「Nogo」の版間の差分

373 バイト除去 、 2012年2月21日 (火)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
3行目: 3行目:
= 概要  =
= 概要  =


 Nogoは脊椎動物の中枢神経細胞に対して軸索伸長の阻害効果をもち、髄鞘(ミエリン)に含まれる軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-A蛋白内には2つの軸索伸張阻害作用を有する蛋白ドメインがあり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の成長円錐を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより、重度の後遺障害が残る脊髄損傷や多発性硬化症のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習と記憶のプロセスを強化する課程において重要な役割を果たすことが分かっている。 <br>  
 Nogoは脊椎動物の中枢神経細胞に対して軸索伸長の阻害効果をもち、髄鞘(ミエリン)に含まれる軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-A蛋白内には2つの軸索伸張阻害作用を有する蛋白ドメインがあり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の成長円錐を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより、重度の後遺障害が残る脊髄損傷や多発性硬化症のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習と記憶のプロセス強化において重要な役割を果たすことが分かっている。 <br>  


= 蛋白の一次構造とドメイン[[Image:Nogo 一次構造.jpg|thumb|right|400px|(図1)Nogo蛋白の一次構造]]  =
= 蛋白の一次構造とドメイン[[Image:Nogo 一次構造.jpg|thumb|right|400px|(図1)Nogo蛋白の一次構造]]  =
19行目: 19行目:
==== ミエリン由来軸索伸展阻害分子の作用とは  ====
==== ミエリン由来軸索伸展阻害分子の作用とは  ====


 神経細胞自体には再生する力があり、神経細胞を取り巻く環境が再生に適していないのではないかと考えられるようになる。その候補分子の一つとして、ミエリンが神経突起の伸展を抑制することが報告されたことから、ミエリンの中に再生を阻害している分子が存在していると考えられた。そして、Schwabらにより、ミエリンの各フラクションに対する抗体が作成され、IN-1抗体が発見される<ref><pubmed> 2300171 </pubmed></ref>。IN-1はミエリンの作用を打ち消し、また、IN-1抗体を脊髄損傷させたラットに投与すると、軸索再生と運動機能の回復が認められることが報告された。その後、3つのグループによりIN-1抗体の認識するペプチド配列をもとに、目的の蛋白がクローニングされ、Nogoと名付けられた&nbsp;<ref><pubmed> 10667796 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10667797 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10667780</pubmed></ref>。  
 神経細胞自体には再生する力があり、神経細胞を取り巻く環境が再生に適していないのではないか、更に、ミエリンが神経突起の伸展を抑制することが報告されたことから、ミエリンの中に再生を阻害している分子が存在していると考えられた。そして、Schwabらにより、ミエリンの各フラクションに対する抗体が作成され、IN-1抗体が発見<ref><pubmed> 2300171 </pubmed></ref>。IN-1はミエリンの作用を打ち消し、また、IN-1抗体を脊髄損傷させたラットに投与すると、軸索再生と運動機能の回復が認められることが報告された。その後、3つのグループによりIN-1抗体の認識するペプチド配列をもとに、目的の蛋白がクローニングされ、Nogoと名付けられた&nbsp;<ref><pubmed> 10667796 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10667797 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10667780</pubmed></ref>。  


==== 受容体と細胞内シグナル  ====
==== 受容体と細胞内シグナル  ====


 StrittmatterらはNogo-66の受容体Nogo受容体NgRを同定した<ref><pubmed> 11201742 </pubmed></ref>。&nbsp;NgRは細胞内ドメインをもたないGPIアンカー型蛋白であり、Nogo-66に対し高親和性を示す。更に、そのシグナル伝達の受容体が、神経栄養因子の受容体であるp75受容体であることが証明された<ref><pubmed>12011108 </pubmed></ref>。そして、p75とNogo受容体が結合して、受容体複合体となっていることが証明される<ref><pubmed> 12422217</pubmed></ref>。その細胞内へのシグナルはRho-GDIからRhoが解離されることによって開始されることが証明された<ref><pubmed> 12692556  </pubmed></ref>。活性化されたRho/ROCK経路を介して、軸索や成長円錐の細胞骨格が制御され、軸索伸張阻害や成長円錐虚脱が起こることが示される。<br> だが、p75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではNogoで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1がp75/Nogo受容体コンポーネントとして重要と報告され、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)<ref><pubmed> 14966521</pubmed></ref>。<br> しかし近年、Tessier-Lavigneのグループは、Nogo-66に対する受容体をスクリーニングし、NgRと共に、paired immunoglobulin-like receptor B(PirB)を報告した。PirBとNgRの両方を阻害することにより、ミエリンや、Nogo-66の軸索伸展阻害作用のほぼ完全な消失が証明された<ref><pubmed> 18988857  </pubmed></ref>。また、最近、このNogo受容体に対する内因性の不活性化因子として、LOTUSが同定されている<ref><pubmed> 21817055 </pubmed></ref>。<br>  
 StrittmatterらはNogo-66の受容体Nogo受容体NgRを同定した<ref><pubmed> 11201742 </pubmed></ref>。&nbsp;NgRは細胞内ドメインをもたないGPIアンカー型蛋白であり、Nogo-66に対し高親和性を示す。更に、神経栄養因子の受容体であるp75が受容体であることが証明された<ref><pubmed>12011108 </pubmed></ref>。p75とNogo受容体が受容体複合体となっている<ref><pubmed> 12422217</pubmed></ref>。細胞内へのシグナルはRho-GDIからRhoが解離されることによって開始される<ref><pubmed> 12692556  </pubmed></ref>。活性化されたRho/ROCK経路を介して、軸索や成長円錐の細胞骨格が制御され、軸索伸張阻害や成長円錐虚脱が起こる。<br> だが、p75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではNogoで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1がp75/Nogo受容体コンポーネントとして重要と報告され、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)<ref><pubmed> 14966521</pubmed></ref>。<br> 近年、paired immunoglobulin-like receptor B(PirB)が受容体として発見され、PirBとNgRの両方を阻害することにより、ミエリンや、Nogo-66の軸索伸展阻害作用が消失<ref><pubmed> 18988857  </pubmed></ref>。また、最近、このNogo受容体に対する内因性の不活性化因子として、LOTUSが同定されている<ref><pubmed> 21817055 </pubmed></ref>。<br>  


==== ミエリン由来軸索伸展阻害因子のin vivoにおける作用  ====
==== ミエリン由来軸索伸展阻害因子のin vivoにおける作用  ====
35行目: 35行目:
*βセクレターゼ活性の制御によるAPPの切断を制御すること
*βセクレターゼ活性の制御によるAPPの切断を制御すること


が報告されている。明確な証明はないが、ミエリンや、ミエリン由来の軸索伸展阻害因子は、軸索の余計な芽生えや分枝が起こることを防ぐことを維持するのに役立っているのではないかという考えが、昔から提唱されている<ref name="ref2" />。<br>  
が報告されている。明確な証明はないが、ミエリンや、ミエリン由来の軸索伸展阻害因子は、軸索の余計な芽生えや分枝が起こることを防ぐことを維持するのに役立っているのではないかという考えが提唱されている<ref name="ref2" />。<br>  


<references /><br>  
<references /><br>  
151

回編集