「高次運動野」の版間の差分

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 高次運動野の研究は霊長類([[ヒト]]、[[サル]])を中心に進められてきた。高次運動野の機能については、初期にはその破壊症状からの推測に留まっていたが、20世紀後半からのエバーツに始まる行動中のサル運動野のニューロン活動を観察する手法の導入、およびヒトの脳活動計測技術の進歩が詳細な機能解剖学を可能にし、高次運動野は一次運動野と異なる運動野群として確立された。現在までに高次運動野の機能として以下の働きが知られている。
 高次運動野の研究は霊長類([[ヒト]]、[[サル]])を中心に進められてきた。高次運動野の機能については、初期にはその破壊症状からの推測に留まっていたが、20世紀後半からのエバーツに始まる行動中のサル運動野のニューロン活動を観察する手法の導入、およびヒトの脳活動計測技術の進歩が詳細な機能解剖学を可能にし、高次運動野は一次運動野と異なる運動野群として確立された。現在までに高次運動野の機能として以下の働きが知られている。


=== 運動の認知的制御 ===
=== 行動の認知的制御 ===
 認知的行動制御とは状況に応じて適切な刺激や反応を選択したり,その環境的文脈を維持・監視したりしながら,目標志向的な行動を生み出す能力をいう<ref name="Botvinick2001"><pubmed>11488380</pubmed></ref>。高次運動野の活動は運動出力自体よりも、状況・文脈に依存した運動の選択・準備・遂行に強く関連しており、また、前述のように高次運動野の損傷は目標志向的な運動の生成に障害をもたらす。
 認知的行動制御とは状況に応じて適切な刺激や反応を選択したり,その環境的文脈を維持・監視したりしながら,目標志向的な行動を生み出す能力をいう<ref name="Botvinick2001"><pubmed>11488380</pubmed></ref>。高次運動野の活動は運動出力自体よりも、状況・文脈に依存した運動の選択・準備・遂行に強く関連しており、また、前述のように高次運動野の損傷は目標志向的な運動の生成に障害をもたらす。


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'''[[帯状皮質運動野]]'''<br>
'''[[帯状皮質運動野]]'''<br>
 帯状溝の内部に存在する皮質運動野である。辺縁系と密接な神経連絡を持ち、報酬情報による運動の制御に関与する。<br>
 帯状溝の内部に存在する皮質運動野である。辺縁系と密接な神経連絡を持ち、報酬情報による運動の制御に関与する。<br>
'''[[前頭眼野]]'''<br>
 前頭前野([[8野]])に位置する皮質運動野で、眼球運動に関係する。前頭眼野は補足眼野、頭頂間溝外側壁など眼球運動関連皮質と双方向性に線維結合を持つほか、[[wikipedia:ja:上丘|上丘]]、[[wikipedia:Paramedian_pontine_reticular_formation|橋網様体傍正中部]](PPRF), [[wikipedia:Tegmental_pontine_reticular_nucleus|橋網様体視蓋核]](NRTP)など脳幹の眼球運動に関与する神経核に投射し、電気刺激によって刺激側とは反対側への眼球運動を生じる。本領域はその部位によって急速眼球運動、[[固視]]、滑動性[[追従眼球運動]]など多様な眼球運動に関与する。<br>
'''[[補足眼野]]'''<br>
 6野内側部に存在する眼球運動関連皮質である。ヒトでは補足運動野の前方に、サルでは6野内側部、前補足運動野の前方やや外側に位置する。本領域も前頭眼野同様に他の眼球運動関連皮質や脳幹の眼球運動神経核と線維連絡を持ち、電気刺激によって対側への眼球運動を生じる。なお、補足眼野は眼球運動における競合処理や一連の眼球運動を順序立てて実行するなど前頭眼野に比べて相対的に高次の働きをしているとされる。


=== 霊長類以外 ===
=== 霊長類以外 ===
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 ラットの大脳皮質で初めて運動野の存在が報告されたのは1982年に遡る。この年にDonoghue & Wiseによって、ラット前頭葉外側部の無顆粒皮質(lateral agranular cortex)への微小電流刺激によって運動を誘発できることが報告され、この領域が一次運動野に相当すると考えられた<ref name="Wise982"><pubmed>6294151</pubmed></ref>。ところが同じ年にNeafsey & Stevertによって、ラット大脳皮質には電気刺激によって前肢の運動を誘発できる領域が前後に各々1つずつ存在することが判明し、それぞれ吻側前肢領域rostral forelimb area (RFA)、尾側前肢領域caudal forelimb areas (CFA)と命名された<ref name="Neafsey1982"><pubmed>7055691</pubmed></ref>。その後、マウスでもラットCFA, RFAに対応する領域の存在が判明している<ref name="Tennant2011"><pubmed>20739477</pubmed></ref>。<br>
 ラットの大脳皮質で初めて運動野の存在が報告されたのは1982年に遡る。この年にDonoghue & Wiseによって、ラット前頭葉外側部の無顆粒皮質(lateral agranular cortex)への微小電流刺激によって運動を誘発できることが報告され、この領域が一次運動野に相当すると考えられた<ref name="Wise982"><pubmed>6294151</pubmed></ref>。ところが同じ年にNeafsey & Stevertによって、ラット大脳皮質には電気刺激によって前肢の運動を誘発できる領域が前後に各々1つずつ存在することが判明し、それぞれ吻側前肢領域rostral forelimb area (RFA)、尾側前肢領域caudal forelimb areas (CFA)と命名された<ref name="Neafsey1982"><pubmed>7055691</pubmed></ref>。その後、マウスでもラットCFA, RFAに対応する領域の存在が判明している<ref name="Tennant2011"><pubmed>20739477</pubmed></ref>。<br>
'''ネコ'''<br>
'''ネコ'''<br>
 ネコ大脳皮質ではcruciate sulcus後壁の4野、及びそれより前方にある6野を電気刺激すると反対側の体の運動が誘発される<ref><pubmed>5032469</pubmed></ref>。又、4野、6野からは脊髄への投射が存在し、これらの領域のニューロンは動物の運動に先立って活動する<ref><pubmed>9100132</pubmed></ref>。このように組織学的、および電気刺激による知見から、高次運動野と思しきところは複数あるものの、ネコを行動生理学研究に用いた研究の例は少なく、現在のところ、ネコ大脳皮質の高次運動野についての知見は限定的である。
 ネコ大脳皮質ではcruciate sulcus(十字溝)の入口部を取り囲むように存在する4γ野が霊長類でいう一次運動野に相当すると見なされている<ref><pubmed>9100132</pubmed></ref>。これに対して高次運動野と考えられる領域は複数存在し、このうち4δ野(十字溝背側壁で4γ野のすぐ後方の領域)、6aα野(十字溝腹側壁で4γ野のすぐ内側)、6aγ野(presylvian sulcus外側壁に位置する領域)には皮質脊髄路ニューロンが分布しており、微小電気刺激で反対側の体部位の運動が誘発される[21]。6aβ野(6aα野の更に内側)、6iffu野(6aα野の後方)には皮質脊髄路ニューロンがほとんど存在せず、微小電気刺激で運動を誘発することは難しいが[21]、この2領域及び前出の6aα、6aγ野においては橋延髄網様体(姿勢・歩行制御に関与)に投射するニューロンが証明されている<ref><pubmed> 9368839 </pubmed></ref>。このように組織学的、および電気刺激による知見から、高次運動野と思しきところは複数あるものの、ネコを行動生理学研究に用いた研究の例は少なく、現在のところ、ネコ大脳皮質の高次運動野についての知見は限定的である


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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