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[[Image:チャネル病2.png|300px|thumb|right|'''図2. KCNQ1サブユニット上のLQT1またはJLNを起こすアミノ酸(マゼンタ)とSQT2を起こすアミノ酸(黄色)'''<br>ここでは1分子のみを表示している。構造はKCNQ1の開状態モデルを使用<ref><pubmed>17999538</pubmed></ref>。]]
[[Image:チャネル病2.png|300px|thumb|right|'''図2. KCNQ1サブユニット上のLQT1またはJLNを起こすアミノ酸(マゼンタ)とSQT2を起こすアミノ酸(黄色)'''<br>ここでは1分子のみを表示している。構造はKCNQ1の開状態モデルを使用<ref><pubmed>17999538</pubmed></ref>。]]


 心臓の収縮と弛緩は心筋細胞の活動電位によって制御されている。そしてその活動電位はやはり、各種のイオンチャネルによって制御されている。たとえば心室筋細胞の活動電位は電位依存性ナトリウムチャネル、電位依存性カルシウムチャネルおよび数種類のカリウムチャネルによって形成されている。ナトリウムチャネルあるいはカルシウムチャネルの機能亢進、あるいはカリウムチャネルの機能抑制が起こると、活動電位の延長が起こり、心電図の[[QT時間]]が延長する[[QT延長症候群]]となる(図1、表1)。これは[[不整脈]]の一種であり、[[心室細動]]を誘発するなど、最悪[[突然死]]につながる可能性もある。QT延長症候群と比べると頻度は低いが、カリウムチャネルの機能亢進によって活動電位が短縮し、心電図のQT時間が短縮する[[QT短縮症候群]]も心臓のチャネル病として知られている(表2)。
 心臓の収縮と弛緩は心筋細胞の活動電位によって制御されている。そしてその活動電位はやはり、各種のイオンチャネルによって制御されている。たとえば心室筋細胞の活動電位は電位依存性ナトリウムチャネル、電位依存性カルシウムチャネルおよび数種類のカリウムチャネルによって形成されている。ナトリウムチャネルあるいはカルシウムチャネルの機能亢進、あるいはカリウムチャネルの機能抑制が起こると、活動電位の延長が起こり、心電図の[[QT時間]]が延長する[[QT延長症候群]]となる(図1)。これは[[不整脈]]の一種であり、[[心室細動]]を誘発するなど、最悪[[突然死]]につながる可能性もある。QT延長症候群と比べると頻度は低いが、カリウムチャネルの機能亢進によって活動電位が短縮し、心電図のQT時間が短縮する[[QT短縮症候群]]も心臓のチャネル病として知られている。


===電位依存性ナトリウムチャネルの異常===
===電位依存性ナトリウムチャネルの異常===
 ナトリウムチャネルが原因のQT延長症候群は3型 (LQT3)であり、[[NaV1.5]] ([[SCN5A]])がその原因遺伝子である。LQT3ではナトリウム電流の不活性化が不完全になり、持続性の電流が多くなることで脱分極の状態を長くする。一方、同じNaV1.5が原因である[[ブルガダ症候群]]では、逆にNaV1.5の機能が低下する変異が原因である。活動電位が短縮し、心内膜から心外膜にわたって再分極の状態がばらつくことで、心室細動を起こしやすい状態になっていると考えられる。
 QT延長症候群には原因遺伝子の違いにより、これまで13種類の亜型(LQT1~LQT13)が報告されている(表1)。そのうちナトリウムチャネルが原因のQT延長症候群は3型 (LQT3)であり、[[NaV1.5]] ([[SCN5A]])がその原因遺伝子である。LQT3ではナトリウム電流の不活性化が不完全になり、持続性の電流が多くなることで脱分極の状態を長くする。一方、同じNaV1.5が原因である[[ブルガダ症候群]]では、逆にNaV1.5の機能が低下する変異が原因である。活動電位が短縮し、心内膜から心外膜にわたって再分極の状態がばらつくことで、心室細動を起こしやすい状態になっていると考えられる。


 その他ナトリウムチャネル関連タンパク質として、ナトリウムチャネルを細胞膜の特定の場所にアンカーする[[アンキリンB]] (LQT4の原因遺伝子)、ナトリウムチャネルの[[ナトリウムチャネル#βサブユニット|βサブユニット]] [[ナトリウムチャネル#βサブユニット|SCN4B]] (LQT10の原因遺伝子)がQT延長症候群の原因遺伝子として同定されている。
 その他ナトリウムチャネル関連タンパク質として、ナトリウムチャネルを細胞膜の特定の場所にアンカーする[[アンキリンB]] (LQT4)、ナトリウムチャネルの[[ナトリウムチャネル#βサブユニット|βサブユニット]] [[ナトリウムチャネル#βサブユニット|SCN4B]] (LQT10)がQT延長症候群の原因遺伝子として同定されている。


===電位依存性カルシウムチャネルの異常===
===電位依存性カルシウムチャネルの異常===
 カルシウムチャネルが原因のQT延長症候群は[[L型カルシウムチャネル]]の一種である[[CaV1.2]] ([[CACNA1C]])の機能亢進が原因のLQT8である。CaV1.2のG406R変異は電位依存性不活性化を著しく弱くし、そのためカルシウム電流が亢進する。この場合、QT延長のみならず[[合指]]等の形成不全、[[免疫不全]]、[[自閉症]]などさまざまな症状を呈し、[[Timothy症候群]]と名付けられている<ref name=ref2 /><ref><pubmed>15454078</pubmed></ref>。このことは、CaV1.2カルシウムチャネルが、心臓のみならず、体中のさまざまな部位、そして発生過程も含めたさまざまなステージで重要な働きを担っていることを示している。
 カルシウムチャネルが原因のQT延長症候群は[[L型カルシウムチャネル]]の一種である[[CaV1.2]] ([[CACNA1C]])の機能亢進が原因であり、亜型としては8型 (LQT8)に相当する。CaV1.2のG406R変異は電位依存性不活性化を著しく弱くし、そのためカルシウム電流が亢進する。この場合、QT延長のみならず[[合指]]等の形成不全、[[免疫不全]]、[[自閉症]]などさまざまな症状を呈し、[[Timothy症候群]]と名付けられている<ref name=ref2 /><ref><pubmed>15454078</pubmed></ref>。このことは、CaV1.2カルシウムチャネルが、心臓のみならず、体中のさまざまな部位、そして発生過程も含めたさまざまなステージで重要な働きを担っていることを示している。


===電位依存性カリウムチャネルの異常===
===電位依存性カリウムチャネルの異常===
 前述のとおり、心臓では複数種類のカリウムチャネルが心臓の興奮性制御に寄与しており、QT延長症候群にも複数種類のカリウムチャネルが原因遺伝子として報告されている。先天性QT延長症候群の中でもっとも高い頻度で報告されているのは、[[KCNQ1]]チャネルが原因のLQT1と、[[KCNH2]] ([[hERG]])チャネルが原因のLQT2である<ref><pubmed>7736582</pubmed></ref><ref><pubmed>7889573</pubmed></ref><ref><pubmed>8528244</pubmed></ref><ref><pubmed>8900282</pubmed></ref><ref><pubmed>8900283</pubmed></ref>。どちらも[[電位依存性カリウムチャネル|電位依存性カリウムチャネルαサブユニット]]をコードしており、両者でLQTとして遺伝子診断される患者全体の80%程度を占めている。それぞれのイオンチャネルからはこれまでに数十を超える変異部位が見つかっており、ほとんどどの部位に問題が生じても、疾患を生じうることがわかる(図2)。
 前述のとおり、心臓では複数種類のカリウムチャネルが心臓の興奮性制御に寄与しており、QT延長症候群にも複数種類のカリウムチャネルが原因遺伝子として報告されている。先天性QT延長症候群の中でもっとも高い頻度で報告されている亜型は、[[KCNQ1]]チャネルが原因のLQT1と、[[KCNH2]] ([[hERG]])チャネルが原因のLQT2である<ref><pubmed>7736582</pubmed></ref><ref><pubmed>7889573</pubmed></ref><ref><pubmed>8528244</pubmed></ref><ref><pubmed>8900282</pubmed></ref><ref><pubmed>8900283</pubmed></ref>。どちらも[[電位依存性カリウムチャネル|電位依存性カリウムチャネルαサブユニット]]をコードしており、両者でLQTとして遺伝子診断される患者全体の80%程度を占めている。それぞれのイオンチャネルからはこれまでに数十を超える変異部位が見つかっており、ほとんどどの部位に問題が生じても、疾患を生じうることがわかる(図2)。


 これらカリウムチャネルのβサブユニットである[[KCNE1]] (LQT5)、[[KCNE2]] (LQT6)、KCNQ1結合タンパク質である[[AKAP-9]] (LQT11)もQT延長症候群原因遺伝子である。これらLQTは[[常染色体優性遺伝]]であり、[[Romano-Ward症候群]]とも分類される。
 これらカリウムチャネルのβサブユニットである[[KCNE1]] (LQT5)、[[KCNE2]] (LQT6)、KCNQ1結合タンパク質である[[AKAP-9]] (LQT11)もQT延長症候群原因遺伝子である。これらLQTは[[常染色体優性遺伝]]であり、[[Romano-Ward症候群]]とも分類される。
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 [[内向き整流性カリウムチャネル]][[Kir2.1]] ([[KCNJ2]])もQT延長症候群の原因遺伝子(LQT7)であるが、さらに[[周期性四肢麻痺]]、形態異常などを併発し、[[Andersen症候群]]と呼ばれる。Timothy症候群と同様、Kir2.1チャネルが、できあがった機能に必要なだけではなく、発生過程・形態形成においても重要な役割を果たしていることを示している。
 [[内向き整流性カリウムチャネル]][[Kir2.1]] ([[KCNJ2]])もQT延長症候群の原因遺伝子(LQT7)であるが、さらに[[周期性四肢麻痺]]、形態異常などを併発し、[[Andersen症候群]]と呼ばれる。Timothy症候群と同様、Kir2.1チャネルが、できあがった機能に必要なだけではなく、発生過程・形態形成においても重要な役割を果たしていることを示している。


 hERGチャネル (SQT1)、KCNQ1チャネル (SQT2)、Kir2.1チャネル (SQT3)については、それぞれ変異による機能亢進でQT短縮症候群を起こすことも知られている(表2)。上述の通り、活動電位が短縮し、心電図のQT時間が短縮する不整脈の一種である。
 QT短縮症候群は、上述の通り活動電位が短縮し、心電図のQT時間が短縮する不整脈の一種である。QT短縮症候群にも原因遺伝子の違いにより、いくつか亜型(SQT1~SQT3)があることが知られている(表2)。それぞれ変異による機能亢進によってQT短縮症候群を起こすことが知られている。


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