「共感」の版間の差分

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 共感とは、他者の[[情動]]表出を観察した際に、同様の情動を経験することおよび他者の情動を認識することを主に指す[1]。非情動的な認知状態の認識として用いられることなどもあり[2]、多義的な概念である。神経基盤として、下前頭回のミラーニューロン、[[扁桃体]]などの情動関連領域、内側[[前頭前野]]を中心とするメンタライジング関連領域の関与が提案されている[3]
 共感とは、他者の[[情動]]表出を観察した際に、同様の情動を経験することおよび他者の情動を認識することを主に指す<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref>。非情動的な認知状態の認識として用いられることなどもあり<ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref>、多義的な概念である。神経基盤として、下前頭回のミラーニューロン、[[扁桃体]]などの情動関連領域、内側[[前頭前野]]を中心とするメンタライジング関連領域の関与が提案されている<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>
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==心理学研究==
==心理学研究==
 心理学における今日的な意味での共感の議論は、Lipps (1907)[4]に始まる。Lippsは、他者の情動の認識が共感(ドイツ語でeinfühlungsvermögen)であるとし、これは表情[[模倣]]を通した情動経験の喚起により実現されると提案した。英語の共感Empathyは、このLippsの概念が[[翻訳]]されたものである。
 心理学における今日的な意味での共感の議論は、Lipps (1907)<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>に始まる。Lippsは、他者の情動の認識が共感(ドイツ語でeinfühlungsvermögen)であるとし、これは表情[[模倣]]を通した情動経験の喚起により実現されると提案した。英語の共感Empathyは、このLippsの概念が[[翻訳]]されたものである。


 その後、心理学における各分野で共感の研究が進められている。例えば、社会心理学においてDavis (1983)[2]は、共感が、情動の経験(他者の不快に対する苦痛および配慮)、認知状態の認識、および空想力という下位成分から成ると提案し、質問紙でこれらの下位成分および総合的な共感を信頼性・妥当性をもって計測できることを示した。臨床心理学においてRogers (1959)[5]は、他者の情動および認知を認識するという意味での共感が、カウンセリングにおいて治療効果を果たすと提案した。発達心理学でEisenberg & Miller (1987)[6]は、他者と同様の情動を経験する意味での共感が、[[向社会的行動]]をもたらすことを示した。
 その後、心理学における各分野で共感の研究が進められている。例えば、社会心理学においてDavis (1983)<ref name=ref2 />は、共感が、情動の経験(他者の不快に対する苦痛および配慮)、認知状態の認識、および空想力という下位成分から成ると提案し、質問紙でこれらの下位成分および総合的な共感を信頼性・妥当性をもって計測できることを示した。臨床心理学においてRogers (1959)<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>は、他者の情動および認知を認識するという意味での共感が、カウンセリングにおいて治療効果を果たすと提案した。発達心理学でEisenberg & Miller (1987)<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>は、他者と同様の情動を経験する意味での共感が、[[向社会的行動]]をもたらすことを示した。


==共感に関与する脳部位==
==共感に関与する脳部位==
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===下前頭回===
===下前頭回===
 [[ヒト]]の下前頭回は[[サル]]の腹側運動前野に対応するとされ、サルのこの領域には、他者の運動を観察したときに活動するとともに自身が同じ運動を実行するときに活動する「ミラーニューロン」と命名されたニューロン群がある[7]。このことから、他者を観察して同様の情動および認知を経験し認識するという意味での共感が、ミラーニューロンの活動により実現されると提案された[8]。これを支持する知見として、脳損傷研究は、下前頭回の損傷により表情からの情動認識が傷害されることが報告されている[9]
 [[ヒト]]の下前頭回は[[サル]]の腹側運動前野に対応するとされ、サルのこの領域には、他者の運動を観察したときに活動するとともに自身が同じ運動を実行するときに活動する「ミラーニューロン」と命名されたニューロン群がある<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>。このことから、他者を観察して同様の情動および認知を経験し認識するという意味での共感が、ミラーニューロンの活動により実現されると提案された<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>。これを支持する知見として、脳損傷研究は、下前頭回の損傷により表情からの情動認識が傷害されることが報告されている<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>


===扁桃体===
===扁桃体===
 脳損傷研究から、扁桃体の損傷が情動経験および他者の情動の認識を障害することが示されている[10]。こうした知見に基づいて、同様の情動を経験するおよび情動を認識するという意味における共感に扁桃体が関与すると提案されている[11]
 脳損傷研究から、扁桃体の損傷が情動経験および他者の情動の認識を障害することが示されている<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>。こうした知見に基づいて、同様の情動を経験するおよび情動を認識するという意味における共感に扁桃体が関与すると提案されている<ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>


===島===
===島===
 機能的脳画像研究から、表情に対する意図的模倣において島が活動すること、またあわせて下前頭回および扁桃体が活動することから、島が模倣と情動をつなぐことで他者と同様の情動を経験する意味での共感に関与すると提案されている[12]。また機能的脳画像研究からは、他者の痛み[13]あるいは嫌悪[14]を[[知覚]]した際、これらの情動を自身で経験するときと同様に島が活動したことから、島が他者と同様の情動を経験する意味での共感に関与するとも提案されている。
 機能的脳画像研究から、表情に対する意図的模倣において島が活動すること、またあわせて下前頭回および扁桃体が活動することから、島が模倣と情動をつなぐことで他者と同様の情動を経験する意味での共感に関与すると提案されている<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>。また機能的脳画像研究からは、他者の痛み<ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref>あるいは嫌悪<ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>を[[知覚]]した際、これらの情動を自身で経験するときと同様に島が活動したことから、島が他者と同様の情動を経験する意味での共感に関与するとも提案されている。


===内側前頭前野===
===内側前頭前野===
 機能的脳画像研究から、他者の認知状態の認識(メンタライジング)において、内側前頭前野が活動することが示されている[15]。こうした知見から、認知状態の認識の意味における共感に、内側前頭前野が関与すると提案されている[3]
 機能的脳画像研究から、他者の認知状態の認識(メンタライジング)において、内側前頭前野が活動することが示されている<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。こうした知見から、認知状態の認識の意味における共感に、内側前頭前野が関与すると提案されている<ref name=ref3 />


==引用文献==
==引用文献==
<references />
1. Ickes William
1. Ickes William
Introduction.
Introduction.