「Nogo」の版間の差分

9 バイト追加 、 2012年2月24日 (金)
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 Nogoは脊椎動物の中枢神経細胞に対して軸索伸長の阻害効果をもち、髄鞘(ミエリン)に含まれる軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-A蛋白内には2つの軸索伸張阻害作用を有する蛋白ドメインがあり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の成長円錐を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより、重度の後遺障害が残る脊髄損傷や多発性硬化症のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習と記憶のプロセスを強化する過程において重要な役割を果たすことが分かっている。 <br>  
 Nogoは脊椎動物の中枢神経細胞に対して軸索伸長の阻害効果をもち、髄鞘(ミエリン)に含まれる軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-A蛋白内には2つの軸索伸張阻害作用を有する蛋白ドメインがあり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の成長円錐を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより、重度の後遺障害が残る脊髄損傷や多発性硬化症のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習と記憶のプロセスを強化する過程において重要な役割を果たすことが分かっている。 <br>  


= 蛋白の一次構造とドメイン[[Image:Nogo 一次構造.jpg|thumb|right|400px|(図1)Nogo蛋白の一次構造]]  =
= 蛋白の一次構造とドメイン[[Image:Nogo 一次構造.jpg|thumb|right|300px|(図1)Nogo蛋白の一次構造]]  =


 Nogo-A蛋白は、1163アミノ酸で構成される蛋白である。<br> 図1に示されるとおり、Nogo蛋白の一次構造は、''RTN4''遺伝子によりコードされる二回膜貫通型の蛋白である。&nbsp;''RTN4''遺伝子からは、3つのアイソフォームNogo-A,Nogo-B,Nogo-Cが作られる<ref name="ref2"><pubmed> 21045861 </pubmed></ref>。
 Nogo-A蛋白は、1163アミノ酸で構成される蛋白である。<br> 図1に示されるとおり、Nogo蛋白の一次構造は、''RTN4''遺伝子によりコードされる二回膜貫通型の蛋白である。&nbsp;''RTN4''遺伝子からは、3つのアイソフォームNogo-A,Nogo-B,Nogo-Cが作られる<ref name="ref2"><pubmed> 21045861 </pubmed></ref>。
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 細胞内では、他のreticulonファミリー蛋白と同様に、小胞体もしくは図2に示されるように細胞表面に発現していると考えられている。神経系において、発生時期には、DCX 陽性の新生神経細胞に比較的限局した蛋白と遺伝子発現が認められる。<ref name="ref3"><pubmed> 11978832  </pubmed></ref><ref><pubmed> 20093372 </pubmed></ref> 一方、生後および成体脳・脊髄においては主として希突起膠細胞そして、神経細胞に発現が認められる<ref name="ref3" />。希突起膠細胞内では、ミエリン自体における発現はなく、細胞体での発現が高い。また、蛋白はシナプス前部・後部の両方に発現しており、シナプス可塑性を担っている可能性が示唆されている。<ref><pubmed> 18337405 </pubmed></ref> Nogo(''RTN4'')遺伝子は成体脳・脊髄の比較的広範な希突起膠細胞と神経細胞への発現が認められるが、蛋白の発現は固定方法によって結果が異なるとされ、パラホルムアルデヒド固定によっては、希突起膠細胞により高い発現があると報告されている<ref name="ref3" />。なお、脳や脊髄への損傷によっては発現の変化は認められない<ref name="ref3" />。
 細胞内では、他のreticulonファミリー蛋白と同様に、小胞体もしくは図2に示されるように細胞表面に発現していると考えられている。神経系において、発生時期には、DCX 陽性の新生神経細胞に比較的限局した蛋白と遺伝子発現が認められる。<ref name="ref3"><pubmed> 11978832  </pubmed></ref><ref><pubmed> 20093372 </pubmed></ref> 一方、生後および成体脳・脊髄においては主として希突起膠細胞そして、神経細胞に発現が認められる<ref name="ref3" />。希突起膠細胞内では、ミエリン自体における発現はなく、細胞体での発現が高い。また、蛋白はシナプス前部・後部の両方に発現しており、シナプス可塑性を担っている可能性が示唆されている。<ref><pubmed> 18337405 </pubmed></ref> Nogo(''RTN4'')遺伝子は成体脳・脊髄の比較的広範な希突起膠細胞と神経細胞への発現が認められるが、蛋白の発現は固定方法によって結果が異なるとされ、パラホルムアルデヒド固定によっては、希突起膠細胞により高い発現があると報告されている<ref name="ref3" />。なお、脳や脊髄への損傷によっては発現の変化は認められない<ref name="ref3" />。


= 蛋白の機能&nbsp;[[Image:Nogo signal 400.jpg|thumb|right|400px|(図2)Nogoとそのシグナル伝達経路]]<br>  =
= 蛋白の機能&nbsp;[[Image:Nogo signal 400.jpg|thumb|right|300px|(図2)Nogoとそのシグナル伝達経路]]<br>  =


=== <span style="font-weight: bold;">成体神経細胞に対する軸索伸展阻害作用</span>  ===
=== <span style="font-weight: bold;">成体神経細胞に対する軸索伸展阻害作用</span>  ===
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 だが、p75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではNogoで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1がp75/Nogo受容体コンポーネントとして重要と報告され、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)<ref><pubmed> 14966521</pubmed></ref>。
 だが、p75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではNogoで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1がp75/Nogo受容体コンポーネントとして重要と報告され、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)<ref><pubmed> 14966521</pubmed></ref>。
 近年、paired immunoglobulin-like receptor B(PirB)が、Nogo-66に対するもう一つの受容体であることが報告された(図2右側)。PirBとNgRの両方を阻害することにより、ミエリンやNogo-66の軸索伸展阻害作用は、ほぼ完全に消失する<ref><pubmed> 18988857  </pubmed></ref>。また最近、このNogo受容体に対する内因性の不活性化因子として、LOTUSが同定されている<ref><pubmed> 21817055 </pubmed></ref>。  
 近年、paired immunoglobulin-like receptor B(PirB)が、Nogo-66に対するもう一つの受容体であることが報告された(図2右側)。PirBとNgRの両方を阻害することにより、ミエリンやNogo-66の軸索伸展阻害作用は、ほぼ完全に消失する<ref><pubmed> 18988857  </pubmed></ref>。また最近、このNogo受容体に対する内因性の不活性化因子として、LOTUSが同定されている<ref><pubmed> 21817055 </pubmed></ref>。  


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が報告されている。明確な証明はないが、ミエリンや、ミエリン由来の軸索伸展阻害因子は、軸索の余計な芽生えや分枝が起こることを防ぐことにより、適切な神経回路を維持するのに役立っているのではないかという考えが提唱されている<ref name="ref2" />。
が報告されている。明確な証明はないが、ミエリンや、ミエリン由来の軸索伸展阻害因子は、軸索の余計な芽生えや分枝が起こることを防ぐことにより、適切な神経回路を維持するのに役立っているのではないかという考えが提唱されている<ref name="ref2" />。


<references />
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執筆者:藤谷昌司、山下俊英  編集委員:岡野栄之
(執筆者:藤谷昌司、山下俊英  編集委員:岡野栄之)