げられないという結果が得られている。海馬を完全に破壊すると、障害は記憶の全てのプロセスに及ぶことから、記憶形成時に限定された働きは、NMDA受容体の機能的特徴であるといえる。そして、この特徴はNMDA受容体が長期増強の誘発時にのみ必要とされるという分子レベルのプロセスと対応している。後に、NMDA受容体の阻害効果が阻害薬投与以前の課題経験(Bannerman , Good, Butcher,Ramsay & Morris, 1995)や運動経験(Cain et al., 1996, Saucier & Cain, 1995)に依存しており、必ずしも空間記憶を妨げるものではないという反証が報告された。この不一致に関して、空間と課題の経験を操作した複数の条件でNMDA受容体の阻害効果が再検討された。NMDA受容体阻害薬が課題の経験に関わらず、新奇な環境において空間記憶障害を引き起こすことが明らかにされ、NMDA受容体が空間記憶(空間表象)の形成に必要とされることが明らかになった(Uekita & Okaichi, 2005)。より最近では、獲得後のNMDA受容体阻害が空間記憶の長期保持を向上させることが報告されている(篠原・畑, 2014)。
 
 ところで、記憶には、記銘(acquisition)と保持(retention)と想起(retrieval)の三つのプロセスがある。空間記憶について、NMDA受容体の阻害効果は記銘時に限定され、保持および想起を妨げることがないことが研究者間で一致して報告されている。具体的には、水迷路(Robinson et al., 1989: Heale & Harley, 1990)や放射状迷路(Shapiro & Caramanos, 1990)の場所課題の獲得時にAP5やMK-801を投与すると学習障害が生じるが、課題の獲得後に投与しても遂行は妨げられないという結果が得られている。海馬を完全に破壊すると、障害は記憶の全てのプロセスに及ぶことから、記憶形成時に限定された働きは、NMDA受容体の機能的特徴であるといえる。そして、この特徴はNMDA受容体が長期増強の誘発時にのみ必要とされるという分子レベルのプロセスと対応している。
 
 後に、NMDA受容体阻害薬投与以前の課題経験(Bannerman , Good, Butcher,Ramsay & Morris, 1995)や運動経験(Cain et al., 1996, Saucier & Cain, 1995)があれば障害が生じないという結果が、様々な空間学習課題について報告され、必ずしもNMDA受容体は必ずしも空間記憶の形成に必要でないという反証が報告された。この見解の不一致に関して、空間と課題の経験を操作した複数の条件でNMDA受容体の阻害効果が再検討された。NMDA受容体阻害薬が課題の経験に関わらず、新奇な環境において空間記憶障害を引き起こすことが明らかにされ、NMDA受容体が空間記憶(空間表象)の形成に必要とされることが明らかになった(Uekita & Okaichi, 2005)。最近では、NMDA受容体阻害は空間記憶を妨げるが、同時に空間記憶の長期保持を向上させる効果についても報告されている(篠原・畑, 2014)。
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