「痛覚」の版間の差分

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{{box|text=
{{box|text= 痛みとは組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、このような傷害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚、情動体験であると定義されている。末梢組織が傷害されると、[[サイトカイン]]や[[神経ペプチド]]などがXXXから放出され、組織に炎症を引き起こす。(ここから神経の活動にどのように結びつくのでしょうか)。 針で刺されたような鋭い痛みは皮膚の高閾値機械受容器で受容され、A&delta;線維を上行する。これを一次痛と呼ぶ。内臓、癌痛、歯痛などのような痛みは皮膚の(?)ポリモーダル受容器で受容され[[C線維]]を上行する。これを[[二次痛]]という。さらに脊髄視床路[[外側脊髄視床路]]と[[前脊髄視床路]]を上行し、それぞれ[[視床]][[腹側基底核群]]と[[髄板内核群]]に終始する。前者は[[第1次体性感覚野]](SI)に主に投射する中継点であり、皮膚、内臓、筋、関節からの(識別性の)感覚に関与している。後者は[[大脳辺縁系]]に投射し、情動等に関与するとされている。第1次体性感覚野に到達した後、[[第2次体性感覚野]](SII)と島に向かう経路と[[連合野]]([[5野]]および[[7野]])に向かう経路の2つが存在する。また、視床から直接、[[島]]、[[帯状回]]、[[扁桃体]]に向かう経路もあり、島には両方の経路を経由するシグナルが到達する。現在、島は痛覚認知の重要な部位であると考えられている。}}
 先ず痛覚の定義を提示した。次に、末梢神経から脊髄を経て大脳に至るまでの、痛覚伝導路をまとめた。近年著しく進歩した神経イメージング法を用いた、ヒトの脳内痛覚認知機構を紹介し、さらに、痛覚認知に特有な、情動との関連性を示した。
}}


== 痛覚とは  ==
== 痛覚とは  ==
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== 末梢メカニズム  ==
== 末梢メカニズム  ==
 通常、末梢組織が傷害されると、[[サイトカイン]]や[[神経ペプチド]]([[サブスタンスP]](SP)、[[バソアクティブ腸管ペプチド]](VIP)や[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]](CGRP)など)などの活性化により傷害部は[[wikipedia:ja:腫脹|腫脹]]し、組織は[[wikipedia:ja:炎症|炎症]]状態に陥り、時には[[wikipedia:ja:肉芽|肉芽]]の形成が引き起こされる。その後、炎症状態からの回復に伴って傷害組織は[[wikipedia:ja:線維芽細胞|線維芽細胞]]などの活性化により線維化し,[[wikipedia:ja:瘢痕|瘢痕]]化してくる。瘢痕組織が痛みの発生・維持に関わっていることは、[[wikipedia:ja:脊椎|脊椎]]手術などにおける採骨部の瘢痕に発生する痛みなどにおいて組織の易刺激性が非常に高い事からも示される。基礎的には瘢痕組織内における痛みに関与する神経ペプチドやサイトカイン、或いは痛みを伝達する[[知覚神経]]線維の発現に関する報告が散見される1)。  
 通常、末梢組織が傷害されると、[[サイトカイン]]や[[神経ペプチド]]([[サブスタンスP]](SP)、[[バソアクティブ腸管ペプチド]](VIP)や[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]](CGRP)など)などの活性化により傷害部は[[wikipedia:ja:腫脹|腫脹]]し、組織は[[wikipedia:ja:炎症|炎症]]状態に陥り、時には[[wikipedia:ja:肉芽|肉芽]]の形成が引き起こされる。その後、炎症状態からの回復に伴って傷害組織は[[wikipedia:ja:線維芽細胞|線維芽細胞]]などの活性化により線維化し,[[wikipedia:ja:瘢痕|瘢痕]]化してくる。瘢痕組織が痛みの発生・維持に関わっていることは、[[wikipedia:ja:脊椎|脊椎]]手術などにおける採骨部の瘢痕に発生する痛みなどにおいて組織の易刺激性が非常に高い事からも示される。基礎的には瘢痕組織内における痛みに関与する神経ペプチドやサイトカイン、或いは痛みを伝達する[[知覚神経]]線維の発現に関する報告が散見される<ref name="ref1"/>。  


== 痛覚伝導路  ==
== 痛覚伝導路  ==
 痛みは2種類に大別される。  
 痛みは2種類に大別される。  


 針で刺されたような鋭い痛みは一次痛(first pain, quick pain, sharp pain)などと称される。[[末梢神経]]の[[Adelta線維|A&delta;線維]]を上行し、その伝導速度は約10-20 m/secである。一次痛は、皮膚の高閾値機械受容器で受容される。「高閾値」とは、強い刺激だけに反応する、ということを意味する。「機械」というのは、例えば針のようなもので刺激される事を意味する。したがって、高閾値機械受容器とは、傷ができるほど強い刺激に対してだけ反応する受容体である。
 針で刺されたような鋭い痛みは[[一次痛]](first pain, quick pain, sharp pain)などと称される。[[末梢神経]]の[[Adelta線維|A&delta;線維]]を上行し、その伝導速度は約10-20 m/secである。一次痛は、皮膚の[[高閾値機械受容器]]で受容される。「高閾値」とは、強い刺激だけに反応する、ということを意味する。「機械」というのは、例えば針のようなもので刺激される事を意味する。したがって、高閾値機械受容器とは、傷ができるほど強い刺激に対してだけ反応する受容体である。


 [[wikipedia:ja:内臓|内臓]]痛、癌痛、歯痛などのような痛みは二次痛(second pain, slow pain, burning pain)などと称され、末梢神経の[[C線維]]を上行する。[[無髄線維]]であるため伝導速度は非常に遅く、約0.5-2.0 m/secである。二次痛は、皮膚のポリモーダル受容器で受容される。ポリモーダルとは多くの様式という意味である、すなわち、機械的刺激、化学刺激、熱による刺激など、多様な刺激に対して反応する受容体である。いずれにしても、[[触覚]]、[[振動覚]]などの伝導速度は50-70 m/secであり、痛覚の伝導速度が非常に遅い事がわかる。その理由は未だ明確にされていない。  
 [[wikipedia:ja:内臓|内臓]]痛、癌痛、歯痛などのような痛みは[[二次痛]](second pain, slow pain, burning pain)などと称され、末梢神経の[[C線維]]を上行する。[[無髄線維]]であるため伝導速度は非常に遅く、約0.5-2.0 m/secである。二次痛は、皮膚のポリモーダル受容器で受容される。ポリモーダルとは多くの様式という意味である、すなわち、機械的刺激、化学刺激、熱による刺激など、多様な刺激に対して反応する受容体である。いずれにしても、[[触覚]]、[[振動覚]]などの伝導速度は50-70 m/secであり、痛覚の伝導速度が非常に遅い事がわかる。その理由は未だ明確にされていない。  


 脊髄では[[脊髄視床路]]を上行する。やはり痛覚の伝導速度は遅く、A-delta線維を上行したシグナルは約10-20 m/sec、C線維を上行したシグナルは約0.5-2.0 m/secである。すなわち、末梢神経と脊髄をほぼ同じ伝導速度で上行する訳である。  
 脊髄では[[脊髄視床路]]を上行する。やはり痛覚の伝導速度は遅く、A&delta;線維を上行したシグナルは約10-20 m/sec、C線維を上行したシグナルは約0.5-2.0 m/secである。すなわち、末梢神経と脊髄をほぼ同じ伝導速度で上行する訳である。  


 脊髄視床路を上行したシグナルは[[視床]]に到達する。視床には多くの核が存在するが、痛みの伝達系においては、[[外側脊髄視床路]](=新脊髄視床路)が終末している[[腹側基底核群]]と、[[前脊髄視床路]](旧脊髄視床路)が終末している[[髄板内核群]]が重要な役割を果たしていることが知られている。前者は[[第1次体性感覚野]](SI)に主に投射する中継点であり、皮膚、内臓、筋、関節からの(識別性の)感覚に関与している。  
 脊髄視床路を上行したシグナルは[[視床]]に到達する。視床には多くの核が存在するが、痛みの伝達系においては、[[外側脊髄視床路]](=新脊髄視床路)が終末している[[腹側基底核群]]と、[[前脊髄視床路]](旧脊髄視床路)が終末している[[髄板内核群]]が重要な役割を果たしていることが知られている。前者は[[第1次体性感覚野]](SI)に主に投射する中継点であり、皮膚、内臓、筋、関節からの(識別性の)感覚に関与している。  
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== 中枢メカニズム  ==
== 中枢メカニズム  ==
 [[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の脳内痛覚認知機構は、近年の[[脳機能イメージング]]の研究の進歩に伴い、急速に研究が進んできた。[[脳磁図]]を用いた研究では、視床からSIに到達した後、[[第2次体性感覚野]](SII)と島に向かう経路と[[連合野]]([[5野]]および[[7野]])に向かう経路の2つが存在する事がわかってきた。また、視床から直接、[[島]]、[[帯状回]]、[[扁桃体]]に向かう経路もあり、島には両方の経路を経由するシグナルが到達する。現在、島は痛覚認知の重要な部位であると考えられている。島の活動から約100 msecほど遅れて帯状回と扁桃体にシグナルが到達する(図1)<ref name="ref2"><pubmed>22138180</pubmed></ref> <ref name=ref03><pubmed>12849756</pubmed></ref>。このような詳細な時間情報は脳磁図が優れているが、活動部位の詳細な同定には、[[Positron Emission Tomography]](PET)や[[functional magnetic resonance imaging]] (fMRI)が優れている(図2、図3)<ref name=ref04><pubmed>16280463</pubmed></ref>。島と帯状回周辺には、first painとsecond painの両方に対して活動する部位と、second painが与えられた時だけに活動する部位が存在する<ref name=ref04 />。second painによって不快等の強い情動反応を起こすのは、この部位が関与していると考えられている。
 [[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]の脳内痛覚認知機構は、近年の[[脳機能イメージング]]の研究の進歩に伴い、急速に研究が進んできた。[[脳磁図]]を用いた研究では、視床から第1次体性感覚野に到達した後、[[第2次体性感覚野]](SII)と島に向かう経路と[[連合野]]([[5野]]および[[7野]])に向かう経路の2つが存在する事がわかってきた。また、視床から直接、[[島]]、[[帯状回]]、[[扁桃体]]に向かう経路もあり、島には両方の経路を経由するシグナルが到達する。現在、島は痛覚認知の重要な部位であると考えられている。島の活動から約100 msecほど遅れて帯状回と扁桃体にシグナルが到達する(図1)<ref name="ref2"><pubmed>22138180</pubmed></ref> <ref name=ref03><pubmed>12849756</pubmed></ref>。このような詳細な時間情報は脳磁図が優れているが、活動部位の詳細な同定には、[[Positron Emission Tomography]](PET)や[[functional magnetic resonance imaging]] (fMRI)が優れている(図2、図3)<ref name=ref04><pubmed>16280463</pubmed></ref>。島と帯状回周辺には、first painとsecond painの両方に対して活動する部位と、second painが与えられた時だけに活動する部位が存在する<ref name=ref04 />。second painによって不快等の強い情動反応を起こすのは、この部位が関与していると考えられている。


== 痛覚と情動  ==
== 痛覚と情動  ==