「言語」の版間の差分

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 神経心理学では、脳の物理的損傷の患者を対象として、その損傷により引き起こされたと考えられる症状との関係から、脳における言語機能を明らかにしようとしている。言語処理に関与する脳の領域は、大まかには、[[環シルビウス溝言語領域]](言語中枢)、[[環・環シルビウス溝言語領域]]、そして[[右半球言語領域]]の三領域に分けることができる(図3)<ref name=Yamadori1996>'''山鳥重'''<br>言語生成の大脳機構<br>''音声言語医学, 37(2), 262-266'':1996</ref>。
 神経心理学では、脳の物理的損傷の患者を対象として、その損傷により引き起こされたと考えられる症状との関係から、脳における言語機能を明らかにしようとしている。言語処理に関与する脳の領域は、大まかには、[[環シルビウス溝言語領域]](言語中枢)、[[環・環シルビウス溝言語領域]]、そして[[右半球言語領域]]の三領域に分けることができる(図3)<ref name=Yamadori1996>'''山鳥重'''<br>言語生成の大脳機構<br>''音声言語医学, 37(2), 262-266'':1996</ref>。


*'''環シルビウス溝言語領域'''(perisylvian speech zone)は<ref name=Benson1979>'''Benson, D.F.'''<br>Aphasia, alexia, and agraphia.<br>''New York: Churchill Livingstone'': 1979.</ref>、[[ブローカ野]]と[[ウェルニッケ野]]という[[言語野]]、および両者をつなぐ[[弓状束]]を含み、[[音声系列]]の処理において重要な役割を果たしていると考えられている<ref name=Geschwind1972><pubmed>5014017</pubmed></ref><ref name=Mesulam1990><pubmed>2260847</pubmed></ref>。19世紀のフランスの医師である[[wj:ピエール・ポール・ブローカ|ポール・ブローカ]]は、語の理解はできるが発語が困難と診断された患者の死後解剖により、左下[[前頭回]]([[44野]]と[[45野]]、[[ブローカ野]])に[[脳梗塞]]を発見し、そこが[[運動性失語]]の病巣で、発話などの中枢と推定した<ref name=Broca1861>'''Broca, P.'''<br>Remarques sur le siège de la faculté du langage articulé; suivies d’une observation d’aphémie (perte de la parole).<br>''Bull Soc Anat Paris''. 1861, 6; 330-357.</ref>。一方、19世紀のドイツの医師である[[w:Carl Wernicke|カール・ウェルニッケ]]は、多弁によく発話するが意味ある話にならない患者を扱い、左上[[側頭回]]から[[角回]]のあたり([[22野]]、[[ウェルニッケ野]])に病変を見つけ、そこが[[感覚性失語]]([[受容性失語]])の病巣で、言語理解の中枢と推定した<ref name=Wernicke1874>'''Wernicke, C.'''<br>Der aphasische Symptomenkomplex. Eine psychologische Studie auf anatomischer Basis<br>''Breslau: Max Cohn & Weigert'': 1874.</ref>。
*'''環シルビウス溝言語領域'''(perisylvian speech zone)は<ref name=Benson1979>'''Benson, D.F.'''<br>Aphasia, alexia, and agraphia.<br>''New York: Churchill Livingstone'': 1979.</ref>、[[ブローカ野]]と[[ウェルニッケ野]]という[[言語野]]、および両者をつなぐ[[弓状束]]を含み、[[音声系列]]の処理において重要な役割を果たしていると考えられている<ref name=Geschwind1972><pubmed>5014017</pubmed></ref><ref name=Mesulam1990><pubmed>2260847</pubmed></ref>。19世紀のフランスの医師である[[wj:ピエール・ポール・ブローカ|ポール・ブローカ]]は、語の理解はできるが発語が困難と診断された患者の死後解剖により、左下[[前頭回]]([[44野]]と[[45野]]、[[ブローカ野]])に[[脳梗塞]]を発見し、そこが[[運動性失語]]の病巣で、発話などの中枢と推定した<ref name=Broca1861>'''Broca, P.'''<br>Remarques sur le siège de la faculté du langage articulé; suivies d’une observation d’aphémie (perte de la parole).<br>''Bull Soc Anat Paris''. 1861, 6; 330-357.</ref>。一方、19世紀のドイツの医師である[[w:Carl Wernicke|カール・ウェルニッケ]]は、多弁によく発話するが意味ある話にならない患者を扱い、左上[[側頭回]]から[[角回]]のあたり([[22野]]、[[ウェルニッケ野]])に病変を見つけ、そこが[[感覚性失語]]([[受容性失語]])の病巣で、言語理解の中枢と推定した<ref name=Wernicke1874>'''Wernicke, C.'''<br>Der aphasische Symptomenkomplex. Eine psychologische Studie auf anatomischer Basis<br>''Breslau: Max Cohn & Weigert'': 1874.[ファイル:Der aphasische Symptomencomplex.pdf PDF]</ref>。


*'''環・環シルビウス溝言語領域'''(peri-perisylvian speech zone)は、環シルビウス溝言語領域の周りの[[側頭葉]]、[[頭頂葉]]、[[前頭葉]]を含み、その活動には[[補足運動野]]や[[視床]]も加わり、音声系列への言語的意味の充填に関与していると考えられている。左[[中下側頭回]]の変性病巣で語義理解の障害<ref name=Snowden1992><pubmed>1575456</pubmed></ref>、左側頭葉前方で[[wj:固有名詞|固有名詞]]の回収障害<ref name=Damasio1992><pubmed>1732792</pubmed></ref>が報告されている。また、補足運動野は会話の開始および維持において重要な役割を果たしている可能性<ref name=Freedman1984><pubmed>6538298</pubmed></ref>、視床は語彙を[[長期記憶]]から呼びだして文に組み込む役割を果たしている可能性<ref name=Mori1986><pubmed>3545050</pubmed></ref>が示唆されている。
*'''環・環シルビウス溝言語領域'''(peri-perisylvian speech zone)は、環シルビウス溝言語領域の周りの[[側頭葉]]、[[頭頂葉]]、[[前頭葉]]を含み、その活動には[[補足運動野]]や[[視床]]も加わり、音声系列への言語的意味の充填に関与していると考えられている。左[[中下側頭回]]の変性病巣で語義理解の障害<ref name=Snowden1992><pubmed>1575456</pubmed></ref>、左側頭葉前方で[[wj:固有名詞|固有名詞]]の回収障害<ref name=Damasio1992><pubmed>1732792</pubmed></ref>が報告されている。また、補足運動野は会話の開始および維持において重要な役割を果たしている可能性<ref name=Freedman1984><pubmed>6538298</pubmed></ref>、視床は語彙を[[長期記憶]]から呼びだして文に組み込む役割を果たしている可能性<ref name=Mori1986><pubmed>3545050</pubmed></ref>が示唆されている。