「高次運動野」の版間の差分

編集の要約なし
11行目: 11行目:


== 歴史的背景-複数の皮質運動野の発見 ==
== 歴史的背景-複数の皮質運動野の発見 ==
 [[大脳皮質]][[前頭葉]]と運動の関係が注目されたのは1870年に遡る。この年、ドイツの解剖学者[[w:Eduard Hitzig|Hitzig]]と[[w:Gustav Fritsch|Fritsch]]によって、[[イヌ]]の大脳の一部に微弱な電気刺激によって運動を誘発できる領野(motor strip)がある事が発見された<ref name="Hitzig1870">'''Eduard Hitzig & Gustav Fritsch'''<br>Über die elektrische Erregbarkeit des Grosshirns<br>Archiv für Anatomie, Physiologie und Wissenschaftliche Medicin, Leipzig, 37:300-32, 1870</ref>。後にDavid Ferrierによってこの領野は[[霊長類]]([[マカクザル]])では中心前回([[Brodmann]]分類の[[4野]])に該当することが判明し、この領野は[[中心前回運動野]]precentral motor cortex、後に[[一次運動野]]primary motor cortexと命名された。
 [[大脳皮質]][[前頭葉]]と運動の関係が注目されたのは1870年に遡る。この年、ドイツの解剖学者[[w:Eduard Hitzig|Hitzig]]と[[w:Gustav Fritsch|Fritsch]]によって、[[イヌ]]の大脳の一部に微弱な電気刺激によって運動を誘発できる領野 (motor strip)がある事が発見された<ref name="Hitzig1870">'''Eduard Hitzig & Gustav Fritsch'''<br>Über die elektrische Erregbarkeit des Grosshirns<br>Archiv für Anatomie, Physiologie und Wissenschaftliche Medicin, Leipzig, 37:300-32, 1870</ref>。後にDavid Ferrierによってこの領野は[[霊長類]]([[マカクザル]])では中心前回([[Brodmann]]分類の[[4野]])に該当することが判明し、この領野は[[中心前回運動野]] precentral motor cortex、後に[[一次運動野]] primary motor cortexと命名された。


 ところが、その後の研究によって一次運動野よりも前方の大脳皮質においても、
 ところが、その後の研究によって一次運動野よりも前方の大脳皮質においても、
19行目: 19行目:
#[[脊髄]]に投射するニューロンの集団が存在する
#[[脊髄]]に投射するニューロンの集団が存在する


 等が判明した<ref name="Penfield1951"><pubmed> 14867993 </pubmed></ref><ref><pubmed> 1705965 </pubmed></ref>
 等が判明した<ref name="Penfield1951"><pubmed> 14867993 </pubmed></ref><ref><pubmed> 1705965 </pubmed></ref><ref><pubmed> 7680069 </pubmed></ref><ref><pubmed> 7538558 </pubmed></ref><ref><pubmed> 8815929 </pubmed></ref>。こうした発見によって、前頭葉には一次運動野だけでなく、それ以外にも多数の皮質運動野([[非一次運動野]] non-primary motor areas)が存在することが明らかになった。
<ref><pubmed> 7680069 </pubmed></ref><ref><pubmed> 7538558 </pubmed></ref><ref><pubmed> 8815929 </pubmed></ref>。こうした発見によって、前頭葉には一次運動野だけでなく、それ以外にも多数の皮質運動野([[非一次運動野]]non-primary motor areas)が存在することが明らかになった。


 更に一次運動野と非一次運動野の破壊症状は重要な点で異なる事が判明した。まず、片側大脳半球の一次運動野を傷害すると、反対側の体に著明な麻痺を生じる。ところが、非一次運動野の破壊によっては軽度の麻痺を生じるのみで速やかに回復する。即ち、運動自体を遂行する能力には重大な障害を引き起こさない。その一方で、非一次運動野の破壊の結果、自発的な運動や[[発語]]が極度に減少する、又は逆に意図しない運動の発現を引き起こす、複数の運動を正しい順序で遂行できなくなる、様々な[[感覚]]入力に応じて適切な運動を使い分けることが出来なくなる、等の[[失行]]と呼ばれる症状が出現する。
 更に一次運動野と非一次運動野の破壊症状は重要な点で異なる事が判明した。まず、片側大脳半球の一次運動野を傷害すると、反対側の体に著明な麻痺を生じる。ところが、非一次運動野の破壊によっては軽度の麻痺を生じるのみで速やかに回復する。即ち、運動自体を遂行する能力には重大な障害を引き起こさない。その一方で、非一次運動野の破壊の結果、自発的な運動や[[発語]]が極度に減少する、又は逆に意図しない運動の発現を引き起こす、複数の運動を正しい順序で遂行できなくなる、様々な[[感覚]]入力に応じて適切な運動を使い分けることが出来なくなる、等の[[失行]]と呼ばれる症状が出現する。